『デンシライフ2』サウンド慶野由利子氏&マインドウェア市川幹人氏に訊く
1980年代のパソコンゲームリメイクやその頃の雰囲気を彷彿させるゲームを多数リリースしているマインドウェアから、何とも不思議なゲーム『デンシライフ』が2023年6月に登場しました。このゲームは21世紀版の『ライフゲーム』といった雰囲気ですが、今までにないゲーム性でこれまでのマインドウェア作品でも異彩を放つタイトルです。そしてこのほど続編となる『デンシライフ2』がリリースされたということで、開発の市川幹人氏とサウンドを担当した慶野由利子氏にお話を聞きました。
【聞き手】
さつき
【文・構成】
松井ムネタツ
子どものころ聴いていたのはクラシックだけ!
── 『デンシライフ』のお話を聞くまえに、幼少期から大学、そして音楽に関して全般的なことをお伺いいたします。まず子どものころですが、小さいころから好奇心旺盛だったのでしょうか。慶野さんは積極的にいろんなものへ飛びつくような印象があるのですが……。
慶野 小学校ではおとなしい子でした。じっくり考えるタイプでしたね。当時、学研の「〇年の科学」という子ども向け科学雑誌がありまして、「4年の科学」から「6年の科学」まで両親が買ってくれていました。理詰めで物事を考えるのは好きでした。本もたくさん読んでいました。
── お母様も作曲家(渡鏡子氏)とのことですが、代々音楽家だったのでしょうか?
慶野 代々ということはなく、母が作曲家で音楽研究者、評論家でした。私は幼少期から母の指導を受けてピアノを弾いたり、聴音とソルフェージュを自宅で勉強していました。
── その頃から音楽家を目指されていたのでしょうか?
慶野 どちらかと言うと、それは母の希望でしたね。ピアノは4歳から外の先生に就いて習っており、その先生のところで作曲技法の初歩も学びました。
── 影響を受けた音楽はどういったものでしょうか?
慶野 母がドヴォルジャークやスメタナといったチェコの作曲家の音楽を日本に紹介する仕事をしていた関係で、当時の日本ではまだあまり聴く機会のないドヴォルジャークやスメタナのレコードを家でよくかけていました。ドヴォルジャークのスラヴ舞曲は私の原風景のような音楽です。
小学校に上がる前から母に連れられてオーケストラの演奏会に行っておりましたので、オーケストラのサウンドが私のカラダの中に一番染み込んでいるのかな、と思います。
後ほどくわしくお話ししますが、大学進学後は、クラシック以外の魅力的な音楽が世界中にも日本の中にもたくさんあることを知り、様々な音楽に触れることができました。
大学で学んだ「民族音楽学」と「民俗」
── 大学で民族音楽学を専攻されたのは、何かキッカケがあったのでしょうか?
慶野 家ではテレビも置かず大衆音楽から隔絶されていました。私の小学校の頃はグループサウンズが大流行して、女子たちはどのグループが好きかとかそんな話題で盛り上がっていたのですが、そういう世界からかけ離れた生活をしていました。
高校は都立芸術高校音楽科で作曲を専攻しました。そうして高校までクラシックにしか触れずに育ち、気が付いたら私自身の足許を何も知らない!
一方、当時、2世紀末の現代音楽のシーンは混迷を極めていました。実験的であることは大切ですが、作曲家の意図が演奏家に充分理解されないまま、演奏家は何だかわからないままやっている感じが、聴き手の私に伝わってくるんです。どこで拍手していいかもわからないような……。入試のためには18世紀頃の厳格な作曲技法を学びながら、作曲科入学後はこうなってしまう、しかもそのクラシックの源流は日本から離れた遠い異国のもの……このまま受験勉強を続けてどうなるのか、先が見えなくて。高校3年のときに母が亡くなったことも重なり、いろいろ迷いましたが、大学では楽理科に進んで民族音楽学を学ぶことにしました。
その頃、毎週土曜日にNHK FMで「世界の民族音楽」という番組があり、そこにご出演なさっていたのが小泉文夫先生という東京藝術大学の民族音楽学の教授でした。小泉先生に習いたいために何年浪人してでも藝大楽理科を目指す、そういう時代でした。
── 藝大の音楽学部楽理科というのは、どういうことを学ぶところなのでしょうか。
慶野 音楽を対象とした研究全般を扱う学科です。楽理というのは音楽理論の略ではなくて、楽理という言葉は雅楽で用いられる用語です。「楽」が音楽、「理」が理論を意味しています。
藝大で学んだ中でとりわけ大きかったのは”民俗”という視点です。音楽というのは、ひと握りの天才作曲家が作ってきたものではなく、その裾野に一般大衆の人たちの音楽があって成り立っているんだ……と。この視点を学んだことは一生の宝です。
藝大では、日本音楽の歴史、東洋音楽の歴史、民族音楽学などを受講するとともに、いくつもの実技も学びました。
韓国の伽倻琴(カヤグム)とインドネシア・中央ジャワのガムランの演奏も学びました。これらは今でも馴染みの深い音楽です。伽倻琴のための曲も書いています。
藝大では日本の伝統音楽を一から勉強しようと、三味線を習うことにしました。藝大音楽学部の大半はプロの演奏家を育成するところですので、プロ中のプロの先生方が各楽器ごとにいらっしゃいます。一方、副科というシステムがあり、その楽器についてはズブの素人の学生がそんな先生のレッスンを受けに行って、単位がいただけるんです。三味線にもいろいろ種類があることさえ知らず、とりあえず履修表に「長唄三味線」と書いてあったので〇を付けたところ、先輩から「長唄三味線を履修するなら長唄も取らなくちゃ!」と言われ、4年間、長唄と長唄三味線を習いました(長唄は江戸時代に歌舞伎舞踊の伴奏音楽として発達した音楽。長唄三味線は長唄の伴奏楽器です)。
卒業してからも長唄と長唄三味線はしばらく続け、今年(2024年)になって29年振りに長唄のお稽古を再開しました。
── すごいですね! いつか聴かせてください。それにしてもいろんなことに挑戦されていますね。触れられた楽器はどういったものが?
慶野 人前で演奏できる楽器……となると今はひとつもありませんが、学んだことのあるという楽器を時系列で並べると、ピアノ、バイオリン、長唄三味線、雅楽の龍笛、ジャワガムラン、伽倻琴、クラシックギター、です。
民族音楽学について。「民族音楽」という種類の音楽があるわけではありません。今では藝大の民族音楽学の教授の先生も「民族音楽」はNGワードにしています。私が師事した小泉文夫先生も、最初の授業のときに「今に民族音楽学の民族が取れて音楽学になりますよ」とおっしゃっていました。すべての音楽を平らに見ようという視点は大切です。
『デンシライフ』のサウンドは小沢純子さんが担当するはずが!?
── 1作目の『デンシライフ』からサウンドは慶野さんですよね。当初は小沢純子さん(同じく元ナムコ。マインドウェアのゲームでは『エイリアンフィールド3671』等のサウンドを担当)にお願いする予定だったそうですが……。
市川 そうです。小沢さんにお願いするつもり……というか、小沢さんで決まっていたんです。音楽が流れるだけではおもしろくないから、状況に応じて何か変わるようなサウンドにしましょうということも決まっていたんですよ。小沢さんにやっていただいた『スペースマウス2』でちょっとそういう感じのことをやったので、じゃあ打ち合わせましょう!と。
いざ打合せをし始めたら、小沢さんから『デンシライフ』のような抽象的なゲームのサウンドだったら慶野さんに担当してもらったほうがいいのではないか、とご提案いただきまして。これはアドバイスではなく、そうしなければいけないんだな、と(笑)。
それまで慶野さんとはまったく面識がなかったのですが、速攻でFacebookでメッセージを送りました。
慶野 小沢さんから私宛に連絡がくる前に、市川さんから連絡がきていました。市川さんの瞬発力の勝利です!
── こういう抽象的な作品の音楽を作るのが好きになるキッカケはあったのでしょうか?
慶野 私はコンピューターを楽器と捉え、コンピューターで音楽を作る以上は、実際の楽器の真似をするよりコンピューターが得意なものをやらせたい、と常に思っています。コンピューターは人間に得意なことは不得意だけれども、逆に、人間に不得意なことは得意なんです。例えば3回繰り返すっていうのをちょっとした入力ミスで33回と打ったら、コンピューターは正直に33回繰り返しますよね。オクターブを書き間違えて2オクターブ上の音にしたら、ちゃんと2オクターブ上の音を出してくれます。「歌えません」なんて言わない。そういうおもしろさをこそ生かしたい!といつも思っているんです。
コンピューターに限らず、音楽を作るときにはいつも、その楽器の特性を活かして作るように心掛けています。だからクラリネットの曲を書くときにはクラリネット奏者のところに、古筝(グーチェン:中国のコト)を使うときには古筝奏者のところにヒアリングに行きました。
── 市川さんとしては、『デンシライフ』の音楽は慶野さんの想像力にお任せする形で進めたのでしょうか?
市川 ゲーム開発者の中でも、サウンドの方との出会いというのは一番恵まれていると思っているんです。私が作ったX1用タイトル『THE CURSE OF MARS』では古代祐三さんが作ってくれたのを皮切りに、音楽プロデューサーのジョー・リノイエさん、スウェーデンのサイケデリックトランスユニット「Login Bomb」とか、そんな出会いが続いたと思ったら、元ナムコの小沢さん、慶野さんと出会うことができました。
なので、作曲者の方にはいつも「好きなようにやってください!」とお願いしています。自分がゲームを作るようになったキッカケのひとつに『ディグダク』の衝撃があるので、その曲を作った人に何か文句をつけるとかできるわけがない(笑)。たとえば、あるシーンで音楽と場面をピッタリ合わせたい箇所があったとして、若干曲が長くあがってきたらそのシーンを長くします!
── 最初のオファーを受けた段階で、『デンシライフ』はどこまでできていたのでしょうか?
慶野 もう遊べるようになっていました。
市川 元々はゲームエンジン「Unity」を使ったときのPCの負荷を知りたくて作ったのが、『デンシライフ』の元となるアプリです。電子生命体が生まれて変化していくのを見ていくだけのものでした。一個一個の点が全部の点に対しての距離を測って、それで各色であの色に近づきたい、この色から遠のきたいという性質があって、点の数の二乗分だけ平方根の計算をするんです。そうすると、短いプログラムでも「負荷を増やしたい」と思ったら点の数だけ増やせば、すぐに負荷を大幅に増やすことができるんですよ。
そうやってできあがったアプリを普段からいろいろ手伝ってくれている関係者に送りました。アプリを実行するとファイルを書き出すからそれを送り返してほしかったんです。ところが、誰もレポートを送ってこない。点の集合体がこんなふうになった、あんなふうになったと、スクショを嬉しそうに送ってくるんですよ。そんなに楽しいのなら、これをゲームにしてみようかな……ということで生まれたのが、『デンシライフ』なんです。
自機を操作して何かを倒すみたいなのもちょっと考えたんですが、それは普通だなと思ってしまって。せっかくスクショを撮るのが楽しいと言ってくれているので、じゃあ撮影すること自体をゲームにするのが一番おもしろだろうと思いました。そこからはもうあっという間でしたね。
── 『デンシライフ』と『フォゾン』(1983年発売のナムコアーケード作品。サウンドは慶野さん)の空気感が近しい印象を受けたのですが、慶野さんにお願いする前からこの雰囲気だったんですね。
市川 グラフィックについて説明すると、1作目の『デンシライフ』は画面内にあるものでデザインされたものはフォントだけなんですよ。あとは「点」自身の動き自体がビジュアルになっています。デザイナーからあがってくるグラフィックデータを待って、それを実装する……という行程が皆無なので、ゲームそのものはあっという間に仕上がっていくんです。なので、ゲームそのものはわりとすぐに完成に近づいてしまって、紆余曲折を経て慶野さんにお願いすることになりました。
多くのプレイヤーはこれが『フォゾン』に近いから慶野さんに頼んだんだろうと思っている節があるのですが、それは違うんですよ。本当にそれは偶然というか。なので、『フォゾン』を意識して慶野さんにお願いしたかと言うと、それはノーです。
慶野 現象的にそのように見えるかもしれないのですが、作る側にはその発想はなかったですね。
── 市川さんにうかがいます。『デンシライフ』と『デンシライフ2』の違いと、改めて今回『2』を作ろうと思ったキッカケを教えてください。
市川 最初に『2』を作ろうとしたキッカケから説明させてください。
まず『デンシライフ』を2023年6月に出したのですが、じつはゲームモードをもう少し増やすことも考えていたんです。そんなとき、1作目のアレンジャーとしても参加してくれたneko800さんが「このゲームの新しさは本当に革新的で、誰かが似たようなものを出してしまったら元も子もありません。とにかく、お客さんに見せられるレベルにきたら、作り込むよりはまずさっさと1作目を出してください。このゲームにとってそれが何より大切です」と言ってくれたんですよ。
実際にリリースしたら、今まで見たことも遊んだこともないジャンルのゲームということもあって、多くの方からご意見をいただきました。そうした意見を汲み取って続編を作ろうと思ったとき、まず何よりもゲーム画面を大きくしたいという気持ちがありました。ただそうするとこれまで以上にグラフィックへの負荷が大きくなり、技術的にちょっと手間だったので、続編は完成まで少し時間がかかりそうだな……と思っていました。
そんなときに、たまたまウチのゲームのファンだというデンマークの数学者の方が「デンシの動きをGPUで処理するプログラムを組んでみた」とおっしゃるではありませんか! 早速、具体的にコンタクトをとって、正式にお仕事としてお願いして作ってもらいました。もっと時間がかかると思っていたらすぐ解決してしまって。
それで「これは続編をすぐ作れるぞ」となって、動き出したのが2024年8月なんです。慶野さんにもすぐ連絡しました。
── 本格的に開発が始まって、本当にあっという間に完成なんですね。
市川 そうなんですよ。あと『1』と『2』の違いについてですが、まずゲームモードが2つから4つに増えて、デンシの色も1色増えて合計7色になりました。さらに『1』よりもっとデンシに介入できるようにしたかったので、「デンシの活性化」というフィーチャーと、デンシを避けて撮るアボイダーを追加しました。あとボーナスの種類がいろいろ増えてますね。お題でデンシを撮影する際、『1』では色数だけでしたが、「この色を撮影するな」というものも加わりました。
また今回は『ライフゲーム』を楽しめるモードも入れています。『ライフゲーム』とは生命の誕生や死をシミュレートした数理モデルで、1970年にイギリスの数学者ジョン・ホートン・コンウェイ先生が考案しました。『デンシライフ』の大元とも言える存在なので、『デンシライフ2』ではコンウェイ先生に敬意を払って、ゲーム内にも登場してもらいました。
── では、『デンシライフ2』のプレイ中BGMについてうかがいます。今回はどのような形にしようと考えていたのでしょうか。
市川 とにかく「ゲーム中に曲が変わるようにしたい」という案はあれど、具体的にどうしたらいいのかなかなか思いつかなかったんです。1作目ではその時点で一番集積度の高い色を8秒ごとに確認し、その色の曲を流すというものでした。今回はそれをもっと変えたくて……。
慶野 最初、テストで3曲、市川さんに送ったんです。これをどういう組み合わせで鳴らしても大丈夫なように作りましたと伝えたら、すごくおもしろがってくれて。だったら7曲いっぺんに鳴らせるように作りましょうという話になりました。
市川 最初は「基本的に1色ぶんの音が鳴ってて、ゲーム中にすごいことが起こると7色ぶん全部鳴る、というのはどうだろう」と考えました。
慶野 「何かめでたいことがあったときに全部鳴るようにしましょう」と言われたんですよ(笑)。
市川 どうなるとめでたくなるのかは何も考えていなかったのですが(笑)。でもそれは何とかしなくてはならないと思って……。それで何かアイディアが浮かぶかもしれないと思って、画面の集積度がわかるパラメーターを表示させてみたんです。
それを見ているうちに、1番集まっている色の音が一番大きくなって、2番目がそれよりちょっと小さい、3番目がさらに……としてはどうだろうというアイディアが浮かびました。集積度の順番で各色が奏でるBGMの音量が変わるので、1つ順番が入れ替わるだけでかなり印象が変わります。127通りあるので、同じ鳴り方をする場面にそう何度も出会えないと思います。
早速この仕様で慶野さんに聴いてもらったら、「これはおもしろいわね」となって、ようやく現在の仕様に落ち着いた感じです。
慶野 7音いっぺんに鳴らすことになったからには、7音同時に鳴って協和するように、なおかつ1つずつを特徴的に、誰でも他の色の音と判別ができるものにしました。
市川 今回はプログラム作業もそれほど大きな負荷がかかっていたわけではないので、ゲームをおもしろくするためにはどうしたらいいかという時間をしっかり作ることができました。慶野さんとのやりとりでも、こちらが投げれば必ず何かヒントになるようなことを返していただけていましたし。
慶野 どういう順番で曲を作ったかというと、最初に赤色のベースラインを作って、次に主旋律として黄色のスティールパンのメロディー、それからコードを紫色のパッドシンセで、その後に対旋律を青色のマリンバ、内声に緑色のオーボエとオレンジ色のホルンを加えて、最後に水色のストリングスのピチカートを入れました。
1 赤 ベース
2 黄 スティールパン 主旋律
3 紫 パッドシンセ コード
4 青 マリンバ 対旋律
5 緑 オーボエ 内声
6 橙 ホルン 内声
7 水 ストリングスピチカート 装飾
本タイトル全体の作曲の順番で言うと、一番最初にタイトル曲を作り始めていたのですが、BGMのサンプルを3曲作って市川さんとやりとりを始めたことで、先にこちらを仕上げることにしました。
そのあとはマインドウェアさんのYouTube配信で公開するためにレトロバージョンのタイトル曲だけ作って、あとは1作目から追加されたジングルやSE、ネームエントリー、エンディング&スタッフロール……と仕上げていき、モダンバージョンを完成させた後にレトロバージョンの各曲とジングル、SEを作りました。
── 今回はレトロバージョンがあるというのは、これは市川さんからのオーダーですよね?
市川 そうです。私からのおねだりです(笑)。だって慶野さんが書いてくださるというのであれば、レト
ロバージョン……つまりナムコ時代によく使っていたアーケード基板の音源「C30」で聴きたいじゃないですか。『2』の発注時にすぐお願いしました。
『1』のときから「C30バージョンのBGMはないのでしょうか?」とリクエストがあったんです。それは当然と言えば当然ですよね。これは多くの方が期待されているなということで、今回は搭載しよう、と。
慶野 タイトル曲だけは「さあ、レトロバージョンが始まるぞ!」という雰囲気を盛り上げたかったので、モダンバージョンとは別の曲を作りました。他の音はモダンバージョンのアレンジです。C30を基板で鳴らすのとは違うことも多く、Kamata(KORGのシンセサイザーガジェット)は初体験だったので、試行錯誤しながらの作業でした。
市川 ただ見ているだけのモードもあります。BASICモードについては一定時間操作していないとUIが消えて、スクリーンセーバーのような環境アプリとして見ているだけ、聴いているだけにすることもできるんです。時間制限がないゲームなので、そのままずっとつけっぱなしでもいいですしね。
シリーズとして続いていけば、音に合わせて操作するような遊びを入れてもいいかもしれないですしね。新ジャンルゆえにまだまだ発展性があるんです。
── 少し話はズレますが……。慶野さんの最近の活動についてひとつお聞きしたいことがあります。
慶野 ニューヨークを拠点にした、日本人女性奏者で構成されたクラリネットアンサンブル「NYリコリッシュアンサンブル」のCD「わらべ歌リミックス」(PENCD-0002)に収録の「船場山幻想~狸娘恋のドリブル~」という曲のことですね。このメンバーのひとりが高校の後輩で、たまたまお話をいただいたんです。作品を公募するから先輩もぜひ!と。これも何かのご縁だと思って書き上げたら、たくさん集まった中から選ばれて収録していただきました。NYリコリッシュアンサンブルは、個々のメンバーが現代音楽シーンで活躍するスキルフルな演奏家ですので、彼女たちの演奏は何を聴いてもおもしろいんです。
── 「あんだがたどこさ」をリミックスの素材にしよう!というのは、どのような経緯で選んだのでしょうか?
慶野 作品公募の際に、日本のわらべ歌や民謡、愛唱歌をモチーフにすることが条件になっていました。ところで、この曲、何拍子だと思います?
一同 ……!?!?!?!
慶野 考え出したらこんな難しい曲を、小さい子が普通に歌って鞠をついているんですよ。日本人ってそういうリズム感を持ってるんです。こういうリズム、日本人にはとても馴染みがあるんですよね。それを活かしたいと思って、リズムだけを抽出しました。
── 演奏で聴くと不思議な雰囲気になりますね。
市川 『デンシライフ』1作目のCDのときにリミックスで参加してくれた20代のアレンジャーの方が、ネームエントリー曲を聴いて7拍子であるこということにすぐ気が付いたんです。「これはすごくおもしろい曲だ!」と。若い世代にも確実にすごい曲だとわかるんですよ。
慶野 複合拍子が好きで……。『パックランド』のネームエントリーは何拍子だかわかります? あれは14拍子なんです。
一同 14!?!?!?
慶野 西洋音楽の理論で五線譜に書こうとするから複雑に思えてしまうんです。アラブやインドなど世界中のいろんな地域に、複雑な拍子の音楽がたくさんあります。私の友だちのタップダンサー、普通に日本人女性ですが、彼女は7拍子が一番カラダにしっくりくると言ってました。
実は今ちょうど、フルートアンサンブルのための作品の楽譜の出版を準備しているところなんです。「正多面体たちの踊り」という曲で、ピッコロ2、フルート2、アルトフルート2、バスフルート2の編成のこの曲、基本が13拍子なんですよ。旋律を担当するピッコロとフルートは{4+3}+{2+2+2}、伴奏を担当するアルトフルートとバスフルートは{3+4}+{3+3}でできています。アマチュアアンサンブルの方たちが初演してくださいました。楽しい曲です。風の音ミュージックパブリッシングから2024年12月発売予定(商品番号:KFLE-001)です。
── 『デンシライフ2』の音楽を作るにあたって、一番苦労した点とお気に入りの曲を教えてください。
慶野 やはりプレイ中のBGMが一番難しく、それだけにおもしろい作業でした。今まで学んできたことを活かし、ポリフォニックな技法と和声的な技法を活用しました。
お気に入りの曲は、とのご質問について。どの曲もそれぞれの状況に最もふさわしい曲として仕上げていますから、私自身でどれかひとつを選ぶことはしません。プレイヤーの方が選んでいただければと思います。楽しんでプレイしてください♪
デンシライフ2の公式ページは、こちら。