ドットイートとスクロールとピンボール
Ramtek社からリリースされた『クリーンスウィープ』がドットイートの始祖とされています。『ブレイクアウト』に代表される『ブロック崩し』のようにボールをパドルで打ち返すのですが、画面上部に設置されたブロック群を破壊するのではなく、フィールドに敷き詰められたドットをすべて消すことを目的としています。
ただし、ボールは通過した部分のドットを消していくだけなので、対象を壊す楽しみもなく何だか少し味気ない。また、残りのドットが少なくなると、狙ってドットを消すのが難しいなど、あまり遊びやすいゲームではありませんでした。
その『クリーンスウィープ』に想を得たのかは定かではありませんが、1979年にセガ(グレムリン)が『ヘッドオン』、さらにその翌年にはナムコが『パックマン』をリリースし、本格的なドットイート・ゲームの流れがアーケードゲーム業界へやって来ました。
両ゲームとも、『クリーン・スウィープ』とは違って自発的にドットを消しやすいこともあり、数多くのプレイヤーを魅了して大ヒットを飛ばしました。
しかし『パックマン』とその後継者たちこそ世界を席巻したものの、ドットイートの潮流があまり広がらなかったのも事実です。
理由は様々あるのかもしれませんが、画面がスクロールするのが当たり前になり、ゲームのフィールドが飛躍的に広がったことも、その一因だと思えます。
そもそもドットイートというのは、狭い画面をいかに効率よく利用するかを重視した考え方。それゆえ広大なフィールドとドットイートは食い合わせがあまりよろしいとは言えません。「食べ残し」がどこにあるのか知るすべがなければ、プレイするフィールドが広がるほどにストレスは増大していくことでしょう。
多くのゲーム開発者は、スクロールという新しい技術を選択しましたが、ゲームデザイナーの上田和敏氏は、まるでドットイートの可能性を模索するかのようにいくつもの同タイプのゲームを世に送り出し続けました。
デビュー作の『レディバグ』は回転ドアという目新しいフィーチャーを盛り込んだドットイートのゲームです。
そして第二作目の『Mr.Do!』は、ナムコの『ディグダグ』を真似たゲームを作るよう上司から指示されながらも敵をすべて倒すだけではなく、フィールド上のチェリーをすべて取ってもステージクリアとなるという、ドットイートの公式を踏襲しています。
その後の『ボンジャック』は、ドットイートの極北とも呼べる存在でしょう。
まず、いわゆる「メイズもの」ではないというのが新鮮です。また、高さ=重力の存在も非常に興味深いところ。いや、順序が逆で、重力があるからこそ、メイズにこだわる必要がないとの判断だったのかもしれません。
そして、すべてのドット(『ボンジャック』の場合は爆弾)が等価ではない、すなわち火のついた爆弾は得点が二倍というフィーチャーもまた素晴らしいものです。「どこからでもはじめられる一筆書き」なるアイデアは、今でも古びた感じはしないほど。
上田和敏氏がドットイートに持ち込んだもうひとつのアイデアは、「止まる」ということではないかと、個人的には思っています。
『ヘッドオン』や『パックマン』とそのフォロワー群の多くの自キャラは、壁にぶつかるまで止まらない(止まれない)ゲームが多いのですが、上田和敏氏による『レディバグ』や『Mr.Do!』の自キャラは、ジョイスティックから手を放せばいつでも立ち止まれます。
それは、上田氏が大好きなピンボールから着想を得たとされる「EXTRA」や「SPECIAL」の文字(と色)を揃えるフィーチャーを採用したがゆえの措置だったのでしょうか。
そういえば、『パックマン』の作者の岩谷徹氏も大のピンボール好き。
狭い固定画面をうまく使いまわすという発想は、もしかしたらピンボール譲りなのかもしれません。