日本初!ゲーム音楽のプロオーケストラ『新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団』を率いて〜指揮者・市原雄亮氏インタビュー 後編

オーケストラは別世界!?
NJBPをさらに身近に感じるために

――ゲームファンの中でも「ゲーム音楽の演奏だからNJBPの公演には行ってみたいけど、オーケストラはよく分からないし…」と感じている方もいらっしゃるのではないかと思いますが、それについてはいかがですか?

市原 そのようなお考えをお持ちの方は、確かにいらっしゃいます。今もまれに「ドレスコードはあるの?」と質問されることもありますが、通常、オーケストラのコンサートにドレスコードはありません。普段通りの自由な格好でお越しください。

――かつては筆者もそうでしたが、「鑑賞中は微動だにせず、絶対に物音を立てちゃいけない」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。

市原 きぬ擦れや咳払いなどの生理現象など、自然発生する音は仕方のないことです。緊張せず、ゆったりとした気持ちでご鑑賞いただければと思います

――先に紹介したNJBPの公式YouTubeチャンネルに、「オーケストラコンサートの楽しみ方」という動画がありますね。

▲「オーケストラコンサートの楽しみ方」を説明する動画。市原氏をはじめ、団員の方々による熱演が理解に拍車をかける(動画は公式チャンネルより)

市原 初めてオーケストラに触れる方への道しるべになればと思い、制作・公開しています。最低限の約束事を説明しながら、ごく基本的な演奏の楽しみ方、オーケストラにおける組曲や交響曲での拍手のタイミングなどを紹介しています。動画の最後の部分でも触れていますが、公演ではプログラムに載っていないアンコールがあるかもしれませんのでご注意を!

――では、代表というお立場から、ここで改めてNJBPを見渡すと、楽団としてどんな点に特徴があると言えますか?

市原 まず、われわれは通常の公演前に平均してトータルで3日ほどリハーサルを重ねます。先日の「古代祭り」のような大規模公演などはもう少し増えますが、その間ですべてのパートの音を合わせます。

――そんな短期間のリハーサルで演奏できてしまうものなのでしょうか?

市原 はい。奏者はそれぞれ普段はフリーランスとして音楽活動を行っており、おのおの音楽専従で生活しています。その上で NJBP所属として演奏し、ご好評いただけているのは確かな技術に裏打ちされた結果です。私も指揮者としてリハーサルに臨んでいますが、皆つくづくプロだなぁと思います。

――公演そのものの雰囲気や奏者の方々のSNSなどを拝見すると、NJBP全体の仲の良さというか、親しみやすいイメージが湧きます。

▲筆者の質問に笑みを交えつつ、NJBPの雰囲気やエピソードを語る

市原 これこそが今のNJBPをもっとも象徴する点かもしれません。仲が良いといっても“なぁなぁ”ではなく、互いの音楽観や人間性を尊重し、協調しながら切磋琢磨し合える現状は一つの理想です

私が固定された団員による演奏にこだわる理由がここにありまして、毎回違う奏者でも音を合わせることはできますが、真の意味で心を通わせられるかは疑問です。同じ楽団、同じ奏者で10年、20年と定期的に続けていく先に表現できる音があると信じています

――馴れ合いではない仲の良さがいかに尊いかということは、しみじみ実感します。ただ、SNSなどで皆さんの輝かしいご活躍を拝見していると、筆者のような俗物は憧憬的な意味も含めて「自分には眩しすぎるぅ!」と感じることもあります。

市原 いえいえ、そんなことないですよ! ひとたび輪に入れば、ゲームの話や他愛のない会話ばかりです。ことに音楽家は独特な人が多いと言えますし、むしろ、どこかに特異な部分が必要だと思います。NJBPも変わった人たちばかりですよ。「お前が言うな」と団員からの大合唱が聞こえそうですが…。

一同 (笑)

「音楽家・市原雄亮」の想いと
ビデオゲームの歴史を残す意義

――音楽家として、今のビデオゲーム界に何かお感じになるものはありますか?

市原 これは危機感…に近いものですが、現在NJBPを含め、新旧のビデオゲームをいろいろな形で演奏しようとする機運は、おおよそ1980〜1990年代にビデオゲームの洗礼を受けて育った私や山田さん(筆者)のような世代が、いい年齢を迎えた今だからこそ一時的に盛り上がっているだけなのでは…という気がしています。

もちろん、近年でもファンの支持を受ける名作・名曲は多いですが、今まさにそれらをプレイしている子供たちの耳にしっかり残り、世代が入れ替わった未来にオーケストラや各音楽イベントが開催されたとして、果たして(その時、当時のゲーム音楽を)聴きたいと思うのだろうか、と。ただの杞憂で終われば、それに越したことはないのですが。

――現在も新作は日々発売されてはいますが、ネットワークやスマートフォンの普及で、ゲームを購入するスタイル一つとっても多種多様です。

市原 確かにビデオゲームに触れる機会や方法は増しています。ですが、知名度や人気の有無にかかわらず、さまざまな理由により忘れ去られてゆくゲームもあるでしょう。そんな状況を作らないこと。われわれNJBPの活動意義は、そこにあります。(ビデオゲームを)歴史として残したい。いわば「クラシックにしたい」という信念です

――ビデオゲームをただビデオゲームとして終わらせるのではなく、文化として捉えたい、ということでしょうか?

▲ビデオゲームの歴史をキチンと残したい。真っすぐな表情で語る市原氏

市原 それが何よりの目標というわけではありませんが、頭の片隅には常にあります。ビデオゲームに関しては、日本国内でもそうですが、特に海外では学術的な研究対象とする動きが活発です。かつて日本で発売されたゲームであるにもかかわらず、日本人ですら誰も持っていないようなグッズを所有し、研究している外国の方も珍しくありません。

また現実的な問題として、制作者や関係者など「現場を知る方々」が引退され、そのまま忘れ去られてしまうケースも、今後増えていくでしょう。このまま情報や知識が埋もれたまま顧みられることなく時が過ぎていくことに、悔しさを感じます。

――ノウハウや記録を残すという行為は肝要です。では、その問いに「オーケストラ」というスタンスで挑む理由は何でしょうか?

市原 これはもう、「私がオーケストラを好きだから」です。身も蓋もありませんが(笑)。私自身はプロの音楽家を名乗って活動をしているものの、気持ちは非常にアマチュア寄りの人間です。

仕事(ビジネス)では常に挑戦し、問いかけ、己のこだわりを貫く。そんな「精神性としてのアマチュア魂」は今後も捨てずに持ち続けていきたいですね。

楽団を率いる代表としてのこれから
〜10年先、20年先を目指して〜

▲NJBPのコンサート風景(画像::NJBP提供)

――NJBPは2019年の7月で設立5周年とのことですが、振り返ってみていかがでしたか?

市原 おかげさまでNJBPとして再スタートを切ってから、あっという間の5年でした。少しずつではありますが前進している手応えを感じつつも、設立当初からの懸案点もあります。

――どんなことでしょうか?

 ゲーム音楽ファンで各種の音楽イベントやコンサートに足を運ばれる方には、いくつか理由があると思いますが、その中でもとりわけ「その公演で演奏される作品や曲が好き、思い入れがある」といった目的が多数です。

それはNJBPも例外ではなく、公演ごとにお客様の顔ぶれは大きく入れ変わっています。多くの方にご鑑賞いただけることに感謝しつつ、代表としてはその先を見据え、「NJBPの公演だから行きたい!」と能動的に感じていただける取り組みを設立当初から心がけています

――口コミやリピーター、ということですか?

市原 有り体に言えばそうですね。その一環として取り組んでいるものの一つが、はばかりながら申し上げると、私の司会進行やゲストの方々とのトークです。団体の代表者として多くの音楽家のまとめ役となり、企画から運営全般、折衝を行い、指揮、司会、そして歌まで唄えるのは世界広しといえども私だけかもしれませんね(笑)。そういった、自分だから出来ることや奏者それぞれの特技などを活かしつつ、知らないゲーム、知らない楽曲でも、いかに楽しんでもらえるかに思いを巡らせ、卓越した編曲と各楽器が奏でる音色が織りなすライブの臨場感、迫力、空気感を表現し、「NJBPの公演はなんかおもしろいらしいぞ!?」と、決して押し付けではなく、お客様自身の内なる感情に訴えていきたいと思っています。

NJBPはゲーム音楽の演奏を主体とした楽団ですが、ゲーム音楽を入り口として、クラシック音楽やオーケストラそのものが身近なものとして理解が深まっていくと、とてもうれしいですね

――5周年ということで、新たな目標や企画もお考えではないでしょうか?

市原 例えば、乳幼児とそのご家族へ向けたファミリーコンサートや無料イベント、ファン感謝デーなど、構想していることはいくつかあります。ですが、まずは「一過性のブームで終わらせず、続けること」です。

そして、何でもやってみてお客様の反応を肌で感じていきたいと思っています。その根底にあるものが「われわれNJBPが自主的にやりたいことをやる」そして「プロがゲーム音楽を演奏するという活動の灯を絶やさない」ことです。

――ファン目線からすると、新作旧作にかかわらず「そろそろあのゲームの曲を演奏しないかなぁ…」という声があるやもしれませんね?

市原 NJBPではリクエストを受け付けていませんが、そういったお声があることはビンビン感じます(笑)。ただし、こればかりは自由になるものはでありませんので…。

――権利関係ですね。

市原 そうです。この点を将来的にどうにか…と申しますか、メーカーの方々、関係者の方々とうまく協調できる部分を見つけたり、微力ながらわれわれにも何かお手伝いできることはないものかと考えています。また、密かな願望ですが「ウチの作品は自由に演奏していいよ!」というメーカーさんがいないものかなぁ…と常々考えていたりもします。

われわれNJBPが活動を開始したはるか以前から、アマチュアの方々がオーケストラ形式でゲーム音楽を演奏する楽団が存在しています。現在でも活動を続けている団体が多数あり、すごいなぁと思って拝見しています。

しかし、特にここ最近は権利関係などの理由で活動が制限され、自由に演奏できない方向に行きつつあるのでは、と感じています。われわれのようなプロオーケストラは相応の手続きを踏みますが、せめて営利目的ではないアマチュアの方々が趣味で行う範囲であれば、自由に演奏できるような仕組みが作られていくといいなぁと思います。

インタビューを終えて

今回お話を聞かせていただき、当初想像していた以上に市原氏の想いに同意する部分が多く、「諸先輩方の功績、知識を文化として残したい」という心情にも深く共鳴した。
だからこそ当研究所は、市原氏のような専門家視点での「今の言葉」を残しておくこともまた等しく重責と考える。

ビデオゲーム、そしてゲーム音楽、さらには音楽それ自体に恋慕する方々の耳に、NJBPの奏でる響きが届くことを切に願ってやまない。

新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団
主演公演のお知らせ

インタビュー前編でも紹介した、通称「ナムコ公演」と呼ばれるNJBP主催公演が決定! この公演は、天候悪化により中止された2018年9月30日に予定されていたものの振替公演である。

「お待たせしました! 半年以上の時を経ていよいよ開催の運びとなり、団員一同気合が入っております。ビッシビシ行きますので皆様のお越しをお待ちしております!」とNJBP代表の市原氏。

本記事をお読みになり興味が湧いた方は、ぜひチェックしていただきたい。

NJBP Live! #11 “SWEET IMAGINE, SWEET DREAMS encore!
日時:2019年4月20日(土)12:20開場、13:00開演
会場:文京シビックホール 小ホール
スペシャルゲスト:小沢純子、小野浩(Mr.ドットマン)、川田宏行、慶野由利子、中潟憲雄
司会:市原雄亮(NJBP代表)
公演詳細・チケット販売  
NJBP公式サイト 
NJBP公式Twitter 
市原 雄亮 氏
大学卒業後、2006年より指揮者として活動を開始。代表を務める「新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団」は、ゲーム音楽を主とする定期演奏楽団として国内外で注目を集める。また、近年では『ロックマンX』(1993年/カプコン)発売25周年記念として制作された関連曲の楽譜化・音源化にかかわる。そのほか、雑誌連載や各クラシックCDのライナーノーツ執筆など、音楽とゲームの間を縦横無尽に行き来する、(自称)永遠の16歳。新潟県上越市出身。公式Twitter