対戦格闘ゲームイベントで名を馳せる東海地方の老舗ゲーセン「サンセイブ城北店」

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    対戦格闘ゲームイベントで名を馳せる東海地方の老舗ゲーセン「サンセイブ城北店」
  • 公開日
    2019年05月31日
  • 記事番号
    1057
  • ライター
    こうべみせ

静岡県浜松市にあるゲームセンター「サンセイブ城北店」では、格闘ゲームの対戦イベントが定期的に開催されており、東海地方では知る人ぞ知る対戦格闘の聖地となっている。かつては闘劇(*01)に地区予選店舗としてエントリーしていたことからも、昔から格闘ゲームに力を入れていることがよく分かる。

同店のイベントで主に使われているゲームタイトルは『スーパーストリートファイターⅡX(以下、スパⅡX)』(1994年/カプコン)で、今なお、非常にレベルの高い対戦が行われているという。そのような熱いレトロゲーセンの雰囲気を肌で感じたい気持ちに駆られ、同店の取材を敢行した。

浜松で約30年、プレイヤーと共に歩んできたアットホームな店

▲どこか懐かしさを感じさせる店舗外観

「サンセイブ城北店」はJR浜松駅から2kmほどの場所にある。歩けない距離ではないと思うが、電車で訪れるなら駅からタクシーを使ったほうが無難かもしれない。浜松周辺に住んでいるなら、広めの駐車場が完備されているので車が便利だ。

地元で六間道路と呼ばれる通り沿いにある同店を目にして、まず目を引いたのが歴史を感じさせる渋い外観だ。子供の頃に通っていたゲームセンターを思い出し、うれしくなってしまった。店長の阿部氏に話を聞くと、開店時期は不明だが30年は営業しているとのこと。

同店を訪れる客層は社会人が多く、仕事を終えた夕方くらいの時間帯から店内は賑わっていく。

「『スパⅡX』は30代のプレイヤーが中心となっていますね。子供の頃は家庭用ゲーム機の移植版で遊んでいて、大人になってからアーケード版を始めた人がけっこういるようです」(阿部店長)

ゲームセンターとしては老舗といえる年数を経ているだけあって、お世辞にも最近のゲームセンターのようなスタイリッシュさがあるとはいえない。しかし、そこにはなんとも言えぬ居心地の良い空間が広がっていた。そう感じるのは筆者だけではないようで、同店を訪れるプレイヤーの滞在時間は比較的長い傾向にある。店の看板でもある対戦格闘ゲームだけではなく、シューティングゲームにも開店から閉店まで遊んでいるプレイヤーがいるそうだ。

対戦格闘を中心に懐かしいゲームが1プレイ40円から楽しめる

▲地方では移動手段として車は必須。車の維持費など出費が多いので、プレイ料金を安くすることで気軽に遊べる店にしているそうだ

店内では約35台が稼働中。基本的に1プレイ50円の設定だが、『スパⅡX』は40円でプレイできる。『スパⅡX』だけ価格設定が安いところに、聖地としての心意気を感じさせてくれるではないか。 一時期は常連プレイヤーに頼まれて『スパⅡX』を30円にした時期もあったそうだが、さすがに売り上げが厳しくなったので40円に戻したとのことだ。常連客との間でそのようなやり取りがされているところに、プレイヤーと親しい関係で営業している様子が想像できた。

【現在稼働中のタイトル】(2019年5月現在)

発売年ゲームタイトルメーカー名
1989年上海Ⅱサン電子
1992年天地を喰らうⅡ―赤壁の戦い―カプコン
1994年スーパーストリートファイターIIXカプコン
1994年上海 万里の長城テクモ
1997年ヴァンパイアセイヴァー The Lord of Vampireカプコン
1997年怒首領蜂(どどんぱち)アトラス
1998年中国龍3スペシャルエイブル
2000年テトリス ジ・アブソリュート ザ・グランドマスター2彩京
2002年ザ・キング・オブ・ファイターズ 2002SNK
2005年北斗の拳セガ
2005年テトリス ザ・グランドマスター3 テラー・インスティンクトタイトー
2009年機動戦士ガンダム ガンダムVS.ガンダムNEXTバンダイナムコゲームス
2010年スーパーストリートファイターⅣ アーケードエディションカプコン
2010年バーチャファイター5 ファイナルショーダウンセガ
2012年鉄拳タッグトーナメント2 アンリミテッドバンダイナムコゲームス
2013年ワールドサッカー ウイニングイレブン アーケードチャンピオンシップ 2014コナミ
2016年麻雀格闘倶楽部 ZEROコナミ
2017年セガNET麻雀 MJ Arcadeセガ

対戦格闘ゲームイベントで毎週のように盛り上がる店内

▲サンセイブ城北店の看板タイトルともいえる『スパⅡX』。毎週熱い戦いが繰り広げられている

サンセイブ城北店では毎週のように対戦格闘ゲームイベントが開催されているが、そもそもは常連客の企画イベントが始まりだったそうだ。対戦格闘ゲームが充実している同店では、自然な流れとして、腕に覚えのあるプレイヤーが集まっていた。その内の数名が、ニコニコ動画やYouTubeに対戦の様子をアップしたいと、許諾をお店に求めてきたのがきっかけだったという。

当初は2週間に1回くらいの頻度で開催していたのだが、主催者の常連プレイヤーにも仕事があり、やがて定期的な開催が難しくなる。しかし、イベントは人気が高く、定期的な開催を望む声が多かったので、店舗主催のイベントも開始。今では、常連プレイヤー主催と店舗主催のイベントを毎週交互に開催する状況となり、対戦イベントは週1回のペースで行われている

▲2015年1月にサンセイブ城北店で行われた『スパⅡX』浜松市東西戦 第022回の様子

常連プレイヤー主催のイベントは市内の有名カレー店をスポンサーにするなど、なかなか本格的な運営をしているようだ。ネット通販で人気となっているカレーを賞品にしたり、参加者に配ったりしているとのことなので、近隣の読者は参加してみてはいかがだろうか。

イベントではその時の参加人数によって試合形式を変えている。トーナメントやリーグ戦、3on3のチーム戦をすることもあるそうで、毎回違った楽しみがあるのもいい。イベントの様子はニコニコ動画やYouTubeで配信され、当日参加できなくても楽しめる人気のコンテンツとなっている。阿部店長によると、ただ試合内容を流すだけでなく実況をつけることが大切で、実況つき対戦動画は視聴者の反応が段違いに良いそうだ

小規模店舗だからこそプレイヤーを引きつける努力が必要

昔の浜松市内には小さなゲームセンターがたくさんあったそうだ。しかし、家庭用ゲーム機やスマホゲームが台頭し、ゲームの選択肢が増えたこともあり、アーケードゲームは徐々に訴求力を失っていく。市内の小規模ゲームセンターは、体力のないところからどんどん店を畳んでいき、消費税が5%、8%と増税されるたびに廃業する同業者は増えていったらしい。

アーケードゲームのプレイ料金は1円単位で設定できないため、消費税分のみを上乗せすることはできない。かといって、10円単位で値上げした価格を設定することもできず、結局のところ店側が負担するしかなく、厳しい経営となる。また、最近の通信機能付きのアーケードゲームも、小規模店には厳しい存在となっている。メーカーにサーバー代などの固定費を支払う必要があり、それに消費税も加わるから儲けはほとんどないようなものだ。「それに比べ、レトロゲームは売り上げのほぼすべてが利益になってくれるのでありがたい」と阿部店長は語る。

今では、レトロゲームも一つのゲームジャンルと呼べるものとなり、レトロゲーム設置店を求めてファンが情報収集するようになった。だが、お店に古いゲームをただ設置しているだけではプレイヤーは集まらない。そのため、「そのお店に行きたいと思わせる魅力作りが重要」と店長。同店の場合も、当初は自然発生的な対戦格闘イベントだったが、このイベントがあったからこそ熱心なファンが集まり、長く営業を続けることができたのだ

現在のような営業形態になるまでは試行錯誤もあった

▲『セガNET麻雀 MJ Arcade』や『麻雀格闘倶楽部 ZERO』など、対戦格闘以外のゲームも可動

今でこそレトロゲーセンの色合いが強いサンセイブ城北店だが、当然、オープン当初から同じスタイルで営業していたわけではない。オープンしたばかりの頃は、一般的なゲームセンターと同じようにメダルゲームやプライズマシン、カラオケボックス、ビリヤードなど、ビデオゲーム以外にもいろいろな遊びができる店だった。しかし大型店とは違い、運営していくうちに小規模店舗としては避けられない課題を抱えるようになる。

例えばプライズマシンの景品だ。店舗規模に合わせて少量を仕入れたくても、発注は1ケース単位でなければならず、どうしても過剰に在庫を抱えてしまう。ほかのサービスについても維持が難しくなり、ビデオゲームに専念したほうがいいんじゃないかという結論になった。

やがて、周辺の競合店が閉店していくと、それぞれの店で格闘ゲームを楽しんでいたプレイヤーがサンセイブ城北店に集まるようになった。彼らと親しくなり、導入してほしいゲームタイトルのリクエストを聞いているうちに、今の営業スタイルができあがったそうだ。

格闘ゲームファンが集まってくれたおかげで小さな店でもやっていける

現在は、阿部店長のほかスタッフ2名で店舗運営をしている。レトロゲームには故障という悩みがつきまとうが、自分で直せるような故障は店長自ら修理しているそうだ。店長自身にハードの修理経験があったのは幸いだった。また、大型の専用筐体ゲームも扱っていないので、補修部品が手に入らないという心配もない。

お客さんからリクエストがあったタイトルは、秋葉原の中古基板ショップから仕入れている。レトロゲームの中にはプレミアが付き、基板価格が高騰しているものもあるが、流通量の多い格闘ゲームは価格がこなれているため、格闘ゲームファンが多く集まる同店にはありがたい存在だ。「おかげで現在はなんとか店が成り立っています」と阿部店長。常連客に支えられ、同店は存続している。

東海地方の聖地としてこれからも長く続いてほしい店

▲往年の名作が並ぶ

かつて学生だった常連プレイヤーが「まだお店やっていたんだ」と子連れで遊びに来ることもある。「おっちゃん老けたね」と言われて、「余計なお世話だ」と笑顔で返す阿部店長。そんなエピソードを聞くと、地元で長く愛されていることがよく分かる。

終始にこやかに取材を受けながら「本当は人見知りなんですよ」と阿部店長は笑う。とは言いつつも、プレイヤーとのコミュニケーションは大切にしている。「サンセイブ城北店」へ通ううちに、店長の人柄と居心地の良い店舗を愛するようになるお客さんは多く、「これからも店を続けていってほしい」と言われるそうだ。筆者も取材で実際に訪れて、素敵な店だと素直に思った。東海地方の聖地として、これからも頑張っていってほしい。

【店舗情報】

サンセイブ城北店
住所:静岡県浜松市中区城北1ー3ー16
電話番号:053-471-9800
営業時間 : 10:00~24:00
休み:なし
駐車場:あり
公式Twitter

こうべみせ

脚注

脚注
01 闘劇 : エンターブレイン主催の対戦格闘ゲーム大会。2003年の第1回大会を皮切りに、2012年の閉幕まで全10回の大会が開かれた。

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