「メガドライブの時代」を詰め込んだタイムカプセル、メガドライブミニのキーマンに訊く 後編
新規タイトルに『テトリス』と『ダライアス』が選ばれた理由
大堀 そのプラス2についてですが、『テトリス』と、もう1つの新規タイトルに『ダライアス』を選んだのには、どのような理由があったのでしょう?
奥成 任天堂さんのミニスーファミには偉大な『スターフォック(*01)という未発売タイトルがあったわけですが、セガでそれに見合うだけの追加タイトル――弊社では「『スターフォックス2』枠」と言っていました――この枠に何を入れられるだろうと、ずっと検討していたんです。
任天堂さんは「発表したが発売されなかった幻のタイトルを入れる」という結論に至ったわけですが、セガでメガドライブの未発売タイトルはあったのか、改めて洗ってみると、唯一『テトリス』がありました。『テトリス』は発売予定を出しながら発売できなかったわけですが、それを入れようと考えてもライセンスが取れる保証がなくて…。
ほかのタイトルを探してみましたが、発表はしたものの制作には至っていなかったり、わりと開発初期の段階で開発を諦めたものばかりでした。「完成はしたが発売はしなかった」なんてことを、セガはしていないんです。
宮崎 完成したら売っちゃうんですよ(笑)。
奥成 それならば、この短期間で新規タイトルを作ってしまおうと、そんな話になったんです。でも、まるっきり新作を作っても、メガドライブで動くかもしれないとはいえ知らないゲームでは、お客様はピンとこないですよね。それならば「当時あえて移植されなかったタイトルをメガドライブに移植したらおもしろいんじゃないか」と考えたんです。
といっても、そこでセガのタイトルを持ってきても予定調和すぎておもしろくない。例えば「『ファンタジーゾーン』が移植されます」と言っても、「あれ、出てなかったっけ?」と言われかねないわけです。今回の収録タイトルを発表した時にも、「なんでこのタイトルが入っていないんだ」という意見の中にサターンのタイトルがちょくちょく入っていたりと、お客様の記憶も案外定かじゃなかったりするんです。
そこで、誰の目にも当時メガドライブでは出ていなかったとはっきり言えるゲーム。しかも、皆が喜んでくれるゲーム。さらに「メガドライブの時代」を象徴できる「アーケードからの移植」という側面に合致したゲーム。この3つの条件で『ダライアス』が選ばれました。これは、タイトーさんと懇意にさせていただいたのも大きかったですね。本当にタイトーさんには「ありがとうございます」としか言いようがないです。
宮崎 (タイトーさんには)セガのTwitter公式アカウントにもちょこちょこ絡んでいただいていまして、ウチの公式アカウントにはいろいろなところにお友達がいるんですよ。お互いいじり合ったり。そんなところも、セガという会社ぽいでしょう。
とにかく、新規タイトルの件については「メガドライブの時代」というコンセプトからブレることはなかったし、「当時出なかった『ダライアス』」を選んだのも良かったと思います。PCエンジン(*02)も出るだろうなとは思っていましたが、それはそれでまたおもしろいじゃないですか。PCエンジンファンとメガドライブファンが、『ダライアス』を巡るあれこれ…といった感じで。
奥成 そうこうしているうちに『テトリス』がいけそうだという空気になり、『テトリス』がいけるとなれば、作らねばならないねとなりました。実は、当時の『テトリス』は、2007年にPS2で発売した『テトリスコレクション』に、おまけとしてメガドライブ版をこっそり入れておりまして、それを遊んだ方々から「これだったら出さなかったほうが良かった」と言われたことがあったんです。だからずっと「メガドライブで『テトリス』が発売されていたら…」なんて言われていましたけど、本音では「そのままはちょっとな…」といった感じがありました。
それで、「今の技術でもう一度『テトリス』を作ったらどうなるかな」とエムツーの堀井さんを挑発しまして(笑)。「堀井さんだったらメガドライブの『テトリス』をもっとうまく移植できるんじゃないか?」と言ったら、「いや、もちろんですよ」という返事が返ってきました。
宮崎 そうですよね。もし、あのときにメガドライブで『テトリス』が発売されていたら、逆にメガドライブミニに収録しなかったかもしれない。『テトリス』というタイトルには皆さんいろいろな思いがあるでしょうけど、当時発売されていたら、メガドライブと『テトリス』の関係はここまで独特のものにはならなかったと思いますよ。
歴史を感じてもらうために、メニューは発売日順
――最後に、皆様がたびたびおっしゃられている「メガドライブの時代」を総括してお話しいただけますか?
宮崎 「メガドライブの時代」というものは、実はユーザーの皆さんそれぞれに違ったものがあると思っています。メガドライブミニは、そんな皆さんの「メガドライブの時代」を引き出すきっかけにしてほしいという願いで作ったつもりなんですよ。我々から「メガドライブの時代」はこうだと押し付けるつもりはなくて、むしろ問いかけるためのアイテムですね。「メガドライブを遊んでいた青春時代はあなたの中にある」。それが何なのかを引き出すためのギミックだったり、ソフトラインナップだったりするわけです。
奥成 ソフトメニューは購入して初めて起動した時、必ず発売日順に並ぶようになっているのですが、50音順やジャンル別でのソートも可能になっています。実は、エムツーさんが作った最初のバージョンでは50音順がデフォルトでしたので、ここは発売日順をデフォルトとするよう変えてもらいました。
理由は、メガドライブを発売当日またはすぐ後に買った人であれ、しばらく経ってから買った人であれ、ゲームをどんな順番で遊んだかといえば、大抵は発売された順ですよね。例えば、1988年10月29日の発売日やそのすぐ後に買った人であれば、(同日発売だった)『スペースハリアーⅡ』(セガ)やその翌年発売の『大魔界村』(1989年/セガ)から入って、最後は(メガドライブのラストタイトルとなった)『魔導物語Ⅰ』(1996年/コンパイル)、そして新作2本が並ぶという“流れ”ができると思うんです。そんな時代感を感じてほしいという意図はあります。
メニュー画面は5分放置すると、収録タイトルのアドバタイズデモが順番に流れる演出になっています。『ランドストーカー』みたいにアドバタイズがないゲームはすぐに終わっちゃうんですけど、ただ眺めているだけでも自分が遊んだ思い出を振り返ってもらえるかなと。
各ゲームのデモが1分半~2分くらいなので全部を見ようとしたらけっこう時間がかかりますが、これを見ることでゲームの進化を見られるんですよね。最初はハードを十分に使いこなせなかったものの、徐々に性能を引き出せるようになって動きも滑らかに、豪華に…といった具合に。このソフトウェアの進化を見ていただくのも楽しいと思います。そして、メガドライブで遊んだ当時、学生だったり、社会人だったり、一緒に遊んだ友達のことを思い出してもらったり、そんなものをひっくるめて「メガドライブの時代」なのかな、と僕は思います。
Twitterをわりとよくチェックするのですが、「『幽遊白書』が4人で遊べるのはとてもうれしいけど、当時遊んでいた友達と一緒に遊ぶのは難しいからメガドライブミニを送りつける」なんて書き込みを見つけた時には、それがきっかけで再会につながるかもしれないなと感じたりもしました。
大堀 メガドライブミニは、まるでタイムカプセルですね。
奥成 それを狙っているところは確かにあります。メガドライブミニはゲームできること以外は特に何の機能も付け加えていないハードですが、今はゲームから離れているという人向けに「どこでもセーブ」ができるようにしました。その点だけちょっと手助けしています。逆に言えば、「もっとやり込めるように」するための追加要素などについてはニンテンドースイッチの「SEGA AGES」に任せて、メガドライブミニに手を加えようとは一切考えませんでした。
大堀 こういったものを出していただけて、ゲーム小僧として本当にうれしいです。できればこの先、メガCDのソフトなども出していただきたいですね。
宮崎 そればかりはこの事業の結果が評価されたらということで。私たちが自己満足で決めることではありませんので、きちんと売れてほしいです(笑)。
大堀 本日はどうもありがとうございました。
宮崎 浩幸 氏
1993年セガ入社。セガの国内アジアプロモーションを統括しているだけでなく、生き字引と言われるほどの長きにわたり、セガコンシューマハードの立ち上げから統括、一部ソフトのプロデューサーとしてもかかわってきた。メガドライブミニのプロジェクトマネージャーに加え、eスポーツ推進室室長も務める。
奥成 洋輔 氏
1994年セガ入社。2005年よりPS2「SEGA AGES 2500シリーズ」のプロデューサー職に就いて以降、Wiiやニンテンドー3DSのバーチャルコンソール、ニンテンドー3DS「セガ3D復刻プロジェクト」など、さまざまな形でセガの旧IPを復刻してきた。メガドライブミニでは宮崎氏と並んでプロジェクトのキーマンである。
ⒸSEGA
脚注