日本初!ゲーム音楽のプロオーケストラ『新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団』を率いて〜指揮者・市原雄亮氏インタビュー 前編

ビデオゲームを構成する上で欠かせない存在である「ゲーム音楽」。知名度の高低にかかわらず人々の心情に訴える名曲・良曲が生まれ、「ビデオ・ゲーム・ミュージック」として固有のジャンルを確立している。

そのゲーム音楽に、「プロのオーケストラ」というスタイルでアプローチを続ける人物がいる

その人物こそが、ゲーム音楽を主体に演奏する楽団『新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(以下、NJBP)』代表であり、同時に指揮者としての顔を持つ市原雄亮(いちはら ゆうすけ)氏である。

NJBPは、プロ奏者によりゲーム音楽を主体に編曲・演奏するオーケストラとして、2014年に市原氏によって設立された。既存の概念にとどまらぬ高い独立性、自由さの維持、技術の研鑽、そして音楽に対する幅広い探求と活動を理念としている。演奏技術もさることながら、公式サイト、SNSなどのWEB展開や各種デザインにも定評がある。

今回は、そんなNJBPを率いる市原氏にお話を伺い、音楽家から見たビデオゲーム、自身の原体験、楽団を率いる者としての苦楽、NJBPの辿ってきた道のりと「これから」について語っていただいた

【聞き手】
ライター:山田 鍵

他に類を見ぬ
ゲーム音楽主体のプロオーケストラとは?

▲2018年10月公演「NJBP Live! #11」ナムコ特集の様子。スペシャルゲストとして小沢純子、小野浩(Mr.ドットマン)、川田宏行、慶野由利子、中潟憲雄(以上、敬称略)といったそうそうたる制作諸氏が列席(画像:筆者撮影)

――はじめまして。本日はインタビューをご快諾いただき、ありがとうございます。お時間の許す限り、よろしくお願いします。

市原 こちらこそ、よろしくお願いします。

――そもそも今回の発端は、筆者(山田)が2018年の10月に行われた公演「NJBP Live! #11 “SWEET IMAGINE, SWEETDREAMS encore”※1NJBP Live! #11 “SWEET IMAGINE, SWEETDREAMS encore” : 2018年10月20日、神奈川県の「サンピアンかわさき」にて催されたNJBP第41回主演公演。往年のナムコサウンドを演奏したNJBP Live! #7の再演という位置付けで、スペシャルゲストとして小沢純子、小野浩(Mr.ドットマン)、川田宏行、慶野由利子、中潟憲雄(以上、敬称略)といった、そうそうたるゲーム音楽制作諸氏が列席。市原氏とのトークや追加曲(『トイポップ』1986年)も聴き所のひとつであった。」を拝聴し、その選曲や構成、進行、表現、そして情熱に敬服したからです。これまでのご活躍はSNSやYouTube、各種記事を通じておぼろげに存じてはいましたが、このたび縁あって直接触れられたことが何よりの理由です。

市原 あの「ナムコ公演」ですね。ありがとうございます。当日は多くの方にご来場いただきました。NJBPを代表し、この場をお借りして御礼申し上げます。

――「ナムコ公演」に続き2018年12月には、作曲家・古代祐三※2古代祐三(こしろ ゆうぞう) : 黎明期から活躍するビデオゲーム音楽の作曲家・ゲームプロデューサー。日本ファルコム在籍時からこれまでに手がけた作品は多岐にわたり、氏の紡ぐ音色は多くの熱狂的なファン、フォロワーを生み続けている。ゲーム制作会社エインシャントの現・代表取締役社長。代表作に『イース』『ソーサリアン』(PC/1987年/日本ファルコム)ほか多数。の楽曲を演奏したNJBP初の大規模単独オーケストラ公演「NJBP Concert #1『古代祭り』※3NJBP Concert #1『古代祭り』 : 2018年12月1日、東京都の「大田区民ホール・アプリコ 大ホール」にて催されたNJBP第42回主催公演にして、初の大規模単独オーケストラ公演。本文中にある『アクトレイザー』全曲演奏をはじめ、ファン垂涎のラインナップと上質な編曲・演奏によって会場は大きな拍手で包まれた。なお、本公演を収録した映像化が決定している。」も開催されました。

市原 はい。特にスーパーファミコン(SFC)の『アクトレイザー』(1990年/エニックス)全曲演奏はかねてからの悲願でした。おかげさまで会場・ネットのLIVE配信ともに多くの方にご鑑賞いただき、また予想以上の反響を頂戴し、ただただ感謝しています。ひとえに当日のゲストならびに監修を務めていただいた古代さんをはじめ、スタッフ、関係者一同による尽力の賜物です。改めて古代祐三という音楽家の偉大さを痛感した公演でもありました。

――NJBPの公演は、もはや名物となっている市原さんご自身によるプレイヤー目線での作品解説、そして、ゲスト諸氏との「打ち合わせのないアドリブトーク」も見逃せませんね。

市原 毎度緊張しっぱなしですが、和気あいあいとお話させていただいています。トークでは初めて明かされる制作秘話もあったりと、この時ばかりは私自身もいちゲームファンとして楽しんでいます。ついつい話し込んで、毎度時間が押し気味になってしまうのが悩みですが…(笑)

2018年1月に開催された「NJBP Concert #0 “飛翔”」より『DAWN -Theme of NJBP- (NJBP Concert ver.)』(動画はNJBP公式YouTubeチャンネルより)

起伏に富みすぎたNJBP設立への道
前身楽団の結成、解散。そして再生

――演奏以外にも楽しめる要素が多いNJBPの公演ですが、設立の経緯を教えていただけますか?

▲着物姿でインタビューにお答えくださる市原氏。2019年2月のNJBP公演でも着用された着物とのこと

市原 私が指揮者として身を立てる前…2000年代初期だったでしょうか。海外のオーケストラがゲーム音楽を演奏するコンサートがあり、「海の向こうでそんな活動をしている人たちがいるんだ!」と期待と楽しみに胸を膨らませ、友人たちと連れ立って聴きに行ったのです。しかし、てっきり奏者も海外の方かと思いきや、(イベントに)雇われた日本人の奏者が演奏していました。

――主催は海外のイベンター、演奏は日本人ということですね。

市原 まぁそういうものかなぁ…と思い、それはそれとして目と耳を傾けていたのですが、正直に申し上げて…奏者の方々から、やらされている感というか、あまり楽しそうに演奏しているようには見えないなぁという印象を受けました。ほかのお客さんは大きな拍手を送っていたので、素晴らしいコンサートであったことは事実なのですが。

――ご自身に伝わってくるものが何もなかった、ということですか?

市原 そうです。同行した友人たちは一様に賛辞を贈り、演奏されたゲームについてあれこれと語っていたのですが、私1人だけは内心で「悔しい…」「納得がいかない…」という思いに苛まれていました。もちろん奏者の方々に罪はありません。

ですが、結果的にこのコンサートでもっとも強く感じたことは「僕が見たいのはこれじゃないんだ!」というものでした。やがて、もし自分だったらどうするかと考え、「やらされるというスタンスではなく、自分たちの手で自由に演奏できるオーケストラを立ち上げよう!」と決意したのです。

――ゲーム音楽をオーケストラで演奏すること自体は、以前から行われていましたね。

市原 国内ではこれまでにもすぎやまこういち※4すぎやまこういち : 日本発のRPG『ドラゴンクエスト』(FC他/1986年〜/エニックス)シリーズのほぼ全楽曲を担当する音楽家、指揮者。これまで映画、TV、アニメ、CM、ポップス、ファンファーレ等で、質量ともに他の追随を許さぬ功績を残す。「交響組曲 ドラゴンクエスト」シリーズにてゲーム音楽とオーケストラの融合に挑み、その先鞭をつけた。ゲーム音楽界はおろか、日本音楽界における最重要人物の一人。植松伸夫※5植松伸夫(うえまつ のぶお) : 日本発のRPG『ファイナルファンタジー』(FC他/1987年〜/スクウェア)シリーズをはじめ、多くのゲーム音楽を手がける作曲家。同作は、先駆である『ドラゴンクエスト』と並び国産二大RPGと呼ばれ比較されることもあるが、作品の方向性やグラフィック、サウンドは独自の境地を切り拓く。といった諸先生をはじめ、プロ・アマ、企業・有志を問わず、ゲーム音楽のオーケストラは多数開催されてきました。ですが私の考えは、それまでになかった音楽専従者による固定された団員によって、一定以上の演奏・編曲技術で、定期的なコンサートを継続して自主的に開催する――こと。これらを理念として掲げ、それにのっとり団員を公募、オーディションを経てNJBPの前身である『日本BGMフィルハーモニー管弦楽団』(以下、JBP)を2014年に結成しました。

――ついに理想が現実となったのですね!

市原 と、喜んだのもつかの間で、JBPとして幾度かの公演は主催しましたが、さまざまな試行錯誤や紆余曲折の結果、発足から1年ののちに解散を迎えます。

――やはり一筋縄でいかない部分があったのでしょうか?

市原 当時の在籍者もそうですが、私自身もすべてが初めての体験で、また、誰も成し得なかった前代未聞の楽団を代表する者として艱難辛苦があったことは事実です。

けれど、たとえ組織が解散することになっても自分の思い描いた理想はなんら変わらず、その情熱を失うこともありませんでした。

それに気づき、2014年に私は引き続き発起人となって、志(こころざし)を同じくする元JBPの奏者と事務局、そして編曲の羽田二十八(はねだ にじゅうはち)と共に、新組織を作ることにしました。それが、今のNJBPとなります

脚注   [ + ]