ゲームセンターの歴史が凝縮されたアミューズメントフィールドBAYON!
目次
東武東上線「ふじみ野」駅の西口から徒歩約5分、複合施設「LCモールうれし野」の2階にあるゲームセンター「アミューズメントフィールド BAYON」(以下「バイヨン」)。別記事で紹介した「アミューズメントフィールドAX(アクス)」(以下「アクス」)の本店であり、「シングルマシンの聖地」を自称している。
その言葉に疑いの余地はなく、バイヨン店内に入ると、とにかくメダルゲーム機の圧倒的な数とそのラインナップの多彩さに驚かされる。この他、最新ビデオゲーム、オールドゲーム、ピンボールなど、あらゆるジャンル、幅広い年代のゲーム筐体が多数稼働している。
現在の形になるまでには、バイヨンのスタッフによる数々の試行錯誤があった。スタッフがこれまでに形作ってきたバイヨンの歴史をたどりながら、同店の魅力に迫っていきたい。
バイヨン開店~聖地を名乗るまで
バイヨンの運営会社、スターアトラクターが所属するトリックスターグループは、かつて首都圏で複数のゲームセンターを経営していた。最大で10軒ほどあったこれらの店舗は、他のゲームセンターと比較しても特に際立った特色がない「よくあるゲームセンター」だった。
今世紀に入って以降、各店舗の業績に陰りが見え始めた。同グループでは、ゲームセンター以外のビジネスも行っていたことから、それらの店舗は場所によってそれぞれ異なる別の業態へと転換、ゲームセンターとしての営業を取りやめていった。
しかし、グループとしては決してゲームセンターのビジネスをやめる意向はなく、持っている営業ノウハウとリソースを集約。オープニングスタッフを集め、新たに旗艦店を作る計画がスタートする。
準備段階では店の特徴を決めるため、スタッフがさまざまな検討を重ねた。このとき多かったのが、「ゲームセンターの主軸はメダルゲームだ」という意見だ。実は、オープニングスタッフには旧シグマ(*01)の出身者が複数名おり、彼らの意見を中心にして計画が進んだことで、新店はメダルゲーム中心の大型店としてスタートする。
店名は、カンボジアの城砦都市遺跡、アンコール・トムにある「バイヨン寺院」から名付けられた。このネーミングには、未開の地に分け入り、ジャングルの中に遺跡を発見したときのようなワクワク感を、店内に入った瞬間に感じてほしいという希望が込められている。
こうして2003年10月にオープンしたバイヨンは、本来の目論見どおり、メダルゲーム目当ての客が集まるようになった。バイヨンとしては、人気のメダルゲーム機を集めた、あくまで「メダルゲーム主軸の店」のつもりだったのだが、そのうち客の間で「この店は特別だ」「聖地だ」という声が聞かれるようになった。
オープニングスタッフが人気機種だと判断して集めた機種とその数が、他店とは大きく違うラインナップとなっており、結果として「普通ではない店」となってしまっていたそうだ。
それに気づいたスタッフは、2014年のホームページリニューアルのタイミングで、バイヨンを「シングルマシンの聖地」と位置づけ、積極的に情報を発信していく方針を決めた。
バイヨンウェブとバイヨンTV
リニューアル後のホームページでは、スタッフによるブログがスタートした。このブログで頻繁に登場するのがスタッフ「Nomu」こと野村裕行氏と、スタッフ「usaru3」こと宇留野勇登氏だ。野村氏はAM統括でアクスと兼任し、宇留野氏はバイヨン専任で統括している。今回の取材では宇留野氏にご対応いただいた。
宇留野氏は1982年生まれの35歳。アクス店長の西邑淳太郎(にしむら・じゅんたろう)氏と同期入社の同い年だ。好きなメダルゲームは『ボーナススピンジョーカーズダブル』(1997年/シグマ)、ビデオゲームでは『KOF』シリーズ(1994年~/SNK他)、『餓狼伝説』シリーズ(1991年~/SNK他)、ケイブ社の各種シューティングゲーム、『レイディアントシルバーガン』(1998年/トレジャー開発、セガ販売)など。
2015年3月には、スタッフが出演、店内で撮影した動画配信番組「バイヨンTV」もスタート。こちらではメダルゲームの紹介が主だが、その他スタッフ同士のメダルゲーム対決企画や店舗大会、視聴者プレゼントなどさまざまな企画も行っており、毎月2回ほど、これまで約70回配信をしている。
また、一般客が店内で撮影したメダルゲームのプレイ動画を、バイヨン店名入りで公開しているケースもある。こうした公式・非公式の動画や、バイヨンウェブ上で発信した情報をもとに来店する客も多く、ネット活用が集客においてかなりプラスに働いている。なかには、動画を見て神奈川からメダルゲームを遊びに来た10代のプレイヤーもいたそうだ。
2018年1月31日放送のTV番組『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)で、『サイクロンフィーバー』(2000年/コナミ)を稼働させている数少ないゲームセンターということで、番組ロケに協力したことがあった。この時も、「出演者が昔遊んだ機種」として『サイクロンフィーバー』を番組で取り上げる話があり、そのために制作会社スタッフが同機種をネットで探しているうちに、バイヨンウェブにたどり着いたことがきっかけだった。
メダルゲームエリア
バイヨンの主軸であるこのエリアは、さらに以下3つのエリアに分けられている。
・Hope Ground(ホープグラウンド)
・Jungle Of Jewel(ジャングル・オブ・ジュエル)
・Desolate(デソレイト)
「Desolate」エリアだけは18歳未満入場不可となっている。10クレジットのゴールドメダル、1000クレジットのプレミアメダルのみが使用可能で、ハイリスク・ハイリターンな、ここバイヨンならではのエリアだ。
各エリアのラインナップは豊富で、100台を超すシングルマシン(ポーカー、ビデオスロット、メカニカルスロット他)、各種プッシャー機、ダービー機などが所狭しと並んでいる。
その中には、全国での稼働台数が極端に少ない希少機種もあるとのことで、そういったマシンを目当てに遠方からの来店客も多い。
注目は、3台並んだICビンゴ機『ELDORADO』『CHEROKEE ROSE』『PASTEL SHOWER』(いずれも稼働年不明/シグマ)だ。80年代に人気を博したこれらの機種は、そのゲーム性からいまだファンも多い。
また、『GI LEADING SIRE』(1999/コナミ)が現役で稼働している店は、バイヨン以外にほとんどない。今では珍しい、ミニチュアの馬がフィールドを走るタイプのダービー機だ。
これら古いメダル機の保守サービスはメーカーでは行っていないため、主に宇留野氏が自らメンテナンスを行っている。部品の調達は常に困難で、代用品を探したりしつつ「諦めずになんとかする」をモットーとして修理をしているそうだ。
懐かしい機種が揃うMA(Memories of the Arcade)エリア
バイヨンのオープン当初、ここMAエリアのスペースはビリヤードコーナーとして営業していた。しかし、専有面積に対しての売り上げという観点からすると苦戦しており、テコ入れを行うこととなった。
このスペースの活用方法にはいろいろな選択肢があったが、バイヨンに運営ノウハウがあり、店舗として目的客を呼ぶことができるジャンルを考えた結果、オールドゲームの導入に行き着いた。検討にあたっては、「高田馬場ゲーセン ミカド」(*02)の業態も参考にしたとのことだ。
オールドゲーム導入にあたっては、基板ショップでもあるBEEP秋葉原(*03)に協力を仰いだ。元々はAOU(全日本アミューズメント施設営業者協会連合会)の会合で野村氏とBEEP担当者に繋がりがあったことと、BEEP運営のコレクション買取店「三月うさぎの森」が、バイヨンと同じ埼玉県にあったことなどがきっかけだ。
稼働タイトルを決めるにあたり、アンケートBOXを設置してプレイヤーの意見を募った上で基板を選び、稼働準備を進めた。新たに設置する筐体は、ブラストシティ(*04)とネットシティ(*05)に統一した。こうすることでメンテナンスが格段にやりやすくなる。
こうして、MAエリアは2016年4月にオープンした。このときの様子を、野村氏は「ここまでの道のり本当に長かった…」とブログにと綴っている。
現在、MAエリアにはバイヨン所有の基板と、BEEP所有の基板が混在している。バイヨン所有の基板は宇留野氏がチョイスしており、専用の予算を組んで少しずつ購入を進めている。BEEP所有の基板は大体1カ月ごとに入れ替えており、いろいろなオールドゲームが楽しめるようになっている。また、古いゲームの遊び方が分からないプレイヤーのため、「MAナビ」というコーナーを作り、パンフレットやコマンド表を用意している。
また、毎週末金曜には対戦格闘ゲームの一部をフリープレイとしており、近隣の対戦格闘ゲームプレイヤーの呼び込みに成功している。最新の稼働タイトルに関しては、バイヨンウェブの「その他のコーナー」を参考にしてほしい。
希少価値の高いPinball(ピンボール)エリア
MAエリア同様に、かつてはダーツ台を置いていたスペースをリニューアルするにあたって、ピンボール機を置くことにした。メダルゲームの運用ノウハウでは他店に負けないバイヨンスタッフだが、ピンボールはまた違った歴史で進化してきたマシンであるため、簡単に導入できるものではない。メダル機やビデオゲームと同様に、ピンボール機運用には独特のノウハウが必要だ
このため、新たに設置する場合は台を購入するのではなく、専門の業者からのリースという形が無難かつ一般的だ。バイヨンでは、マインドウェア(*06)に協力を仰ぎ、2017年3月より7台のピンボールを置くコーナーをオープンした。関東でこれだけの台数を稼働させている店舗は少ないため、ピンボールだけを目的に遊びに訪れる客も多い。
メダルゲームを遊ぶ層の中には、ピンボールにも手を出すプレイヤーもいるようだ。映画をモチーフにした台も多いため、興味を惹かれて流行りのInstagram向けの写真を撮影する客も多い。
ピンボールは若いプレイヤーには馴染みが薄く、そもそも遊び方が分からない人も多いため、これまでにも何度かマインドウェアの市川幹人社長による初心者講習会も開催された。
Pinballエリアで稼働中の台についても、MAエリアと同様にバイヨンウェブを見ると分かる。ただし、ピンボールはその構造上故障も多いため、目当ての台をプレイしにバイヨンに向かう場合は、念のため店に稼働状況を問い合わせたほうがいいかもしれない。
ゲームセンターの歴史の縮図でもあるバイヨン
1980年台から今に至るまでのゲームセンターの変遷を語ることは簡単ではない。それぞれの店舗では、各時代に大小のビデオゲーム、ピンボール、各種メダルゲーム、プライズ機など、さまざまなジャンルのゲーム筐体をフロアに置き、訪れるプレイヤーを奪い合っていた。
ここバイヨンでは、それらすべての時代、多彩なジャンルのゲームがひとつのフロアに凝縮されており、来店するだけでゲームセンターの歴史を楽しむことができる貴重な場所となっている。
もちろん目当ての機種を遊びに行くのもよいが、バイヨンに置かれているゲーム機は、とにかくバリエーションが幅広い。訪れることで、まだ見ぬジャンルの新たな遊びを発見できるかもしれない。
外山雄一
脚注
↑01 | シグマ社:インベーダーブーム以前の1970年代から、新宿のゲームセンター「ゲームファンタジア・ミラノ」を中心にメダルゲーム場を多数運営していた企業。その後、合併を経てアドアーズに社名を変更、現在は持株会社であるKeyHolderとなっている。 |
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↑02 | 高田馬場ゲーセン ミカド:2009年4月より高田馬場駅前で営業中のゲームセンター。新作ゲームがほとんど稼働しておらず、旧作中心のラインナップにもかかわらず、独自のイベント開催や動画配信企画により、高い集客力を誇る「伝説のゲーセン」。公式サイト |
↑03 | BEEP秋葉原 :プラットフォームを問わず、各種レトロゲームにかかわるハード・ソフトなどの販売・買取を行うゲームショップ。公式サイト |
↑04 | ブラストシティ:セガが1996年に発売したJAMMA仕様の汎用アーケード筐体 |
↑05 | ネットシティ:セガが1999年に発売したJVS仕様の汎用アーケード筐体 |
↑06 | マインドウェア:ピンボールの開発、レンタル、リース、販売と、ゲームソフトやアプリの開発・運営・販売を行っている会社。公式サイト |