『がんばれギンくん』を作った男たち 早川隆祥氏×高宮孝治氏ダブルインタビュー 前編

タレント揃いのスタッフと
『がんばれギンくん』開発エピソード

――当時の制作環境をお聞きしたいのですが、例えば、この「しかってしかばね※01しかってしかばね : 12体いるゾンビ(しかばね)の中から、間違ったダンスをしているゾンビを見つけてハンマーで叩くミニゲーム。『がんばれギンくん』では数少ない間違い探し系ゲーム。イラストに「鹿」と「バネ」が描かれているものの、ゲーム中には一切出てこない。」のようなデザインやネーミングセンスには、強烈なインパクトとともに畏敬の念すら感じてしまいます。

▲「しかってしかばね」のプレイ動画(動画:筆者プレイ&撮影)

高宮 各キャラクターの線画はすべて鈴木英倫子※02鈴木英倫子 : テクモでゲーム制作に携わった後、「週刊ファミ通」編集部を経て、現在は「すずえり」の名で造形作家・音楽家として活動している。さんが描きました。そのほか、草場美智子※03草場美智子 : テクモなどを経て、現在はあまたでリードエンバイロメントアーティスト(背景モデリング制作ほか)として活躍中。さんも一緒に担当されていましたね。

――タイトル名の考案も含めてですか?

高宮 タイトル名の大部分は浜野幸茂※04浜野幸茂 : 当時在籍していたテクモのプランナー。スタッフクレジットではHAMMER。さんによるものです。彼が持つ特異なセンスが存分に発揮されています

――制作の際、ディレクターである高宮さんから何か特別なオーダーはあったのでしょうか?

高宮 事細かな指示は出していません。各部門から上がってきたものを「お、いいじゃん」と感じ、ほぼそのまま使用しています。

――同じようなお話は、公式サントラのライナーノーツや「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル※05テクモ・アーケードゲーム・クロニクル : サウンドトラックや資料など、テクモ(テーカン)のアーケードゲームを凝縮したディスク10枚組のボックスセット。第1作『プレアデス』(1981年)から『がんばれギンくん』まで計28タイトルのサウンドトラックと、『スターフォース』(1984年)、『アルゴスの戦士』(1986年)のプレイ動画DVD、座談会、開発資料が収録されている。」(2014年/Sweep Record)に収録されているサウンドコンポーザースペシャル座談会でも伺っています。本作のサウンドを担当された半井香織※06半井香織(なかばい かおり) : 本作で多くの曲を担当したサウンドクリエイター/ディレクター。これまで『忍者龍剣伝Ⅲ 〜黄泉の方船〜』(FC/1991年/テクモ)や『キャプテン翼Ⅲ 皇帝の挑戦』(SFC/1992年/テクモ)、『ウイニングポスト3、同4』(PC/1997年・1998年/コーエー)、『鬼武者タクティクス』(GBA/2003年/カプコン)など幅広く活躍。テクモ、コーエーを経て、現在はあまたとブレイブウェーブプロダクションに所属、カジヤミュージック取締役。さんが「ボツ曲がほとんどなく、コストパフォーマンスの高い仕事だった」と仰っていました。

高宮 各部門それぞれに出来が良く、ディレクターの立場から見てイケると判断した結果です。ただ、さすがにまったく指示をしなかったり何でもかんでもOKではありません。例えば、サウンドでは「オープニングデモに使う曲を威勢のいいマンボ調で」とオーダーしたところ、最初は実にムーディなサウンドが上がってきました。悪くはなかったのですがオープニングとしてはいささか…と思い、リテイクをお願いした結果、現在の曲になりました。

――差し替えられたサウンドはどうなりましたか?

高宮 ボツにするには惜しかったので、全ラウンドクリア後のスタッフロールで使用しています。

――ちょっと聞いてみましょうか。「がんばれギンくん愛のテーマ」という曲名ですね。

▲『がんばれギンくん』スタッフロール。みえ(細川ふみえ)や、ラモ(ラモス瑠偉)の登場が時代を感じさせる(動画:筆者撮影)

早川 これはムーディですねぇ(笑)。

高宮 同じく、基板の転用元である『ファイナルスターフォース』(1992年)からも曲を使用しています。

――「ふとうでしとう※07ふとうでしとう : ニワトリの形状をした通称「チキンバイク」にまたがったギンくん・ハムくんが、埠頭でチキンレースに挑むミニゲーム。ブレーキゾーンに入った時にタイミングよくボタンを押して、「STOP!」ゾーンに無事止まればクリア。押すのが早くて「STOP!」ゾーンから外れたり、遅いと海へ落下してミスとなる。」のサウンドですね。曲名がズバリ「FSF?!」です。

▲「ふとうでしとう」のプレイ動画。この曲は『ファイナルスターフォース』では、ステージ1、2のボス、ステージ7で使用されている(動画:筆者プレイ&撮影)

高宮 これらを制作したサウンドチームは、半井さんのほか岡安千夏※08岡安千夏 : サウンドクリエイター。本作以外には『キャプテン翼Ⅴ 覇者の称号カンピオーネ』(SFC/1994年/テクモ)や『ジルオール』(PS/1999年/コーエー)に携わる。さん、スタッフロールで「ちょびん」と表記されている中西哲一※09中西哲一 : 後にナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)に移籍し、『エースコンバット』シリーズ(1995年〜)や『リッジレーサー』シリーズ(1993年〜)などのサウンドを担当。さんです。

スタッフ同士の協調性とポジティブな環境が作品に反映

――スタッフクレジットはニックネーム表記が多いですね。

▲上段左右にある小窓のセリフはプレイに応じて変化。このアイデアと文言はギンくんのモデルとなった前田氏によるもので、「彼は普段からこういった発言で場を和ませていました」とのこと

高宮 この当時、他社からの引き抜きを警戒してスタッフロールにはニックネームを記載するという方針がありました。私や一部のスタッフは本名(ひらがな)ですが、基本的にはニックネームを掲載しています。

――そのエピソードは他社作品でも聞いたことがあります。このほか、最後に表示される「どりょく賞 まるたひでと」というのは…?

高宮 彼はプランナーとして参加していましたが、なぜ「どりょく賞」と記載したのか、まったく記憶がありません。

早川 きっと何か努力されたのでしょう(笑)。

――ここまでお聞きしたエピソードや『がんばれギンくん』というゲームそのものを考えたとき、制作チームの仲の良さというか、楽しみながら制作しているんだろうなぁ〜といった空気を感じます。

高宮 それはありましたね。スタッフと膝を突き合わせ、ワイワイ言いながら作っていました

――このノリは、決して閉塞的だったりギスギスした環境では生まれないものだとも思います。

高宮 そういった空気は、ひとえに早川さんのお人柄です。プロデューサーとして懐深く、こちらものびのびした気持ちで仕事をさせていただきました。

早川 立場上、それなりに気を揉むこともありましたが、最終的には「まぁ大丈夫でしょう」という心境でしたね(笑)。


次回予告

次回は『がんばれギンくん』のさらなる制作秘話と、初めて明かされる事実、そしてビジネス面にも言及し、お二人を通してあまり表に出ることのない1990年代におけるテクモの社内風景を語っていただきます。乞うご期待!

早川 隆祥 氏
1988年テクモ(現 コーエーテクモゲームス)に入社。「いろいろな部署を見ておく」といった当時の社風のもと、営業を皮切りに人事、在庫管理などさまざまな部署を経てディレクター、プロデューサーとして定着。テクモの看板タイトル『ギャロップレーサー』シリーズ(1996年〜)など数多くの作品にかかわり、同社を支えた。現在は、あまた技術開発部 設計課開発プランナーとして精力的にゲーム事業に携わる。
高宮 孝治 氏
1990年にテクモ入社。ほぼ即戦力に近い形で入社したこともあり、一貫してディレクターとして活躍。しかしその枠に収まらずプランナー、プログラマーといった顔ものぞかせながら、『モンスターファーム』シリーズ(1997年〜)などを担当。現在は、近年注目が集まるブロックチェーンゲーム『My Crypto Heroes』を開発するdoublejump.tokyo執行役員/ディレクター。

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