ミニチュア制作会社「ヘルメッツ」がアーケードゲーム筐体保存にこだわる理由

ヘルメッツは千葉県松戸市にある、キャラクタートイの企画から製造、販売までおこなう会社だ。スタッフ2名で活動しており、レーザーカッターや3Dプリンターを活用した精密なミニチュア制作を得意としている。

同社の存在を知ったのは、当サイトでもレポート記事を掲載した「埼玉ゲームシティ」の会場だった。同社ブースで参考出展されていた精巧なミニチュアビデオゲーム筐体の完成度は目を見張るものがあった。ヘルメッツについて興味が湧いた筆者はさっそく取材に行ってきた。

たかがミニチュアと思うなかれ! 細部に至るまでのこだわりがすごい!

▲ヘルメッツの兒玉徳行氏(左)と吉田佳子氏(右)

ヘルメッツでは、兒玉徳行氏と吉田佳子氏が二人三脚で商品企画から制作、販売まで行っているそうだ。

同社が現在販売しているミニチュア商品は、『スペースインベーダー』(1978年/タイトー)筐体の貯金箱(税別3,000円)、『ダライアス』(1986年/タイトー)筐体(税別6,000円)、駄菓子屋筐体(税別2,000円)の3点。 いずれも精巧な作りのミニチュアで、目を見張る商品となっている
特に、貯金箱になるように設計された『スペースインベーダー』のミニチュアアップライト型筐体に比べると、「ダライアス筐体」と駄菓子屋などに置かれていたミニアップライト筐体「駄菓子屋筐体」のギミックは実物をそのまま縮小コピーしたかのように非常に細かい。

▲まさに実機を縮小コピーしたという表現がにつかわしい精巧さに驚かされる『スペースインベーダー』(左)と『ダライアス』(右)のミニチュア筐体(画像:ヘルメッツ提供)©TAITO CORPORATION 1978,2016 ALL RIGHTS RESERVED.
©TAITO CORPORATION 1986,2017 ALL RIGHTS RESERVED.

ミニチュア『ダライアス』筐体は、裏側にスマートフォンをセットできるように作られている。YouTubeなどの動画サイトにアップロードされている実機プレイ動画をスマートフォン画面に再生表示することで、あたかもミニチュア筐体内でゲームが動作しているような状態を再現できるのだ。

そしてここがヘルメッツのこだわりでもあるのだが、その画面はハーフミラーを介して映し出されるようになっている。つまり、実機の表示方式の再現である。単にスマートフォンの画面をはめ込んでいるわけではないので、見た目は恐ろしいほどリアルだ。

「スマートフォンをセットする場所など試行錯誤はしましたが、ここまでしないと、実際の『ダライアス』筐体がハーフミラーで画面を映し出していたという事実が伝わらないじゃないですか」と、兒玉氏はこだわりを説明する。

▲ミニチュア『ダライアス』筐体のゲーム画面には、実機同様ハーフミラーに表示される仕組みが施されており、ミニチュアであることを忘れてしまいそうになる ©TAITO CORPORATION 1986,2017 ALL RIGHTS RESERVED.

ミニチュア駄菓子屋筐体は木材の組み立てキットとなっている。これも、実際の筐体が合板によって作られているという事実がリアルに伝わってくる要素だといえる。ミニチュアなのだからプラスチック成形でいいのではないかと我々は思ってしまいがちだが、素材にもこだわるあたりにヘルメッツの信念のようなものが伝わってくる。

「アーケードゲームは専用大型筐体でも合板で作られている部分がありますからね。そのような部分を木材で再現してあげることで、この筐体はこうやって作られていたんだということが分かるわけです」

兒玉氏のその言葉に込められた、現物にいかに近づけるかを模索した同社のこだわりには感服してしまった。

ヘルメッツの原点は個人で楽しんでいたペーパーモデル制作

▲ペーパーモデルをそのまま売るという選択肢もあったのだが、耐久性とリアルさを追求し、木材などの素材向けに設計し直しているそうだ

兒玉氏はもともと個人の趣味として、さまざまなアーケードゲーム筐体をペーパーモデルで作っていたそうだ。しかし、時がたつにつれ、そのようにして作った自信作に陽の目を見せたいと思い始めるようになる。クリエイターなら当然の心理だ。

だが、公の場に出すためには正式にメーカーから許諾を得なくてはならない。そこで感じたのが個人活動であることの限界だ。個人でメーカーと契約し、許諾を得ようとしても難しいことが多かったそうだ。そこで起業し、ヘルメッツを設立することとなる。

個人で活動している筆者も、実は過去に何度か、メーカーから大きなビジネスを持ちかけられたことがあったのだが、法人化しなければ契約が難しいという理由でペンディングになってしまったという経験がある。自分は法人化する勇気が持てなかったことを考えると、兒玉氏の決断は素直にすごいと感じられた。

▲発売を予定しているテーブル型筐体。古参ゲーマーにとっては青春の思い出だろう。小型液晶を搭載することでゲーム画面もしっかり動作するからすごい

兒玉氏が個人的な趣味として作っていたというペーパーモデルの完成度が気になったので、その写真を見せてもらった。これが実に精密で、「本当に紙でできているの?」とにわかには信じられなかった。ゲームセンターのジオラマ風にペーパーモデルの筐体が並べられている写真だったのだが、一見した感じでは実際のゲームセンターの店内を撮影したものにしか見えない。「これ、本物のゲームセンターの写真ではないんですよね!?」と、思わず聞いてしまったほどすばらしい完成度だ。

ゲームメーカーに許諾を求めている最中の試作品も含め、商品はこのペーパーモデルをベースにしていることが多いという。ペーパーモデルの時点でいかに高い完成度をもっているかが、そのことでもよく分かる。趣味というペーパーモデルで驚くほどの筐体数が作られていたが、メーカーによっては許諾を得ることが難しいところもあるそうで、商品化できるのは一部に留まるのではないかと兒玉氏は言う。

このままでは失われていくだけのゲーム筐体に危機感を覚える

個人の趣味によるペーパーモデル制作から始まり、正式にメーカー許諾をとるために起業までした兒玉氏。そこまでミニチュアゲーム筐体に情熱を傾けるのには、何か理由があるのだろうか。

ミニチュアではありますが、レトロゲーム筐体を資料として後世に伝えたい気持ちからです」と兒玉氏。

近年では、レトロゲーム基板は多くの有志の手により収集され、保存活動が行われるようになった。基板だけでなく、パンフレットや販促資料なども積極的に保存されている。

しかし、筐体についてはサイズが大きいということもあり、その保存は基板ほど進んではいない。ゲームセンターから撤去された筐体はその後、基板だけ取り外されて廃棄されることがほとんどのようだ。下手をすれば基板ごと廃棄されているケースもあるだろう。兒玉氏はさらに続ける。

「この状況を指をくわえて見ているだけでは、ゲーム筐体は本当に幻の存在となってしまうのではないでしょうか」

ゲーム本編は基板が保存されていれば、年月が経っても体験手段は残される。しかし、体感ゲームや大型の専用筐体ゲームは、インタフェースや動作環境も含めて一つの作品になっているため、それ自体も再現されなければ、真の「保存」とは言えないのではないだろうか。『ナイトストライカー』(1989年/タイトー)の筐体がいい例だ。

『ナイトストライカー』の筐体にはライトストリームと呼ばれるシステムが備わっている。モニター画面を囲むフード内に電飾が仕込まれており、ゲームの展開に合わせて光が流れる演出がなされるのである。スクロールに合わせて光の流れる速度が変わり、ときには逆方向に光が流れるなど、ゲームへの没入感を高めるための仕掛けが満載だ。

▲まだ試作段階である『ナイトストライカー』。商品化のあかつきにはライトストリームなど光の演出も再現したいそうだ

実はまだ制作途中ではあるが、ヘルメッツは『ナイトストライカー』ミニチュア筐体も市販化を目指して準備を進めている。しかし、この機能を完成させるには、かなりの試行が必要だろう。

そこまでしないと、どのような特徴があった筐体なのかが分からないじゃないですか」(兒玉氏)

単なるミニチュアで終わらせずライトストリームシステムも再現したいということを、こともなげに語る兒玉氏は実に頼もしく見える。ぜひ正式な商品化までたどり着いてほしいと感じた。

現在はミニチュア制作にとどまっているが、将来的には筐体のレプリカを生産できるところまでスキルを持つ会社に育てたいそうだ。