「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第十五回 追加ステージ

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    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第十五回 追加ステージ
  • 公開日
    2021年06月25日
  • 記事番号
    5624
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第十五回目のテーマは「追加ステージ」です。

普段、皆さんがよく遊んでいるスマホ用ゲームなどで、何度かプレイしている間に「追加ステージ」が徐々にアンロックされていくのが楽しかった、あるいは何の前触れもなく、突然「追加ステージ」が出現して驚いた、という経験がきっとあることでしょう。

以下、「追加ステージ」を用意することでプレイヤーに喜びや驚きを提供し、ますますゲームに夢中になってしまう例を、筆者が思い付く限りでご紹介していきましょう。

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

  

「追加ステージ」の存在を暗に示し、プレイヤーのモチベーションを喚起

サイトウ先生と筆者の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)では、「拡張性を暗示して期待感を持たせる」と名付けた「ゲームニクス理論」を紹介しています。

プレイヤーの挑戦意欲を高める演出として古くからよく見られるのが、初期状態では選べないステージやモードを伏字にすることで、「何か特定の条件を満たすと、『追加ステージ』やモード解禁されるのでは?」と暗示させる方法です。

以下の写真は、『脳トレ』こと『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』(任天堂/2005年)です。

本作では、初回プレイ時に選択できないトレーニングメニューには「???」と表示され、 しばらくプレイし続けると、新たなメニューが順次解放される仕組みになっています。まだ始めたばかりのプレイヤーに対して「次はどんなトレーニングができるのか?」と、期待あるいはワクワク感を演出しているわけですね。

また本作の場合は、とりわけゲームの初心者に対して、いっぺんに多くのトレーニングメニューを表示するあまり「どれを選べばいいの?」などと混乱させないよう、あえて選択可能なステージを絞ったとも言えるでしょう。
  

一方アクション系のゲームでは、プレイヤーがマップなどを見た際に「もしかしたら、あそこに新しいステージがあるのかも?」と暗示し、意欲を高める例がいろいろあります。

例えば『NewスーパーマリオブラザーズWii』(任天堂/2009年)には、ただ目の前に現れたステージをクリアするだけでは登場しない、一種の隠しステージがあります。

ワールド8には、8-1~8-7までの7ステージと砦、クッパ城の合計9ステージがあるのですが、ただ普通に進むだけではワールド8-7は出現しません。ワールド8-7を出現させるためには、8-2で隠し通路を発見し、「裏ゴール」を通ってクリアすることが必要になります。

また本作では、各ステージにスターコインと呼ぶアイテムが3枚ずつ登場し、1ワールド内の全ステージでスターコインを全部集めると、高難易度の「追加ステージ」がずらりと並ぶ、ワールド9のステージがプレイ可能となります。例えば、ワールド1のスターコインを全部集めるとワールド9-1が解放され、以下ワールド2のスターコインを全回収すれば9-2が、ワールド3でスターコインを全回収すれば9-3が解放される……といった具合です。

ワールド9-8へ進むためには、当然ながらワールド8-7のスターコインも必要となります。つまり、通常ルートを通っただけではスターコインが足りませんので、プレイヤーは「アレッ、残りのスターコインはどこにあるのかな? もしかして、(フィールドマップの)スペースが空いている、この辺りのステージ内に隠れてるのかも?」などと推理しながら楽しめるようになります。
  

次に、「ゲームニクス理論」の「習熟度に応じてゲーム内のメニューを変更する」に該当する、プレイヤーの習熟度やレベルに応じて「追加ステージ」を登場させる例をご紹介します。

以下の写真は、スーパーファミコン用アクションパズルゲームの『すってはっくん』(任天堂/1998年)で、既定のステージ数をクリアすると、次の島(フィールドマップ)に進めるルールになっています。

特に注目していただきたいのは3枚目(右端)の写真、2番目の島に進んだところです。画面の右側をよ~く見ると、新たな虹の橋と、ほんの少しだけ別の島が描かれていることがおわかりいただけるでしょう。つまり、「ナルホド、まだまだ先のステージがあるんだな。当分の間、長くタップリ遊べそうだな」とボリューム感を出しつつ、プレイヤーの挑戦意欲もかき立ててくれる実に見事な演出です。
  

さらに古いタイトルでは、ファミコン用ゴルフゲーム『マリオオープンゴルフ』(任天堂/1991年)にも「拡張性を暗示する」演出があります。

本作には全部で5つのコースがあり、それぞれ18ホールを既定のスコア以内でホールアウトすればクリアとなるルール(※ストロークプレイモード選択時)ですが、最初はジャパンコースだけしか遊ぶことができません。

ですが、ジャパンコースを1度クリアすると、新たにオーストラリアコースが選択可能となり、これをクリアするとフランスコースがさらに追加され、以後、新しいコースをクリアするごとにハワイ、UK(ユナイテッド・キングダム)、EXTRAコースが「追加ステージ」として登場する仕組みになっています。

コースの難易度は、後から登場するコースほど高い(※EXTRAコースは、過去にプレイしたコースがランダムに出現します)ので、もし最初から全コースが解放されていたとしても、ジャパンコース以外は初回プレイでのホールアウトは極めて困難です。なので、開発スタッフが初期状態ではオーストラリアコース以降を「追加ステージ」という形で伏せておいたのは、至極当然の判断と言えるでしょう。

また本作の場合は、最初は1コースしか選べないのに、コース選択ウィンドウをわざわざ画面いっぱいに表示させるのも、「ああ、きっと後でコースが増えるんだな」などとプレイヤーに想像させるための、意図的な演出であるように思われます。
  

ゲームの途中で、特定の条件を満たすと「追加ステージ」が出現する、変わったシステムを導入しているのがアーケード用シューティングゲームの『サイヴァリア』(タイトー、開発:サクセス/2000年)。本作では、ステージをクリア後に次のステージの難易度(イージー、またはノーマル)をプレイヤーが自由に選べるルールになっていますが、成績が良かった場合(※自機を一定以上のレベルまでアップさせた場合)は、もっと難しいハードのステージが出現します。

その続編の『サイヴァリア リビジョン』(タイトー、開発:サクセス/2000年)では、高難易度のステージに進んで好成績を収めた場合は、さらに難しい「デンジャーステージ」が登場する演出があり、しかも「デンジャーステージ」出現時は、ほかのステージが一切選べなくなる仕組みになっていました。本シリーズでは、難易度の高いステージほど得点が稼げますので、ハイスコアを目指すにはハイリスクを覚悟する必要があるというわけですね。

逆に、プレイヤーの成績が悪かった場合に「追加ステージ」を出現させる、世にも珍しいタイトルが、同じくアーケード用シューティングゲームの『イメージファイト』(アイレム/1988年)です。本作は、1~5面までの成績(敵の破壊率)が低かった場合は6面以降に進めず、ペナルティとして極めて難易度の高い、補習ステージに飛ばされるおもしろい、かつシビアなルールになっていました。
  

プレイヤーにさらなる驚きと感動を与える「追加ステージ」の絶妙な演出

ここからは、「追加ステージ」やストーリーの続きがあることを暗示または明示せず、全面クリア後に「追加ステージ」を突如出現させ、プレイヤーを驚かせる例をご紹介しましょう。

主にRPGで昔からよく見られるのが、エンディングに到達、または難解なトリックを解き明かしたプレイヤー対し、新たに高難易度のダンジョンやイベントを「追加ステージ」として登場させる演出です。

例えば『ドラゴンクエストV』(エニックス/1992年)では、エンディングまで到達した冒険の書(セーブデータ)で再びプレイすると、とある場所から隠しダンジョンに入れるようになります。隠しダンジョンでは、ここでしか出現しないボスキャラ、あるいは敵のモンスターが出現したり、新たなアイテムを入手することもできるので、プレイヤーに新たなモチベーションを与えてくれます。

筆者の私見になりますが、RPG系のタイトルでエンディング到達後に「追加ステージ」を登場させるアイデアをいち早く導入し、世に知らしめたのはファミコン版の『ドルアーガの塔』(ナムコ/1985年)であったように思われます。

本作では全60フロアをクリア後、エンディングの最後のシーンで通称「裏ドルアーガ」と呼ばれる、裏モードへ進むための隠しコマンドが表示されます。「裏ドルアーガ」は、通常モードとステージ数(全60フロア)も、マップ構成も敵キャラの出現パターンもすべていっしょですが、全面クリアするために必要となる宝箱(アイテム)の出現条件はまったく異なります。つまり、本作はアーケード版からの移植でありながら本家の2倍、全120ステージの大ボリュームで遊べるという、実に粋な演出でした。

同様に、エンディング後に裏モードが遊べるアイデアを導入したタイトルには、『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂/1985年)や『ゼルダの伝説』(任天堂/1986年)、『スターソルジャー』(ハドソン/1986年)のほか、『バベルの塔』(ナムコ/1986年)、『スーパーゼビウス ガンプの謎』(ナムコ/1986年)、『ドラゴンバスター』(ナムコ/1987年)、『女神転生』(ナムコ/1987年)などがあり、とりわけ80年代のファミコン用ソフトでは定番の演出になっていた感があります。

さらに『テイルズ オブ デスティニー』(ナムコ/1997年)では、特定の条件を満たすと隠しマップ、その名もズバリ「ドルアーガの塔」が遊べるようになるという、往年のナムコゲームファンであれば思わずニヤリとしてしまうプレゼントも用意されていました。
  

ほかにも、あっと驚く演出で「追加ステージ」を登場させた有名タイトルとしては『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』(コナミ/1997年)があります。

本作は、クライマックスの場面に登場するリヒター・ベルモンドとの戦いで、リヒターを操る敵の黒幕を倒すと突然画面が切り替わり、通称「逆さ城」が上空から出現するムービーが流れる演出があります。「逆さ城」は、その名のとおり通常のマップを上下逆さまにした形になっていて、今までよりもはるかに強力な敵や未知のアイテムが出現します。

リヒターとの戦いでゲームが完結すると思いきや、実はまだ道半ばだったという演出には、きっと多くの人がびっくりさせられれたことでしょう。
  

RPG系以外のタイトルでもエンディングに到達、もしくは全面クリアを達成したプレイヤーへのご褒美として「追加ステージ」を登場させる例は、古くからたくさんあります。

レースゲームから例を挙げますと、『マリオカートWii』(任天堂/2008年)では、グランプリモードの150ccコースで優勝すると、通常のコースデザインを左右に反転させたコースで遊べる、その名もミラーコースが新たに出現します。

一方、アーケード用レースゲームの『パワードリフト』(セガ/1988年)は、全5コースを1位でゴールすると、さらにオマケでもう1ステージ、エキストラステージが遊べるようになっています。エキストラステージでは、マイカーが『アフターバーナー』(セガ/1987年)の自機、または『ハングオン』(セガ/1985年)のバイクに変形する演出も見ることができますので、まさにセガファン大歓喜の演出ですよね。

またほかにも、『ナムコクラシックコレクションvol.1』(ナムコ/1995年)に収録されていたシューティングゲームの『ゼビウス アレジメント』では、通常ステージの全16エリアをクリアしたときの条件などによって、さらに全3ステージのEXTRAエリアに進むことができるようになっていました。同様に、『セクシーパロディウス』(コナミ/1996年)も特定の条件を満たすと、最終面をクリア後にスペシャルステージが遊べるようになります。
  

それから、これはあくまで筆者の私見ですが、全面クリア後に「追加ステージ」が遊べるアイデアを盛んに導入していたのはが、90年代に登場したアーケード用サッカーゲームだったように思います。

例えば『ハットトリックヒーロー’93』(タイトー/1993年)は、トーナメント(CPU)戦に優勝すると、「MAX」と書かれたドクロのエンブレムに、黒ずくめのユニフォームを着た、能力の高い選手がズラリとそろったチームが出現します。

同じく、『サッカースーパースターズ』(コナミ/1994年)でも優勝すると、最後にその名もズバリの強敵、「スーパースターズ」と対戦できる試合が「追加ステージ」として登場します。また『プレミアサッカー』(コナミ/1993年)では世界大会で優勝すると、なんと選手全員の体格がプレイヤーのチームよりもひと回り大きい強敵、「EXTRAチーム」が出現するおもしろいアイデアが導入されていました。

ほかにも、『バーチャストライカー』(セガ/1995年)シリーズでは1コインクリア(トーナメント戦に優勝)すると、開発スタッフやソニックなどのキャラクターが選手として登場するチーム「FC SEGA」と対戦できるようになったり、さらに一部のタイトルでは、プレイ内容によって「追加ステージ」に登場するチームが変化するものもありました。
  

これぞアーケードゲーム伝統の演出! 「2周目」の導入

古い時代のアーケードゲームは、『スペースインベーダー』(タイトー/1978年)でも『パックマン』(ナムコ/1980年)でも、自機や主人公のストックが残っている間は(バグが発生して続行不可能になる場合を除いて)エンドレスで遊べるのが普通でした。

やがて、全面クリア後にエンディングのシーンを用意するタイトルが出始めるにつれて、「実は、まだ真のラスボスが控えているのだ!」などといった演出を盛り込み、いわゆる2周目を「追加ステージ」として登場させるタイトルがどんどん増えていったように思います。

真のラスボスが2周目(の最終面)に出現するアイデアをいち早く取り入れ、有名になったタイトルと言えば、おそらく『魔界村』(カプコン/1985年)をおいてほかに無いでしょう。本作は、1周目に出現するラスボスの大魔王(最終面そのもの)は実は幻で、真の大魔王は2周目に出現する設定になっていました。

同じく、続編の『大魔界村』(カプコン/1988年)では、1周目のラスボスがベルゼブブ、2周目はルシファー(※真のラスボス)という、出現するキャラクターをも変えてしまうアイデアを取り入れることで、プレイヤーをますます楽しませてくれました。

『魔界村』シリーズのほかにも、2周目に真のラスボスが出現するストーリーを採用、または2周クリアすると真のエンディングが見られるようにしたタイトルを、思い付く限りでざっと挙げますと……、

・『闘いの挽歌』(カプコン/1986年)
・『カルノフ』(データイースト/1987年)
・『R-TYPE』(アイレム/1987年)
・『パロディウスだ!』(コナミ/1990年)
・『ストライカーズ1945』(彩京/1995年)
・『首領蜂』(アトラス、開発:ケイブ/1995年)
・『沙羅曼蛇2』(コナミ/1996年)
・『プロギアの嵐』(カプコン、開発:ケイブ/2001年)
・『雷電IV』(モス/2008年)

など、年代を問わず多くの例があることがわかります。

もうひとつ、マニアックな例もご紹介しておきましょう。
縦スクロールシューティングゲーム『雷電DX』(セイブ開発/1994年)では、ゲーム開始時に「練習」「初級」「上級」の3モードが選べるようになっていて、「上級」は1周8ステージ構成なのですが、実は8面までノーミスかつボンバーを1発も使わずにクリアすると、「追加ステージ」として9面が出現します。

さらに、本作の「練習」モードにはもっとすごい秘密が隠されています。「練習」モードは1面だけで、普通にプレイした場合は最終地点に到達した時点でゲームオーバーとなるのですが、レーダー(※地上に隠されたキャラクター)の破壊率100パーセントなどの条件を満たしてクリアすると、なんと「追加ステージ」として「初級」モードのステージが出現します。そして「初級」ステージでも同じ条件を満たしてクリアすると、今度は「上級」のステージが遊べるようになるのです。

本来、「練習」モードは初心者向けのハズなのに、実はストイックにプレイすると得点稼ぎがアツくなり、なおかつレーダーを壊すたびに難易度が加速度的にアップする超エキスパート向けのモードになろうとは、今振り返っても驚くばかりですね……。
  

以上、「追加ステージ」の例をいろいろとご紹介しましたが、どんなご感想をお持ちになったでしょうか?

良い意味でプレイヤーの予想を裏切り、 驚かせてくれる演出がたくさんあることが、改めておわかりいただけたのではないかと思います。おそらく、今後もジャンルやプラットフォームを問わず、新しい「追加ステージ」のアイデアはどんどん生まれ続けることでしょう。

なお、「追加ステージ」に関するくわしい内容は、サイトウ先生と筆者の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」 の「原則3-D-⑥:拡張性を暗示して期待感を持たせる」や「原則4-E-②:習熟度に応じてゲーム内のメニューを変更する」などのページに掲載されていますので、もし興味を持たれたかたはぜひご一読ください。

それでは、また次回!

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