『がんばれギンくん』を作った男たち 早川隆祥氏×高宮孝治氏ダブルインタビュー 前編

制作者として
いま振り返って見えてくるもの

▲『がんばれギンくん』起動時のチェック画面。本作に限らず、こういった画面は開発者やオペレーター、基板所有者でない限りなかなか生で見ることは少ない

――今回のインタビューに先駆けて、実際に基板を用いて全コースをクリアした動画を持参しましたのでご覧ください。

早川高宮 いいですねぇ!

早川 あぁ〜! この起動直後のチェック画面、覚えています 。

高宮 私も覚えています! そしてこのオープニング…。実は『がんばれギンくん』は、私がプログラマーとして人生で唯一参加した作品なんですよ

――もともとプログラミングを専門にされていたわけではないのですか?

高宮 そうです。ディレクターとしての比重が大きかったので、メインプログラマーは主人公「ギンくん」のモデルである前田あきのり※01前田あきのり : 主人公「ギンくん」のモデルとなった人物で、本作ではメインプログラマーとして参加。テクモ退社後はソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現 ソニー・インタラクティブエンタテインメント)に移籍し、PS『ウンジャマ・ラミー』(1999年/SCE)など主に七音社制作の作品にかかわる。後述するゲーム内のちょっとした遊び心は、氏のアイデアによるものが多い。現在もビデオゲーム業界に身を置き、高宮氏いわく「凄腕」。さんです。私は彼のもとでこのオープニングを担当しました。

早川 それにしてもこのテンションは、まさに1990年代ド直球ですね。

▲このオープニングに『がんばれギンくん』のすべてが詰まっているといっても過言ではない(動画:筆者撮影)

高宮 誤解のないように受け止めてほしいのですが、技術的なことはさておき、あくまで現代の視点で見直したら…統一感がないというか、雑ですねぇ(笑)。今となってはこれらが狙ってやったものなのかそうでないか、線引きが難しいですが、このゲームは本当に独特だと思います。開発担当の我々が言うのもなんですが(笑)。

――いちプレイヤーからすると、そんなところに惹かれたのかもしれません。

早川 だんだん思い出してきましたが、ミニゲームによっては「ゴア表現※02ゴア表現 : 肉体破壊、流血などといった残虐性を伴う表現方法。『モータルコンバット』シリーズ(1992年〜/ミッドウェイゲームズ)のフェイタリティ(敗者にとどめを刺すための惨殺技の総称)や、『サムライスピリッツ天草降臨』(1996年/SNK)の断末奥義といえば分かりやすいだろうか。現在では審査基準も整備され、内容によって対象年齢が細かく分かれている。」がけっこうありましたよね?

――実はそうなんです。「ゲッターギン※03ゲッターギン:プレイヤーに対峙するキャラ「ガツガツ」が仕掛けた爆弾の爆発によって、ギンくん・ハムくんの頭部が上空1万メートルまで吹っ飛び、それを勝手に動く胴体にくっつけるミニゲーム。というミニゲームにおける流血シーンは、ゴア表現に入るかとも思います。

▲「ゲッターギン」のプレイ動画(動画:筆者撮影)

高宮 ありましたねぇ。今の説明をお聞きして、まるで他人事のように「そんなゲーム作っていたんだ…」と、なんとも言えない気持ちになります。

――個人的には、まだ平和(?)な設定のミニゲーム「くまちゃんムチの味※04くまちゃんムチの味 : 玉乗りをしている6匹のくまちゃんの内、落ちそうなくまちゃんにムチを入れて調教し、落下を防ぐミニゲーム。見た目はとてもかわらしいが、失敗するとギンくんはくまちゃんに食われてしまう。」が好きです。ゲーム内容もおもしろいですが、ムチを打ったときの効果音が、またいい音色なんです。

▲「くまちゃんムチの味」のプレイ動画(動画:筆者撮影)

早川 確かに世界観は特異ですが、ゲーム内容を見れば本作はワンレバーワンボタンなので、できることってどうしても限られてしまいます。そんな中で、デザインやサウンドも含めてボリューム(満足感)を追求・表現した点は、いささか自画自賛ながらも評価していいように思うのです

愉快でかわいくヘニョヘニョ動く
あの登場キャラクターのモデルとは?

▲左上から時計回りに、よい人「ギンくん」、よいカエル「ハムくん」、ワルモノ「ガツガツ」、そして3種類のコース紹介。コースによって、よい人/ワルモノといった立場は逆転する

――一説によると、「ギンくん」「ハムくん」「ガツガツ」にはそれぞれモデルとなったスタッフの方がいらっしゃるとのことですが…。

早川 はい。ギンくんのモデルは、さきほど高宮さんがおっしゃった前田さんです。前田とくれば吟※05前田吟(まえだ ぎん) : 日本の俳優。1944年生まれ。勤勉実直な役どころが多く、映画『八甲田山』(1977年)で歩測を担当した斉藤伍長のほか、『男はつらいよ』シリーズ(1969年~)におけるさくらの夫・ひろし役が特に有名。だろうという単純な理由でギンくんと呼ばれていました(笑)。ハムくんは、中村公彦さんという当時のスタッフの一人です。名前の「公」という漢字を崩して「ハム」くんと、ギンくん同様に皆でそう呼んでいました。

高宮 みんなの顔が浮かびました。

早川 ガツガツのモデルは菅沼正夫さんといって、同じくスタッフの一人です。彼らは我々よりも一回り下の世代で、3人とも同時期にテクモへ入社してきました。今も変わらずゲーム業界にかかわっている人もいますね。

――いずれの方も、モデルになり得るような何らかのきっかけはあったのでしょうか?

早川 キャラクターを考える際、サンプルというか仮の意味で馴染みのある人物に置き換えて進めることはよくあると思います。本作もその流れで、ひとまず手近なスタッフを仮キャラにしていました。

高宮 前田さんは陽気で明るいムードメーカー。特にプログラミング技術が高く、とても優秀なスタッフでした。また、ガツガツのモデルとなった菅沼さんはキャラクターによく似たメガネをかけていたりと、部分部分でモデルとなった人物のエッセンスが、キャラクターに何らかの形で反映されています

――ゲーム中の「ギンくん」の声は、モデルであるプログラマーの前田さんがご担当されたのでしょうか?

高宮 いえ、キャラのモデルとなった人物は担当していません。ゲーム中のほとんどの声は制作スタッフが担当していますが、まったく別の人間が声をあてています。

▲実に20数年ぶりに動画を見たというお二人。制作者として、その胸中にはいかなる想いが去来しているのだろうか

早川 これらの結果、仮で進行していたはずのキャラクターがチーム内で思いのほか評判がよく、そのまま最終的なチェックを経て、めでたく商品になってしまった、ということです。

――めでたく、なってしまうものなのですね。

早川高宮 ですねぇ…(笑)。

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