24年も前に生まれたピュアeスポーツ『フライングパワーディスク』

  • 記事タイトル
    24年も前に生まれたピュアeスポーツ『フライングパワーディスク』
  • 公開日
    2018年07月13日
  • 記事番号
    433
  • ライター
    前田尋之

1991年の『ストリートファイターⅡ(以下、ストⅡ)』(カプコン)が火をつけた空前の格闘ゲームブーム。人間対人間という対戦のおもしろさを再認識させてくれた同作の登場により、さまざまなメーカーが対戦格闘ゲームの波に乗り遅れまいと、ポスト『ストⅡ』を狙うべく、われ先を争うように対戦格闘ゲームをリリースしていた。

個性的な切り口で印象に残るゲームを出してきたデータイースト(*01)も、『ファイターズヒストリー』(1993年)、『水滸演武』(1995年)といった対戦格闘ゲームを発売していた。しかし、その一方で、非常に地味ながらも熱烈なファンがいる「格闘ではない対戦ゲーム」を発売していたことをご存じだろうか? 本稿では、そんなデータイーストが1994年に生み出した名作『フライングパワーディスク』を紹介したいと思う。

▲ルールが単純でとっつきやすい『フライングパワーディスク』(画面写真はPS4版)

世界6カ国から代表選手が集う『フライングパワーディスク』選手権開幕!

『フライングパワーディスク』は、フライングディスクと呼ばれる円盤を投げて、お互いの背後にあるゴールに入れたら得点という、架空のスポーツを題材にした対戦スポーツゲーム。見た目やルールはアーケードゲームのエアホッケーに酷似しており、それのビデオゲーム版と言っても差し支えない。

世界6カ国から集った選手たちが6種類のコートで熱戦を繰り広げるのだが、ディスクを投げる力やコントロール精度、スライディング能力などはキャラクターごとに特徴があり、固有必殺シュートを持っている。プレイスタイルに応じて持ちキャラを選ぶことができるため、このあたりのシステムは純粋なスポーツゲームというよりは、対戦格闘ゲーム寄りの発想から生まれたものと言えるだろう。

試合では、定められた時間内に獲得した点数を競う3セットマッチで、2セットを先取した側が勝利となる。1レバー2ボタンだが、実質的に1ボタンでも十分遊べる上に、フライングディスクは背中以外であれば触れただけでキャッチできるので、初心者でも遊びやすい。その一方で、キャラ選びやディスクコントロールの駆け引き要素が多く、実に戦略の幅がある奥が深いゲームでもある。

▲キャラクターごとに派手な必殺シュートがある(画面写真はPS4版)

スポーツゲームは対戦競技としては不完全

本作は家庭用ゲーム機への移植も決して多くはなく、対戦格闘ゲーム華やかなりし時代の中に埋もれ気味だったにもかかわらず、冒頭で述べたとおり熱烈なファンが存在する。特に海外ではその傾向がより顕著で、今もeスポーツの一つとして、高額賞金がかけられた公式大会「Windjammers Flying Power League(WJFPL)」が開催されているほどである。

日本ではメジャーとは言い難い『フライングパワーディスク』が、海外ではなぜここまで支持されているのか。それには本作が持つ、今までのスポーツゲームでは持ち得なかった競技性の高さが挙げられる。

スポーツゲームは、アタリの『PONG(ポン)』(1972年)を起源として、アーケードゲーム黎明期から存在している最古のジャンル。当然、競技として完成されているものと思われがちだが、昨今のeスポーツを見ても分かるとおり、「eスポーツ」という名を冠しているにもかかわらず、スポーツゲームは驚くほど少ないのだ。これは、スポーツゲーム全般が持つ「ある欠点」に起因すると筆者は考えている。

スポーツゲームは「見て楽しむ」ジャンル

世の中に存在する大抵のリアルスポーツはビデオゲーム化されているが、現実に肉体を使っておこなうスポーツのプレイ感覚をそっくり再現できたゲームは皆無と言っていい。そもそも、どんなスポーツであれ、全身を使ってプレイするのだから、レバーやボタンのみの入力だけで複雑な動きを操作系に落とし込むこと自体に無理がある。その時点で、リアル・スポーツのプレイ感覚を再現するなど、望むべくもないのである。

スポーツをビデオゲーム化する際に求められてきたのは、「プレイ感覚」ではなく「プレイ演出」のリアリティであり、レバーやボタンを使って「そのスポーツをやったような気分にさせる」ことがスポーツゲームの本質なのだ。必然的に、そのスポーツが持つ競技性よりも、ショーアップされた演出やカメラワークといったものに重点が置かれるようになり、スポーツ選手の視点というよりは、テレビを通して見る観客の視点に近くなっているのがスポーツゲームと言えるだろう。言い換えれば、スポーツゲームとは「プレイして楽しむ」というより「見て楽しむゲーム」ジャンルなのである

競技性の高いスポーツゲームを作るために必要な要素

スポーツゲームが競技性とは相容れない理由は上記のとおりだが、現在は競技性を確立した「eスポーツ」という分野が存在する。eスポーツの競技種目といえば、日本では言わずもがな、対戦格闘ゲームが代表格であるが、これらの持つ「競技性」とは何だろうか。ズバリ、競技性の高いゲームとは以下の3要件を満たしたものである。

1.プレイヤーが公平な条件で勝負できるもの
2.勝敗の基準が明確であること
3.偶発的要素(ランダム性)が少なく、あっても一方のプレイヤーのみに有利に働くことがないもの

『ストⅡ』をはじめとした対戦格闘ゲームが競技たり得たのは、格闘技としてのリアルな体験をバッサリ切り捨てて、レバーとボタンによる単純なコマンド操作によるゲームとしてのプレイ快感」のみに注力した点にある。また、3Dポリゴン(*02)が主流になっても、サイドビューによる双方のプレイヤーに対して公平なカメラワークであるという、『ストⅡ』以来の基本は外していない。

逆に言えば、この3要件さえ満たすことができれば競技として成立できるわけで、eスポーツで種目に認定されたゲームは、いずれも要件をクリアしたゲームと言える。

EVO2017でPlayer’s Choiseの中の1つとしてノミネート

▲単純なだけに思わず熱くなること請け合い(画面写真はPS4版)

ここでもう一度『フライングパワーディスク』に話を戻そう。
本作のゲーム画面はトップビューで、しかも固定画面。ゲームの見た目としては非常に地味ではあるものの、対戦ゲームとして捉えた場合、画面内に必要な要素がすべて見えているというのは実に合理的である。

また、本作は架空の競技なため「現実の競技と挙動が違う」などといった、現実とのギャップという足かせがない。本ゲームで使用するディスクは空気抵抗も摩擦によるエネルギーロスもなく、壁に当たったときには実に気持ちよく反射してくれる。『フライングパワーディスク』は、純粋にゲームの中で遊ぶ「競技としてのスポーツ」を追求したために生まれた、いわば「ピュアeスポーツ」の原点と言えるタイトルかもしれない。

そんな『フライングパワーディスク』であるが、その先見性のある競技性が再評価され、EVO2017(*03)ではユーザー投票枠であるPlayer’s Choiseの一つとしてノミネートされた。さらに、今年のEVO2018のサイドイベントである「AnimEVO2018」の26タイトルの中にも『フライングパワーディスク(Windjammers)』がノミネートされ、 2018年6月末の時点で「AnimEVO2018」中でトップのエントリー数となるほどの過熱ぶりである。
競技に特化したスポーツゲームとして、これを機にもっと触れてほしいゲームである。

今遊ぶならばPS4およびPS Vita版

▲プレステ版の『フライングパワーディスク』。インターネットから購入できる

『フライングパワーディスク』はネオジオ、ネオジオ-CD、Wiiに家庭用として移植されたが、現在は『フライングパワーディスク:Windjammers』のタイトルでPS4/PS Vita版対応ソフトとしてリメイク移植されている。前述のEVO2017にノミネートされたのもPS4/PS Vita版なので、今遊ぶならばこちらがおすすめだ。

©PAON DP Inc.

前田尋之

脚注

脚注
01 データイースト : 1976年に設立された古参のゲームメーカー。DECO(デコ)の愛称で親しまれたが、2003年に倒産した。
02 3Dポリゴン : 背景とスプライトで表現された平面(2D)に対し、1989年頃から頂点演算によって奥行きのある3次元表現を可能にした技術。アーケードゲームに限らず現在のゲーム映像表現において必須と言える
03 EVO2017 : 正式名称は「Evolution Championship Series」。1995年より毎年アメリカで開催されている格闘ゲーム大会。世界でも最大級のゲームイベントと評され、日本人選手も多数出場している。

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