近代ビデオゲームの原点『スペースインベーダー』を生んだゲーム業界の父!西角友宏氏インタビュー 中編

  • 記事タイトル
    近代ビデオゲームの原点『スペースインベーダー』を生んだゲーム業界の父!西角友宏氏インタビュー 中編
  • 公開日
    2019年04月30日
  • 記事番号
    1011
  • ライター
    こうべみせ

ゲームクリエーターの始祖ともいえる西角友宏氏インタビューの第2回は、『スペースインベーダー』(1978年/タイトー)ブーム後の反響についてお聞きした。

そのブームの陰で心配したバグや難しかった営業との折衝、コストを抑えた本作のカラー化など、開発者ならではのエピソードに、ゲーム業界を生きるためのヒントが隠されている…。

稼働数の多さから懸念していたフリーズのバグ

――『スペースインベーダー』は今では考えられないような売れ方をしたわけですが、逆にあれだけ売れてしまうと心配になるようなこともありませんでしたか?

西角 今考えると、フリーズするようなバグがなくて良かったと思います。まったくゲームができない状態になってしまうようなフリーズが起きたらどうしようと心配したんですけど、結果として出ませんでしたからね。ものすごい数の人たちに遊ばれていたので、特定の条件が偶然揃うことで発生するようなレアケースのフリーズがあったら困るなと思っていたんです。

大堀 プレイヤーの立場として悔しいなと思ったバグは、たまにインベーダーが一気に2段下がることがあったことですかね。

西角 そんなことがあったんですか!

大堀 名古屋撃ち(*01)をやっていると、いきなり(インベーダーが)2段下がってきてやられてしまうことがたまにあったんですよ。

――レインボー(*02)の状態でインベーダーを2往復させると、一気に2段下がってくる現象はありましたけど、それのことじゃありませんか? それとも実はコピー基板と知らずに遊んでいて、それ特有の現象とか。

大堀 純正品だったかどうかは忘れてしまいましたけど…。

西角 そういう現象も、現在だったら開発中に見つかってデバッグされてしまうでしょうね。今はバグチェックに出して、チェッカーが徹底的にバグ出しをしますけど、当時は徹底的にバグチェックする習慣はありませんでしたから。私と周りの人間で開発中にテストプレイをして、ちゃんと動けばそれでいいやって感じの時代でしたからね。

レインボーとか化石(特定のインベーダーが画面に固定されてしまう現象)は、基板の処理能力が足らないせいです。インタラプト(割り込み処理)をかけてやっていたので、処理に時間がかかってしまうと次のインタラプトまでほかの処理ができなくなってしまうので、その間に発生する不具合として現れたのでしょう。

――レインボーの模様は、10点インベーダー左端のグラフィックが消去されずに画面に残ったものですよね。

▲決して「虹」ではない見た目なのだが、レインボーと呼ばれていた現象。インベーダーの軌跡(点線)が残っている(画像:公式YouTubeチャンネル動画より「【実演】レインボー」一画面

西角 あれ(レインボー)は、インベーダーは下の段から消していくのが当たり前だと思って作っていたので、そのせいですね。下の段から消していくから、一番下のインベーダーは大きめにデザインして、上の段に行くほど小さな姿になるように設計していたわけです。

小さなインベーダーを倒すには、その下の大きなインベーダーを先に倒さなければいけないという考え方ですよ。まさかインベーダーが移動するときのタイミングを利用して、10点を最後まで残すとは思ってもいませんでした。

――インベーダーの移動速度が遅いときは、上の段ほど遅れて移動するのを利用して後方から弾をかすらせるようにして20点や30点を狙い、移動速度が速くなったら弾の軌道にタイミングよく20点や30点が飛び込んでくるように撃ちました。

西角 本作の発売前に社内のみんなにも遊んでもらいましたけど、誰もそんなことする人はいませんでしたからね。それに動けばそれでいいやって時代でしたし、今では考えられないことですよね(笑)。だから、そういった好意的に受け取られた細かいバグはあったけど、フリーズのような大きな問題がなかったのは奇跡のようなものですよ(笑)

――その頃はまだ自分は子供でしたが、「動けばいいや」って作り方がまだ許されていた、おおらかな良い時代であったのではないかと思います。

西角 しばらくはそんな感じでしたね。バグチェックをしてくれるような会社もまだありませんでしたし、自分たちでも細かな部分まではチェックしませんでしたから。

だから、インベーダーのスタート位置もちゃんと戻るか心配していたんです。面クリアするごとにインベーダーの位置ってどんどん下がって、一定の面数をクリアすると上に戻りますよね。でも、実のところそこまで到達するのは不可能だと思っていましたので、当初は一定の面数をクリアした後どうなるかをちゃんと確認していなかったんです。

ところが、本作を発売後、想定外に長時間プレイされていることを知りました。ちゃんと上に戻らなかったら途中でゲームができなくなってしまうなと心配していたのですが、名古屋撃ちを使ってループプレイするプレイヤーが出てきたのを見て、ちゃんと位置が(上に)戻るなと安心したのを覚えています。後で確認したら、実際そうなるようにプログラムが組んであったようでした。

▲名古屋撃ちの存在も、スペースインベーダーをヒットに導いた要因の一つかもしれない。まさに攻略の元祖でもある(公式YouTubeチャンネルより「【実演】名古屋撃ち」)

平均3分間の遊戯時間を想定して難易度を調整するも、営業からは意外な反応が…

▲「社内の若い連中はみんな楽しんでいたけれど、上層部にとっては難しくて否定的な意見も言われたりした」と西角氏

大堀 しかし、あのような画一的な時代に『スペースインベーダー』のようなゲームが生まれたのはビックリです。

西角 ビデオゲームは既に存在しましたけど、本作のようなタイプのゲームはありませんでしたからね。

大堀 それまでのビデオゲームはブロック崩し系が主流でした。

西角 シューティングもあるにはあったけど、ターゲットを狙って弾を撃つだけの的当てゲームでした。『スペースインベーダー』のように敵と対戦するような形ではなかったので、そういった部分が画期的だったんでしょうね

大堀 のちのアーケードゲームになると、3分くらいでゲームオーバーにさせるような難易度設定が主流になりましたが、『スペースインベーダー』は100円でどれだけ遊ばせることを想定していたのですか?

西角 『スペースインベーダー』も想定遊戯時間は1回で3分ですね。アーケードゲームの遊戯時間は当時から3分くらいで、上手なプレイヤーには1分をエクステンド(追加)してあげるという感覚がありましたので、『スペースインベーダー』もそうなるように調整したつもりです。

だけど最初に営業部署に見せたときに「これは難しすぎてダメだ」と言われてしまったんですね。当時は難しすぎてもダメだったんです。当時、営業のトップの人たちに試プレイをしてもらうと平均プレイ時間は3分以内だったかな。「『スペースインベーダー』は難しくてダメだな」というのが大方の意見でした。それでも販売したら、名古屋撃ちのような攻略が見つかって、逆に長時間遊ばれて困るということになりましたけどね(笑)。

大堀 みんな3分もたなかったと?

西角 上手じゃなくても3分以上は遊ぶと思っていたんですよ。3分では終わらないなと思っていましたから。慣れてくれば5分以上は遊べる難易度調整でしたし。1面クリアするのにも3分か4分くらいかかるでしょ。(開発の部署では)上手じゃなくても2面までは進めるのが普通だったので、10分くらいは遊ぶ人もいるだろうなと思っていたんです。でもそれを言うと、営業から難しくしろと言われるだろうから黙っていたんですけどね

予想していなかったプレイヤーの上達速度とプレイの長時間化

大堀 大ヒットしたことで、プレイヤーの攻略が進んだというのもあるでしょうね。インベーダー大会のようなイベントも開催されて、どのプレイヤーもものすごい早さで技術レベルを上げていきましたから。開発者として、そこまでゲームをやり込む人が出てくることを想像されていましたか?

西角 まったく想像していませんでしたよ。それまで作ってきたゲームは、さらっとプレイしてもらって、設置から半年くらいで新機種と入れ替える想定で設計していましたので、『スペースインベーダー』にしても同じような感覚でした。まさか、発売間もない時期から攻略の研究をされたり、徹底的にプレイされたりするなんて思ってもいませんでしたね

大堀 『スペースインベーダー』以前のゲームは、ブロック崩し系なんかもそうですけど、内容があっさりしていましたからね。『スペースインベーダー』は敵が攻撃してくるし、プレイヤーも積極的に敵を倒しにいかなければならない挑戦的な内容だったで、プレイヤーにやる気を起こさせました。

敵がどういう動きをするのか把握していないと、すぐやられました。西角さんは先ほど、下の段から(敵を)消していくように設計したとおっしゃいましたが、実際にそれを律儀にやるとあっという間に敵が下まで降りてきてしまう。私自身、遊んでいて悔しい思いをしました。そこで名古屋撃ちのようなテクニックが必要になってくるし、よく考えられているゲームだなとずっと思っていたんです。

当時はベンチマークとなるようなユーザーはいなかったと思うんですけど、どういったプレイヤー層をターゲットに想定して作られたんですか?

西角 大学生くらいの若い人ですね。子供が遊ぶことは考えていませんでした。先ほど、営業から難しいと言われたお話をしましたが、当時の営業の部長や役員クラスの人たちは年齢がかなり上でしたから、難しく感じるのは当然じゃないですか。若い社員はみんな上手にプレイしていましたよ。年を取ると(反射が)鈍くなるんだよ、とか思っていました(笑)

一同 (笑)

西角 だから当時は、社内のお年寄りたちは相手にしないほうがいいなと思ったんですよ。開発の若い連中の意見を重視したほうがいいだろうなと思って、営業の評価は無視していたんです。といっても、難しいと文句をいうのは営業の上の立場にいる人たちで、若い営業さんはみんなおもしろいと言ってくれたんですよ。

それも結局、大堀さんがおっしゃった挑戦的なゲームだったからでしょうね。それまでのゲームはシューティングと呼ばれるジャンルでもノンビリとしていましたから。向こうからも攻撃してこないし、自分が撃たなければ点数が入らないだけのものでしたから。

大堀 残機制ではなくて時間制でしたよね

西角 そうそう。何もしなくても3分間は遊ばせてくれる内容。

大堀 時間内に何点獲得できるかというルールになっていました。

西角 だから『スペースインベーダー』のゲームルールを決めるのは博打みたいなものでした。ダメな人は20秒で終わっちゃうけど、遊べる人はもっと遊べるという内容だから。でもブロック崩し系のゲームもそんな感じでしたよね。上手な人が長く遊べるという要素は、私も魅力として感じていたので取り入れました

脚注

脚注
01 名古屋撃ち : 敵弾の当たり判定がインベーダーの直下にはなかったバグを利用した攻略法。侵略寸前の最下段までインベーダーが降りてきた状態なら、隊列の真下が安全地帯となった。名古屋撃ちとは、その状態でミスのリスクを減らしつつ攻撃を行う手法で、ハイスコアを獲得するための必須テクニックの一つだった。
02 レインボー : 10点のインベーダー(通称タコ)を最後の1匹にすると発生した現象で、高速で移動するインベーダーの軌跡が消去されずに画面に残るというバグだった。10点のインベーダーを残すにはテクニックが必要で、レインボーは上級者による腕前アピールにもなっていた。

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