ジャンルの融合が生んだ比類なき独自性 アクションパズル『ソロモンの鍵』

当サイトを訪れる読者の皆さまは『ソロモンの鍵』というゲームタイトルを聞いて、どんなことをイメージするだろうか?

幻想的な設定、アクションゲーム(以下、ACT)+パズルゲーム(以下、PZL)の名作、「G・D・V(ゲーム偏差値)」の存在といったほか、ファミコン(以下、FC)版をよくプレイした、という方が多いのではないだろうか?

反面、アーケード(以下、AC)版をプレイしたことがある方はFC版よりも少数で、ましてゲームセンターで画面を見たことはおろか、その存在すら知らない方も、ひょっとしたらいらっしゃるのではないかと推測する。

筆者自身も初プレイはFC版で、ゲームセンターでAC版を本格的にプレイし、1コインクリアを達成したのはその後ずいぶん経ってからである。

本作制作者のダブルインタビュー前編にてお伝えした通り、『ソロモンの鍵』は1986年7月にテクモ(後のコーエーテクモゲームス)より、AC版とFC版がほぼ同時にリリースされた。

発表から30年を越える月日が経過した現在、なぜ今も本作が語り継がれているのか、その理由と色あせぬおもしろさを、AC版の『ソロモンの鍵』を通して検証してみたい

壮大な世界観(ストーリー)と明確な原理原則(ルール)

世界がまだカオスの状態にあった頃、悪霊たちは悪行の限りをつくし、暴れ回っていた。偉大なる王ソロモンは、魔術を研究し、その生涯の成果を記した魔法書「ソロモンの鍵」の魔力で、悪霊たちを地下星座宮深く封じ込めたと伝えられている。
この伝説を信じ、長年探し求めた道士がいた。彼はついに星座宮を発見し、「ソロモンの鍵」にたどり着いた。魔法書を取る。と、次の瞬間、悪霊たちが溢れ出し、世界と時間を引き裂いた! 世界はふたたび天地創造以前のカオスと化し、悪霊たちの支配する闇の王国となった。妖精の園ライラックの王、ユトラは、魔法使いダーナに世界の修復を命じるのだった。ダーナは今、禁断の閉じられた秘境、魔の星座宮に踏み込んでいく……。
(FC版『ソロモンの鍵』取扱説明書、プロローグより引用)

これが『ソロモンの鍵』における基本的な世界観である。
端的に言うと、悪霊(モンスター)によって支配された世界に再び平和を取り戻すため、主人公である魔法使い「ダーナ」が単身星座宮に挑む…というストーリーだ。

▲ROOM 7-6(ROUND 25、FC版はROOM 36)。画像の中央左で「マント立ち」するダーナに食らい込むデーモンズヘッド

次に基本ルールとシステムだが、AC版とFC版共通で特に重要と思わしきものを中心に列記した。

・ステージクリアタイプで非スクロールの固定画面。
・空中・地上問わず「換石(かんせき)の術」※1換石の術 : ダーナが使用する魔法(SPELL)で、『ソロモンの鍵』の根幹を成すシステム。石を出す・消すを基本とし、特定のアイテムを変えるほか鍵や本に対しても使用する。で石を出すまたは消せる。
・主人公・ダーナのジャンプ範囲は上段1マスぶん、左右は2マスぶん。
・ステージクリア条件は、制限時間内に「鍵」を取得し「扉」に入る。
・アイテム「マンダの壺」の取得個数に応じてファイアボール(火球の術)※2ファイアボール : ダーナが行える唯一の攻撃方法。敵1匹のみを攻撃する「Extra Fire」と通り道にいるすべての敵を貫通する「Extra Big Fire」の2種類ある。要所に居座る敵を退治したり、敵に囲まれた場合の緊急回避として使用したりと、上手に使いこなせればクリアへの近道となる。上級クラスになると「使用しない」という縛りプレイを課す者も。が放てる。
・白い石(消失不可)以外の石は頭突き(ジャンプ)2回で消せる。
・道中に出現する妖精は、10人助ける(取得する)ごとにダーナが1人増える。
・ミスの条件は「敵キャラおよび敵の攻撃に触れる」と「タイムオーバー」の2種類。
・ミス後の再開はステージ最初から。鍵取得後にミスした場合は取得した状態で再開

これに加え、覚えておきたいテクニックとして、

・空中で「換石の術」を連打すると、その間浮遊できる。
・ダーナ自身の当たり判定は小さい(特に左右)。
・ドット単位の操作で石の端ギリギリに立つことが可能で、この技を利用したテクニックが多い※3石の最端に立つ技を利用したテクニック:石の端に立つ感覚を覚えれば、1マスぶん遠くに石を出現させたり近づく敵を回避できたり、「換石の術」との併用で垂直にすばやく上昇できたりする。応用の効く技なので早めに身に付けておきたい。その姿から通称「マント立ち」とも呼ばれる。

▲ROOM 3-2(ROUND 4)のBONUS PRISON。背景に描かれている「CAST A SPELL ON THE KEY」を次ステージで実行してみよう

一見すると覚える項目は多いが、これらは1度のプレイでほぼ理解できるほどシンプル。主人公ダーナと敵キャラはキビキビと淀みなく動き、キーレスポンスも快適。FC版とAC版、どちらもほぼ同じ感覚で楽しめる。

さらに、本作は同一画面内ですべてが完結しており、敵キャラの行動に規則性が多く、ミスの原因が分かりやすい。よって、理解に苦しむ事故や、面クリアに際して常軌を逸した人外のテクニックや特殊なコマンド入力も必要ない。これらは、やる気を持続させる上でプラスの効果を与えてくれており、一本道ではないクリア方法と高い自由度、そして、本作の特色でもある「AC版とFC版ともに50を超えるROOM(ステージ)数に対し、各面のクリア時間は数十秒から長くても3~4分以下というテンポの良さ」を支える一助にもなっている。

プレイの前に〜AC版とFC版の相違点について〜

▲AC版オリジナルステージのROOM 9-4(ROUND 35)。この面をクリアするにはダーナ落下中に1マスぶんのスキマに入るテクニックが必要

AC版とFC版はまるで双子のような関係ではあるが、徹頭徹尾同じというわけではない。ここで両者の相違点を挙げてみよう。

・ステージの構成、順番、面数の違い。FC版には、星座パネルやソロモンの封印を集める、ワープや隠しキャラがある、マルチエンディング、G・D・V(ゲーム偏差値)の存在など、独自要素が多い。
・ステージデザインの違い。アイテムや石の配置が少し変更されているステージもあれば、それぞれだけのオリジナルステージもある。
・ダーナの動きに若干の違いがある。例えば、空中での「換石の術」による浮遊時間は、AC版のほうが圧倒的に長い。
・敵(スパークボールなど)の速さが一部違う。

そのほか、グラフィックやサウンドの違いはあるものの、プレイに直接影響を及ぼしそうな差異はひとまずこのくらいであろうか。どちらか一方で培ったテクニックや解法が、もう一方でも違和感なく役立つことは大きな長所といえよう。

ただし、この両者の間には決定的な違いがある。それは、FC版には出現しないAC版独自の、まさに「悪霊」と呼ぶにふさわしい敵キャラ「スライム」と「魔道士」の存在だ

▲ROOM 7-5(ROUND 24)で大量発生するスライム。本来はこうなる前にクリアできればよいのだが…

スライムは、直接攻撃はしてこないものの、ジャンプして石や壁に張り付き、プルプル揺れながら石のスキマをも移動してくるクセもの。動くタイミングは一定ながら方向に一貫性はなく、完全なランダム。魔道士はなんとダーナと同じ「換石の術」と頭突きの使い手で、ダーナよりも高い跳躍力で無軌道に迫ってくる。

いずれも要所で登場し、ダーナを苦しめる本作屈指の難敵。AC版をプレイする上で、この2キャラの対策※42キャラ(スライムと魔道士)の対策 : 筆者はこの2キャラの対処法としては「逃げる」が一番と考えている。まともに相手をしても太刀打ちできず、いたずらに時が過ぎてゆくだけ。ただし、ドロップアイテムがいずれも高得点なので、スコアアタックを狙うなら積極的に倒していきたい。をキッチリと練らなければ、クリアまでの道のりが縮まることはない。

「おもしろい」と「難しい」は表裏一体

▲PZL要素が極めて高いROOM 9-2(ROUND 33)。青いジュエルを効率良く回収して「換石の術」が使える場所を増やしていこう。このステージは時間との戦いだ

これまで述べてきたような「大胆な行動」と「緻密な思考」を同時に求められるゲーム性に、即死というシステム。さらに、AC版に登場するランダム要素を持つ敵キャラによる規則性と不規則性のバランスで、全ステージ制覇までゆうに1時間を超える集中力を必要とする。

「ACTとPZLの長所が高次元で融合した作品」と呼ばれる一方、それらゆえに、近似するジャンルの中でも特に本作を「難しい」と感じるプレイヤーが一定数いることも否定できない。

何をもって難しいと判断するかの基準には個人差があり、本記事ではその是非を問わないが、後半に進むにつれACT要素、PZL要素は複雑高度化し、制限時間ギリギリまで気が抜けないステージが多いことは確かである。

▲時間とともに湧き出る大量のスライムと魔道士、おまけにスパークボールも同居するROOM 8-5(ROUND 30)。完全パターンの構築は不可能に近く、正攻法で挑めば難度はAC版最凶

だが、思うに本当の栄光(クリア)とは、ある程度以上の苦労(鍛錬)を経験してこそ得られるものではなかろうか。その道のりは決して平坦ではないかもしれない。さりながら、ダーナを自在に操ることが可能になった暁には、それまでの苦労が一転して醍醐味に変わり、きっと本作でしか経験できない達成感、いわば最上のカタルシスがもたらされるだろう

もっとも苦手だったステージが、もっとも得意になる日

▲このステージはバーンの調整、デーモンズヘッドとガーゴイルの対処、そしてゴースト操作など「仕事」は多い

AC版『ソロモンの鍵』にROOM 8-7(ROUND 31と32の間にあるHIDDEN面※5HIDDEN : AC版、FC版ともに「隠しステージ」という意味で使用される(画面右下の「ROUND..H」)。また『スターフォース』(1984年)では、隠しボーナスの名称としても使われている。、FC版はROOM 35)、通称「ゴースト三連星」と呼ばれるステージがある。的確なバーン※6バーン : 燃えさかる障害物。特に青色のバーンは落下させてもファイアボールでは倒せないが、ダーナの当たり判定が小さいことを利用して、「換石の術」で一定時間勢いを弱め、ジャンプで飛び越えたりすることもできる。しかし、最終面付近のPZL要素が強いステージでは、そのいやらしい配置から、実質バーンとの知恵比べといった様相を呈する。の処理や先を読んだ「換石」、各敵キャラの性質を把握したダーナの正確な操作が必要であり、ファンの間で難関ステージの一つとして知られている。

筆者自身の経験で恐縮だが、やはりこのステージには苦手意識を持っており、ゴーストがまだ対処できていなかった時期は「ノーミスでクリアできればラッキー」程度の認識で臨んでいた。しかし、プレイを重ねるごとに無駄な行動を排除し、敵キャラの動きをコントロールしつつ安定した手順を編み出した現在、同ステージが持つ難度にむしろ魅了され、今ではお気に入りのステージの一つとなっている。

この「苦手なことから目を背けず、愚直に問題点を洗い出して理解する(自在に動かせる)」という考え方は探究心と知的好奇心を大いに刺激し、やや大言壮語かもしれないがゲームのみならず筆者の生き方にも影響を与えたことは事実である。とかく難しいと形容されがちな本作、その一言だけでプレイを断念してしまうには…あまりにも惜しい。

孤高にして永遠の名作、もし今からプレイするならば

2018年11月某日、本記事の執筆に先立ち、埼玉県のゲームセンター「ビッグワン2nd」から特別にご協力いただき、筆者が所有する本作の基板を持ち込みプレイ映像を録画した。 お昼の12時から閉店の0時まで、小休止を挟みつつ12時間、じっくりと本作をプレイすることができた。

しかし、このように純正基板での稼働が可能な実店舗は、日本はおろか世界を見渡してもそう多くはないと思われる。本作をプレイできる方法としては、FC版の実機やセガ・マークⅢ、PCエンジン、ゲームボーイに移植(リメイクも含む)された作品もあるにはあるが、手に入りにくい状況もある。そのため、パッケージ版のプレイステーション2『テクモヒットパレード』(2004年)やXbox『テクモクラシックアーケード』(2005年)のほか、2016年に発売された「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」にも収録されているので、それらでのプレイをおすすめする。

▲ブラストシティ筐体にて可動するAC版。本作リリース当時はまだテーブル筐体が一般的だったことを考えると、これはこれで新鮮な組み合わせ

配信購入であれば、ニンテンドー3DSWii UWii(2019年1月31日にサービス終了予定)の各バーチャルコンソール、今年の10月に始まったばかりのNintendo Switchの『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』のほか、PS4の「アーケードアーカイブス」もある。また、Android版なら「スゴ得コンテンツ」や、『マイティボンジャック』(1986年)、『つっぱり大相撲』(1987年)とセットになったお得な『テクモゲームパック』もあり、選択肢は豊富だ。プレイヤーの環境に合わせやすく、間口はとても広い。

ゲームの魅力は、言葉よりプレイしてこそ分かるというもの。『ソロモンの鍵』を骨まで愛する方、FC版はプレイしたことがあってもAC版は未体験の方(またはその逆)、あるいは、この作品自体をまだプレイしたことがない方にとって、本記事が何がしかの誘引剤になったら幸いである。

※本記事内のステージ画面はすべて筆者が所持している基板から撮影したものです。

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【撮影協力】
プレイスポットビッグワン2nd
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駐車場:なし
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