『スペースインベーダー』の系譜~初代からインフィニティジーンまで~

  • 記事タイトル
    『スペースインベーダー』の系譜~初代からインフィニティジーンまで~
  • 公開日
    2018年04月20日
  • 記事番号
    339
  • ライター
    こうべみせ
▲初期のアップライト筐体(公式サイトより引用)

1978年6月に登場した『スペースインベーダー』はまさにエポックメイキングなビデオゲームだった。それまでにもビデオゲームは存在していたものの、ボールをラケットで跳ね返す、ビデオテニスゲーム『ポン』(1972年/アタリ)からの派生作品がほとんどだった。

その発展型として生まれたブロック崩しゲームの『ブレイクアウト』(1976年/アタリ)が当時大ヒット。「打倒!『ブレイクアウト』」として、当時のタイトー子会社であるパシフィック工業の西角友宏氏が生み出したゲームが『スペースインベーダー』だ。

『スペースインベーダー』がどれほどの社会現象となり、その後のビデオゲームに影響を与えたかは他の記事に説明を譲るとして、ここでは初代から近年の作品に至るまで、『スペースインベーダー』がどのような進化を辿っていったのか、その系譜を追っていきたいと思う。

アーケードゲーム史に名を残す、超ヒットタイトルとなった初代

▲初代『スペースインベーダー』は白黒であった(画像は公式サイトより引用)

書籍『ARCADE GAMERS白書 Vol.1』(2010年/メディア・パル)によれば、初代『スペースインベーダー』はタイトーから販売された純正品で約10万台。正規ライセンスにより制作された他社版が約10万台。非正規のブートレグ版が約30万台市場に出回ったとのことで、これはアーケードゲーム史に名を残す、超ヒットタイトルの1つであることは否定のしようがないものだと思う。

『スペースインベーダー』といえば真っ先に頭に浮かぶであろう印象的な敵キャラクター音を聞くだけでゲーム画面が思い浮かぶシンプルかつ個性的なサウンド。全くのランダムではなく、法則性をもたせたUFO撃墜のボーナスポイントや、「名古屋撃ち」(*01)などのテクニカルなプレイを用いれば「技術が高得点に結びつく」ようになっていたゲームデザイン。いずれの面から見てもゲームとして完成されすぎていたと言っても過言ではないと思う。

とはいっても、当時の技術レベルで既に基板のスペックが古くなっていたことも事実らしい。開発者の西角氏もその事実は認識していたようで、スプライト方式の基板設計を並行して進めていたそうだ。ただし、あまりにもヒットしてしまったせいで、しばらくは初代『スペースインベーダー』基板流用でのゲーム開発をしなければならず、苦労することになったのはある意味皮肉な結果と言えるだろう。

▲法則性を利用したテクニック「名古屋撃ち」

ナンバリングタイトルは『パートⅡ』まで 正規品ではなかった『パートⅢ』

▲撃たれると分裂するインベーダーなどの要素が追加された『スペースインベーダー・パートⅡ』(画像はタイトー提供)© TAITO CORPORATION 1978, 1979 ALL RIGHTS RESERVED.

初代の翌年にはナンバリングタイトルとして『スペースインベーダー・パートⅡ』(1979年)がリリースされた。分裂するインベーダーの登場や、UFOが隊列にインベーダーを補充するなど、続編らしい新しいフィーチャーが目を引く「正統進化」が楽しいタイトル。初代では画面効果だけだった「レインボー(*02)のようなプレイには、ボーナス点が加算されるなど、上級者はより高得点を得られる仕様にもなっていた。

ところで、私と同世代のプレイヤーからよく出るのが、「『スペースインベーダー』はパートⅢまで出ていた」という思い出話。UFO撃墜や自機を失ったときなど、要所要所でBGMが流れるインベーダーゲームをパートⅢとして認識している古参プレイヤーは多い。

しかし、実はパートⅢというナンバリングタイトルは存在しないのをご存知だろうか? このパートⅢとして記憶に残ってしまっているものは非正規品のインベーダーゲーム。タイトーとしては苦々しい思い出になるのかもしれないが、それを知らない当時のプレイヤーにとってはパートⅢであったと信じてしまうほど完成度の高い非正規品だった。

▲インベーダーが最後の1匹になった際に生じる画面効果「レインボー」

時代に合った進化を遂げて登場した『リターン オブ ザ インベーダー』

▲グラフィックが美しい『リターン オブ ザ インベーダー』(画像は公式サイトより引用)

『パートⅡ』から6年後。シリーズの3作目としてリリースされたのが『リターン オブ ザ インベーダー』(1985年)だ。開発を担当したのは今は無きUPL社(*03)。この時代はアーケードゲームの表現力も上がり、各社がアイデアを競い合っていた頃。『リターン オブ ザ インベーダー』もチャレンジステージ、パワーアップなどのフィーチャーを取り入れ、この時代に合った内容で登場したのだが、ゲームセンターではそれほど目立つ存在にはなれなかったようだ。

インベーダーの編隊もバリエーションに富んだものとなり、見た目も悪くはなかったと思うのだが、『ゼビウス』(1983年)、『グラディウス』(1985年)、『ツインビー』(1985年)などスクロールタイプのシューティングゲームが全盛となっていた時代。固定画面のシューティングゲームでは市場的に厳しくなっていたのかもしれない。

進化の停滞期に突入する『スペースインベーダー』シリーズ

▲業務用として第4作目となる『マジェスティック・トゥエルブ』(画像は公式サイトより引用

初代『スペースインベーダー』を意識するかぎり、ゲームシステム的には『リターン オブ ザ インベーダー』が完成形となってしまったのではないか。そう思わせるほどに以降のシリーズはゲームシステム的な進化を止めてしまう。

マジェスティック・トゥエルブ』(1990年)、『スペースインベーダーDX』(1994年)、『あっかんべぇだぁ〜』(1995年)、『スペースインベーダーアニバーサリー』(2003年)とシリーズは続くが、いずれも初代『スペースインベーダー』、『リターン オブ ザ インベーダー』を超えるものではなかった。

シューティングゲームも時代を追うごとにゲームセンターでの主役の座を格闘ゲームに奪われていく。もはや『スペースインベーダー』はグラフィックを美麗にし、キャラクターを変化させるだけの続編制作を加速させていくように思われた。

生まれ変わったインベーダー『スペースインベーダー インフィニティジーン』

▲大幅に進化を成し遂げた『スペースインベーダー インフィニティジーン』(画像はタイトー提供) © TAITO CORP. 1978, 2011

初代『スペースインベーダー』の幻影を破壊しないことには進化できない。そのように開発スタッフが思って生まれたのではないかと感じさせたのが『スペースインベーダー インフィニティジーン』(2008年)だ。足かせとなっていた初代からのゲームシステムを大胆に捨て去るとともに、『スペースインベーダー』たらしめている要素のみを再構築した作品

『スペースインベーダー』のアイデンティティとは、結局はあのシンボリックなデザインのインベーダーたちとモノクロのモニタ内で行われる戦いなのではないだろうか。グラフィックを美しくしようと、キャラクターを描きこもうと、それは『スペースインベーダー』の亜流でしかなかったのだ。

ここにきてようやく『スペースインベーダー』は第3世代に突入したと言えるだろう。内容は近代のシューティングゲームそのものだが、画像表現、キャラクターなど、そこにはしっかりと『スペースインベーダー』のアイデンティティが息づいている。ゲームセンターにはシューティングゲームの居場所はなくなり、スマートフォン、PS3、Xbox 360向けのタイトルとなってしまったが、むしろそのことによって接する機会が増えたタイトルとも言える。興味があればぜひプレイしてもらいたい。

▲誕生30周年記念作品となった『スペースインベーダー インフィニティジーン』

「THE KING OF GAMES」としてさらなる進化を!

初代が固定画面シューティングとして、完成形に近い形であったために、シリーズ作を担当したスタッフの苦労は並大抵ではなかったと想像できる。そのシンプルさ故に、発展形としておよそ考えつくアイデアは、ナムコ製の派生作とも言える『ギャラクシアン』(1979年)とそのシリーズ作に実装されてしまったであろうことも容易に想像できる。事実、初代開発者の西角氏も『ギャラクシアン』を見て悔しがったとのエピソードも伝わっている。
『スペースインベーダー』としての進化は『スペースインベーダー インフィニティジーン』によって新たなステージに突入したとも言える。

誕生から40周年。おそらくはこれを記念した新作の計画もあるのではないだろうか。シューティングゲームだけではなく、いわゆる「レトロアーケードタイプ」のゲームには厳しい時代となったが、ファンはまだまだ多く存在している。『スペースインベーダー インフィニティジーン』のゲーム内メッセージにもあるように、「THE KING OF GAMES」としてこれからもシューティングゲームファンを楽しませてほしいと思う。

こうべみせ

脚注

脚注
01 名古屋撃ち : 敵弾の出現位置の関係で、敵キャラクターであるインベーダー直下には当たり判定がないことを利用した攻撃テクニック。インベーダーが最下段まで降りた状態で用いる。
02 レインボー : 隊列最下段の10点インベーダーを最後の1匹にした時に発生する画面効果。10点インベーダーが最後まで残ることを想定していなかったために起こったバグによるもの。
03 開発会社がUPL 社との情報は、赤木 真澄 編集『アーケードTVゲームリスト 国内・海外編(1971-2005)』を参考にした。

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