「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第一回 ネームレジスト
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを解説していきます。
今回取り上げるテーマは「ネームレジスト」。
プレイヤーがハイスコアを出したときに、一種のご褒美として名前を入力・表示できるようなる機能のことですが、このネームレジストの存在によって、ゲームのおもしろさはいったいどのように変わっていったのでしょうか?
写真提供: 鴫原盛之氏
「ゲームニクス」とは?
亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、その「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるビデオゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
ネームレジスト機能に秘められた魅力
かつて、多くのアーケードゲームには、獲得したスコアが上位にランクインすると自分の名前が書き込める、いわゆるネームレジスト(名前書き)機能が付いていました。
ネームレジストは、ライバルたちを上回るハイスコアを獲得したという、プレイヤーの満足・達成感をさらに高める演出であるとともに、ゲーセンの常連同士であれば、ハイスコアランキング画面に書き込まれた名前を見れば、「あ、アイツがこのスコアを出したのか」というのがすぐにわかるので、一種のコミュニケーションツールとしての役割も果たしていました。
また、今までに見たことがないハイスコアが記録され、そのスコアを出したプレイヤーの名前が正体不明だった場合は、「このスコアを出したのは誰だ!?」と驚かされたり、「誰が出したのかは知らないけど、絶対に抜き返してやる。負けないぞ!」などというように、さらなる闘争心に火を付けてくれる存在でもありました。
しかし、近年発売または配信されたアーケードゲームは、その多くがネットワークに対応していることもあり、新たに記録されたハイスコア、およびプレイヤー名は筐体およびサーバーに自動で保存される機能が付いていることから、ネームレジスト自体が存在しなくなりました。
また、プレイヤー名はあらかじめIDカードなどに登録するシステムが広く導入されたことによって、そもそもゲームごとにネームレジスト機能を導入する必然性もなくなってしまいました。
現在の30代以上のプレイヤーにとっては寂しいことかもしれませんが、もはやネームレジストは「消えた文化」と言っても差し支えないでしょう。
最近では、Nintendo Switchのアーケードアーカイブスなどで、懐かしのアーケードゲームの復刻・移植タイトルが多数配信されていますが、もし昔のゲーセン事情、あるいはハイスコア文化を知らない若者が遊んだ場合は、「ゲームが終わった後に、何でいちいち名前を書く画面に切り替わるの?」などと不思議に思うかもしれません。
以下、本稿では、もはや「消えた文化」となった感がある、ネームレジストの魅力を改めて考察してみたいと思います。
ネームレジストもゲームのおもしろさを構成する重要な一要素
前述したように、ネームレジスト機能はプレイヤーの達成感を高める演出であり、プレイヤー自身の腕が上達したことをゲーム側が認めてくれた証でもありますから、プレイヤーにとってはレジスト画面に進めること自体がとても名誉なことでした。
また、『戦場の狼』(カプコン/1985年)などのように、ネームレジスト自体がちょっとしたお遊びになっていることによって、文字入力の操作すらもエンターテインメントの一要素となっていたタイトルが存在したことも見逃せないポイントです。
さらには『バブルボブル』(タイトー/1986年)などのように、特定の文字を書き込むとジングルが鳴り、次回プレイ時にさまざまな影響が発生するという、ネームレジストがゲームの一部として機能したタイトルもありました。
ネームレジストができる条件は、タイトルによってそれぞれ異なりますが、おおむねその日に(※)上位10位以内、あるいは5位以内のスコアを叩き出すことです。さらに、スコアとともにクリアしたステージ数が表示されるゲームもありました。こういったライバルたちにスコアと同時に到達ステージでも差を付けたことを証明してくれる要素も、ネームレジスト機能ならではの魅力であると言えるでしょう。
※筆者注:昔のアーケードゲーム基板にはバッテリーバックアップが付いていなかったため、お店が閉店時に電源を切ると、その都度記録されたハイスコアや名前はすべて消去されるようになっていました。
入力できる文字数や種類は、ゲームのタイトルによってバラバラなため、ここでもそれぞれの個性が顕著に表れます。
多くのタイトルにおいては、アルファベットや数字、カンマやピリオドなどの数種類の記号を数文字入力できるようにしてありますが、『ソンソン』(カプコン/1984年)、『熱血硬派くにおくん』(テクノスジャパン/1986年)など、少数ですが日本語(ひらがな)入力ができるものもありました。
ほかにも、そのゲームにしか存在しない特殊なマークが書き込めたり、あるいは『ギャプラス』(ナムコ/1984年)のように年齢、血液型が入力できたり、『グラディウス』(コナミ/1985年)のように星座と性別マークを入力できるようにしたタイトルもあり、作品ごとの個性をより引き立てていました。
『ゼビウス』(ナムコ/1983年)のネームレジストも非常に凝っていました。
入力できる文字数が最大10文字ととても長く、なおかつアルファベットの大文字と小文字を区別して打てるようになっていました。
が、この大文字と小文字の切り替え操作がわかりにくく、なおかつインストカードにもそれについて一切書かれていないため、幼い頃の筆者はどうやったら大文字と小文字を使い分けられるのかが全然わかりませんでした……。
当時、「何で、ほかの人は大文字と小文字の両方を使って名前書きができるんだろう?」と、こんなところでもプレイするたびに謎が深まった(?)思い出があります。
ネームレジスト画面においては、サウンドによる演出も大きな魅力のひとつです。
ここでしか聴くことができない、プレイヤーを祝福する明るい曲を流したり、なおかつ1位のハイスコア獲得時と、2~5位のスコア獲得時とで、それぞれ異なる曲を用意することで、1位になったときの達成感をさらに高める演出を盛り込んだタイトルも少なくありませんでした(※前述の『ゼビウス』も、この演出を採用しています)。
サウンドによるネームレジスト時の演出において、筆者が特に秀逸だと思ったのが『エグゼドエグゼス』(カプコン/1985年)でした。
本作では、1,000万点に到達すると自動的にゲームオーバーとなりますが、達成した瞬間に「おめでとう」と画面に表示されるとともに、ネームレジスト中は1,000万点達成時限定の曲が流れるようになっていました。
よって、この曲を聴くことができるのは、ごく一部の限れたプレイヤーだけに与えられた特権だったのです。
当時、筆者の周りでは自身も含め1,000万点達成者が誰もいなかったため、後に発売されたゲームミュージックCDで、初めてその存在に気づきました。
しかも、その曲がとてもカッコよかったため、のちに自分で1,000万点達成を目指す際の大きなモチベーションにつながりました。
最近のアーケードゲームには、ネームレジスト機能がなくなったこともあり、「ネームエントリー曲」の存在自体も知らない人が増えてきているような気がします。
もしかしたら、ネームレジスト機能に向けたゲームミュージックの作曲技法も、やがて死滅した技術・文化になってしまうのかもしれません。とても寂しいことですが……。
ところで、このネームレジスト機能、最初に導入されたタイトルはいったい何だったのでしょうか?
大変申し訳ないのですが、その答えは今なお不明です。
筆者の知る限りでは、タイトーが1979年に発売した『スペースインベーダー・パート2』が、ネームレジスト機能を搭載した最も古い作品です。
筆者はこれまで、長年ゲーム業界でご活躍をされている方々に、ネームレジストの起源を何度も質問したことがあるのですが、その第一号作品は何だったのか、いまだにハッキリしません(※もしご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報を!)。
最後に、ちょっとこぼれ話をひとつ。
筆者は幼い頃、多くのタイトルのネームレジスト画面に用意されていた、「RUB」(または「RB」)と書かれたマークの存在がとても気になっていました。
「RUB」のとなりには、「END」というマークがたいていセットで表示されていましたが、こちらのほうは「『エンド』だから、『入力が終わったらこれを選べ』っていう意味だろうな」ということは、何となくですがわかりました。
でも、「『RUB』って何だろう? 『ルブ』、それとも『ラブ』って読むのかな? 『ラブ』って『愛』のことなの? 名前書き機能を使って、同じゲームが好きな人に向けた『ラブレター』でも書くのかな?」などとチンプンカンプンのまま、ずっと謎の存在でした。
それから数年後。いつ、何のゲームで判明したのかまでは覚えていないのですが、あるとき「RUB」マークにカーソルを合わせてボタンを押すと、一度入力した文字が消えることにふと気がつきました。
すなわち、「RUB」とは「RUBBER」の略。
英語で「消しゴム」を意味する言葉なのですが、そういう意味がある単語だったと知ったのはずっと後年、大学受験を間近に控えた頃でした(苦笑)……。