『ソロモンの鍵』を作った男たち 上田和敏氏×窪田俊幸氏ダブルインタビュー 後編

『ソロモンの鍵』を作った男たち ダブルインタビュー 前編では、『ソロモンの鍵』(1986年/テクモ)が紆余曲折を経て世に出た経緯や開発当時の環境、上田和敏氏&窪田俊幸氏のステージ作成における苦楽をお聞かせいただいた。

引き続き後編では、お2人が作成したステージから特に印象深いものを採り上げ、本作が持つアクションパズルゲームとしての“コク”、そしてゲームデザイナーの視点から見た「ステージ作成における哲学」を語っていただいた。さらに、ゲームデザインを担当した上田氏、ステージデザインを担当した窪田氏がもつゲームデザイン論にも迫る。

なお、本稿をより深くご理解いただくために、AC版を通して本作を検証したこちらの記事を併せてお読みいただけたら幸いである。本作にはアーケード版およびファミコン版があるため、アーケード版はAC版、ファミコン版はFC版と表記している。

本当はもっと複雑にしたかったステージが…

〜その難度は、まるで制作者からプレイヤーへの挑戦状〜

▲ステージ作成には意外性を組み込んでいたと語る窪田氏

――窪田さんは、ご自身が作成されたマップで印象に残っているステージはありますか?

窪田 たしか後半に、スタートと同時に主人公・ダーナをジャンプさせると攻略がものすごく楽になるステージがありましたよね?

――(動画を見ながら)このステージ、ROOM 9-7ですね(ROUND 37と38の間にある最初の「HIDDEN※1HIDDEN : AC版、FC版ともに「隠しステージ」という意味で使用される(画面右下の「ROUND..H」)。また『スターフォース』(1984年)では、隠しボーナスの名称としても使われている。」、FC版ではROOM 42)。

窪田 ここは開幕ジャンプ※2開幕ジャンプ : 本文で述べた2カ所のステージ(AC版のROOM 9-7、FC版のROOM 42)では必須といえるテクニック。レバーを上に入れっぱなしにすると同時に、「換石(かんせき)の術」のボタンも連打しておくと、より成功率が上がる。「換石の術」とはダーナが使用する魔法(SPELL)で、『ソロモンの鍵』の根幹を成すシステム。石を出す・消すを基本とし、特定のアイテムを変えるほか鍵や本に対しても使用する。をしないとエラい遠回りをするハメになるんですよね。ある日のテストプレイ中に、スタートと同時にレバーを上に入れておくとダーナがジャンプするっていうのを偶然発見して、それをマップ制作に組み込みました。スタート直後にジャンプして、ダーナの頭上にある2体の「バーン※3バーン : 燃えさかる障害物。特に青色のバーンは落下させてもファイアボールでは倒せないが、ダーナの当たり判定が小さいことを利用して、「換石の術」で一定時間勢いを弱め、ジャンプで飛び越えたりすることもできる。しかし、最終面付近のPZL要素が強いステージでは、そのいやらしい配置から、実質バーンとの知恵比べといった様相を呈する。」を落としておく。そうすることによってルートが大幅に短縮され、クリアがぐっと楽になる。失敗すると…。

▲ROOM 9-7ではステージの順序は体に染み込ませて、「レバー入れるの忘れてた!」といったことがないようにしたい(動画:筆者プレイ&撮影)

上田 ものすごく遠回りになるね〜。それこそタイムオーバーになりかねないくらいに。私自身、誰にも負けないくらいテストプレイを重ねたからよく覚えています。いかにも窪田さんが考えそうなステージだ。

窪田 (笑)。とはいえ、出オチのようなテクニックなので、多用するものではないと思い、ほかのステージでは採用していません。ただし、あと1カ所だけ同じテクニックを使うと楽になるステージを作成しました。開幕ジャンプをするとダーナのすぐ上にある鍵が取れる仕掛けで…。

――このステージROOM 8-1(ROUND 26、FC版はROOM 20)でしょうか?

▲もしこのステージ(ROOM 8-1)が何も見えなかったら…。それでも諦めずにプレイはしただろうが、かなり印象は変わるかもしれない(動画:筆者プレイ&撮影)

窪田 そうそう! ここです。通称「悪魔の封印※4悪魔の封印 : 触れてもミスにはならないが、「換石の術」が効かない障害部。特に後半ステージで、非常に意地悪く配置されている。」と呼ばれるパズルゲーム(以下、PZL)寄りのステージですね。実はココ、本当はもっと難しくするつもりだったんですよ。

上田 もっと難しく!?

窪田 まずステージの概要ですが、敵を一切登場させずに「悪魔の封印」だけで構成されています。スタート直後にダーナを最下部まで落下させ、要所に石を作っていきながら中央最上部の扉を目指す、という内容です。

――初めて見たときは、ほかのステージとはまったく違うデザインに面食らったことを覚えています。

窪田 それが狙いでもありました。意外性というか、敵はおろかバーンすら一切出現しないステージはここだけですからね。ただ、本来、私が制作したのは「悪魔の封印」すら出てこない、まったく何もないステージです。

――と、おっしゃいますと?

窪田 当初の意図は、「悪魔の封印」は存在しているけれど見えない。よって、ひと目でどこに石を作れるかが分からないので、1マスずつ「換石の術(石を出したり消したりできる魔法)」をかけて確かめなければならず、プレイヤーの記憶力を要求する、という構想でした。私も上田さんと同じく最終調整にはかかわっていませんので、リリース後にゲームセンターで見かけた時は「あれ? 『悪魔の封印』が見えてる…」と思ったものです。

――それは難しいというレベルすら超越しているような…。

窪田 前編でもお話ししましたが、私は全体の進行にはかかわっておらず、マップ作成だけを担当していました。なのでファミコンで発売することも知らず、あくまでAC版のつもりで制作したのでそのような構想に至ったのだと思います。

――「当時のゲームマニアだったら喜んでプレイしてくれるのではないか」と?

窪田 そうです。ただ、今振り返ると当初の構想が採用され、本当に何も見えていないステージがいきなり現れたら…驚きはするけど、やっぱりちょっと意地悪すぎるというか、エグい気もしますね

▲当時のステージデザインについて振り返る上田氏

上田 狙い自体はかなりおもしろいと思うのですが、何も見えていないステージ、しかも本来なら使えるはずの「換石の術」が使えない。となると、初めて見たプレイヤーはひょっとしたらバグだと認識してしまうかもしれませんね。

例えば、何かしらのアイテムを取ることによって一時的に「悪魔の封印」が見えるようになる、といった救済措置があれば別ですが…。

――そうなると、新しいアイテムを追加したり、付随するシステムを再構築したりと、本来のゲーム性にも影響を及ぼしそうですね。

上田 これはこれで良かったのではないでしょうか?

窪田 確かに。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」かな。

一瞬たりとも気が抜けない! アクションゲーム側から見た本作

〜マップを把握し、同時に出現する敵キャラの動きを読み切った者だけがクリアできるステージ〜

――上田さんはアクションゲーム(以下、ACT)寄りのマップを担当されたとのことですが、前編でお話していた「ドラゴンの秘密」のほか、思い出深いステージはありますか?

▲偉大な先輩たちの叡智に触れ、緊張しながらも一言一句聞き漏らすまいとする筆者

上田 ここですね。通称「ゴースト=トラップ」と呼ばれるROOM 8-6(ROUND 31、FC版はROOM 43)です。正確で迅速な操作が最後まで求められることから『ソロモンの鍵』最難関クラスのACTステージと言ってよいでしょう

――あ、ここは…。

上田 ひょっとして苦手ですか?

――はい。

上田 それはうれしい(笑)。このステージは、敵である6匹のゴーストと、カミーラの鏡から湧き出る大量のサラマンダーをさばきつつ、通過できるルートが1マスしかない細い道を、同じく1マスしかない頭上2カ所の安全地帯で空中浮遊を駆使しながら進む、という高度なステージです。

▲「ROOM 8-6」のステージ「ゴースト=トラップ」は、中段を行き来するゴースト2匹をファイアボールで倒せばぐっと楽になる(動画:筆者プレイ&撮影)

――さらにボーナスアイテム(ソロモンの封印)を取得するなら、さらに長引くという…。

上田 そうです。このサラマンダーという敵は、どこにいてもダーナめがけて一直線に向かってくる習性を持ち、接近すると炎を吐く、という厄介なキャラです。このステージほどではないですが、ROOM 6-3(ROUND 17、FC版はROOM 25)やROOM 7-2(ROUND 22、FC版はROOM 19)のほか、ROOM 10-6(ROUND 42、FC版はROOM 46)は特にサラマンダーが大活躍しています。

――近づいてきたサラマンダーが炎を吐く瞬間、一瞬動きが止まるので、そのスキに逃げる、ジャンプでかわすといった行動が必要なシーンもありますね。

上田 ゲームバランスを破壊するほどではないですが、高度な対応を迫られます。改めて振り返ると、我ながら難儀な敵キャラを制作したものです(笑)。

脚注   [ + ]