D4エンタープライズ15周年記念インタビュー 「プロジェクトEGGとゲーム保存について」後編
レトロゲーム配信サービス「プロジェクトEGG」で知られるD4エンタープライズの鈴木直人代表取締役をお迎えし、当研究所の大堀所長とともにゲーム保存についてお伺いするインタビュー、後編です。
今回は、過去のコンテンツ契約にこぎつけるまでのご苦労や、レトロゲームを配信するやり甲斐、そして、新しく販売を構想しているハードについてもお話を聞かせていただきました。
【聞き手】
ゲーム文化保存研究所
所長:大堀 康祐
ライター:忍者増田
過去のコンテンツを販売していたメーカーや制作者との交渉
――プロジェクトEGGで配信される過去作品ですが、契約をこぎつけるまでにかなりのご苦労があると推測されます。
鈴木 ゲームメーカーさんとして現在もアクティブなところであれば、すぐに連絡できるんですけど、もう会社として存在していないメーカーさんのゲームコンテンツはどうなっているのか分からないので、難しいです。法務局に行って書類を取得して、弁護士に連絡して相談したりとかいったケースもあります。
大堀 けっこう簡単に調べられるのでは? と思われる方もいるかもしれませんが、実際には難しいですよね。
鈴木 難しいですね(笑)。倒産された後にアプローチすると、過去のことを思い出したくない方々も多いので、「もう連絡しないでください!」と怒られてしまったりすることも……。とはいえ、貴重なゲームソフトを復刻するために、なんとか粘り強く交渉させていただくこともあります。
――過去のゲームを復刻するには、メーカーさんの許諾と制作者の許諾と、その両方が必要になるのでしょうか?
鈴木 それはケースバイケースですね。当時のメーカーさんと制作者さんが、どのような契約をしていたかという点が重要です。でも、当時の契約書がもうないというケースが多々あるんです。
――例えば、制作者の消息が不明でも、当時の契約書に権利はメーカーさんにあると記されていれば、メーカーさんの許可のみで復刻できるということですね?
鈴木 そうですね。
――ではやはり、権利が制作者サイドにある場合は、消息不明の制作者を懸命に探し出すという苦労もあるわけですね。
鈴木 はい。もうその苦労はずっとしています(笑)。最近であれば、SNSでかなり痕跡を追えるんですけどね。昔はFacebookなんて日本人はほとんど登録してなかったので、さらに大変でした。
――制作者を突き止めたけど、断られてしまうケースも多々あるのでしょうか。
鈴木 ありますね。「忙しいので、のちほどお願いします」と言われて、じゃあ、いつ連絡すればいいんだろう……とか(笑)。その方が「もう自分ではゲームをやるつもりはない」ということであれば、逆に「私たちに預からせていただけますか?」という譲渡の交渉をすることもあります。
プロジェクトEGGと連動した新ハードの構想も!?
――プロジェクトEGGのレトロゲームの配信としては、「PCゲームをWindows上で再現する」という形が一番多いと考えてよろしいでしょうか?
鈴木 そうですね。PCと、あとコンシューマーですね。アーケードゲームは、まだまだ大手ゲームメーカーさんがマネタイズできる状態なので、私どものプラットフォームがそれを邪魔したくはないのです。でも、PCに関してはプロジェクトEGGでしか遊べない状態が続いていますので、私たちはまずPCのほうをしっかり保管させていただきたいと。
アーケードのほうも、メーカーさんからのご許諾でやらせていただく可能性はありますが、まだ時間はかかるかなと思います。
――昔のタイトルをパッケージ商品として販売されることもあるのでしょうか?
鈴木 はい。まずボーステック(*01)時代に、T&Eソフト(*02)の『惑星メフィウス』(PC/1983年)、『暗黒星雲』(PC/1983年)、『テラ4001』(PC/1984年)というスターアーサー3部作をまとめた『レジェンド・オブ・スターアーサー・トリロジー』(2003年)を出しています。D4では最近、ゲームギア版『魔導物語』シリーズ(1993年~/セガ)全4タイトルを収録した『魔導物語きゅ~きょく大全 よ~ん GG ⅠーⅡーⅢ&A』(2018年)という作品も出させてもらっています。
――『スターアーサー・トリロジー』は主人公スターアーサーのフィギュアがついていたり、『魔道物語きゅ~きょく』のほうはサウンドトラックがついていたりと、ただのゲーム復刻ではなく、ファン垂涎のアイテムが同梱されているのですね(2作品のパッケージを見ながら)。
鈴木 詳しくはEGGのWebサイトを見てもらえると分かるのですが、ほかにも『レリクスアンソロジー』(2003年/ボーステック)や『夢幻戦士ヴァリスCOMPLETE』(2004年/ボーステック)など、さまざまなものをパッケージ復刻させていただいています。
――2006年に、MSX2(*03)のエミュレーションハードウェア「1 chip MSX」を販売したことについてお話を聞かせてください。
鈴木 もともと弊社の企画ではなく、西和彦さん(*04)がやるという話で、私たちはそれにコンテンツを供給する側として参加するつもりだったんですが、その後プロジェクトがペンディングになってしまって…。
でも、その時点で2,000~3,000人ぐらい「買いたい」というユーザーさんがいらっしゃったんです。そのときにたまたま、ハードを作られた方々やプリント基板の設計を趣味にされている方などがボランティア的に協力してくれて、弊社での販売が実現しました。MSXに詳しい方々が、いろいろと知恵を絞って作ってくれたんです。D4としては、プリント基板のきれいな設計をちゃんと見せたかったのでスケルトンにしようとか、弊社のカラーを考えて青にしようとか、それぐらいしか言っていない感じです(笑)。
――1 chip MSXは5000台の限定生産で、すぐに完売したということですが、もう1回売っていただきたいぐらいです(笑)。
鈴木 実は今「1 chip MSX」の次の構想があり、D4と西さんとで設計をしている最中です。2019年内には、具体的な次のMSXハードを提案できると思います。
――ビッグニュースですね! 復刻してくださいという声は多かったと思うんですが、それが叶うということですね。
鈴木 形自体はまったく別ですし、アーキテクチャもちょっと違うんですけども、かなり「えっ!?」と言わせるハードウェアを提案できるかと思います。プロジェクトEGGも初動から連動するような仕様で今、動いています。
――それは期待しています。
鈴木 そういえば「1 chip MSX」を作ったときに、MSXファンの方はもちろんなのですが、大学の理工科学部の方々が並列処理で20台欲しいから売ってくださいとか、教育機関のほうからのオファーも多かったことが思い出されますね。限定の5000台がすぐになくなってしまいました。
脚注
↑01 | ボーステック : アクションアドベンチャー『レリクス』(PC/1986年)や『銀河英雄伝説』(PC他/1989年~)シリーズのヒットで知られたゲームメーカー。 2001年からサービス開始したプロジェクトEGGを2004年にD4エンタープライズへ事業譲渡し、以降、共同運営していた。2009年にビービーエムエフ(現 ビーグリー)に吸収合併。 |
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↑02 | T&Eソフト : 1981年、横山俊朗氏と横山英二氏の兄弟により設立されたゲームメーカー。社名は2人のイニシャルから採られた。『ハイドライド』シリーズ(PC/1984年~)や『遥かなるオーガスタ』シリーズ(PC他/1989年~)などのヒットで知られる。 |
↑03 | MSX2 : マイクロソフトとアスキーが提唱したパソコンの共通規格「MSX」の一つで、1985年に発表された2番目の規格。後に、MSX2+(1988年)、MSXturboR(1990年)という上位互換機も発売された。 |
↑04 | 西和彦 : 1977年にアスキー出版(後のアスキー)を創業。1983年にMSXを企画・設計した。2017年から東京大学大学院工学系研究科IoTメディアラボラトリーディレクター。ほか、須磨学園学園長なども務めている。 |