D4エンタープライズ15周年記念インタビュー 「プロジェクトEGGとゲーム保存について」前編

  • 記事タイトル
    D4エンタープライズ15周年記念インタビュー 「プロジェクトEGGとゲーム保存について」前編
  • 公開日
    2019年05月17日
  • 記事番号
    1036
  • ライター
    忍者増田

PCゲームを主流としたレトロゲーム配信サービス「プロジェクトEGG」で知られるD4エンタープライズ。今年で15周年を迎え、これまで復刻したゲームタイトルは、なんと1000本以上(2019年5月現在)。『ぷよぷよ』(1991年)を世に送り出したコンパイル(*01)や日本を代表するRPG『ハイドライド』(PC/1984年)を生んだT&Eソフト(*02)など11社と譲渡契約を結び、現在1000タイトル以上の著作権を有しています。

今回は、D4エンタープライズ代表取締役の鈴木直人氏をお迎えして、同社がこれまでに歩んできた足跡を振り返るとともに、ゲーム保存の意義について、当研究所の大堀所長を交えて語っていただきました。

【聞き手】
ゲーム文化保存研究所
所長:大堀 康祐
ライター:忍者増田

メーカーからきちんと許諾を取り、過去の作品を提供したかった

▲D4エンタープライズ代表取締役・鈴木直人氏。小学5年生のころからPC-8001に触れている筋金入りのPCゲーマーでもある

――2001年に開始されたレトロゲーム配信サービス「プロジェクトEGG」が誕生した経緯をお聞かせください。

鈴木 まず、弊社はもともとボーステック (*03)より独立した法人でして、PCをプラットフォームにコンテンツを供給していました。そんな中、当時からレトロゲームに注目していて、J-PHONE (*04)やiモード(*05)にて、『ハイドライド』や『妖怪探偵ちまちま』(PC/1984年/ボーステック)というPCゲームを配信していました。

――プロジェクトEGGが誕生する前から、鈴木さんはそういった形でレトロPCゲームを配信されていたのですね。

鈴木 はい。そして日本コンピュータゲーム協会(*06)という団体に、日本ファルコム加藤正幸さん(*07)をはじめ、いろいろなゲームメーカーの方々がいらっしゃったので、その流れで、過去のコンテンツの許諾をいただけないかと相談したんです。すると皆さんから「使いたければ使っていいよ」という言葉をいただきまして。当時レトロゲームを遊ぶとき、多くのユーザーさんはエミュレーターで遊ばなければいけない状態でした。それは今でも続いているとは思うんですけど、「メーカーがちゃんと合法的にコンテンツを供給してくれれば応援します」というユーザーさんの声も、並行してあったんです。

――そんな状態だったので、鈴木さんとしては、メーカーからきちんと許諾を取って過去のコンテンツをユーザーに提供したいと考えたわけですね。

▲2001年のサイト公開時に雑誌に掲載した告知広告

鈴木 そういうことですね。幸いにも、ボーステックの近くにエミュレーターを開発された方々がおりましたので、このタイミングを逃してはいけないと思いました。フロッピーディスクやカセットテープといった記憶メディアの劣化は早いですから、ボーステックとしては、まずPCコンテンツを積極的に復刻したいと考えたのです

当時、横を見てもエミュレーターを使ってビジネスをしている会社など1社もありませんでした。エミュレーター自体、使うのもかなり覚悟がいる状態で…。そのときに、電波新聞社大橋太郎さん(*08)や、コンピュータソフトウェア著作権協会(*09)久保田裕さん(*10)に、「私たちボーステックが、過去の著作権を保護するという観点から、エミュレーターを活用した形でアプローチしても大丈夫でしょうか?」と相談させていただきました。そうしたら「全面的にバックアップする」という後ろ盾をもらえたんです。「それでは初動50タイトルほど作ってみよう」というような形で、2001年の11月にプロジェクトEGGがスタートしました

――なるほど。そのときの50タイトルの選択には、どういう基準がありましたか?

鈴木 PC-8801(*11)のエミュレーターがとても安定していたので、基本PC-8801のコンテンツを主力に集めました。メーカーさんとしては、日本ファルコムT&Eソフト呉ソフトウェア工房など、日本コンピュータゲーム協会に所属していたところが出されていたラインナップからチョイスしました。

――その後2004年に、鈴木さんはD4エンタープライズを設立されました。

鈴木 おかげさまで、2002年には西和彦さん(*12)に協力いただいて正規BIOS(*13)9も採用でき、恵まれた環境の中にあったのですけど、残念ながらボーステックがプロジェクトEGGを断念するという話になりました。そこで私が急遽D4エンタープライズを設立して、プロジェクトEGGの受け皿として独立させていただきました。

▲毎週多彩な過去の名作タイトルを配信しているプロジェクトEGG(画像:公式サイトより引用)

――現在のD4エンタープライズの業務内容について簡単にお聞かせください。

鈴木 プロジェクトEGGも含めて、エミュレーターを活用した事業ですね。直近ではバーチャルコンソール(*14)。Wiiのほうは2019年1月末で終わったんですけど、Wii Uは継続しています。そういった大手ゲームメーカーさんのところで、エミュレーターのコンテンツを供給しています。弊社は基本的に、新しいゲームを作るというメーカーではないので、このような裏方での事業をここ10年やっています。

――プロジェクトEGGには「EGG MUSIC」という企画もありますね。

鈴木 そちらはゲームミュージック関連のダウンロード配信サービスです。レトロゲームの中にはすぐれた楽曲が含まれていますし、その当時のコンポーザーの方々が再度活躍できる場を作りたいと思っていました

音楽に注力されているメーカーさんはいいのですが、当時のコンテンツに協力されていたコンポーザーの方々が埋もれていたケースもあった。そういったコンポーザーの方々に、「名前をきちんと出して、当時の楽曲を配信していきませんか?」という話でスタートさせていただきました。サービスを開始した2005年は10人ぐらいでしたが、今は100人以上のコンポーザーの方々がご協力くださっている状態です。

脚注[+]

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