『燃えプロSP』開発者・市川幹人氏に聞く 前編~昭和の名作がめぐりめぐって平成で復活!復刻版が開発されることになった意外な真相~
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- 記事タイトル
- 『燃えプロSP』開発者・市川幹人氏に聞く 前編~昭和の名作がめぐりめぐって平成で復活!復刻版が開発されることになった意外な真相~
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- 公開日
- 2018年03月26日
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- 記事番号
- 296
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- ライター
- IGCCメディア編集部
あなたは、かつて全世界で700万本を超える大ヒットを記録した(*01)ファミコン向け野球ゲーム『燃えろ!!プロ野球』(1987年)を覚えていますか? 通称『燃えプロ』と呼ばれたこのジャレコの野球ゲームは、当時他社から出ていた人気の野球ゲームとはひと味違い、まるでテレビの野球中継のようにピッチャー後方からの視点でゲームをプレイしているような雰囲気が愛された、子供たちにも人気のシリーズでした。
では、そんな『燃えプロ』のスピンアウト的な作品として、アーケード向けにホームラン競争に特化した『燃えろ!!プロ野球 ホームラン競争』(以下、ホームラン競争)というゲームがあったのはご存じですか?
『ホームラン競争』は1988年にリリースされたものの、実はゲームが難しすぎて『燃えプロ』のヒットに比べるとあまりゲームセンターでは話題にならず、いつの間にか消えていった作品なんです。
そんな知る人ぞ知る『ホームラン競争』ですが、時を経た2014年頃、世界で最も有名なゲームセンターと称される「高田馬場ゲーセン ミカド(以下、ミカド)」にて一大ブームが起きます。そのブームに乗っかり、2015年には新たにスマートフォン向けゲーム『燃えろ!!プロ野球 ホームラン競争SP』(以下、燃えプロSP)が誕生。時代を超えて『燃えプロ』フィーバーが再燃しているようなのです。しかも『燃えプロSP』は、野球選手のみならず「ミカド」の店員さんまで登場するという超話題作。
今回は、昭和生まれの『燃えプロ』スピンアウト版『ホームラン競争』が平成になって大ブームを起こした経緯と『燃えプロSP』として復刻するに至るまでのお話を、スマホ版の開発者でもある市川幹人氏に伺いました。
なぜ今『燃えプロ』なのか!? そのブームの真相
編集部 まずは『ホームラン競争』というゲームと、昨今の『燃えプロ』ブームについてお伺いします。
市川 原作はジャレコが1988年にアーケードで出した『ホームラン競争』になります。ファミコン版の『燃えプロ』が大ヒットしたこともあり、アーケード向けに『燃えプロ』のテイストでホームラン競争に特化したゲームを出しました。ゲームは、ピッチャーが投げた球をタイミング良く打ち、ホームランの数を競うという内容で、連続でホームランを4本以上打つと景品が出るというタイプのアーケードゲームだったんですね。
当時、アーケード基板はどんなゲームでも500台ぐらいは売れていた時代なんですが、それがこの『ホームラン競争』はあまりにも難しいせいか、(売上台数が)150台にも満たなかったというんです。それぐらいしか売れないゲームだと、もはや誰の記憶にも残らずに消えていってしまうんですが…。
編集部 かなりレアなゲームなんですね。
市川 そんなゲームを2014年に、世界で最も有名なゲームセンターと言われている「ミカド」(*02)さんが、店内でレトロゲームとして稼働させたんですが、やはり難しいゲームということで「なんだよ、このゲーム?」みたいな雰囲気になって。案の定、冷めた目で見られていたようなんですが…。
ある日、たまたまどこかの倉庫から『燃えプロ』のオフィシャルTシャツが出てきて、「それじゃあ『ホームラン競争』で5連続ホームランを打ったら、『燃えプロ』Tシャツをプレゼントするよ」という話になった途端、みんな一斉にゲームをやり始めたっていうんです。
なにせ、ゲーム中まったくホームランを打てないと、わずか20秒程度で100円が消えていってしまう恐ろしいゲームなので、とにかく回転率も良くて…。気がつけば『ホームラン競争』がその月の売り上げ1位になってしまったというんです(笑)。
編集部 それがどういった経緯でゲームをスマートフォン向けに復刻することになったんでしょう?
市川 うちの会社はミカドさんにピンボールの実機を置いてもらっているのですが、ミカドの店長・池田稔さんとは昔から仲がいいというか戦友みたいなもので、よくゲームの話をしています。その中で、この『ホームラン競争』ブームについて、池田さんと「Tシャツ欲しさといえども、それぐらいハマる、クセになる要素がこのゲームにはあるってことだよね」という話をしました。そのうち「せっかくだからこのブームはなんとかしたいね」と盛り上がり、ちょうどその頃、うちの会社でも何かスマートフォン向けにゲームを作りたいと考えていたところだったので、それじゃあスマホ版の『ホームラン競争』を作ろうという話になったんです。ミカドさんに関係各所をご紹介いただいて、とんとん拍子に話が進んで、復刻することになりました。
編集部 つまり昨今の『燃えプロ』ブームは、完全にミカドさんの『ホームラン競争』ブームからの流れということなんですね。
市川 そうですね。2014年にブームとなり一気に盛り上がって、スマートフォン版となる『燃えプロSP』の開発も2015年の5月には始まり、7月にはサービスインしました。2カ月半ぐらいで一気に作り上げましたね。
なぜか野球選手以外の人もバッターとして登場するスマホ版
市川 復刻版の誕生のきっかけに「ミカド」さんが絡んでいるので、『燃えプロSP』にはミカドの(店長)池田さんのキャラも出ています(笑)。
編集部 そう言われると、このゲームには、ミカドの店長や店員さん、メカニック担当の方をはじめ、プロ野球界に限らず、いろいろな方がバッターとして登場しますよね。
市川 『燃えプロSP』は、プロ野球のOBはたくさん出てきますが、NPB(日本野球機構)公認じゃないので、現役のプロ野球選手を入れることができず、あらゆる人を探してこなければならなかったんです。
編集部 それでプロレスラーの方も登場することになったわけですね。
市川 このゲームに登場するキャラクターが広がったのは、(元プロレスラーの)キラー・カーンさん、ブル中野さんが本作に登場されるときに、「バトル・ニュース」というプロレスのメディアにプレスリリースを送ったことがきっかけでした。
編集部 「バトル・ニュース」に『燃えプロSP』のリリースを送られたんですか?(笑)
市川 はい。「ブル中野(*03)が出るぞ!!」「キラー・カーン(*04)が出るぞ!!」「ザ・グレート・カブキ(*05)が出るぞ!!」ってリリースを送り続けていたら、「バトル・ニュース」の担当者の方から、一度マインドウェアに遊びに来たいという申し出がありました。
その時に、「バトル・ニュース」の担当者が女性を連れてきたんです。最初は、美人の秘書かアシスタントを連れてきたと思っていたんですが、「なんか藤本つかささん(女子プロレス団体「アイスリボン(*06)」の選手代表)に似ているなぁ」と。「ひょっとして藤本さん?」って尋ねたら、やはりそうで。ご本人とは驚きましたね。
編集部 藤本つかささんをご存じだったんですね。
市川 僕は、今WWE(*07)にいるASUKAさん(*08)とは昔からお友達で、ASUKAさんにゲームの絵を描いてもらったことがあって。しかも、そのゲームは任天堂さんから出ているんです。3DSの『燃やすパズル フレイムテイル』(2010年)という今でもダウンロードできるゲームで、うちが開発担当、パブリッシャーが任天堂さんなんですが、このゲームの絵をASUKAさんに描いてもらってるんです。
なので、昔よくプロレスのインビテーションをASUKAさんから頂いたりなどして、色々な女子プロレスの試合を見に行っていたんですよ。それが、まだ藤本さんがデビューして1年目くらいかな? 「ずいぶんかわいい人が出てきたけど、この人動けるのかなぁ」なんて心配していたら、それがめちゃめちゃ動けるんで「すごい人だなぁ」と結構気になっていました。『燃えプロ』の前から藤本さんの出場する道場マッチを観戦していたんですよ。
編集部 完全にプロレスファンですね(笑)
市川 それで、まさかの藤本さんが目の前に現れたので、その瞬間どうやってこの『燃えプロSP』に出てもらおうかを考えました。
そしたら、藤本さんもかなりゲームに出てみたいという気持ちがあったみたいで、話の流れから「出ますか?」「出ますよ!」みたいな二つ返事で話がまとまったんですね。その段階で、アイスリボン代表の藤本さんの頭の中には、他のメンバーも出場させたいという考えがあり、その話を団体に持ち帰ったようでした。
それと同時期くらいに、藤田あかねさんという名前のプレイヤーが『燃えプロSP』をプレイしていました。これはアイスリボンの藤田あかねさんご本人なのかなぁと思いつつも、聞く手段もないし、藤本さんに直接聞いちゃうとゲームに出したいレスラーを決めるノイズになってもいけないから、藤本さんに聞くわけにもいきませんでした。
それでTwitterで藤田あかねさんをフォローしたらすぐ藤田さんからフォローバックがありました。尋ねてみたらご本人だということが分かり、かなりの中日ドラゴンズファンだということもわかって、それで最初に藤本さん、藤田さん、そして「カープ女子」で知られる同じくアイスリボン所属の世羅りささんの3人に(『燃えプロSP』のキャラクターとして)出てもらうことになったんです。
脚注
↑01 | 全世界で700万本を超える大ヒットを記録 : 『燃えプロSP』公式サイトより引用。 |
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↑02 | ミカド:東京都新宿区のゲームセンター「高田馬場ゲーセン ミカド」。店長・池田稔氏が収集した基板を中心に、1980~1990年代のゲームが数多く稼働中。懐かしのゲームによる大会の開催と、それらレトロゲームの攻略をYouTubeにて配信したことをきっかけに、今や世界で最も有名なゲーセンとして話題になっている。 |
↑03 | ブル中野:元女子プロレスラー。1983年全日本女子プロレス入門。90年代にはダンプ松本らとヒール軍団「極悪同盟」を結成し、女子プロレス界頂点に君臨。引退後はタレントに転向。Twitter |
↑04 | キラー・カーン:元プロレスラー。大相撲・春日野部屋に入門し、力士からプロレスに転向。日本人離れした巨漢をいかし、モンゴリアン・スタイルの大型ヒールとして国内外にて活躍した。国際的な成功を収めたレスラーの1人。 |
↑05 | ザ・グレート・カブキ:プロレスラー。歌舞伎役者がモチーフのオリエンタルなペイントレスラースタイルでアメリカでも人気に。試合中に毒霧を吹く東洋の神秘的パフォーマンスで一世を風靡。 |
↑06 | アイスリボン:2006年に立ち上げられたプロレス団体。藤本つかさをはじめ、多くの人気レスラーを世にデビューさせている。公式サイト Twitter |
↑07 | WWE:世界的な人気で注目度の高いアメリカのプロレス団体。WWWFとして設立後、WWFに改名。ドラマ仕立てのストーリー性の高いショープロレスで人気となるが、WWFは世界自然保護基金と同名となるため、現在のWWEに改名。公式サイト |
↑08 | ASUKA:女子プロレスラー。日本のプロレスでは華名(かな)のリングネームで活躍。また、イラストレーター、ゲームライターとしても活動する。現在はASUKAのリングネームでWWEに所属し、アメリカにて活躍中。Twitter |