「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十九回 中間目標
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第四十九回のテーマは「中間目標」です。
筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著『ビジネスを変える「ゲームニクス」』では、「原則4:段階的な学習効果」の1項目として「原則4-A-④:中間目標の設定」を掲げ、その有意性を以下のように解説しています。
「『中間目標』を用意し、直近目標および最終目標を含めたゲーム全体を、いかにも自分でコントロールしているかのように演出することでユーザーの快感が増し、モチベーションの持続につながる」
以下、今回も筆者の思い付く限りではありますが、いろいろな「中間目標」の例を集めてみました。ぜひ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
「中間目標」をプレイヤーに明示した初期の例
アクションゲームで、プレイヤーに対して「中間目標」となる明確なギミックを用意した、最も有名なタイトルのひとつが『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』(セガ/1991年)になるでしょう。
本作は、各ステージの中盤にポイントマーカーと呼ぶギミックがあり、主人公のソニックがこれに触れると青から赤に色が変わります。もしステージの途中でミスをした場合は、最後に通過したポイントマーカーの位置から「リスタート」するので、プレイヤーはポイントマーカーの位置に到達することを「中間目標」に定めることができます。
ポイントマーカーのような派手さはありませんが、実は本作より古いタイトルにも「中間目標」を明確に示した例があります。
以下の写真は『ワンダーボーイ』(セガ、開発:ウエストン/1986年)です。本作では、各ステージの特定の地点に小さな立札が配置され、ミスをすると主人公が最後に通過した立札の位置から「リスタート」する仕組みになっています。
本作には、ステージ全体のマップを表示するHUDこそありませんが、マップを進むごとに「1」「2」「3」……と数字が書かれた立札が登場することで、プレイヤーは徐々にゴールに近付いていることを実感できます。
©SEGA/LAT
古い時代のレースゲームにも「中間目標」を設けたタイトルが多数あります。ファミコン用ソフトの『F1レース』(任天堂/1984年)や『ハイウェイスター』(スクウェア/1987年)などに導入された、サーキットを1周、またはコースの途中にあるチェックポイントを通過すると、残りタイムや得点が増えるシステムがその典型です。
ほかにも『アウトラン』(セガ/1986年)や『スーパーハングオン』(セガ/1987年)などのように、コースをいくつかのステージ単位で区切り、各ステージの最終地点をチェックポイントにするケースもあります。
『ポールポジション』(ナムコ/1982年)は、レースを予選と決勝の2つのフェーズに分けることで、プレイヤーは予選を通過することが必然的に「中間目標」となるアイデアを取り入れた点で特筆に値する作品です。
加えて本作では、実際のF1レースなどと同様に、予選の成績によって決勝のスターティンググリッドが決まるので、プレイヤーは文字どおりポールポジションの獲得を目指すことも大きなモチベーションになります。
本作以外にも、レースを予選と決勝に分けるシステムは『VS.エキサイトバイク』(任天堂/1988年)、『スーパーモナコGP』(セガ/1989年)などに導入されています。
POLE POSITION™II & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
「ボスキャラクター」を「中間目標」にするわかりやすさ
プレイヤーにとって「中間目標」となる地点に、単なる目印を付けるだけでなく、ザコ敵よりも手強い敵キャラクター、いわゆる「中ボス」を登場させるタイトルも古くからたくさんあります。
「中ボス」の存在をプレイヤーに広く認知させたのが、第二十五回の「ボスキャラクター」でも紹介した、リドリーとグレイドの2体が登場する『メトロイド』(1986年/任天堂)になるでしょう(※当時のメディアでは「小ボス」とも呼ばれていました)。
『メトロイド』よりも古い作品で、「中ボス」が登場するタイトルのひとつが『テラクレスタ』(日本物産/1985年)です。本作では2種類の「中ボス」、チューボとダイコンが特定の地点に数回登場し、プレイヤーの「中間目標」として機能します。
なお余談になりますが、チューボの名前は中型母艦という設定が由来のようです。おそらく偶然だとは思いますが、「中ボス」とほぼ同じ名称になったのは、とてもおもしろいですね。
©2014 HAMSTER Co.
個々のステージではなく、ワールド全体のマップに「中ボス」が出現する「中間目標」を明示していたのが『スーパーマリオブラザーズ3』(任天堂/1988年)です。
本作では、各ワールドの中盤にある砦の最終地点に、ラスボスの大魔王クッパの手下、ブンブンが「中ボス」として出現します。ブンブンを倒すと、全体マップ上にある扉が消滅し、ワールドのスタート地点から砦まで「ショートカット」ができる、またはボスが待つ城につながるルートが解放されます。
さらに『NewスーパーマリオブラザーズWii』(任天堂/2009年)では、砦をクリア後にセーブメニューが自動で表示されるようになりました。ほかにも、セーブポイントを「中間目標」として機能させている例としては、『スーパードンキーコング』(任天堂/1994年)などがあります。
©1988 Nintendo
ルーチンワークの気持ち良さをも演出する「中間目標」
「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「中間目標」を利用してプレイヤーを夢中にさせるノウハウの一種に「ルーチンワークの気持ち良さ」を挙げています。
さらに本書では「人は常に目標に向かっていると意識してしまうと疲れるが、息抜きとしての単純作業そのものが目標達成つながっていると意識できると、ついつい作業を続けてしまう」ことから、単純作業の繰り返しが快感になるよう「アニメや効果音でリズミカルに演出する」ことを推奨しています。
ビデオゲームにおける単純作業の繰り返しの典型と言えば、RPGのプレイヤーキャラクターのレベルアップです。レベルを上げるためには、モンスターとのバトルを何度も続ける、つまり同じ操作を繰り返すことになるので、プレイヤーはルーチンワークにおもしろさを見出せないとストレスがたまり、やがて飽きてしまいます。
そこでプレイヤーに対し、バトル勝利時の快感を巧みに演出し、レベルアップの「中間目標」を極めてわかりやすく示すアイデアを導入したのが、シミュレーションRPGの『ファイアーエムブレム』(任天堂/1990年)シリーズです。
本シリーズでは。バトルに勝利すると経験値を示すバーが増えるアニメーションが流れ、プレイヤーの快感を演出しています。加えて、各キャラクターの経験値を必ず0~100で表示することで、次のレベルアップまでに必要な経験値がとても計算しやすくなっています。
©1990-1993 Nintendo/INTELLIGENT SYSTEMS
「ルーチンワークの気持ち良さ」が、ゲームのコンセプトそのものになっていることで特筆すべきなのが、『真・三國無双』(コーエー/1997年)を元祖とする『無双』シリーズです。
『無双』シリーズと言えば、数え切れないほど大量の敵キャラが次から次へと出現し、主人公または仲間のキャラクターを操作して一網打尽になぎ倒す快感が得られるのが最大の特長です。作中には数多くの武器が登場し、技を繰り出すたびに派手なアニメーションや効果音、あるいは「ボイス」が流れることは、多くの皆さんがご存知のことでしょう。
本シリーズでも、バトル(ステージ)終了後にプレイ内容に応じた経験値や武器、資金などの報酬が得られます。よって本シリーズでも、ラスボス討伐を最終目標と定めた場合は、主人公や仲間のレベルアップと、新たな武器の獲得および強化が「中間目標」になっていると言えるでしょう。
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以上、今回は「中間目標」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
プレイヤーが途中でミスをすると、必ずスタート地点からやり直しになるゲームは往々にしてストレスになりますが、「中間目標」がプレイヤーのモチベーション維持に大いに役立っていることがおわかりいただけたと思います。
なお、繰り返しになりますが「中間目標」のくわしい解説は、『ビジネスを変える「ゲームニクス」』の「原則4」の項をご覧ください。
それでは、また次回!