進化推論~『ダライアス』に描いた音の世界 中編

前回は『ダライアス』のメインテーマであるCHAOSを中心に、『ダライアス』の音楽による「立体的な演出」について記した。
今回は続編の『ダライアスII』を取り上げ、さらに楽曲群そのものに重要なキーを与えた「音」について触れていきたい。ちなみに『ダライアスII』は、私の名前が初めてスタッフロールに記された、とても思い出深いタイトルでもある。

進化推論「前編」は、こちら

謎のラジオノイズ

1989年に発表された『ダライアスII』。
前作の三画面筐体とは別に、新規で二画面筐体が登場したタイトルであった。
私も未熟ながらも効果音周りを中心にサウンド開発に加わることとなり、とても忙しい日々を送った。

そんな中、何とか確保した盆休みが明けて初出社した私を待っていたのは、小倉さんの「ここに座れ」の一言だった。
私が知らない間に何かやらかしてしまったのを怒っているのだろうか? いや、そうではなかった。
ここは小倉さんが『ダライアスII』の曲データを作り続けている開発ブース。左右に通称「ZUNTATAスピーカー」と呼ばれる、汎用筐体などに使われている12cmスピーカーのボックス、PC-9801に繋がれたサウンド開発用基板。

そう、小倉さんは日々の格闘の末にようやく完成させた『ダライアスII』のメインテーマを、入社二年目の若造に披露してくださる、というのだった。
開発基板のボリュームを3時に合わせ(最大ボリュームの少し手前、ここで音割れをしない程度にデータの音量調整をするのが当時のルール)、キーボードでサウンドコードを入力する。そして流れて来たのは……。

数ヶ月時間を遡ろう。
『ダライアスII』で最初に開発基板から鳴りだしたのは、太陽シーンBGMのOLGA BREEZEのイントロに登場するシーケンスフレーズと記憶している。
この後、かの有名な「ツナサシミ」などの音声が加わり、早い時期にゲームに組み込まれた。

ここでまず私が驚いたのは、この曲がメジャー・キー、すなわち長調(F#)であったということ。
前作の一面BGMのCAPTAIN NEOが短調(F#m)だったので、同じシリーズと考えると近しい路線を踏襲するのかと予想していのだが……なるほど、今度の『ダライアス』は明るい路線の曲なのかと思っていた矢先、次に小倉さんが作り始めたMUSE VALLEYに度肝を抜かれたのである。

神秘的なFM音源による女性コーラス、時計の針を刻むかのような静かなリズム。
とてもシューティングゲームの曲とは思えない美しい流れ。
小倉さんは、水星というリアルな惑星ではなく「水の星」として解釈したのだ。

初めて通しで聴いたときには、これはさすがにゲームに合わないのではないかと危惧したのだが、ショット音やザコ爆発音といった効果音がしっかりとシューティングの音場を形成していたため、意外にも曲の静けさが気にならない。
しかも最初とは打って変わって暗めの色調が続く水星シーンには、実はとても相性が良い曲だったのだ(この手法は、後に私が担当した『グリッドシーカー』でも参考にさせていただいた)。

『ダライアスII』

小倉さんが『ダライアスII』の中で使うサンプリング音色は、まず小倉さんがその音をシンセ等で鳴らし、それを私が直接「収集装置」と呼ばれる大きな黒い箱型の機材で録音し、そこからデータをPC側に取り出してROM化することで、ようやく開発基板上で鳴らすことが可能となるものだった。

私はひたすらに次はこの音、次はこの音とその詳細も聞かされぬままに録音を続けた。その中に、一体何に使うのか想像もつかないような、ラジオのノイズらしき「ガーッ」という音が幾つか入っていた。

ゲームでは最初にMUSE VALLEYで登場するこの音、正直楽曲の展開上必要なものとは思えないし、ましてゲーム中にそれと合致するような演出もない。
通常、作曲作業でパートを増やしていくときには「このパートを入れてみようかな……うーん違う、やっぱり別の音がいいかな」と試行錯誤するものだ。
が、小倉さんがこの曲を完成させるまでにこの「ガーッ」を外すという場面にはお目にかかることはなかった(挿入する箇所は変えていたかも知れないが)。

次にこの「ガーッ」が登場するのは、地球シーンのPlanet Blueである。
『ダライアスII』は太陽系を舞台としたゲームでもあったので、地球シーンはどんなカッコいい曲が来るのだろう? とワクワクしたものだった。
ところが、短いイントロに「ガーッ」が挿入された後に流れて来たのは、自分の予想とは大きくかけ離れた、どちらかといえばコミカルな響きで、最初は何でこんな曲にしちゃったんだろうと疑問に思った。
しかし、この曲を何度も聴いていくと……最初のフレーズは電子回路のごとく規則正しく働き続ける人々と、その労働によって作り上げられていく都市や文明、曲の後半に移るとそれは大きな視点に変わり、このつまらない世界こそ未来の地球だよと言わんばかりに提示している……こんな風に聴こえてくるから不思議なものである。

そういえば『ダライアスII』のリリースされた1989年の日本は、土地ころがしにリゾート開発、多くの人々が金に踊ったバブル時代真っ盛り。
あるいは社会風刺の一面があったのだろう、後の小倉さん曰く「地球ってこんなものでしょ?」。

自分が想像していた“母なる地球”などというありがたそうなイメージではない、まったく違う独自の角度からの解釈だったのだ(風刺という視点は、『ダライアス外伝』のFAKEや『ダライアスバースト』のHello 31337にも通ずるものがある)。
当時よりずっと不安な今の世の中でPlanet Blueが書かれていたとしたら、一体どんなものが描かれていたのだろう? と想像してしまいたくなる。

パパ!

再び、私が座ったあの作業場に話を戻そう。
『ダライアスII』のメインテーマと称されたその曲は木星シーンのもの。
波の音と共にまどろむかのような安らぎ、それは突如激しいリズムによってかき消される。
高揚の後に始まる鼓動、時を刻む針の音、そこに生まれ出る新たな命が「Papa!」と叫ぶ。
次の瞬間、光が一気に溢れ出し、世界のすべてがその色を祝福へと変えていく……。
ああ、なんて美しいメロディだろう!

5分にも渡るこの大曲を聴き終えたとき、私はただただ圧倒されていた。
それと同時に、あのサンプリング音色はこんな場面の、こんな描写のために用意されていたのかという感慨にも包まれていた(Fu!というコーラスや時計の音、鳥のさえずり、さらにはCAPTAIN NEOアレンジバージョンからサンプリングした音色までも)。

もちろん、この曲最大のキーはあの「Papa!」。
小倉さんはこの頃誕生した娘さんの「パパ」という声を録音し、それをゲームの中に入れ込むということで、この曲のテーマ「超新星誕生」というイメージを具現化したのである。
これこそ『ダライアスII』のメインテーマ、木星シーンの「say PaPa」であったのだ。

……ここで冷静に考えてみて欲しい。
『ダライアスII』は太陽系を舞台にしたゲームではあるが、特に生命の誕生とか、そういった類のものがストーリーに記されているわけではない。
しかし、楽曲群には確かに独自の解釈やストーリーが存在している。
ゲーム本体とはまったく別の世界観。では、これらの楽曲群はゲームに合っていないだろうか?
そんなことは決してないと私には言える。

これこそ、旧作の『ダライアス』の「CHAOS」で小倉さんが提示した立体の軸を使った、新たなる「外郭」を形成する手法。
それも、以前よりとびきり大きく飛躍して世界を一気に拡げることに成功したのだ。

一つの物体は、出来事は、見る側の視点によって様々に表情を変えていく。
そうした多面性が、『ダライアスII』というゲームの魅力を何倍にも膨らませていく。
1989年の夏の、あの雑然とした作業場。
そこで私は、ゲーム音楽の持つ可能性が新たなる段階に入った瞬間を体感したのだ。

『ダライアスII』

旋律が訴える物語

90年代後半に発表された「世代」というアルバムの中で、私は『ダライアスII』のCynthia(月シーン)と、前記のMUSE VALLEYのアレンジを担当した。
Cynthiaは「この曲をアレンジさせてください」と小倉さんに頼み込んで、完成したものをとても褒めてもらった記憶がある(月世界からの荘厳なる進軍のイメージ)。
逆にMUSE VALLEYは小倉さんからのご指名。大好きな曲ではあるけれど、原曲と違うアレンジというのが自分には当初全く想像できずにいた。
しかし作業を進めないことには仕事にならず、まずは冒頭をピアノで弾いてみる。
……とても冷たい、暗い音。光が見えない。そうだ、この曲はもともと「水の星」。そうしてビジュアルが拡がっていくと、そこからアレンジ作業が一気に進んだ。

深海で暮らす人魚が、ただ一人地上に憧れて浮上していく。
深海では見たことのない鮮やかな魚たちが躍り、こんなに楽しい場所があったのか、ならばきっと地上は楽園に違いないと水面に出た瞬間、雷鳴が鳴り響く。
何だこれは!
地上はこんな恐ろしいところだったのか!
人魚は一目散に故郷の深海へと逃げ帰っていく。そしてまた、冷たく暗い場面へと……。

スタジオでこの曲をミックスしていたとき、「なぜ曲の中でいきなり雷が鳴るの?」とエンジニアに聞かれ、曲のストーリーを説明したのだが、今一つ伝わっていないようだった(というよりも、曲にストーリーを入れ込むということ自体ピンと来ていない様子)。
しかし、雷鳴が響かなければ自分が作ったこの曲のアレンジは成立しない。
映像が、ストーリーが壊れ、この曲の存在意義が否定されてしまう。
たとえ伝わらないことがあろうとも、ここだけは守らなければならない……そうだ、これは原曲に入っていたあの「ガーッ」というラジオノイズと同じことではなかろうか?

あの「ガーッ」というラジオノイズの正体、実は最後の叫び「Papa!」に繋げるための布石であったのだ。

誕生前の胎動、まだ見ぬ愛する誰かを呼ぶ声がノイズとなって伝わり、それが誕生して同じ世界を共有した瞬間に言葉として形になる、という仕掛け。
あってもなくても楽曲としては成立する。
しかし楽曲群全体、『ダライアスII』の音楽として考えたときに、あのラジオノイズがなければ楽曲のストーリーは成立しない。
存在意義が否定され、せっかく作った「外郭」が骨抜きになってしまう。
確固たる立体軸を形成するために、それは必要不可欠なものなのだ。

『ダライアス』から『ダライアスII』へ、大きな飛躍とともに世界観は拡がった。しかしそれでも、

「シューティングゲームの音楽と、ダライアスの音楽は根本的に違う」

この解釈に私が至るまでにはまだ時間を要することになる。
『ダライアス外伝』、『Gダライアス』と作品を重ねることでこの解釈は確信へと変わっていくのだが、その続きはまた次回に。

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