「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第十六回 リプレイ

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    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第十六回 リプレイ
  • 公開日
    2021年07月30日
  • 記事番号
    5802
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第十六回目のテーマは「リプレイ」です。

ゲームを遊びながら、「さっきのシーンは感動したなあ。せっかくのいい場面を、後でまた見られるようにしてくれたらいいのに……」とか、「ハイスコアを更新したぞ! できることなら、さっきのプレイをみんなに見せたかったなあ……」などと思った経験が、きっと皆さんもあるのではないでしょうか?

またビデオゲームではありませんが、テーブルトークRPG好きの人であれば、自身やプレイ仲間との思い出のシーンを文章やイラストに書き残したり、雑誌に連載された実況プレイの記事や小説化された本を読む、すなわち「リプレイ」を楽しんだ経験があるのではないかと思われます。

主にMMORPGでは昔から「リプレイ」動画の作成や、プレイヤーが任意の場所で記念撮影ができる機能を用意することで、 プレイヤーまたはプレイ仲間同士で思い出の場面を残せるようにしたタイトルがいくつも出てきています。

囲碁・将棋ゲームでも、例えば『最強東大将棋2004』(毎日コミュニケーションズ/2004年)などのように、プレイヤーの棋譜をセーブおよび「リプレイ」を流す機能を搭載して、CPUや相手プレイヤーに勝ったときの快勝譜をいつまでも鑑賞できるタイトルが現在までに多数登場しています。
  

そこで今回は、ビデオゲームにおいて「リプレイ」を残すことで、プレイヤーはどんな遊びや楽しみを体験できるようになるのかを考えていくことにしましょう。以下、筆者が思い付く限りではありますが、おもしろい「リプレイ」の実例をいろいろご紹介していますので、どうぞ最後までお付き合いください。

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

  

RPGなどに搭載されるとうれしい「リプレイ」機能

RPGなどのように、クリアするまでに長時間を要するゲームは、当然ながらプレイデータをセーブする機能が必須となります。主人公のレベルや入手したアイテム、ストーリーの進捗状況などをセーブできるのはとてもありがたいのですが、ほとんどのタイトルではセーブデータを上書きすると、過去の場面はもう再現不可能になってしまいます。

テーブルトークRPGの「リプレイ」本であれば、どんなに過去のシーンでもページをめくればすぐに振り返ることができますが、ビデオゲームの場合はそうはいきません。とりわけ、ゲーム中に1回しか見る機会のないイベントや、キャラクター同士の掛け合いのシーン(ムービー)を再度見たい場合は、その直前の場面でセーブしたプレイデータを取っておく必要があるので、プレイヤーにとってはかなりの手間になります。

近年はプレイステーション4やNintendo Switchのように、あらかじめスクリーンショットやムービーを録画できる機能を搭載したハードがありますので、「リプレイ」を残しやすい環境になったのは朗報と言えるでしょう。ですが、これらのハードが登場する以前は、「リプレイ」が見られる機能を(ソフト内に)プログラムしたタイトルはほとんどありませんでした。

筆者が「いつでもドラマチックなシーンを振り返ることができて、これはイイネ!」と最初に感銘を受けたのが、スーパー ファミコン用シミュレーションRPGの『タクティクスオウガ』(クエスト/1995年)でした。

本作はバトルに勝利したり、未知の場所に移動するなどの方法でシナリオを進めていくと、キャラクター同士が会話をしたり、過去を回想したりするムービーが流れます。一度見たムービーは、以後「ウォーレン・レポート」と呼ぶメニューにリスト化され、何度でも繰り返し再生することができます。

過去のムービーをいつでも見られるようにすることで、プレイヤーは思い出のシーンを振り返れるだけでなく、しばらく放置してから再開する場合には「そうだった、この間はボス敵を倒したから、次は違う町へ進むんだったっけ」などというように、前回のおさらいをする際にも大いに役立ちます。ゲーム史上に残ると言っても過言ではないであろう、実に素晴らしいアイデアですね。
  

この「リプレイ」機能は、『タクティクスオウガ』の主要スタッフがスクウェアへ移籍後に開発した『ファイナルファンタジータクティクス』(スクウェア/1997年)にも引き継がれましたので、こちらで本機能の素晴らしさを知った人も少なくないでしょう。

ですが、後にゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された『タクティクスオウガ外伝』(任天堂/2001年)には本機能が実装されませんでした。本作にはROMの容量などの問題があったのかもしれませんが、せっかくの素晴らしい機能が継承されず、筆者もプレイしていてとても残念に思った記憶があります……。
  

一度見たムービーを、以後いつでも見られるようにするアイデアを導入したタイトルで特に有名なのは、おそらく『ファイナルファンタジーX』(スクウェア/2001年)ではないかと思われます。

本作では、ルカの町にあるシアターの映像ホールに行くと、過去に見たムービー、およびBGMを自由に見たり聴いたりすることができます。ただし、鑑賞するためにはシアターで所持金を払って、シーンまたは曲ごとにスフィア(アイテム)を購入することが必要です。条件付きでの解放ではありますが、ファンにとっては実にうれしい配慮でした。
  

もうひとつ、ムービー再生とはまったく異なる「リプレイ」機能を用意し、なおかつプレイヤーの達成感を演出する、独創的なアイデアを取り入れたことで特筆したいのがPC(X68000)用歴史シミュレーションゲームの『斬 -陽炎の時代-』(ウルフチーム/1989年)です。

本作には、プレイヤーの戦歴を自動で記録して年表を作成する機能 があり、メニュー画面からいつでも見ることができる特徴があります。エンディングに到達すると、最後のシーンで年表をすべて表示する演出もありますので、プレイヤーはまるで自分が戦国武将となって天下統一、あるいは志半ばで生涯を終えるまでの歴史を作ったような気分にさせてくれます。

さらに驚くことに、本作には何と年表をプリンターで印刷できる機能も搭載されていました。筆者は実際にプリントした経験はないのですが、今なお類例が皆無と言ってもいいであろう、TRPGの「リプレイ」と同様のものが作れる、驚愕のアイデアを導入した先人たちの創意工夫には改めて敬意を表したいですね。

スポーツゲームの盛り上げにも欠かせない「リプレイ」の演出

次に、スポーツゲームにおける「リプレイ」の導入例を見ていくことにしましょう。

今や多くのスポーツゲームにおいて、野球ゲームでホームランをかっ飛ばしたり、サッカーゲームでゴールを決めたシーンなどの「リプレイ」は、定番の演出のひとつであると言っても過言ではありません。テレビのスポーツ中継と同様に、遊んでいる最中に好プレイの「リプレイ」を適宜再生してくれると、ますますテンションが高くなりますよね?

さらに「リプレイ」をセーブする機能も付いていれば、野球の珍・好プレイ番組やサッカーの歴代ベストゴール集DVDのように、後からいつでも見て楽しむことができるようになります。

では、スポーツゲームに「リプレイ」が登場するようになったのは、ハードのスペックが向上した近年からなのかと思いきや、実は調べてみるとかなり古い時代から導入されていたことがわかります。

例えば、ファミリーコンピュータ用野球ゲームの『究極ハリキリスタジアム』(タイトー/1987年)では、試合終了後に実況アナウンサーと解説者が勝敗を分けた場面をピックアップしてVTR、すなわち「リプレイ」を流してくれます。この演出によって、プレイヤーはテレビ番組で自分が選手、または監督として報道されたかのような気分にさせてくれるので、試合に勝利したときのうれしさがさらに増します(※ただし、「リプレイ」のセーブ機能は付いていません)。
  

アーケード用サッカーゲームで、「リプレイ」を繰り返し流す演出を巧みに取り入れ、プレイヤーをアツくさせていたのが『バーチャストライカー2 ver.98』(セガ/1998年)をはじめとする『バーチャストライカー』シリーズです。

本シリーズは、ゴールを決めると「リプレイ」が流れるとともに、そのシチュエーションに応じて算出した、体操やフィギュアスケート競技の芸術点にあたるポイントが表示されます。このポイントは、ただ相手ゴール前でこぼれ球を押し込んだだけのシンプルなゴールだった場合は低めに評価されますが、豪快なオーバーヘッドキックでシュートを放ったり、ダイレクトパスを何本もつないでからゴールを決めた場合には高評価される仕組みでした。

また、その日に記録された最高ポイントを更新すると「TODAY’S BEST GOAL!」というボイスが流れるとともに、「リプレイ」時にボールの軌跡がレインボー(虹色)で表示される、ユニークなアイデアも導入されていました。

しかもベストゴールを決めると、以後ほかのプレイヤーに記録が更新されるまでの間は、何とデモ画面の最中にも「リプレイ」が紹介されるようになり、ほかのプレイヤーに対してちょっとした腕自慢ができるという、実に粋な演出もありました。さらに家庭用の移植版には、ゴールシーンの「リプレイ」だけを切り取ったムービーをセーブする機能も追加されました。

家庭用のサッカーゲームで、これと似たような機能を搭載していた例としては、ニンテンドー3DS版『ポケットサッカーリーグカルチョビット』(任天堂/2012年)があります。

本作には、ゴールシーンの「リプレイ」をセーブするだけでなく、ムービーを公式サイトに投稿する機能も付いていました。サイトにアクセスすると、全国各地のプレイヤーから投稿された選りすぐりの「リプレイ」が随時再生され、みんなが自慢し合う場としても機能していました。(※ムービーのアップロードサービスは2018年に終了しています)
  

古い時代のゴルフゲームで、とりわけ秀逸な「リプレイ」の演出を導入していたのが、ファミコン用ソフトの『マリオオープンゴルフ』(任天堂/1991年)です。

本作には、プレイヤーがイーグルやバーディーを記録するなど、好プレイをした1ホール分のムービーをまるごとセーブできる機能があり、保存されたムービーはメニュー画面の「MEMORIAL HALLS」からいつでも再生することが可能となります。セーブは自動で実行されますので、喜びのあまりセーブするのをうっかり忘れてしまった、などというありがち(?)なミスも防げる、実に素晴らしいサービスです。

ほかにも本作では、1ラウンドの平均スコアやドライバーショットの平均距離、パーセーブ率などのデータも随時上書きされ、プレイヤーの上達の軌跡を逐一教えてくれる機能が付いているのも、ゴルフまたはゴルフゲーム好きには実にうれしいですよね。
  

レースゲームにおいて、ナイスプレイをしたときのデータを自動でセーブし、プレイヤーをますます夢中にさせる秀逸な演出を用意していたのが『スーパーマリオカート』(任天堂/1992年)です。

本作のタイムアタックモードでは、ベストタイムをセーブできるだけでなく、障害物に接触するなどのミスをしないでゴールすると走行データが自動でセーブされます。データがセーブされたキャラクターは、以後「ゴースト」としてコース上に半透明色で出現し、プレイヤーが使用するキャラクターと同時にスタートして、セーブされたデータと同じ軌跡で走るようになります。

つまり、「ゴースト」が「リプレイ」の機能を果たすとともに、プレイヤーが記録更新を狙う際の目標としても利用できるという極めて優れたアイデアです。また、走行中は「ゴースト」に触れてもミスにならない(当たり判定がない)のもうれしい配慮ですね(※ただし、「ゴースト」は別のコースを選択したり、本モードを終了すると消去されます)。
  

ゲームに新たな付加価値を生み出す「リプレイ」機能

ここからは、その他の「リプレイ」機能を利用したおもしろい演出例をご紹介していきましょう。

近年登場した作品では、セガがニンテンドー3DSやNintendo Switch用に懐かしのゲームを移植した『SEGA AGES』シリーズの多くのタイトルに、ゲームオーバー後に「リプレイ」をセーブできる機能が標準で搭載されています。ほかにも『SEGA AGES』シリーズには、ハイスコアやタイムアタックのインターネットランキングを集計し、なおかつ上位プレイヤーの「リプレイ」を誰でも見ることができる機能を用意したタイトルもあります。
  

ムービーを使わずに、「リプレイ」またはそれに準ずる演出を用意していたのが、90年代にナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)が発売していた、同社歴代のアーケードゲーム数本をまとめて収録したプレイステーション用ソフト、『ナムコミュージアムVOL.1』(ナムコ/1995年)をはじめとする一連のシリーズ作品です。

本シリーズには、収録されたタイトルごとにハイスコアやプレイ回数など、各種プレイデータをメモリーカードにセーブできる機能が搭載されています。前述の『SEGA AGES』シリーズも含めて、これらの移植版は、元のアーケード版にはなかったセーブ機能を追加することで新たな付加価値を生み出し、プレイヤーは自らの上達の軌跡を振り返ることができるようにしたわけです。
  

家庭用に移植される前から、ムービーをセーブする機能を最初から搭載していた珍しい例が、縦スクロールシューティングゲームの『サイヴァリア リビジョン』(タイトー、開発:サクセス/2000年)です。本作では、ステージごとに最も高いスコアを叩き出したプレイヤーのムービーを丸ごとセーブして、何とほかのプレイヤーが自由に再生して見ることができるようになっています。

ベストスコアのムービーを見たい場合は、まずゲーム開始時に「リプレイモード」を選択します。ゲームがスタートすると、最初に1面のベストスコアのムービーが流れ、再生終了後にプレイヤーが1面を遊べるようになります。2面も同様に、ベストスコアのムービーの再生が終わってから、プレイヤーが同じステージを遊ぶ仕組みになっています。

つまり、ベストスコアを記録したプレイヤーが「リプレイ」を自慢のネタに使えるだけでなく、ほかのプレイヤーが「お手本」にしながら遊べるようにもしたわけですね。しかも本作は、基板内にデータをセーブする機能があるので、筐体の電源を落としてもデータが消去されず、(誰かが記録を更新するまでの間は)繰り返し見ることができます。

ちなみに、ムービーをセーブする機能はありませんでしたが、『レイディアントシルバーガン』(トレジャー/1998年)にはベストスコアとプレイヤーの名前をステージごとにセーブし、デモ画面で表示する演出が導入されていました。
  

以上、「リプレイ」の例をいろいろとご紹介しましたが、どんなご感想をお持ちになったでしょうか?

スポーツゲームでは、テレビやネット中継と同様に「リプレイ」を使った演出が昔から盛んに取り入れられている一方、膨大なストーリーやデモシーンを盛り込んだRPGでは、「リプレイ」機能が現在に至るまで定番化していない感があります。そこには何かしらの理由があると思われますが、ここは今後の研究課題ですね。

また、昨今のスマホ用アプリやオンライン対応ゲームの場合は、メーカーがサービスを終了すると、「リプレイ」を見るどころか、ゲームそのものが二度と遊べなくなる問題もあります。

ですが、今月20日でサービスを終了した『サクラ革命』(セガ/2020年)のように、サービス終了後もオフラインで遊べて、なおかつ過去のシーンをすべて再生できる「機能限定版」を別途配信するケースが、ごくわずかですが出始めています。このような形で「リプレイ」機能を活用すれば、メーカー側の視点で見れば将来的にIPのファン、あるいは自社そのもののファンをつなぎ止める役割を果たすことになるかもしれませんね。

なお、「リプレイ」に関連するくわしい内容は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3:ハマる演出」や「原則3-D-③:スコア(得点)を見せる」「原則3-D-⑪発表できる場の提供」などのページに書いてありますので、ご興味のあるかたはぜひ御覧ください。

それでは、また次回!

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