SNS時代の“都市伝説”で本当に恐ろしいものとは一体なにか。ビジュアル・サウンド・ストーリー、いずれもハイレベルな良質アドベンチャー『都市伝説解体センター』

  • 記事タイトル
    SNS時代の“都市伝説”で本当に恐ろしいものとは一体なにか。ビジュアル・サウンド・ストーリー、いずれもハイレベルな良質アドベンチャー『都市伝説解体センター』
  • 公開日
    2025年02月21日
  • 記事番号
    12534
  • ライター
    山村智美

いい感じの遊び心地
いい感じのポップさ
いい感じのカジュアルなビジュアル
いい感じの2Dドットなゲームも豊富
いい感じの重すぎない&軽すぎないゲームらしさ

『発見! インディーゲーTreasures』は、
そんな“ちょうどいい感じ”なインディーズゲームを紹介していく月イチ連載です。

今回ピックアップした1本は、こちら。

『都市伝説解体センター』!

 

タイトル:『都市伝説解体センター』
開発:Hakababunko
パブリッシャー: SHUEISHA GAMES
リリース日: 2025年2月13日
価格:1,980円
配信プラットフォーム:PC(Steam) / Nintendo Switch / PlayStation 5
 

「ねぇ、◯◯って噂、知ってる?」

ふいに誰かが口を開く。

ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。

まるで、闇の向こうから何者かがこちらを見ているような気がしてくる……。

古来より、人の噂から生まれ語り継がれてきた怪奇現象や怪異。

“都市伝説”

口裂け女、トイレの花子さん、人面犬、きさらぎ駅、

怪異、呪物、異界……

そんな都市伝説は時代とともに変化して、もちろん今のネット時代にも息づいています。

むしろ、ネットの海に放たれた噂は誰かの手で歪み、膨れ上がり、やがて新たな怪異へと変貌する力を得たのかもしれません。

そんな恐ろしい都市伝説の真相を明らかにし“解体”する。

都市伝説解体センターの物語をハイクオリティなビジュアルとサウンド、コミカルさとゾクゾク感で楽しめる。

それが、今回紹介する『都市伝説解体センター』です。

『都市伝説解体センター』は、その名のとおり都市伝説の調査する依頼を受け、それを解体するという怪しげな組織の物語。

主人公の「福来あざみ」は、人の残留思念がぼんやりと視えてしまうという念視体質の女性で、かねてからその能力に悩んでいたのですが、ある日見かけたポスターをきっかけに、悩みを相談しようと「都市伝説解体センター」を訪れます。

ですが……非常に怪しげなセンター長の廻屋渉と話すうちに、話はあれよあれよと変わっていき……念視をコントロールするメガネを手に入れ、借金返済のために都市伝説解体センターで働くことに。
先輩調査員のジャスミンと共に“都市伝説を解体”していきます。

本作は純然なアドベンチャーゲーム。アクション要素はなく、会話と現場の調査によって物語が展開していきます。
難易度も非常に控えめで、攻略するというよりは、プレイで読み進めるノベルのような性質と言えます。誰でも物語を最後まで楽しめることを重視している作りですね。

まず目を引くのがビジュアル。色数を限定したピクセルアート、いわゆるドット絵で、色使いのビビッドさとモノクロームがちになる画面の印象が、物語全体に漂う不穏さを高めていきます。

キャラクターたちの表情が豊かで、特に主人公あざみは怖がりでビクビクしているのに変なところだけ度胸を出すような性格のキャラ。
一方でドライで気だるげなジャスミン、クールでミステリアスで怪しさの塊のようなセンター長の廻屋と、キャラクターの個性や相性も上手く考えられています。

随所に入る演出も非常にうまいのが本作のポイントで、ここぞというところで挿入されるカットシーンに、クライマックスでは挿入タイミングが絶妙なサウンドが盛り上げてくれる。1エピソードをプレイしたあとの味わいは、ドラマやアニメを視聴したあとのそれに近いですね。

物語や世界観で特徴的なのは、本作がインターネット上に飛び交う「SNS社会での都市伝説」を扱っているところ。ネット上でのやり取りが当たり前な現代、怪現象が話題になるのも、それについての情報が最も効率よく集められるのもネットというわけです。

依頼者が待つ現場に行く前の車内でSNSのチェックを行うのですが、依頼された事件は大きな話題に、いわゆるバズっている状況で、その事件への反応や返信・引用にも様々なものが見られます。

そんなSNSのポストの中にはちょっと事情にくわしそうな匂わせポストだったり、他の人よりも固有名詞をはっきり書いていたりなどの、「あれ? このポスト、ちょっとおかしいな」と感じるものがあり、そこから検索していくと新たな情報に行き着くことも。

インフルエンサーや有名配信者など、いわゆるネット有名人な人へのSNSでの反応が妙に生々しいというかじっとりとした湿度のあるものになっていて、全体に「SNS社会で話題になる都市伝説」とはどういうものなのか、どういう反応になっていくものなのかという変わった視点も見られます。ただ、ちょっと湿度が高めなので、好みがわかれるところもあるかもしれません。

SNSで得た情報も扱いつつ、現場で依頼人の話や怪異と遭遇したときの様子について伺い、現場を調べていくというのが大筋の流れ。

あざみはメガネをかけることではっきりと残留思念の影を視ることができるので、それが事件の真相を探る重要な鍵になります。

念視で過去の影を視て調査するというかなりゲーム的な要素ですが、一見普通の生活空間なのに予想外な影が出現してプレイヤーを驚かせたりと、日常の中にある非日常感を高めていたりと、本作の調査パートにおける大きなアクセントになっています。

メガネをかけるときの「さーて、何が視えるかなぁー? ……え?」というドキドキワクワクからの驚き感が良くて、正直これがなかったら調査パートがかなり地味になっていたのではと感じるほどです。

本作の物語を楽しむプレイヤー視点として重要になるのは、“怪異は本当に存在するのか?”という当然の疑問になっていくわけですが、それも含めて新たな都市伝説になりそうな事件の真実を解体するのが本作の醍醐味。プレイヤーはずっとそのことを頭の中で巡らせつつ、本作の物語を追っていくことになります。

それは、そもそも元々の“都市伝説とはどういうものなのか?”という話にも通じるところがあるのかもしれません。本当に怪異なのか、人ならざる存在によるものなのか。はたまた、ただの不審者目撃情報に尾ひれがついていったものなのか。それすらも定かではないけど不思議だったり異常だったりするものには違いない。それが都市伝説。

その“不確定な揺らぎ”を、本作でもまた下手に決めつけたりすることはなく、むしろ不穏さとプレイ中の物語予測を掻き立てる材料として、上手く扱っていると感じます。

事件の真相が視えてきたら、いざ解体。

センター長の廻屋が千里眼の能力を通して、あざみたちの調査を視ていた先にたどり着く、いわゆる解明パートです。

ほぼクライマックスの展開となりますが、これはここまでにプレイヤーの頭の中で輪郭がつかめている、事件の真相をはっきりと整理するようなパート。構造をしっかり把握できたあとの、まさに解体であり、エピソードを終わらせていくものとなっています。

“都市伝説”というホラーテイストの題材を、ピクセルアートのビジュアルや魅力的なキャラクターたちで親しみやすく描きつつ、ネット社会の現代における都市伝説という独自の切り口で深みを持たせた作品。

社会派な一面も持ち、SNSや噂の功罪といったテーマについて考えさせられる作品となっている。

難解すぎると感じるところはなく、プレイしながら読み進めるインタラクティブな小説・アニメ・ドラマのような側面も感じさせます。

プレイ感覚においてもほぼ不満のない仕上がりですが、

シナリオが一区切りつくと、自動的に次の話が始まってしまう仕様で、読み続けたいときには良いが、一旦止めたいときにも強制的に進行するのは不便に感じることがあるので、そこは改善してほしいところ。

また、事件に関するメモを開けるタイミングが意外に限られているので、会話中なども自由に参照できるようになると嬉しいなと感じました。

こうしたところは多少ありましたが、ビジュアル・サウンド・ストーリー・プレイのモチベーションを引き付ける力、いずれの点においても非常にレベルが高い本作。これで価格が1,980円というのは、破格と言えます。

パブリッシャーの集英社ゲームズによる大規模なプロモーションもあって、オリジナルストーリーのマンガも連載されているなど、いろいろな展開が行われているので、本作を気に入った人はそうしたところも含めて楽しむと、より深く楽しめるかもしれません。

純然かつ良質なアドベンチャーゲームであり、ストレスなく物語を追っていけるものを求めている人にオススメの1本となっています。

©Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES

こんな記事がよく読まれています

2018年04月10日

ゲームセンター聖地巡礼「1980~1990年代 新宿」前編

今回から、新企画「ゲームセンター聖地巡礼」の連載がスタートします。当研究所・所長の大堀康祐氏と、ゲームディレクターであり当研究所のライターとしても協力いただいている見城こうじ氏のお2人が、1980~1[…]