伝説のゲームデザイナー・上田和敏氏×遠藤雅伸氏ダブルインタビュー 後編
実はボードゲームが嫌いな遠藤氏、幼少時にかるたで負けて大泣きした上田氏
上田 遠藤さん、僕、ボードゲーム作れますかね? 興味はずっとあるんだけど。
遠藤 作れると思うよ。
上田 何回も挑戦したんだけど、1回も成功したことはないし、苦手だと思う。
――上田さん、ずっとボードゲームを作りたがっていますよね。
上田 前からずーっと言われているんだけど、なんか、いいボードゲームが作れないんですよね。僕に将棋が作れるかって言われたら、作れないですからね。そこら辺と関係あるのかなと思うんですけどね。自分自身、ランダムっぽいふわっとしたルールしか作れないんじゃないかなって。
――でも、作ってみたら案外…。
上田 何か発想がひらめけば作れるかもしれないけどね。
遠藤 コンポーネントをいかに少なくするかというところに注目すればよいと思う。あと、プレイ時間ね。
上田 ああ、はいはい。
――今、ボードゲームはプレイ時間が短いものが本当に多いですよね。
遠藤 15~30分くらいのところに持っていかないと。
大堀 遠藤さん、一緒にやったらどうですか?
遠藤 僕はむちゃくちゃ得意だけど、ボードゲームが大嫌い。
一同 (笑)
遠藤 学生に指摘されて分かったんだ。「ゲームプレイ」という、ゲームのメカニクスを勉強させる授業を持っているんだけど、ゲームのメカニクスがどうなっているかを分析することによって、ゲームデザインの能力が伸びるっていうのはすでに分かっているんだ。そこで、毎年新しいゲームが出たら教材を入れ替えていて、年間に70以上のゲームを学生にプレイさせる。
だけど、新しいゲームを買ったときに、僕は絶対にゲームをプレイしない。そうしたら学生から「先生は新しいゲームを買ったときにプレイしたいと思っていませんよね?」って言われて、嫌いなんだって分かった。学生がやっておもしろそうなものしかやらない。
――でも、以前は上田さんと遠藤さんと一緒に、ずいぶんボードゲームやっていましたよね?
上田 やった、やった。
大堀 ゲームスタジオ時代(*01)、夕方になるといつも「『バックギャモン』やろう」って、僕を誘ってきたじゃないですか。
遠藤 うん、それはそれでいいんだよ。遊んでいる過程や題材、フィールドとしてそれを楽しんでいただけであって。
――対戦が苦手ということなんですか?
遠藤 それもある。相手に勝つということに対して価値を持っていないんで。
――負けるのが悔しいということではなくて?
遠藤 それもまったくなくて。
上田 それは子供の頃から?
遠藤 子供の頃からだね。
上田 僕とまったく違うね。
――結果的に負けたとしても、駆け引きする楽しさとか、麻雀で言えば手役を作る楽しさってありますよね。
上田 でも目的は勝つことだなあ。遠藤さん、子供の頃、ボードゲームはやらなかったですか?
遠藤 やりました。
上田 どんなゲームをやったんですか?
遠藤 それこそ『ダイヤモンドゲーム(*02)』とか『バンカース(*03)』(1953年/ハナヤマ)だよ。
上田 僕はもう『バンカース』で育った。
遠藤 『バンカース』もあまり好きではないんだよ。
上田 僕は小学校の頃、『バンカース』ばっかりやっていましたよ。『ニューバンカース』ね。
遠藤 『ニューバンカース』それ持っています。
――遠藤さんは『ストリートファイターⅡ』(1991年/カプコン)とかレースゲームとか『スプラトゥーン』(2015年/任天堂)でもいいのですが、そういったデジタルゲームの対戦ものも、あまり好きではないのですか?
遠藤 楽しみに行くのは分かるんだよ。楽しみに行きたいだけで、勝ちたいとは思わないんだよ。
大堀 上田さんなんてガチで勝ちに行きますからね。
上田 幼稚園のときにかるたで負けて、大泣きして帰ってきたということが何回もあったらしくて。
大堀 僕がテーカン(*04)に遊びに行かせていただいたとき、上田さん、隣のマンションにお住まいでしたよね。それで、家に誘われて行ったら、いきなり将棋を指そうって言われて。覚えていらっしゃいますか?
上田 はい(笑)。
大堀 それで僕は速攻で負けたんですよ。すると「次、僕は飛車と角いらないから」って。
上田 それって普通の感覚ですから(笑)。将棋でハンデをあげることは普通ですから。
大堀 若い頃の自分にとっては、すごい屈辱だったんですよ。でも、それでハンデをつけてもらってもう一度やったら、またもや気持ちいいくらいに負けたんですよ。ああ、この人ガチだわって。それで、帰り際に上田さんがおっしゃったセリフが「今度は麻雀やろう」って。
―― 棋力的に釣り合うのが飛車角落ちだって、一局で見抜いたんですね。
遠藤 本当に釣り合うまではハンデをつけてくれないからね。上田さん(笑)。
上田 ハンデって、僕らの年代は抵抗ないんですよ。若くなればなるほど抵抗を示すんですよね。
遠藤氏おすすめ『ライナー・クニツィアの戦国時代』『アブルクセン』
大堀 遠藤さんは対戦が好きじゃないってお話ですけど、ゲームスタジオ時代に一緒にボードゲームを遊ばせてもらったときは楽しそうにやっていたけどなあ。
遠藤 黒須さん(*05)がボードゲームを好きなんで、黒須さんと遊んでいるのが楽しかったんだよ。
上田 年齢が高くなると、新しいルールを覚えて、理解して、プレイするってけっこう負担ですよね。若い頃は全然抵抗なかったですもんね。
遠藤 それもあるね。
上田 みんながさんざん遊んでいるものを、自分は初ゲームで勝つというのが快感でね。入って一生懸命見て、テクニックを覚えて、考えてプレイするというのが習慣でしたよね。それが今はできなくなりましたもんね。
――でも最近、上田さんと一緒にライナー・クニツィア(*06)のボードゲームを遊びましたけど、上田さん強かったですよ。
遠藤 クニツィアのどれをやったの?
――遠藤さんに教えていただいた『ライナー・クニツィアの戦国時代 完全日本語版』(2014年/アークライトゲームズ)です。
遠藤 あれはダイスロールの中では出色の出来だよ。
――おもしろかったです。遠藤さんには『アブルクセン』(2018年/アークライト)も推していただきましたよね。
遠藤 『アブルクセン』は麻雀と同じおもしろさがある。『アブルクセン』をやって、これは麻雀をやらないとダメだなと思って、それでうちの研究室では麻雀を必修にした。麻雀できないやつは必ず麻雀を覚えて、うちの研究室から出るようにって。ただし、その麻雀のルールは変わっていて…。
――どんなルールだったのですか?
遠藤 1万点持ちの1万点返しで、とんだら終わり。連チャンなし。東風戦しかやらない。要するに、4回やった中で、どれだけ差がつくかしか見ない。槓ドラ(カンドラ)はつくけどリーチで槓裏(カンウラ)はつかないという、非常に競技ルールに近い形でやっていて、そうすると嫌な感じがない。とんだら終わりにすると、いつまでもマイナスを引きずらないんで、「次、次」という感じになるし。
麻雀でなんとも嫌なのが、負けているんだけど、まだやらなきゃいけない感とか、半チャンが長すぎるんだよね。連チャンがあると憂鬱になってくるし…という部分を全部排して、とりあえず4回やるっていうだけにして遊んでいるから。
――あの…思ったのですが、遠藤さんって基本的にせっかちというか、そういうところもあるのでしょうかね?
遠藤 そうかも。
―― 遠藤さんだけじゃないですよ。上田さんもありますね。
上田 いやあ、そうでもないかな。
遠藤 じっくり遊びたいものは、じっくり遊びたいもんね。
――カードゲームで一緒に遊んでいて、僕らがカードを出すのが遅いと怒るじゃないですか。
上田 それは普通でしょ。異常に遅いと、それはね…。
大堀 こっちも考えているんですよ。
――お2人とも頭の回転が早いから、長々と対戦するのが嫌なんでしょうね。
上田 麻雀がなかったらゲームを作ってなかったというぐらい、子供の頃から麻雀で遊びましたね。もう今は体力がついてこないので、やりたくないですけど。
――先ほどの遠藤さんのお話は、麻雀の見えない部分を少しでもなくして、運の要素を減らしたいという考え方ですよね。そこが興味深かったです。というのは、遠藤さんは前述の『アブルクセン』を評価されていましたけど、あれも見えない部分が少なくて、かなりのところまで読みが可能なゲームです。ああいう遊びに近づけたかったんですね。
遠藤 そう。山札があって、場に見えている部分から取れば、かなり確定した状況にできる。それと、自分の手を伸ばしていくのと、出していくのと、人にやらせないっていう部分。麻雀って自分の手ができるとともに、相手を上がらせないようにしないといけないので、自分の手がどんなに良くても「これを切ったら当たる」というのは切っちゃいけない。そこが『アブルクセン』と同じよ。
――なるほど。
遠藤 ここでこれを出すと不利だけど、出さないと相手に上がられてしまうから、相手にクズみたいなカードを持っていかせて、相手を遅らせるというようなことをやるでしょ?
…というところが大事なんで。
――クニツィアのボードゲームも、そういうジレンマ要素が入っていますよね。あっちのほうが点数が高いんだけど、こっちを取りに行かないといけないみたいな。
『アブルクセン』は、フローがシンプルでかっちりしていて、プログラムのような感じですよね。こっちを選んだら、こう分岐してみたいなルールが、きれいなフローチャートになっていて、ああいうところが遠藤さんはお好きなのかと思ったりしていたんですけど。
遠藤 なんだろう。不確定というか、勝ち筋が見えないゲームが好き、と、学生たちは(私を)評価をしているみたい。やったときにこうすれば勝てるなっていうのが分かっているゲームは嫌いらしい。で、運ゲーじゃなくって、なおかつ、いろんなパターンの勝ち筋があるようなものがいいね。
――上田さんは麻雀がかなり得意だとお聞きしていますが、その域の人からすると、麻雀は実力だと思ってらっしゃるんですよね? 普通の人からすると、見えない部分がけっこう多いですが。
遠藤 麻雀って実力出るからね。
上田 ざっと運が6割くらいだと思います。
大堀 でも、上田さんやほかのうまい人に言われたのは、メンバーの中に下手な人が多いと、その人たちの“場”になってしまって、うまい人が力を発揮できなくなると。
遠藤 本当にそう。荒れるんだよね。
――麻雀って腕の差が極端にあると、逆に勝てなくなるんですよね。
上田 腕の差が同じくらいだと、運の要素は6割くらいあるんだけど、腕の差があると、運の要素は本来小さくなるんですよ。当たり前の話ですよね。ただ、極端に下手な人が相手だと、勝ちきれないなーって経験はたくさんあります。
遠藤 だから、負けないのは腕だけど、勝つのは腕以上の何かが必要だよね。
上田 麻雀は降りていればけっこう勝てますからね。
遠藤 降りることはすごく大事で、的確に降りて、1~2回自分で上がれればプラスは確保できる。大物をツモられたらしょうがない。
上田 うちの息子(上田直樹(*07))がプロ麻雀で頑張っていますけど、プロの麻雀を見ると、降りているだけでは勝ちきれませんね!
遠藤 どうやって回すかですからね。
まだまだ続くインタビューではあるが、残念ながら今回はここまでとなる。
3時間に及んだインタビューの全容は、11月末発売予定の書籍にて発売予定。詳細は追ってお伝えするので、こちらもお見逃しなく!
上田 和敏 氏
1954年生まれ。業界黎明期から活躍するゲームデザイナーの先駆け的存在。ユニバーサル勤務時代に『Ladybug(レディバグ)』(1981年)や『Mr.Do!(ミスタードゥ)』(1982年)、テーカン勤務時代に『スターフォース』(1984年)や『ボンジャック』(1984年)などの有名タイトルを手掛ける。その他、アトラス勤務時代に『女神転生』シリーズ(ナムコ、アトラス/1987年~)や『ダンジョンエクスプローラー』(1989年/ハドソン)、『キング オブ キングス』(1988年/ナムコ)など、アーケード、コンシューマー問わず多数の人気タイトルを企画。ジー・モード勤務時代には、モバイルにおいて新たなコンセプトを持った対戦ゲームサイトや『競馬ゲーム』など多数のカジュアルゲームにかかわる。現・サウザンドゲームズ取締役。
遠藤 雅伸 氏
ゲーム作家、ゲーム研究者。1981年にナムコに入社し、『ゼビウス』『ドルアーガの塔』などを手掛ける。現在は東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授、日本デジタルゲーム学会副会長、同学会研究委員会委員長などを務める。
脚注
↑01 | ゲームスタジオ時代 : 遠藤氏がゲームスタジオを設立したのは1985年。ここで話されているエピソードは、その直後の頃。 |
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↑02 | ダイヤモンドゲーム : 六芒星型の盤面を使い、2~3人で遊ぶボードゲーム。自陣のすべてのコマを反対側にもっとも早く移動させたプレイヤーの勝ち。ほかのコマを飛び越えることで一気に移動でき、これをいかにうまく使うかが勝利のカギとなる。 |
↑03 | バンカース : 1953年にハナヤマから発売されたボードゲーム。モノポリーに似ており、止まったマスの土地を買い、家を建て、収入を競う。内容にアレンジが加えられた『ニューバンカース』も後に発売されている。 |
↑04 | テーカン : ゲーム会社。上田氏も一時期所属していた。その後、テクモに社名変更。さらにコーエーと経営統合し、最終的にコーエーテクモゲームスとして、コーエーおよびテクモブランドを継承。1980年代の代表作に『プレアデス』『スイマー』『ボンジャック』『スターフォース』『テーカン ワールドカップ』『アルゴスの戦士』『忍者龍剣伝』などがある。 |
↑05 | 黒須さん : 黒須一雄氏。元ナムコのゲームプログラマー。現・ゲームスタジオ取締役。 |
↑06 | ライナー・クニツィア : 数々の賞を受賞してきたドイツのボードゲームデザイナー。『ライナー・クニツィアの戦国時代』はその中でも遠藤氏おすすめの一作。 |
↑07 | 上田直樹 : 上田氏のご子息。現在C2リーグに所属するプロ雀士。 |