『ベーマガ』&『エイリアンフィールド』復刻! 大橋編集長×水上氏×市川氏インタビュー 中編
たくさんの人材が自然と集まった当時の『ベーマガ』制作チーム
――その頃の大橋さんは『ベーマガ』の編集長を専属でやられていたんですか?
大橋 いや『ラジオの製作』と『ベーマガ』を兼任していました。それだけじゃなく、その後、ナムコなどのゲームを移植することになって、ソフト開発を行うマイコンソフトウエア開発室も担当していました。ほかに別冊もやっていましたね。
――ちなみに、当時『ベーマガ』はどのような編集方針で企画を決めていったんですか?
大橋 僕は編集部を統括していましたが、自分自身はこの分野に関してニューカマーで、本誌を編集しているうちに、読者のほうがはるかに技量が上がっていくのが分かっていたので、読者の反響は企画に大きく作用しましたね。
それに、その頃から山下章さん(*01)やゲーム文化保存研究所の大堀康祐くんのような優秀なライターが出てきました。彼らは、ゲームの操作や解析が天才的で、僕から見たら超人的ですが、この分野の素養を持ち合わせていたので、彼らが言うこと、やってみたいことは基本的にOKにしていましたね。
当時はネットなんてないから、読者から来たハガキを全部読んで、自分なりに読者の傾向を集計したり、分析したりしていました。
企画的には盛り上がったけど読者の反応がいまいち悪いものは冷静に判断してやめたり、新たに始めた企画の評判が良かったから、追求してやってみたものもありました。
ゲームミュージックの特集が好評だったら、それだけで別冊付録にしちゃうとか、シンセサイザーが出てきたらコンピューターミュージックをテスト的に扱ってみて様子を見てみるとかとか、そんな試行錯誤的なやり方でした。
そんなことをやっているうちに、編集部が梁山泊みたいになって優秀な人がどんどん集まってくるようになりました。
――それは意図的にそうしていたんですか?
大橋 若い人たちに門戸を開いていたので、編集部には自由な気風がありました。会社自体は堅いほうだったんですが、当時の副社長の理解もあって、ほかの業務に差し支えのないよう、地下に若いスタッフが集まれるスペースを作ってもらいました。
うちはゲームも作っていたし、パソコンの発売前からソフトウェアを仕込んでいかなければならないので、発売前に編集部に届いた新製品を、編集部や若い外注スタッフでテストしたり、評価することもありました。
メーカーからパソコンに内蔵するプログラムの相談を受けることもあり、それをここで作って、そのプログラムを『ベーマガ』で紹介する、というようなこともやっていました。どこのメーカーとは言いませんが(笑)。
市川 そうですね、パソコンの発売と同時に(内蔵のプログラムが『ベーマガ』に)載っているということがよくありましたよね。
大橋 とにかくいい環境だったんじゃないかと思います。特に、読者の方々と年齢が近しい人がそこに集まっていたのも良かったですね。
――確か、市川さんもそこにいらしたんですよね。
市川 そうですね。僕が最初にマイコンソフトウエア開発室へ入ったのが高校1年の夏でした(笑)。
『エイリアンフィールド』のインパクト
――ちなみに、水上さんが『エイリアンフィールド』を作ったのは15歳とのことでしたが(前編を参照)、当時掲載された『ベーマガ』の記事も水上さんが書かれたんですか?
水上 そうです。手直しが入っているかもしれませんが、僕が書きました。
――それもまたすごいですね。
市川 そうなんですよー。僕が『エイリアンフィールド3671特別版』を作ることになって水上さんに実際に会ってみたら、年が近かったのに驚きました。もっと上の方だと思っていたので…。このプログラムを作った時の年齢を聞いて、また驚きましたね。
――ゲームのプログラム投稿だけならまだ分かりますが、記事まで書いたというのがすごいですよね。
水上 何を書いたか忘れましたが(笑)。
――ゲームルールの説明やプログラムの解説に加え、「プログラムを短くするためにデモがありません」とかの注意書きがしっかりと書かれているんですよね。これを中学生が書いたというのがすごいですね。
市川 本当に驚きましたね。その時のプログラム能力で、どうにか楽しく作らなければいけないと頑張って作ったのがよく分かる。これは『Rogue(ローグ)』(*02)ライクのドットイートゲームだと思いましたね。
――何回でも遊べる、というゲームですね。
市川 しかも、ドットイートなのに目的が画面内のドットを食べ尽くすことじゃないんですよ。エイリアンを規定数やっつけるというのが目的なんですよね。そこも含めて、すごい新しさだなと改めて思いましたね。
水上 だって、このゲームはドットの数が不定じゃないですか。
市川 あー、だからカウントしてとかいろいろやっていくのが大変なんだ。
水上 そうです。カウントもそうだし、迷路を形成するブロックの配置によってはドットの数が変わるので、そんなのやってられんなってことで、(クリア条件を)エイリアンを倒した数にしました。
――プログラムリストも1ページに収めなければならない制約の中で、ですものね。たまに壁を破ってくるエイリアンもプログラムを見ると乱数ですよね。
水上 そうそう、10回に1回ですね。
――面クリアゲームにした理由がPC-8001(*03)のカラーバッファが40バイトしかないからとか、テクニカルな内容を中学生が書いているんですよね。
水上 最初はなんでここ色が付かないのかな? って悩んだんですけど、いろいろと調べると、カラーバッファは40バイトしかなく、一行当たりの色変更回数は最大で20回までと色の書き換えに限界があることを知ったんですよね。
――当時、PC-8001の色の書き換えの限界は、よく問題にされていましたね。
市川 今回、復刻版となる『エイリアンフィールド3671特別版』パッケージには、『ベーマガ』の付録版創刊号の表紙と裏表紙、掲載ページの復刻版が付くんですが、掲載ページが2バージョン収録されます。
というのも、POKE命令(*04)の解説部分があるんですが、数字は半角なのにアルファベットが全角になっていて(16進数の部分)非常に読みにくかったり、冒頭の「画面」が誤植で「面面」ってなっていたり、そういうものをそのままの状態で復刻したバージョンと、その後修正したバージョンを用意しました。見比べてみると、当時の苦労が分かっておもしろいと思いますよ。
次回予告
インタビューもいよいよ佳境。次回は『ベーマガ』と『エイリアンフィールド』復刻版の気になる内容についてお聞きしていきます。進化した復刻版の真相と、当時の『ベーマガ』ファンをかなり意識した特別付録の内容とは? 後編は次週公開の予定です。お楽しみに!
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大橋 太郎 氏
1948年、東京都生まれ。1967年に電波新聞社に入社。『ラジオの製作』編集長を経て、1982年に『マイコンBASICマガジン』を創刊。1996年には28万6000部で業界No.1のゲーム雑誌となる。『ALL ABOUT namcoナムコゲームのすべて』、『Computer Music Magazine(コンピューターミュージックマガジン)』など次々とヒット作を出し、現在も現役で『電子工作マガジン』の責任者を務める。電波新聞では、コラム執筆も担当している。現・電波新聞社取締役。
水上 恵太 氏
電気店店頭のマイコンでBASIC言語をマスターし、中学生にして『ラジオの製作』の特別付録『マイコンBASICマガジン』創刊号(1981年)の掲載プログラマー第1号となる。ナムコのゲーム開発者などを経て、現在はコンピューター関連のエンジニアと並行し、法政大学大学院経済学研究科でゲーム産業研究に従事。その傍ら、IGCCと慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) がコラボしたゲーム文化アーカイブプロジェクトにも携わる。
『電子工作マガジン 2018年冬号』
〇特集内容
チャレンジ!!電子工作大作戦
冬休みの電子工作
BCL・SWL用機器製作
ラ製65周年
〇特別付録
『マイコンBASICマガジン』
・ベーマガ創刊号掲載『エイリアンフィールド』2018年版
・IchigoJam/IchigoLatte/IchigoBoyなどの投稿プログラム18本掲載!!
・パソコンレクチャー「拡張合体! 学習リモコン基板」with IchigoJam
価格:1,296円(税込み)
発売日:2018年12月19日
『エイリアンフィールド3671』製品情報
対応OS:Windows 7以降(STEAMクライアントがインストールされていること)
ジャンル:ローグライクドットイート
価格:ダウンロード版 1,480円(税込み)
特別版(パッケージ版) 6,000円(税抜き)
【パッケージ版の内容】
〇B5版ブックレット(マイコンBASICマガジン1981年5月号、エイリアンフィールド掲載ページ、表紙、裏表紙の復刻)
〇Ichigo Jam版エイリアンフィールド
〇STEAMキーの記されたカード
〇大橋編集長、原作者水上氏、IGCC所長大堀氏、本作プロデューサー市川氏による対談DVD
〇タイトルロゴステッカー
〇カセットテープ型パッケージ
A面:PC-8001版エイリアンフィールドを収録。
B面:エイリアンフィールド PC-8001アレンジバージョンサウンドトラック
〇B5サイズクリアファイル
〇B2サイズポスター
配信開始日:2018年12月19日
公式サイト
脚注
↑01 | 山下章 : ゲームライターとして『ベーマガ』で活躍後、1989年に編集プロダクション「スタジオベントスタッフ」を設立、現・代表取締役。2015年より『ベーマガ』のトークイベント「ALL ABOUT マイコンBASICマガジン」を主催。 |
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↑02 | Rogue(ローグ) : 1980年にUNIX版で発売されたダンジョン探索型のロール・プレイング・ゲーム。RPGの祖とされ、主人公「@」、ドラゴン「D」など、登場キャラクターはASCII文字で表示される。『ローグ』から派生したゲームも多く、それらは「ローグライクゲーム」と総称されている。 |
↑03 | PC-8001 : 1979年に日本電気から発売されたパソコン。当時、パソコンは20万円以上の高額なものであったが、このPC-8001は16万円代と比較的手ごろであるため、一般家庭にも普及した。 |
↑04 | POKE命令 : アドレスにデータを直接書き込むことが可能になるBASICの基本関数。 |