日本初!ゲーム音楽のプロオーケストラ『新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団』を率いて〜指揮者・市原雄亮氏インタビュー 後編

  • 記事タイトル
    日本初!ゲーム音楽のプロオーケストラ『新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団』を率いて〜指揮者・市原雄亮氏インタビュー 後編
  • 公開日
    2019年04月04日
  • 記事番号
    968
  • ライター
    山田鍵(やまだかぎ)

日本初のゲーム音楽を主体とした楽団「新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(以下、NJBP)」。その楽団の立役者にして指揮者でもある市原雄亮(いちはら ゆうすけ)氏のインタビューを2回に分けてお送りしている。

前編では、NJBP創立の経緯から、直近の公演を振り返りながらオーケストラにおける編曲の基本、そしてご自身のゲーム遍歴をお話いただいた。

引き続き後編では、公演を開催するまでの道のり、オーケストラの楽しみ方、指揮者としての市原氏とNJBPについて、さらに詳しくお聞きしていきたい。

【聞き手】
ゲーム文化保存研究所
進行・文 : 山田 鍵

公演に向けての準備
必ず通るプロセスとは

市原 前回「完全な個人の趣味だけで選曲・構成したい」と申し上げましたが、しかしそれを実現するにはいくつかの問題があります。

――と、おっしゃいますと?

市原 公演を行う場合、必ず権利関係をクリアにする必要があります。むろん当たり前のことですが、許諾を得ないまま行うわけにはまいりません。ゲーム音楽は、ほとんどの場合その権利をメーカーが所有しています。大枠を説明しますと、われわれ(NJBP)が、まずメーカーに「この作品のこの曲を演奏したい」と問い合わせ、企画書を持ち込んで説明を行い、「いいよ!」との承認が得られてはじめて曲の使用が可能となります。

▲公演に際して必要になるメーカーとの折衝について、静かに、そして力強く語る市原氏

――その手続きさえ踏めば、許可は得られるのでしょうか?

市原 いつでも誰にでもOKが出る、とは限らないでしょう。タイミングも要因の一つです。例えば、新作旧作にかかわらずメーカーがプッシュしている作品は、その活動に影響を及ぼしかねないため承認を得ることは難しい場合があります。逆に、今力を入れているからOKという場合もありますので、なんとも言えないというのが実際のところです。

メーカーの公式で各種イベントや公演をするケースもあるでしょう。とはいえ、こればかりは各メーカー側の考えや思惑もあるでしょうし、一概にこうだとは述べられません。ただ、権利元がハッキリしているなら、まだチャンスはありますが…。

――問い合わせ先不明で、(使用楽曲が)演奏できないゲームも存在すると?

市原 正直申し上げますと、その通りです。正規の手続きを経て交渉のすえ合意に至らず…というのであればまだしも、「あのゲームの楽曲を演奏したい」と考えても、窓口すら不明な作品は、なすすべもありません。この点は非常にもどかしい部分です。作品によっては、このまま歴史に埋もれてしまう曲もあり、それを思うと無念でなりません

――その点は強く同意します。そのほか、オーケストラ演奏となると会場の選定なども重要ではないでしょうか?

市原 はい。プロのオーケストラは俗に「本拠地」と呼ばれる会場を持っていて、優先して会場を使用できることがあります。ですが、われわれNJBPは、お世話になることが多い会場はありますが本拠地を持たず、流浪の民と申せます(笑)。よって、他団体同様、公演ごとに一般の抽選を経ています。

――勝手なイメージですが、電話かネットの予約で一発ポン、ではないのですね? 抽選となると倍率も気になるところです。

市原 インターネット抽選を導入しているところもありますが、基本は、申請後に指定された日時に会場へ出向き抽選します。方法は公平厳格で、福引きなどでよく見るガラガラポン的なものを使うこともありますね。倍率に関しては、これは会場や時期にもよりますが、例えば2018年12月に行われた「NJBP Concert #1『古代祭り』(*01)」を開催した「大田区民ホール・アプリコ」は、おおよそ100倍でした。

――100倍!?

市原 そうなんです。よって、メーカーから(曲の使用)許可が下りたからといって、すぐに公演の予定が立てられるわけではありません。このたび無事に「古代祭り」が開催できたのは、抽選に行った(同楽団の編曲家)羽田二十八(はねだ にじゅうはち)が見事当選を引き当てた結果です。

一同 すごい!

市原 編曲だけでなく、まさに羽田は「持っている男」です。参考までに、私はこれまでに数えきれないくらいハズレを引いております。

一同 (笑)

「シェフ」としての指揮者の役割

――浅学を承知でお聞きしたいのですが、指揮者とは具体的に何をする人なのでしょうか? 指揮棒を振っているだけ…ではないですよね?

市原 指揮棒振っているだけですよ(笑)。というのは半分ジョークですが、まずコンサートにおける演奏の全責任を負います。そして、音楽を作っていく…と申しますか、
(料理に例えると)管弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器などなど、おおよそ15〜20のパートが、いわば「材料」となります。それをどういった「料理」に仕上げるかということが、ざっくりですが指揮者の役割と言えるでしょう

よって、各パートに優秀な奏者(材料)がそろっていようとも、作った料理が台無しであったらそれは指揮者の責任です。欧米では、偉大な指揮者のことを「マエストロ」、常任指揮者のことを「シェフ」と呼称することがあります。指揮者とシェフには、主だった部分に共通点が多いのでしょうね。

――分かりやすい解説、恐れ入ります。

市原 一方、実際の演奏中は奏者同士のリズムで進む場面が多く、必ずしも指揮者は必要ではありません。大げさに言えば、ただ立っていても音楽は進んでいきます。ですが指揮棒を振っていて、ふと気を取られて私が何か変な動きをしたら、それは音に出ます。出る…はずです(笑)。なので奏者は、常に凝視しているわけではありませんが、楽譜や周囲も見つつ指揮者のこともしっかり見ているのです。

――繊細に反応するものなのですね。『NJBP Live!(*02)』や、NJBPの公式YouTubeチャンネルで公開されているいくつかの動画は、指揮者のいないスタイルで演奏されていますが…。

市原 その際は「コンサートマスター」が活躍します。NJBPでは小林明日香というヴァイオリニストです。指揮者が立つ場合でも、もちろん重要な役を負い、オーケストラ全体の呼吸を合わせたり、引っ張っていきます

▲「コンサートマスター」の役割も担うヴァイオリニストの小林明日香さん(画像:NJBP提供)

それは演奏中に限らずリハーサルでも同様で、オーケストラの意見を指揮者に伝え、反対に指揮者の意見をオーケストラに伝えたりと、双方をつなぐ役目を果たしています。NJBPの公式YouTubeチャンネルにもアップされている「任天堂ファミコンタイトル微妙にマイナーメドレー」という演奏でもそうですが、向かって左側の手前が(コンサートマスターの)定位置となります。

▲オープニングは『マリオブラザーズ』(1983年/任天堂)のスタートBGM。原曲はモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(動画は公式チャンネルより)

任天堂ファミコンタイトル微妙にマイナーメドレー
〜Nintendo NES title slightly minor medley〜

1. ゲームスタート(『マリオブラザーズ』)
2. BGM A(『レッキングクルー』)
3. ボーナスステージ(『デビルワールド』)
4. メインテーマ(『マッハライダー』)
5. 城下町(『謎の村雨城』)
6. 笛(『ゼルダの伝説』)
7. 町〜クリアファンファーレ(『リンクの冒険』)

――この動画は、いずれも1983〜1987年のファミコン前期を彩った任天堂の作品で構成されていますね。

市原 「微妙に」というのはあくまで私の主観ですが、『マッハライダー』(FC/1985年/任天堂 (*03))は一度演奏したかったのです。このメドレーは2015年に演奏されたもので無理もないですが、見返してみると、やはりみんな緊張というか、まだ表情にカタさがありますねぇ(笑)。今はこの時よりも場数を踏み団員も増えていますので、いつかリメイクを、と考えています。

――『リンクの冒険』(FC・FCD/1987年/任天堂(*04))でラストを迎えるあたりは個人的に好感が持てます。指揮者やコンサートマスターの存在など、そういった情報を知っているだけでも、オーケストラを楽しむ幅が広がるように思います。

市原 コンサートマスター以外にも、曲によってはほかのパートの誰かしらが合図を送ったり、演奏をリードしています。もし、そんな部分にも注目し、「耳」だけではなく「目」でも楽しんでいただけたなら、指揮者冥利に尽きますね

脚注   [ + ]

01. NJBP Concert #1「古代祭り」 : 2018年12月1日、東京都の「大田区民ホール・アプリコ 大ホール」にて催されたNJBP第42回主催公演にして、初の大規模単独オーケストラ公演。本文中にある『アクトレイザー』全曲演奏をはじめ、ファン垂涎のラインナップと上質な編曲・演奏によって会場は大きな拍手で包まれた。なお、本公演を収録した映像化が決定している。
02. NJBP Live! : NJBPが主催する公演の一つで、年に3回程度開催する20人規模の中編成室内楽ホール公演。NJBPは、そのほかカフェなどのスペースで行う小規模アンサンブル「NJBP+」、1~2年に1度開催する大規模オーケストラ公演「NJBP Concert」を含めた3種類の公演を主軸とし、プロ団体としてほぼ毎月、演奏活動を行っている。
03. マッハライダー : 1985年にファミリーコンピュータで発売されたレース+ガンアクションゲーム。システムには、前年に出た『F1レース』(FC/1984年/任天堂)と同じものを使っている。舞台は西暦2112年の荒れ果てた世界。1人生き残ったマッハライダーが、マシンガン搭載のバイクに乗って暴徒(敵車)を破壊しながら新天地を求めるというストーリーで、任天堂発売タイトルの中では硬派・バイオレンスな部類に属する。ただし、この設定がゲームに直接影響を及ぼすことはなく、その背景デザインに世紀末感がわずかに漂うのみとなっている。
04. リンクの冒険 : 『ゼルダの伝説』(1986年~)シリーズの第2作目として、「ファミリーコンピュータ ディスクシステム」にて任天堂から1987年に発売。正式名称は『THE LEGEND OF ZELDA 2 リンクの冒険』。前作との大きな違いは、フィールド移動の見下ろし型(トップビュー)に加え、町での移動および戦闘には横スクロール(サイドビュー)を導入。シリーズの名に恥じぬ傑作で、経験値による成長システム、豊富な魔法、ジャンプおよびジャンプを利用した攻撃(上突き・下突き)など、アクション面がより強化された。ただし、難度も比例して上昇し、特に大神殿とそこに至るまでの溶岩地帯に苦しめられたプレイヤーは多い。ちなみに、市原氏は「少年時代は涙をのみましたが、3DSでダウンロード購入し、晴れてクリアしました!」とのこと。

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