映画的演出を見事に融合した大傑作アクション『エドワードランディ』

  • 記事タイトル
    映画的演出を見事に融合した大傑作アクション『エドワードランディ』
  • 公開日
    2019年02月01日
  • 記事番号
    846
  • ライター
    こうべみせ

20世紀初頭はすっかり近代の歴史に入るようになってしまった。そして、クリエーターにとっては想像力が刺激される素材に溢れている。

急速に発展していた当時の科学と工学は、クリエーターの荒唐無稽な創造物に説得力を与えてくれるし、ビジュアルは極めて慎重に表現しなければならないが、ナチス・ドイツ風の軍隊を登場させれば、誰にでも分かりやすい悪の存在となる。

映画『インディ・ジョーンズ』シリーズ(1981年~)を見た人なら、この時代を舞台とするおもしろさはよく分かるはずだ。

今回紹介する『エドワードランディ』(1990年/データイースト)は、まさにインディ・ジョーンズを翻案したようなビデオゲームだと言えるだろう。

レバーと2つのボタンが生み出すドラマチックアクション

本作は1930年代のヨーロッパを舞台にしたアクションゲーム。愛用のムチ「クリフハンガー」を手に、主人公ランディが、あらゆるものを焼き尽つくす「超兵器」の核となる物質「プリズム」を巡って、悪の軍隊と戦う冒険譚だ。

主人公の操作はコントロールレバーと2つのボタンで行う。それぞれのボタンは攻撃とジャンプに機能が割り当てられているが、本作の場合は、このジャンプ操作にクセがある。というのも、ジャンプボタンはレバー入力と組み合わせることで、さまざまなアクションをさせる役割も持っているからだ

一般的にはレバーを横に入れながらジャンプボタンを押すと真横にジャンプできるのだが、本作では、攻撃判定のあるスライディング動作になってしまう。横方向にジャンプしたければ、レバーを斜め上に入力しなければならない。主人公の状況によって足場を上ったり降りたり、踏みつけ攻撃をしたりなど、ジャンプボタンの機能は多岐にわたる。

攻撃はムチによるものだが、敵との距離に応じてパンチ攻撃に変わる。また、ムチは頭上の足場などに引っ掛けることができ、そのままレバーを横に入力することで、ぶら下がったまま回転攻撃ができる。

この回転攻撃では、途中でキャンセルしなければ4回まで回転でき、その間は無敵状態になる。この回転攻撃をうまく使いこなせるようになることがエンディングへの近道だ

スコアが体力!?一風変わったダメージ制のゲームルール

▲「ハイスコア=ゲーム中に達した最高体力値」という独特のルール。体力を増やしたければ敵を倒せばいい。この回復アイテムに依存しないゲーム性のおかげで、戦いに集中できた

アクションゲームのほとんどは「残機制」「ダメージ制」「残機+ダメージ制 」のいずれかを基本ルールにしている。本作の場合は「ダメージ制」にあたるのだが、スコアが体力ゲージの役目を果たしている点がユニーク

そのため、加点すればするほど体力は上がっていくことになる。反対に、敵の攻撃でダメージを受けるたびにスコアは減点されてしまう。スコアがゼロになってしまうとゲームオーバーだ。

「それじゃ全ステージクリアできないプレイヤーの記録スコアは、すべてゼロになってしまうではないか」と思う人がいるかもしれない。「ゲーム開始直後は得点していないから体力もゼロから開始で矛盾している」と思う人もいるだろう。

それらについてはちゃんと考慮されており、ハイスコアはゲームオーバーになるまでの間に達した最高値スコアが記録されるようになっている(そのため、ハイスコアランキング画面のタイトルは「MAX POWER RANKING」と表記されている)。

ゲーム開始直後の体力初期値は5,000なので、スコアも5,000からのスタート。つまり、一度も加点できずにゲームオーバーになったとしても記録スコアは0点とはならず、5,000点となる(はずなのだが、ランキング登録画面には4,999点で記録される。バグなのか理由は不明)。一度でも加点していれば最高値スコアのまま登録される。

ちなみに、体力残値はスコアのほかにハートマーク数でも表示されている。そのため、スコア=体力であることを知らないプレイヤーは「なぜスコアが減っていくんだ?」と思ったようだ。

2Dゲーム基板の可能性を見せてくれた表現手法

▲それまでのゲームになかったダイナミックなシーンの数々は、制作スタッフのアイデアと情熱が結晶したものだと言える

メタルスラッグ』シリーズ(1996年~/SNK)がドットグラフィックの芸術なら、本作は2Dゲームにおける演出表現の最高峰と呼んでいいだろう。

詳細なスペックを把握しているわけではないが、本作の基板は同時期の他社基板と比較して一世代古いものに見える。おそらく拡大縮小回転の機能もなかっただろう。そのため、プログラムテクニックの駆使や、見せ方を工夫することでさまざまな表現に挑戦していた。

一例として挙げると、ステージ2やステージ7で繰り広げられる飛行機上での戦闘シーン。雲海で一瞬画面を覆うごとに背景を空中や地上に変化させ、飛行機が旋回しているようすを表現している。また、同様の手法で、画面奥からボスキャラが迫ってくる様子を見せるなど、表現手法において実に見どころが多い。

目まぐるしく変化するプレイフィールドも見どころの一つだ。全編を通して同じ内容のアクションは存在しないと言ってもいいだろう。複葉機上の戦いから始まり、ボートに乗っての戦い、装甲機関車上での戦い、 自動車を運転しながらの戦いなど、戦いの舞台が次々と変化する。

主人公が地面に足をつけるシーンがあるのはステージ5くらいだろう。それほど多彩な舞台が用意されており、最後まで飽きさせないように作られている。

似たようなテイストを持つゲームを挙げるとすれば『ストライダー飛竜』(1989年/カプコン)になると思うのだが、飛竜が一貫してサイドビューであるのに対し、本作はカメラワーク的なダイナミズムに溢れている。ステージ3の、高速横スクロールと疑似3Dを切り替えながら進行するボートチェイスシーンや、ステージ4、5の疑似3Dで崖を越えるシーンは必見である。

細かな部分にも感じられるスタッフのこだわり

▲ステージ間に挿入される物語はセピア調で描かれるなど、舞台となっている時代背景を感じさせるものとなっていて、いい雰囲気だ

画像表現以外にも、エンターテインメント性を高めるためのこだわりを見ることができる。一般的に物語の時系列は順を追って語られることが多い。ゲームであればステージ1を起点として物語が進んでいく。

ところが本作の場合は、ゲーム序盤に物語の最終決戦直前のシーンを描いている。これは映画などでも時々見かける手法で、本作が映画的な演出を取り入れようとしていたことが、このことからもよく分かる。

しかし、この演出についてはやや説明不足の感もあり、プレイヤーにはうまく伝わっていなかったようだ。一見、脈絡なく展開するストーリーに、雑誌の記事を読んで「そういうことだったのか」と気づくプレイヤーも多かった。そのことは開発側も感じていたのか、海外版では時系列に沿ったステージ順に改められている

▲ステージ名称はキャッチコピー風。本作を知らなくても、ステージ名称に使われている言葉を耳にしたことがある人は多いと思う

また、キャッチーなステージ名称も本作の魅力を高めることに一役かっていた。実は、本作ではステージ1、ステージ2というような呼び方をしていない。各ステージは、アクション映画のキャッチコピーを連想させる言葉で表されているのだ。

いきなりクライマックス?」「冒険百連発!」「激走100マイル」など、本作の存在を知らなくても、これらのキーワードを耳にしたことのある人は多いのではないだろうか。

ほかにも、ゲーム開始時のメッセージ「運の悪い人は安心せよ、それ以上の悪運はないのだから…」など、名言満載なのも見逃せないポイントである。

多くのゲームに影響を与えた大きな存在感

▲アクションゲーム開発者なら誰もがオマージュしたくなる演出が多かった本作。設定や演出面で影響を受けたと思われるゲームは明らかに多かったように感じる

本作はその後のアクションゲームに大きな影響を与えている。特に有名なのは、メガドライブ用ゲームの『ガンスターヒーローズ』(1993年/セガ、開発はトレジャー)だろう。

ガンスターヒーローズ制作スタッフの一人、菊池哲彦(*01)が『エドワードランディ』の熱狂的なファンだったという話を耳にした古参ゲームファンは多いと思う。その話を裏付けるかのように、同作品はオマージュ的要素が満載だった。

狂信的な独裁者を連想させる敵キャラクター、秘石を巡る攻防、真正面からの構図で描かれた左右に傾く飛行機上での決闘など、そのほか細かい部分まで本作を連想させる設定・演出が多く見てとれる。

また、これは筆者の拡大解釈かもしれないが、同作の坑道ステージで高速スクロールが縦横に切り替わり、装甲列車が登場するのも、本作のステージ3の影響によるものではないかと思うのだ。

トレジャーが『ガンスターヒーローズ』の後にリリースしたゲームにおいても、『エドワードランディ』の影響と思われる演出がなされてる。本作が持つ影響力はそれほどに大きかったのだ。

「ゲームとは本来こうであるべき」を教えてくれた本作

▲画面演出にワクワクし、単純に主人公を操るだけでも楽しかった本作からは、ゲームとは本来こうあるべきという思想が伝わってくる

本作は正直言って大味なゲームである。どのゲームセンターでも見かけたようなヒット作でもない。しかし、古参ゲーマーの多くは高い評価を下し、ほかのゲームに影響を与える存在であったことは紛れもない事実である。

それは「魅せる」ことに徹底してこだわった結果であり、「ビデオゲームが本来持っているおもしろさとは何か」を教えてくれたからだと思う

若いレトロゲームファンはもちろん、特にゲームクリエイターを目指している人にはぜひプレイしていただきたいタイトルの一つである。インタラクティブムービー化しつつある現在の3Dゲームが失ったものを、発見できるはずである。

とはいえ、オリジナル版は中古市場で基板が入手困難な状態が続いているし、稼働しているレトロゲーセンも少ない。家庭用ゲーム機にも移植されなかったレアタイトルだ。

数少ないプレイ手段として残されているのは、JNNEXから出ているレトロゲーム専用機のシリーズ第4弾「レトロビット・ジェネレーションⅣ」。本作を含め、アーケードビデオゲームが42タイトル収録されている。

BEEP秋葉原をはじめ、レトロゲーム取り扱いショップのほか、ヨドバシカメラなどの大手量販店でも手に入る商品なので、興味のある人はこのゲーム機で遊んでみてはいかがだろうか。

※記事中の全てのゲーム画像はレトロビット・ジェネレーションⅣの公式動画より引用。

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ⒸJNNEX

こうべみせ

脚注

脚注
01 菊池哲彦 : 「HAN」の名で活躍するゲーム開発者。当時トレジャーに在籍し、同社開発オリジナルゲームのキャラクターデザインを多数手掛けていた。

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