「メガドライブの時代」を詰め込んだタイムカプセル、メガドライブミニのキーマンに訊く 前編

  • 記事タイトル
    「メガドライブの時代」を詰め込んだタイムカプセル、メガドライブミニのキーマンに訊く 前編
  • 公開日
    2019年08月29日
  • 記事番号
    1313
  • ライター
    前田尋之

セガの総合力が許諾取得交渉を可能にした

▲収録タイトル第1弾を告知する公式動画(セガ公式YouTubeチャンネルより)

――42タイトルというメガドライブミニ収録タイトル数はどのように決められたのでしょうか。

奥成 当初ミニファミコンの収録タイトルが30だったことと、年内に作り上げなければならないという開発期間がありました。また、当時すでにミニスーファミ(ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン)の21タイトル収録という数字が発表されていましたので、それを下回らない数として「30タイトルを目標に頑張ろう」とスタートしました。その経緯で、ほかのさまざまな旧作コレクション系のソフトも比較検討し、中には50タイトルくらい入れようという意見もありましたが、数をただたくさん入れるだけならタイトルの存在価値が薄れるだろうといった意見も出ましたね。

宮崎 今回は初めて移植されるものや、収録が簡単ではないライセンスものとかも収録しましたが、もし他社パブリッシャーさんからの提供もなく、セガタイトルのみでラインナップを構成するのであれば、もっと少ない数にしたと思います。そういった安易な水増し感は嫌でしたね。

ただ、今回ラインナップをそろえるにあたり、好意的に協力してくれる会社もけっこういらっしゃって。むしろ、どんどんタイトルが増えていくとライセンス料も発生するわけじゃないですか。「収録タイトルを増やしていったら一体いくらかかるんだよ」と言っていた中でビジネス的に考え、40タイトルという適度な数字に落ち着いていきました。

大堀 他社サードパーティには御社から「このタイトルが欲しい」という形でオファーをかけたのでしょうか。

宮崎 もちろんです。別に募集したわけではなく、ピンポイントで行きました。

――『幽☆遊☆白書~魔強統一戦~』(MD/1994年/セガ)とか、版権取得に苦心されたのでは? と思われるものもありますね。

宮崎 真正面から版権交渉に行きましたが、僕もよく取れたなと思った(笑)。

奥成 セガはグループ全体の中でさまざまな会社の方とお仕事しておりまして、ディズニーさんであればUFOキャッチャーのプライズを何十年とやらせていただいているとか、常に何かしらの会社とお付き合いしているんです。なので、30年ぶりにいきなり連絡を取るといったところはなくて…。当時の会社がなくなって新規にライセンスを引き継いだという会社はありましたけど、多くの会社が「はじめまして」から始めることにはならなかった、というのは強みでしたね。

宮崎 特に役立ったのは、奥成が業界内に知り合いが多かった点でしょうか(笑)。あとは、元セガという方がいろんな所にいるんですよ。

▲収録タイトルの一つである『ダライアス』。タイトーの関係者にセガの元社員がいて、冗談半分で聞いてみたところ快諾されたとのこと(画像:公式サイトより引用) ©TAITO CORPORATION 1986, 2019 ALL RIGHTS RESERVED.

奥成 今回の収録タイトルでいえば、『ダライアス』のタイトーさんでは開発トップの植村比呂志さん(*01)がもともとセガで『甲虫王者ムシキング』(2003年)や『オシャレ魔女 ラブ and ベリー』(2004年)を生み出した人物で、会社が変わっても大変親しくさせていただいています。

宮崎 人とは仲良くしておくべきですよ。というか、喧嘩はしないほうが良いです(笑)。ディズニーさんにもゲーム部門に元セガの方がいらっしゃいまして、そういう意味では話が早かったですね。権利の話となればもちろん別なんですが、少なくともメガドライブミニという企画趣旨を理解してもらえるという意味では、元セガの方がいれば「やりたい」というところから始まってくれるじゃないですか。それはやはり大きいですね。

大堀 まさにセガの総合力の賜物ですね。

宮崎 どこにいっても「何それ?」からではなくて、「ああ、やるんですね!」といった肯定的な反応からのスタートでした。海外は僕たちが直接交渉したわけではないのでそれほど順調ではなかったですけど、そもそも(海外では)契約書の厚さが全然違いますから。収録タイトルの一つである『テトリス』は、最近『ぷよぷよテトリス』(PS4、Wii 他/2014年)を開発したので、この話を持ち出しやすかったです。逆にまったく関係がなかったら、こういった話はできなかったでしょうね。

許諾取得に苦労した『ロード・ラッシュⅡ』と『スラップファイト』

▲版権交渉に苦労した『ロード・ラッシュⅡ』(画像:公式サイトより引用) © 1993, 2019 Electronic Arts Inc. Road Rash is a trademark of Electronic Arts Inc.

大堀 サードパーティの契約交渉で取りにくかった、または取れなかったタイトルはありますか?

宮崎 簡単ではなかったといえば『ロード・ラッシュⅡ』(エレクトロニック・アーツ/1993年)でしょうか。海外交渉である上に巨大パブリッシャーのエレクトロニック・アーツさんですから、契約をまとめるまでには、かなり時間がかかりました。また、『テトリス』と『ダライアス』の2つは開発とセットで進めていかなければならない案件だったので、そこそこ苦労しました。

奥成 最後は実機でお見せしなければならないので、メガドライブミニをそのままDHL(国際宅配便)でハワイに送って、「『テトリス』以外のところは見ないでくださいね」みたいな(笑)。

宮崎 契約交渉の話をすること自体もさることながら、契約を締結する実務のほうが大変でした。各社によって契約書の表現が一律ではないんですよ。「どこの会社がどこの契約をして、どこまで保証する」といった表現が一律ではないので、ウチの法務がヒイヒイ言いながら対応してくれました。

奥成 入らなかったタイトルについて具体名は控えますが、権利元までは突き止めて連絡しても、その会社にゲーム部門がなくなっていて許諾のしようがないというケースや、ゲームの内容について外部と契約をしていたかどうかも分からないし、何か問題があったときに対応できない、保証ができないのでお断りするしかない、といった話はありましたね。

宮崎 今回のインタビューはゲーム文化保存研究所さんですが、「すべてのゲームの権利一覧表」みたいなものを作ってくれると便利なんですけどね。タウンページみたいに、それを引くとすぐに(権利元が)分かるみたいな。それで、権利が移ったら報告しろ、と(笑)。

大堀 そういうものを作るのが夢なんですけどね(笑)。

▲収録タイトルの許諾交渉時の苦労を語る宮崎氏

奥成 そういった中で、ギリギリタイミングよく実現できたのは東亜プランのタイトルですね。それまで権利の所在が分からず連絡できなかったのですが、この度、(東亜プランIPのライセンスを管理している)株式会社TATSUJIN(以下、TATSUJIN)の弓削雅稔さん(*02)をお訪ねして「このようなことをこっそり作っているのですが」とお話させていただきました。

特に『スラップファイト』(MD/1993年/テンゲン)は権利が曖昧だったりした部分があったので、開発元(マインドウェア)と音楽のところ(エインシャント)といった形で、当時かかわった方たちとそれぞれ確認をした上で、メガドライブミニをきっかけに権利関係をはっきりさせることができました。

▲権利の所在がわからなかったため、『スラップファイト』の契約交渉は難航したという(画像:公式サイトより引用) ©TOAPLAN Co., Ltd. ©TATSUJIN Co., Ltd.

メガドライブの『スラップファイト』はテンゲンさん(*03)からの発売だったのですが、そもそものアーケードはタイトーさんだったりと、権利の所在が不明だった。それをサウンドも大丈夫、ソフトも大丈夫、ゲームの権利も大丈夫みたいな形で、すべてをクリアした上でなんとか収録にこぎつけたんです。交渉した数でいえば、この『スラップファイト』が一番多かったですね

大堀 今回の収録タイトルの中に(東亜プラン制作タイトルのメガドライブ版である)『スラップファイト』と『スノーブラザーズ』(1993年/テンゲン)が入っているのは渋いなと感じました。

奥成 もちろんTATSUJINさんは多数のタイトルをお持ちなのですが、「メガドライブの時代」という話をした時に、なるべくメガドライブでしか遊べないゲームを選ぶべきだと考えたんです。

例えばメガドライブ初期は、『ゴールデンアックス』(1989年/セガ)や『大魔界村』(1988年/カプコン)、『コラムス』(1990年/セガ)といったアーケードゲームの移植が多く、これらが家庭で遊べたという意味で印象深いタイトルではあるのですが、あえて復刻するならメガドライブでしか遊べない要素を持っているゲームだと思うんですね。そういった流れで、収録タイトルはメガドライブオリジナル要素を持ったタイトルが多くなっていくのですが、『スラップファイト』と『スノーブラザーズ』は、もともとアーケードとはいえ、メガドライブ用に作り直している部分が明確にあります

例えば、東亜プランさんのゲームの知名度という点では『TATSUJIN』(1988年/タイトー)が上ですし、初めは収録タイトル候補に選んでいたんです。しかし、将来的に移植されるかは分かりませんが、未来に残すならばオリジナルのアーケード版であるべきと思いますし、できればそちらで遊んでいただきたい。メガドライブ版にダウンサイジングされた『TATSUJIN』をここであえてピックアップするよりは、東亜プランさんならばやはり原点である『スラップファイト』を選ばせていただいたわけです

▲「かなりマニアックなチョイスとなった」と奥成氏が語った『スノーブラザーズ』(画像:公式サイトより引用) ©TOAPLAN Co., Ltd. ©TATSUJIN Co., Ltd.

『スノーブラザーズ』は数字は分かりませんが、当時あまり出荷されてないタイトルということでマニアックなチョイスです。でも、このゲームはわりとアジア方面で知名度があるんですよ。あとはゲームを選定する上で、できるだけジャンルを散らしたかったという意図があります。固定画面アクションというジャンルが1個も入っていなかったので、このジャンルのタイトルも入れておきたいという意味で『スノーブラザーズ』を選びました。

もしかしたら『バブルボブル』(1986年/タイトー)なんかがメガドライブで移植されていれば、本作は(収録タイトル候補に)入っていなかったかもしれませんね。でも、もしアーケード版しか知らなかった方がいらっしゃったら、メガドライブ版の50面クリアエンディング後からの追加ステージ開始時の演出を堪能してほしいですね。

そういった意味で、タイトルのチョイスは僕がさせていただきましたが、かなり悩んだ上で、一つ一つ理由を持って入れているんですよ。

脚注

脚注
01 植村比呂志 : 1989年にセガに入社した後、子供向けソフトの開発に従事。マーベラスを経て、2018年よりタイトーで開発本部の本部長を務める。
02 弓削雅稔 : ゲーム作曲家にして開発者。東亜プランでは、『スラップファイト』のほか、『タイガーヘリ』(1985年/タイトー)や『TATSUJIN』(1988年/タイトー)、『鮫!鮫!鮫!』(1989年/東亜プラン)などを開発。2017年に株式会社TATSUJINを創業し、現在同社代表取締役。
03 テンゲン : 米アタリゲームズの子会社として1985年に設立。アタリの『マーブルマッドネス』(1984年)や『ガントレット』(1985年)などの移植を行った。

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