時代を先取りしたデコカセの思想と、有志によるデコカセ保存活動
かつてはプログラムやデータは磁気テープに保存するのが主流でした。もっとも、磁気テープへのデータ保存は現在でも行われているもので、技術の進歩により大容量・転送量が高速化された専用テープストレージは、現在でもデータセンターなどで使われています。
しかし、デコカセが生まれた当時の民生品といえば、オーディオカセットをメディアとして利用するものが主流で、転送量が低く読み書きに時間がかかるものでした。機械部品も壊れやすいユーザー泣かせなもので、私も「あんなものをよく気にもならず使っていたな」と、この記事を書きながら思い出しています。
パソコンが一般的になってきた頃には、記録メディアの主流はフロッピーディスクへと移行していたので、中高年の方ですらデータ記録メディアとしての磁気テープを知らない人が多いのではないでしょうか。そんな磁気テープメディアをアーケードゲーム基板に採用したデコカセットシステムについて、その設計思想から現在行われている保存活動まで紹介しようと思います。
デコカセが誕生することとなった背景
今でこそゲームのコピーは目立たない存在となりましたが、デコカセが誕生した当時は当たり前のようにコピーが行われている状況でした。コピー基板で会社の基礎を築いた会社があるという黒歴史も、よく噂話として耳にします。
そんなコピー問題への対策としてデータイースト(*01)が考えたのがデコカセットシステム、通称「デコカセ」と呼ばれるアーケード基板です。カセットテープに暗号化して記録されているゲームプログラムやデータをマザーボードに読み込ませ、起動するためのドングル(*02)を挿すことで遊べるようになる設計でした。
当初はこれでコピー対策も万全と思われましたが、カセットテープが市販のオーディオカセットテープと同じなので、録音された音楽と同じようにダビングできてしまいました。最初に基盤を購入してしまえばドングルは所持していることになるので、オペレーター同士で違うゲームをコピーし合えたのです。
そのためデータイーストは、ミニデータカセットテープを採用したデコカセシステムをリリースすることで、再びコピー対策を講じます。このミニデータカセットテープは、1970年代後半にサーバーやシンセサイザーのデータバックアップ用に採用されていたもので、一般には入手困難なメディアでした。
コピー対策として考えられたデコカセですが、テープメディアとなったことにより、ゲームを低価格で流通できるという副次的な効果も生まれました。最初にデコカセを導入してしまえば、ゲームセンターは低価格でデータイーストの新作を提供することができるのです。そのためデコカセに良い印象を受けるゲームセンターのオペレーターは多かったようです。
機械駆動ゆえの弱点があるデコカセを後世に伝えるために
カセットテープで運用されていたため機械部品が多く、テープデッキ部のトラブルは当時からよくありました。それは、経年劣化や経年変化によって近年ではさらに顕著となっており、現存する基板で正常動作するものは激減しています。このままではデコカセでリリースされたゲームをオリジナルの環境でプレイできなくなるという危惧もあり、一部の有志により修理、データバックアップ、メディアの置き換えなど、さまざまな保存への取り組みが行われているようです。
2011年には(*03)ゲーム保存協会のルドン・ジョゼフ理事長が中心となり、テープデッキの物理的な修理を始めています。各種代替パーツを作成・入手しているそうで、劣化してしまったカセットテープについても、未使用のブランクカセットにデータを移してリマスタリングできる体制にあるとのこと。ルドン氏のTwitterによれば、パーツ代のみ実費で無償修理する相談を受けているそうですから、故障してしまったデコカセ基盤を所有している方は相談してみるといいかもしれませんね。
また、一部の愛好者の間ではテープデッキをEPROM基板へ置き換えるといった保存活動の研究が行われているようです。
同様に、名古屋でアーケードゲーム基板の販売を行っている「いろいろや ひげねこ堂」では、デコカセのテープデータをSDカードへメディアコンバートし、ゲームを起動させる「凸SDメディアコンバータ」(販売価格:4万6,000円)の製作・販売を行っています。SDカード化するということで、メディアの入手が容易で扱いやすくなることから、完動品のデコカセを所持している人には現状で一番おすすめできる改造方法だと思います。メディアコンバート時にはデコカセ本体のテープデッキからSDカードへデータを取り込むので、テープデッキが完動するうちに入手しておくとよいでしょう。
時代を先取りしすぎたシステム
「ヘンなゲームならまかせとけ!」と自称していたデータイーストらしく、デコカセも当時としては相当ユニークな存在だったと思います。まだゲームデータが小さかった時代とはいえ、テープメディアのローディングは時間がかかり、機械駆動ゆえのデッキ故障が目立つシステムでしたが、その設計思想は決して間違ったものではありません。
その後、各社からフロッピーディスク、CD-ROMやDVD-ROM、ハードディスクでアーケードゲームが供給されるようになることを考えれば、データイーストの先見性を評価できるのではないでしょうか。ニッチな製品ジャンルゆえに補修や保存には困難が多いことも確かですが、ぜひとも有志の力で1台でも多く後世へ残すことができるよう期待したいと思います。
※修理・改造・バックアップに関する見解はライター個人のものです。
脚注
↑01 | データイースト:1970年代後半から2000年初頭まで活動していたゲームメーカー。愛称は英文社名略称の「DECO(デコ)」。リリースしたゲームは、バカゲーか格好よさをとことん追求した内容かのどちらかで、その両極端さに惹かれるファンが多かった。ピンボールゲームメーカーの大手でもあった。 |
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↑02 | ドングル:アプリケーションを起動させるために用いる鍵のようなもの。ほとんどの場合、小さな装置になっており、これをコンピューターに接続することでアプリケーションの起動が可能になる。デコカセではその仕組をマザーボードに採用していた。 |
↑03 | ゲーム保存協会:パソコン、コンシューマー、アーケードなどプラットフォームを問わずレトロコンピューターゲームの保存と継承を目指して活動するNPO法人。 |