北のレトロファン待望の「レトロゲームフェスタ」に突撃取材

  • 記事タイトル
    北のレトロファン待望の「レトロゲームフェスタ」に突撃取材
  • 公開日
    2018年08月04日
  • 記事番号
    461
  • ライター
    藤沢文太

2018年7月20日と21日に、ディノスパーク札幌中央店で開催された「レトロゲームフェスタ」を取材してきました。20日は1980年代、21日は1990年代の日。筆者が取材に伺ったのは20日です。北のゲームファンが一堂に集結し、大いに盛り上がったイベントの模様をレポートします。

(※)アイキャッチ画像はSDエンターテイメント提供。2018年7月21日撮影のもの。

高橋名人の16連射の秘密

▲ステージに上がる高橋名人。御年59歳とはビックリ

高橋名人は言わずと知れた北海道ゲーム界のレジェンドです。北海道に絞らずとも十分にゲーム界のレジェンドなのですが、なぜ、北海道ゲーム界のレジェンドであるかといえば、名人が札幌市西区琴似(ことに)地区出身の道産子であるからです。

「レトロゲームフェスタ」はそんな高橋名人のトークショーで幕を開けました。第一日目のトークショーに集まった見物客はざっと70名以上。札幌も意外にレトロゲーマーが多い街だったんですね。

高橋名人といえば「ファミコン名人」というイメージがありますね。高橋名人は1980年中頃、北海道のゲームメーカーであるハドソン(*01)の「ハドソン全国キャラバン」などでゲームの実演役を担当したことから、家庭用ゲーム機の世界において「名人ブーム」の第一人者となりました。囲碁将棋の言い回しにならって「名人」という呼称を用いるようになり、その文化そのものを定着させる立役者となったのです。

また、札幌出身の高橋名人は子供の頃からこのゲームセンター(現・ディノスパーク札幌中央店)に足しげく通っていたそうです。そういったつながりもあり、トークショーではまず札幌のローカル話に花が咲きました。

その後、おなじみの16連射など、高橋名人の秘話が披露されます。そもそも16連射というのは、練習して会得した技というわけではなく、なんとなくやってみたらできた、そういったものであったそうです。

そのきっかけとなったのが、シューティングゲームの『スターフォース』(1984年/テーカン)。この作品は1985年にハドソンからファミコン移植版が出ているのですが、これにラリオスという敵ユニットが登場します。8発弾を当てると破壊できるというギミックの敵で、ある部位を攻撃すると、ダメージを与える代わりに1発分硬化する性質を持っています。そこで、たまたま1秒以内でどれくらい硬くしたラリオスを倒せるのかに挑戦することになったのです。
結果として、15か16連射くらい出せたそうです。そこで、ゲーム業界のことでもあるので2の乗数できりがいい「16連射」というのが代名詞になったのだとか

▲「16連発」の経緯について話す高橋名人

ちなみに、毛利名人と共演した映画『GAME KING 高橋名人VS毛利名人激突!大決戦』(1986年)の中で、『スターソルジャー』(1986年/ハドソン)をプレイしたときに(どれだけ撃っているかを)映画の製作スタッフが数えてみたところ、実際には17連射できていたそうです。それで「今度から17連射をウリにしていこうか」という話もあったのですが、結局16連射のほうがすわりがいいということになり、そのまま「16」で通したとのことでした。

そのほか『カトちゃんケンちゃん』(1987年/ハドソン)というPCエンジンのゲームも話題に上りました。これはもともとアーケード用アクションゲームとしてハドソンが開発していたゲームだったのだそうです。ただ、アクションとして売るのではなくキャラクターゲームにしたほうがいいのではないかということになり、人気タレントの志村けんさんと加藤茶さんに依頼をするという形になりました。

これに大張り切りだったのが実は加藤茶さん。高橋名人と一緒に行われたCM撮影などでも実にノリノリで、「このゲームおもしろいんだけど、クリアできないからエンディングが見られない。名人がクリアしてエンディングが映るところ録画して送ってよ」と頼まれた一幕もあったとか。

会場では、高橋名人のトークを眼前で見られる感動と、そんな1980年当時の話の懐かしさに、一同大いに感銘を受けていました。

阿鼻叫喚のゲーム大会『大魔界村』

▲ゲーム大会開始の様子。写真中央、赤い帽子の男性がゲーム解説の伊藤D氏

オープニングの軽いトークの後に始まったのが「1980年代ゲーム大会」。スコアアタックという触れ込みで、『大魔界村』(1988年/カプコン)の1面クリアのタイムを競うというテーマだったのですが、ふたを開けてみたら…阿鼻叫喚の一言でした。『大魔界村』というタイトルが出てきた時点で、ある程度予想できた方もいるかと思われますが。

この大会、その場で名乗りを上げた13名の方々。若い方が多い中、40代のプレイヤーもいました。ゲーム解説として参加されていた伊藤D氏の計14名が「1人1機、死んだらゲームオーバー」というルールで挑む形でした。

結論を先に申し上げてしまいますと、1面クリアまで辿り着けた参加者は誰もいませんでした。トップバッターの伊藤D氏は、残念ながら10秒くらいで瞬殺。2人目の挑戦者はもう少し粘りましたが、やはりあえなく撃沈。3人目の方は1面終盤に登場する、木の根っこのような敵が出るところまで行くには行ったのですが、そこでついえました。

この辺りから、司会をはじめ皆さんのプレイ実況トークの内容も「魔界村の1機プレイはやはりキツいですね」といったトーンになっていき、すでに会場には「これ全滅するんじゃないか?」という空気が漂い始めます。ここで、バックヤードのスタッフさんたちが緊急会議に入りました。挑戦者が次々に撃沈していく中、「誰も優勝者が出なかったら優勝商品をどうするのか」ということについて議論が行われたのです。

ちなみに、優勝商品は高橋名人のサイン入りの賞状です。結果として「誰もクリアできなかったら一番先までプレイを進められた人が優勝者とする」ということになりました。

進むこと数十分、13人目のプレイヤー、タイセツザン氏がついに「1面のボスまで到達する」という快挙を成し遂げ、会場は歓声に包まれます。惜しくも、もうちょっとというところで撃破には至らなかったのですが、なかなかの激戦となり、結局そのままタイセツザン氏の優勝という形でゲーム大会は幕を閉じました。ご参加の皆さま、お疲れ様でした。

イベント開催のきっかけはIGCC.JPの記事だった!?

▲参加者全員に配られたうちわ。アンケートのQRコードがある

今回のイベントにあたり、広報を担当したSDエンターテイメントの猪股絵美さんに、開催のきっかけや反響について伺いました。その内容を一部をお伝えします。

――今回のイベントが行われることになったきっかけは何だったのでしょうか?

猪股 それがですね、実は以前(2018年1月29日)にゲーム文化保存研究所のWEBサイト「IGCC.JP」でご紹介いただいたことがきっかけとなっております。

――なんと!? (実はその記事を執筆したのが私でして)実に恐縮な話ですが、(開催実現に至るまで)どのような流れだったのでしょうか。

猪股 あの記事の掲載以来、うれしいことに道外から来られるお客様が増えました。Twitterでリツイートしてもらう機会などもけっこうあり、その後、春(2018年4月26日~5月13日)に『けものフレンズ(*02)とのタイアップイベントをする機会などもありました。このようにお客様への知名度が高まっていったことが直接のきっかけとなり、今回のイベント開催にこぎ付けることができました。

――それは望外の喜びです。微力ながら当メディアの記事が、レトロゲームを多数有するディノスパーク札幌中央店の知名度アップに貢献できたのであれば、うれしい限りですね。今回のイベントとしては、やはり目玉は高橋名人の登場かと思うのですが…。

猪股 そうですね。Twitterなどでも高橋名人に会いたい、会ってみたい、という反響をたくさん頂きました

――私も高橋名人の全盛期にリアルタイムの世代なのですが、実際にお目にかかるのは初めてでしたから、かなり感動的なものがありました。ちなみに今回、イベント開催にあたって苦労したことなどはあるでしょうか?

猪股 この通り狭い空間ですので…ステージを用意するのが本当に大変で(笑)。なんとかマシンを動かして、ぎゅうぎゅうに詰めました。

――私もこちらには何度か伺っておりますが、普段は所狭しとゲーム機が並べてありますからねえ。さぞ、ご苦労なさったと思います。最後に、今後のレトロゲームに関する活動などについてお聞かせください。

猪股 ディノスパークはゲームセンターですから、やはり「(ゲームを)遊んでいただく」という形を取れるのが何よりなので、レトロゲームの常連さんが集まるコミュニティを作っていきたいと考えています。観光や出張のついでに気軽に立ち寄れるような、そんな存在でありたいですね。
また、ほかの地域にもレトロゲームセンターやイベントはたくさんありますが、なかなか横のつながりがないので、将来的には横のつながりを構築していくことも考えています。具体的なビジョンはこれから模索していく予定です。

取材を終えて

▲レトロゲームフェスタ終了後、出演者一同で記念撮影(写真はSDエンターテイメント提供)

取材を終えて、第一の感想は、やはりこの歳になって高橋名人にお会いでき、お話を聞けたことが何より素晴らしい体験でした。会場には予想を超える人が詰めかけ、ほとんど満員御礼という状態だったのですが、皆さんそれぞれ満足されたのではないかと思います。

『大魔界村』のゲーム大会も大変楽しいものでした。参加者が募集されている間、手を挙げ参加しようと何度も思ったのですが、「確実に速攻で死ぬ」という確信があったため断念しました。今となっては、そうであってもやるべきだったかもしれないという思いもあり、ちょっと悔しさも残っています。

また、何より驚いたのは筆者が以前に書いたディノス札幌中央の拙記事への予想以上の反響があったことです。本当に光栄なことでありました。

ディノスパーク札幌中央店では、今後もレトロゲームを活用したイベントや大会を検討しているとのこと。レトロゲームファンとして、ますます目が離せない存在になりそうですね。

【取材協力】

ディノスパーク札幌中央店
住所:北海道札幌市中央区南3条西1-8
電話:011-231-7032(ゲームセンター直結)
営業時間:10時~24時
休み:なし
公式サイト
公式Twitter

※記事中の写真は全て店舗の許可を得て撮影しています(撮影:藤沢文太)。

藤沢文太

脚注

脚注
01 ハドソン : かつて一世を風靡した北海道のゲームメーカー。1970年代頃からパソコンのソフトウェア製作で台頭を現し、1980年代には任天堂ファミリーコンピュータの最初のサードパーティに加わり、数多くの名作を製作した。のちにコナミによる子会社化、グループ会社への吸収合併でハドソンは解散。現在はハドソンのブランド名も使われることはなくなり、事実上消滅している。
02 けものフレンズ : 吉崎観音によるキャラクター、コンセプトを使用したメディアミックス作品。同名のソーシャルゲーム(※既にサービスは終了)をはじめとするいくつかのゲーム作品を中心に、アニメ(2017年/たつき監督)やコミックスなどの展開がなされている。

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