コンテクストから考えてみる、ゲーセンのマーケティング(ゲーセン女子)前編

みなさんは「ゲーセン女子」を名乗るお二人をご存じだろうか。
ゲームセンター(ゲーセン)をこよなく愛し、そのゲーセン文化をもっともっと広めたいと精力的に活動なさっているOLの二人組みだ。何と、彼女らは年間330日もゲーセンに通うという(くわしくは、本記事の最後にあるプロフィールをご覧ください)。
消費税も10%となり、経営がさらに厳しくなるゲーセンも多くなる昨今。ゲーセン文化を日本中、いや世界中に広めるためにはどうしたらいいのか?
ゲーセン女子・おくむらなつこさんの考える「ゲーセンのマーケティング」について、本気で愛情たっぷりに綴っていただいた。
ゲーセンを愛するすべての方に、ぜひ!

「みんな」が読んでいたファミ通クロスレビュー

突然ですが、わたしがまだまだランドセル時代に、教室で盛り上がっていたことは何でしょうか!?

……それは、「ファミ通」のクロスレビュー(笑)。今、お読みくださっている方の中に「学生時代に参考にしてたよ~」というオトナの方も、かなりおられるのではないでしょうか。

写真は フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com) 様よりお借りしました。

教室でファミ通を真ん中に、発売日カレンダーを見て「次どれを買うか?」みんなで話し、指折り数え、お小遣いを貯める計画を立てたりしたなぁ……(先生にバレて、ファミ通を取り上げられたりとか!)。

わたしより前の世代の方だと、ファミコンの人気タイトルの発売日、販売店前に徹夜で行列したり、学校や会社を休む人が出たりし、新聞記事やテレビのエンタメではなく社会欄のニュースにまでなったことも有名ですね。

その年代の方に「この話でビールが飲める」と伺ったことがあります(笑)。

時は流れて、2019年。

現役の学生さんの中で、ファミ通のクロスレビューほどみんなの話題になるゲームの話は、すごく減りました。いやゲームでなくても、昔に比べると「みんな知ってる」「みんなやってる」は、とても少なく、もしくは規模が小さくなりました。

要因のひとつは、「情報爆発時代」を迎えたことと言われています。

総務省 平成26年版「情報通信白書」より引用。

情報爆発とは、膨大な情報が人々に浴びせられる状況を指す言葉で、特にインターネットの普及により、人々の前に表出する情報が加速度的に増大、溢れている状態のことです。

これほどの情報量が人々に押し寄せたのは人類史上初であり、わたしたちはその膨大な情報の中から「自分にとって」必要な情報を探し出すことが求められています。

つまり、情報が一本化しづらくなったということで、「社会において、共通の文脈をもつ言葉(コンテクスト)」として機能するものが、ものすごく減った」ということになります。

「コンテクスト」とは?

Wikipediaによると……

言語学におけるコンテクストとは、メッセージ(例えば1つの文)の意味、メッセージとメッセージの関係、言語が発せられた場所や時代の社会環境、言語伝達に関連するあらゆる知覚を意味し、コミュニケーションの場で使用される言葉や表現を定義付ける背景や状況そのものを指す。

例えば日本語で会話をする2者が「ママ」について話をしている時に、その2者の立場、関係性、前後の会話によって「ママ」の意味は異なる。2人が兄弟なのであれば自分達の母親についての話であろうし、クラブホステス同士の会話であれば店の女主人のことを指すであろう。このように相対的に定義が異なる言葉の場合は、コミュニケーションをとる2者の間でその関係性、背景や状況に対する認識が共有・同意されていなければ会話が成立しない。
このような、コミュニケーションを成立させる共有情報をコンテクストという。

Wikipedia より引用

……と説明されています。

例えば「35歳以上の日本人特有のコンテクスト」だと……。

「高校サッカー」という言葉で「1998年の東福岡対帝京の雪の決勝戦を観戦した人」なら本山雅志選手と中田浩二選手の対決をイメージするかもしれません。

また「甲子園」という言葉の場合、「松坂世代」の方なら、横浜高校対PL学園の再試合というイメージを持つ人も少なくないかもと思います。

でも違う年代層だと同じ言葉であっても全く違う試合を想像する人が増えます。

このように「共感」の根底にあるのは、その時代、その国で生きていた人が味わっている「コンテクスト」が共有されていることです。

当然、「同時期に同じ地域で同じ学年だった人」というように共通点が多いほうが、コンテクストが揃う可能性が高くなります。

初めて会った人同士であっても、「体験談に裏打ちされる物語性がある共通言語(コンテクスト)」で盛り上がった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。

出身、夢中になった当時の野球の話、中学時代にハマったアイドル、プレイしていたゲームなどが揃ったら楽しいものですよね。

こういった共通の体験を持つ人の集まりを「コミュニティ」(同じ趣味や目的の下に形成される集まり、共同体)と呼ぶこともあるくらいです。

ところが現在は情報爆発時代。

「大勢で共通の体験」をすることが、とても減りました。

一人ひとりが自分の趣味、嗜好にあわせて情報を選択し、自分の価値観にそった体験をします。

「みんなじゃない」ということができます。

ワールドカップやオリンピックくらい大規模なものであればともかく、日々の教室、日々の通勤、日々の情報取得の中で、以前のような「ファミ通のクロスレビュー」や「ドラクエの発売日」「××年の甲子園の試合」ほどの共通体験をすることが、とても少なくなりました。

「コンテクスト」が細分化したのです。

ゲーセンのコンテクストって何だろう

ゲーセンは、各メーカーの強力なコンテンツ力(ゲームタイトル)によって、集客していた面があります。

強力なコンテンツは、「みんながやっている」「みんなが話している」という立ち位置に立てました。

これは強力な一本の「コンテクスト」でした。

ですが、情報爆発によって、それはとても少なくなりました。

ゲームというジャンルだけでもリリースされるタイトルが増え、新リリース(新発売)だけではなく発売後の運用に重きを置いた「情報」が日々作られ、それらすべての情報が毎日スマホの画面で手に入れることができ、ひとはその中で自分がほしい情報のみをフォローし、更にはフォローした情報であっても親指を止めるには至らないほど大量に、情報は上から流れてきます。

その中では、人々が徹夜で列をなしたほどの強烈なコンテンツ(ゲームタイトル)、また「徹夜で列をなした、という強靭なコンテクスト(行動)」は、もはや生まれなくなったといっても良いかもしれません。

だから、ゲーセンもゲームタイトル「以外のコンテクスト」が必要な時代です。

写真は フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com) 様よりお借りしました。

ゲーセンのプレイヤーではない多くの人たちが、日々の教室、日々の通勤、日々の情報取得の中で「ゲーセンの情報」に気づくには、一つの強力なコンテクストではなく「少数のコンテクストだが、何回も何回も複数回、ゲーセンを表すコンテクストに触れ続ける」状態が必要です。

小さなコンテクストであっても、別々のコミュニティから違うコンテクストとして何回も何回も流れてきたら、目に入ります。

さらに、その人が属する小さな複数のコミュニティの中で(そして当然同じコミュニティ内であればコンテクストが通じるため)ゲーセンの情報を「理解できる言葉」で受けることになります。

ところが(単純にわたしの感覚としてですが)、ゲーセンは非常に狭いコンテクストしか持っていないように感じます。

そしてその狭いコンテクストは、ちょっとしたネガティブワードだったりします。

わかりやすく言うと、ごく一般的に「ゲーセンといえば?」と質問した場合、「暗い」「うるさい」「タバコくさい」というようなワードで返され、そしてそれだけで終わるでしょう。

さらに、ゲーセンはその歴史の中で、新しいコンテクストを作れていない、と考えています。

現役のゲーセン客であっても、「暗い」「うるさい」「タバコくさい」を超えるコンテクストは思いつかない、という方もおられるのではないでしょうか。

コンテンツを集めて置く「場」であるゲーセンが、「場」として、コンテクストを生み出せていない、更新できていないのです。

ひょっとすると、スターバックスという一つのチェーン店のほうが「ゲーセンという文化の総称」よりも(ネガティブもポジティブも含めて)コンテクストの種類を持っているかもしれません。

スターバックスのコンテクストは、一つ一つの粒は小さくとも複数あることで、結果いろいろな人に届く言葉で語られ、社会全体に届くようになった、と思う事例のひとつです。

次回予告

コミュニケーションを成立するために必要な共通の情報や認識。

今のゲーセンに足りないものは、そういった「コンテクスト」ではないか、とおくむらさんは語ります。

では、「コンテクスト」を獲得するための手段には、どういった方法があるのでしょうか?

次回は、ファンマーケティングを支援する会社にお勤めのおくむらなつこさんならではの視点で、コーヒーチェーン店のスターバックスや本屋を例にしたコンテクストの創出について綴っていただく予定です。

ご期待ください。

おくむら なつこ / ゲーセン女子(Game Center Girl)

『「好き」がある人生は楽しい。「好き」を持つ人は強い。「好き」と言える毎日は嬉しい。』

ファンマーケティング支援会社の一員として研鑽を積む一方、「330日ゲーセンに通うOL」として、クローズアップ現代+、マツコの知らない世界、お願い!ランキング他多数に出演。

ゲームセンターを専門にマーケティング/PR支援するGCGを立ち上げ。アーケードゲームやゲーセン全般を紹介しながら文化としての「ゲーセン」を広めるべく活動、ゲーセン文化づくりに取り組んでいる。

注目されるファンコミュニティやe-Sportシーンなどを背景とした需要の高まりを受け、2019年よりアーケードゲーム機シェアリングサービス「アケシェア」を開始。

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