「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十八回 レベルメニュー
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第四十八回のテーマは「レベルメニュー」です。
筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著『ビジネスを変える「ゲームニクス」』では、「原則2:マニュアル不用のユーザビリティーの一要素として「原則2-B-④:レベルメニューを用意する」を掲げています。
ここで言う「レベル」とは、プレイヤーの習熟度を指します。「レベルメニュー」は、例えば「イージー」「ノーマル」「ハード」などといったように、ゲーム開始時にプレイヤーの「レベル」に応じた難易度設定が選べるシステムのことです。
ゆえに「レベルメニュー」は、基本的にはメニューごとに難易度の差をつけておくだけで事足りるのですが、実はいざ調べてみると難易度の調整だけにとどまらない、さまざまな工夫をしていることがわかります。
以下、今回も筆者の思い付く限りではありますが、優れた「レベルデザイン」を取り入れた古今東西のタイトルをいろいろとご紹介しましょう。ぜひ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
新たな挑戦意欲をもたらす、エキスパート向けの「レベルメニュー」
「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、ゲームの奥深さを演出する方法として「原則4-D-③:最終目標達成後に分岐させる」を掲げています。プレイヤーが一度エンディングに到達すると、次回プレイ時に「エキスパート」などの名称で、最高難易度の「レベルメニュー」が新たに解放されるのがその典型例です。
加えて、新たに出現した「レベルメニュー」を選択すると、単に難しくなっただけでなく、プレイヤーが新たなモチベーションを得て何度も繰り返し遊んでしまうアイデアを盛り込んだタイトルが、実は古くからたくさんあります。
有名タイトルから例を挙げますと、第十五回の「追加ステージ」でもご紹介したファミコン版『ドルアーガの塔』(ナムコ/1985年)です。本作は、エンディング画面で通称「裏ドルアーガ」が遊べるコマンドが表示されます。
コマンドを入力して「裏ドルアーガ」をプレイすると、各ステージのマップと出現する敵は通常モードと同じですが、隠された宝箱の出現条件はすべて異なります。よって、プレイヤーは新たな謎解きにチャレンジしつつ、再び全60ステージ制覇を目指してゲームを楽しむことができます。
同様に『ゼルダの伝説』(任天堂/1986年)も、一度エンディングに到達したセーブデータを使用して、ゲームを最初から始めると「裏ゼルダ」が遊べます。「裏ゼルダ」は、隠し部屋の位置や迷宮のマップなどが「表」とはまったく異なり、一部の敵は攻撃のバリエーションが増えているので、より攻略が難しくなっています。
後から「レベルメニュー」が追加されるタイトルの中でも、おもしろい仕掛けが多数盛り込まれているのが『メタルギアソリッド』(コナミ/1998年)シリーズです。
例えば『メタルギアソリッド2』(コナミ/2001年)は、一度エンディングに到達したセーブデータを使用すると、新たに高難度の「レベルメニュー」である「EXTREME」が選択できるようになります。
また本作では、「EXTREME」以外の各「レベルメニュー」を選択した場合でも、エンディングに到達したセーブデータを使用して最初からゲームを始めると、1周目では所持していなかったアイテム「デジタルカメラ」を持った状態でスタートします。
さらに2周目では、エンディング到達時の状況に応じて、主人公が使用する武器の弾数が無制限になる「無限バンダナ」「無限かつら」などの便利アイテムも入手した状態で始めることができます。
単に難易度がアップした「レベルメニュー」を用意するだけでなく、より快適に遊びやすくする、あるいはお遊びの要素を追加することで、エンディングまでやり込んだプレイヤーでも容易に飽きさせなくする、非常に優れたアイデアですね。
©Konami Digital Entertainment
ところで、このような「後から『レベルメニュー』が追加されるぞシステム」を、最初に搭載したタイトルは何だったのでしょうか?
毎度のことで本当に申し訳ないのですが、筆者の調査では「これが元祖」と特定することはできませんでした。もしご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報を!
初心者向けに、後年追加された「レベルメニュー」いろいろ
今から20年も30年も前に登場したゲームの移植、あるいはリメイク作品が、現在でもプラットフォームを問わず数多く発売されています。
昨今発売された移植やリメイク版では、前述の『ゼルダの伝説』などとは逆に、初心者でも遊びやすくするために、オリジナル版には存在しなかった「イージーモード」を独自に追加する例が多々見受けられます。
実は、初心者向けに配慮した「レベルメニュー」を後から追加したタイトルも、かなり古くから存在します。
ファミコン用アクションゲーム『悪魔城ドラキュラ』(コナミ/1986年)は、最初に発売されたディスクシステム版には「レベルメニュー」がありませんでしたが、1988年に発売されたROMカセット版では、新たに「ノーマル」と「イージー」の2種類の難易度が選べるようになりました。
ROM版で後者を選択してプレイすると、主人公のシモンが敵や障害物に触れた際のダメージが大幅に減り、しかもノックバック効果もなくなるため、画面外に落下して即ミスとなる心配が一切なくなります。
©Konami Digital Entertainment
ゲーム全体の難易度ではなく、操作をより簡単にする「レベルメニュー」を追加することで、初心者に配慮したタイトルもいろいろあります。
その最もわかりやすい例が、レースゲームに導入されている、ギアの「AT(オートマチック)」設定になるでしょう。アーケードの古典的名作『アウトラン』(セガ/1986年)ではLOW、HIの2速ギアを操作しますが、続編の『ターボアウトラン』(セガ/1989年)では「AT」も選べるようになりました。
シューティングゲームの『グラディウス』(コナミ/1985年)は、パワーカプセルを取るとパワーメーターが点灯し、プレイヤーはパワーメーターに表示された自機のパワーアップを、任意のタイミングでボタンを押して装備することができます。
そのスピンオフ作品である『パロディウスだ!』(コナミ/1990年)では、ゲーム開始時に「AUTO」を選ぶと、一定数のパワーカプセルを取るたびに自動でパワーアップするようになり、プレイヤーは敵との戦いに専念することができます。
さらに「AUTO」設定時は、自機のショットとミサイル、およびベルパワーの各武器を、1個のボタンですべて発射(※通常はショット、ミサイル、パワーアップの3ボタンを使用)できるようになります。
©Konami Digital Entertainment
古い時代の高難度タイトルをより遊びやすく:「レベルメニュー」温故知新
高難度のアクション系ゲームの移植、あるいはリメイク版は、プレイヤーがより快適に遊べるよう、難易度を下げた「イージーモード」以外にも、さまざまな創意工夫を凝らした「レベルメニュー」を追加したものがたくさん見受けられます。
例えば、アーケード用シューティングゲーム『バトルガレッガ』(エイブル、開発:ライジング/1996年)は、当時のプレイヤー間では高難度で有名な作品でした。
そこでセガサターン版には、自機の当たり判定が少し小さくなる「レベルメニュー」、その名も「心眼モード」が新たに導入されました。
さらにプレイステーション4版『バトルガレッガRev.2016』(エムツー/2019年)には、「スーパーイージー」設定が新たに追加されています。
「スーパーイージー」は、通常設定よりも難易度が大幅に下がるだけでなく、敵に触れてもショットボタンを押した状態であれば自動でボンバーが発動してミスを防いだり、勲章(得点アイテム)に自機が近付くと自動で回収したりするなどの便利機能も付いています。
© 1996 EIGHTING
© 2016, 2017 M2 Co., Ltd.
アーケード用落ち物パズルゲーム『コラムスII』(セガ/1990年)のNintendo Switch移植版『SEGA AGES コラムスII』(セガ/2019年)にも素晴らしいアイデアが導入されています。
元祖アーケード版は、消去すると画面下部がせり上がるお邪魔キャラ「ドクロ」の存在により、全ステージを制覇するのは、たとえコンティニューを繰り返しても極めて難しくなっています。
そこでNintendo Switch版では、「アーケードモード」において「ドクロ」が一切出現しなくなる「レベルメニュー」、「ドクロカット」が新たに追加されました。この秀逸なアイデアのおかげで、本作は劇的に遊びやすくなっていると言えるでしょう。
©SEGA
初心者への配慮に加え、オリジナル版をさんざんやり込んだプレイヤーも新たな体験ができる、「レベルメニュー」を追加したタイトルもあります。
以下の写真は、アーケード用シューティングゲーム『スペースハリアー』(セガ/1985年)の移植版『SEGA AGES スペースハリアー』(セガ/2019年)で、新たに追加された「コマイヌ・バリア・アタックモード」でプレイ中の場面です。
本モードを選択すると、主人公ハリアーの両脇に2体のコマイヌが出現し、ハリアーの周囲にバリアを張ります。このバリアのおかげで、通常はハリアーが触れると即ミスになる柱などに触れてもミスにはならず、逆に破壊することができます。
体当たりで柱などを破壊した場合は、ショットで倒した敵とは別に得点を計算(※1体破壊するごとに1点ずつ加算)するので、Nintendo Switch版では体当たりだけでどれだけ得点を稼げるのか、「体当たりハイスコア」にチャレンジするといった楽しみかたもできます。
©SEGA
以上、今回は「レベルデザイン」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
シリーズ作品、または移植やリメイク版が次々とリリースされ、歴史を重ねるにつれて「レベルメニュー」も進化していることがおわかりいただけたと思います。筆者自身も、本稿の執筆を通じてたいへん勉強になりました。
今回はアクション系のタイトルを中心に取り上げましたが、RPGやシミュレーションなど、ほかのジャンルにも優れた「レベルメニュー」を導入したタイトルは間違いなくあることでしょう。もし機会があれば、アクション系以外のタイトルでの導入例もぜひご紹介したいですね。
それでは、また次回!