「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十回 エクステンド

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十回 エクステンド
  • 公開日
    2022年01月14日
  • 記事番号
    6824
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

今回のテーマは「エクステンド」です。

「エクステンド」とは、大まかに言うと特定の条件を満たすことで自機や主人公のストックまたはプレイ時間が増える、つまりプレイヤーがゲームをより長く遊べるようになる演出のことで、古くから多くのタイトルに採用されています。例えば『スペースインベーダー』(タイトー/1978年)は、スコアが1500点に到達するとビーム砲のストックが1機増え、レースゲームの『スピードレース』(タイトー/1974年)は400点を超えるとプレイ時間が加算されます。

「エクステンド」の際は特別なジングルが鳴ったり、画面が切り替わってプレイヤーを祝福したりする演出が必ずと言っていいほど用意されていますので、プレイヤーの達成感やモチベーションを大いに高めてくれます。とりわけ、「エクステンド」によってゲームオーバー寸前、つまり100円玉を失うピンチを回避したときの快感は格別です。

以下、昨今の作品ではあまり見掛けなくなった感はありますが、アーケードゲームにおける「エクステンド」を利用したおもしろいアイデアの数々をご紹介していきましょう。今回もどうぞ最後までご一読ください!
  

  

「ゲームニクス」とは?

現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

「エクステンド」の条件に隠された秀逸な演出の数々

前述した『スペースインベーダー』のように、「エクステンド」の条件を「規定のスコアに到達すること」と定めたタイトルが、昔から圧倒的に多いように思われます。5000点で自機が増える『ギャラクシアン』(ナムコ/1979年)や、1万点でストックが増える『パックマン』(ナムコ/1980年)など、高得点を獲得したプレイヤーに対するご褒美として、「エクステンド」の演出を利用しているわけですね。

ここで注目したいのは、各タイトルで最初に「エクステンド」が発生するスコアを何点に設定しているのかです。正確に統計を取ったわけではなく、あくまで筆者の経験を元にしたお話となりますが、昔から多くのタイトルにおいて最初に「エクステンド」が発生するスコアは、初期設定時のハイスコアと同じに設定されていることが非常に多いように思います。

これに該当するタイトルとしては、『ワイルドウエスタン』(タイトー/1982年)、『ドルアーガの塔』(ナムコ/1984年)、『忍者くん阿修羅の章』(UPL/1987年)など、ことアーケードゲームに関してはジャンルを問わず多くの例を挙げることができます。

では、なぜ最初の「エクステンド」はハイスコアの初期値と同じなのでしょうか? 筆者の推測ではありますが、プレイヤーにハイスコア更新の目標を示すのと同時に「エクステンド」の存在も意識させて、さらなる達成感を演出する意図があったのではないかと思われます。実際、プレイ中にハイスコアの更新に成功し、なおかつ「エクステンド」を獲得できた場合は、とても嬉しくなりますよね。

それにしても、最初の「エクステンド」とハイスコアの初期値を合わせるアイデアを最初に発明したのはいったい誰なのでしょうか? 残念ながら今のところ判明しておりませんので、今後の研究課題ですね……。
  

また『スペースハリアー』(セガ/1985年)は、500万点で主人公ハリアーのストックが1人増えますが、普通にプレイしていると500万点に到達するのは5面、つまりちょうどボーナスステージをプレイしているタイミングと重なります。頑張って4面までクリアしたプレイヤーに対し、ご褒美として高得点ボーナスの加算と「エクステンド」を同時に得られる快感を、開発スタッフが意図的に演出したように思えてなりません。

前述したように、『スペースインベーダー』は1500点で「エクステンド」となりますが、ここでひとつ素朴な疑問がわきます。なぜ「エクステンド」を1000点や2000点といった区切りのいいスコアに設定しなかったのでしょうか?

筆者は以前、開発者の西角友宏氏にインタビューした際に、この設定について質問をしたことがあります。すると西角氏は「1500 点だと、普通に1 面をクリアしただけでは届かないでしょう? 1 面だけだと(UFOを除いた総得点は)990点なので。取りあえず、1面クリアを目指してもらおうと……」などと説明してくださいました。

よって本作の「エクステンド」も、1面をクリアしたプレイヤーに対するご褒美にしようと意図があったというわけですね。

(※西角氏のコメントは、平成27年度「ゲーム産業生成におけるイノベーションの分野横断的なオーラル・ヒストリー事業」にて実施した、「西角友宏 第3回インタビュー後半:
『スペースインベーダー』のゲームデザインとマーケティング」より抜粋して引用しました )

※参考リンク:一橋大学イノベーション研究センター
  

スコア以外の条件でも、プレイヤーを夢中にさせる「エクステンド」の仕組み

次に、スコア以外の条件で「エクステンド」する例をご紹介していきましょう。

プレイ中にランダムで出現したり、特定の敵を破壊するなどの条件で出現する1UPアイテムを取ると「エクステンド」となるアイデアを取り入れたタイトルも、古くからよく見られます。ただしアーケードゲームの場合は、あまり1UPアイテムを乱発させてしまうとプレイヤーがなかなかゲームオーバーにならず、ゲームセンター側は商売にならなくなってしまいます。

そこで、1UPアイテムを隠れキャラクターとして、プレイヤーに対してその存在を一切伏せた状態で仕込んでおくタイトルが昔から多かったように思います。その代表例が、『ゼビウス』(ナムコ/1983年)のスペシャルフラッグになるでしょう。未知のキャラクターを発見し、なおかつ「エクステンド」が成立したときの喜びは格別ですよね。

ほかにも、1UPアイテムの出現条件をプレイヤーに伏せていたタイトルには、『サイドアーム』(カプコン/1986年)、『TATSUJIN(達人)』(タイトー、開発:東亜プラン/1988年)、『ゼクセクス』(コナミ/1991年)など、枚挙にいとまがないほど数多くあります。なお余談になりますが、『TATSUJIN』はノーミスで3面の途中まで進むと、いっぺんにストックが2機増える2UPアイテムが出現することもあります。
  

さらに古い時代の作品を調べると、ゲーム内に出現する「EXTRA」の文字をすべて集めると、「エクステンド」が成立するタイトルがいくつもあることがわかります。

以下の写真は、ユニバーサルのアクションゲーム『Mr.Do!』(ユニバーサル/1982年)です。本作では、時折出現する「E」「X」「T」「R」「A」のいずれかの文字が体に描かれた敵キャラクターをすべて倒すと、「EXTRA」すなわち「エクステンド」達成となり、主人公のストックが1人増えます。

「EXTRA」のアイデアによって、プレイヤーはただ闇雲に敵を倒すだけでなく、いかにして「エクステンド」を狙うのか、いろいろと戦略を考えながらプレイする楽しさも同時に堪能できるわけですね。さらに「エクステンド」達成時は画面が切り替わり、敵が泣いて白旗を振るアニメーションが流れるとともに、TVアニメ『鉄腕アトム』の主題歌をもじったジングルが流れる演出も秀逸でした。

ほかにも、「EXTRA」や「EXTEND」の文字が描かれた敵をすべて倒したり、アイテムを集めたりすることで「エクステンド」となるアイデアを採用したタイトルは、同じくユニバーサルが発売した『Lady Bug(レディバグ)』(ユニバーサル/1981年)をはじめ、『バブルボブル』(タイトー/1986年)やファミリーコンピュータ版の『ワープマン』(ナムコ/1985年)などがあります。
  

上記の「EXTRA」とよく似たアイデアで、特定のアイテムやパーツ類をすべて、または一定の個数を集めると「エクステンド」となる演出を取り入れたタイトルもあります。『ジャンプバグ』(セガ/1981年)、『ギャプラス』(ナムコ/1984年)、『ドラゴンスピリット』(ナムコ/1987年)などがこれに該当します。

また『ギャプラス』と『ドラゴンスピリット』は、当連載の第十回「デモ画面」でもご紹介したように、獲得したパーツ(※後者はタマゴ)が余った状態でゲームオーバーになると、残ったパーツが次のプレイヤーにそのまま持ち越されるようになっていました。「今ならおトクですよ」と無言で伝え、プレイヤーの財布の紐を思わず緩めてしまう、実に見事なアイデアですね。
  

ところで、「EXTRA」などの文字を集める「エクステンド」が成立するアイデアは、いったいいつ頃からあったのでしょうか? その源流をたどると、ビデオゲームが誕生する以前の時代から存在したフリッパー(ピンボール)ゲームに行き着きます。

事実、ビデオゲーム黎明期にはピンボールの要素を取り入れたタイトル、例えば『キューティQ』(ナムコ/1979年)や『フィールドゴール』(タイトー/1979年)には、ボールを「E」「X」「T」「R」「A」のターゲットすべてに命中させるなどの条件を満たすと、本家のピンボールと同様にボールのストックが1個増える「エクストラボール」の演出が盛り込まれています。

また、前掲の『Lady Bug』と『Mr.Do!』の開発者である上田和敏氏は、2018年にPC Watchで掲載されたインタビュー記事で「『Lady Bug』には、ボーナスとEXTRAとSPECIALが入っているんです。ピンボールから全部もらってきているんですよ、これらのアイデア」と証言しています。

※参考リンク:「『Mr.Do!』の生みの親、上田和敏氏に開発秘話を聞く!(後編)」(PC Watch)

前述の『ゼビウス』を開発した遠藤雅伸氏も、いつの講演だったのかは忘れてしまったのですが、筆者はある学会の講演でスペシャルフラッグを仕込んだ理由について、「ピンボールのエクストラボールの要素を入れたかった」と証言していたのを聞いたことがあります。

まだコンピューターが導入されていなかった時代に作られたピンボールのノウハウが、時代を超えてビデオゲームに継承され、多くのプレイヤーを楽しませてきた歴史があったとは、実に驚くべき、おもしろい事実ですよね!
  

極上のシーンリズムを演出する「エブリ設定」

ここからは、昔からアーケードゲームでは定番だった「エクステンド」の一種、「エブリ設定」についてご説明します。

「エブリ設定」とは、簡単に言うとプレイヤーが一定間隔のスコアに到達するごとに「エクステンド」する設定のことです。例えば前出の『ギャプラス』は、最初の「エクステンド」が5万点で、2回目以降は15万点、30万点、45万点、60万点……と15万点おきに自機が1機増える「15万点エブリ」になっています。

タイトルによっては、コインを投入した際に画面が切り替わり、「エブリ設定」を明示してくれるものもあります。80年代からゲームセンターに通っているかたであれば、『ギャラガ』(ナムコ/1981年)、『魔界村』(カプコン/1984年)などが、クレジット投入時に「エブリ設定」を表示することをご記憶の人もきっと多いことでしょう。
  

ここで注目したいのは、これらのタイトルは「エブリ設定」の導入によってプレイヤーがますますゲームに夢中になってしまう、一種のシーンリズムを創り上げているという事実です。

以下、シーンリズムとは何なのかを、『ギャラガ』を例にご説明しましょう。本作は、最初の「エクステンド」が2万点、2回目が7万点で、3回目以降は7万点獲得ごとに1機追加、すなわち「7万点エブリ」となります。

本作を初めて遊ぶプレイヤーは、まずは1面をクリアすることを目標にして、慣れてきたら2、3、4面と先のステージへ進み、自身のベストスコアやハイスコアを更新することも目標にして遊ぶことになります。やがてプレイヤーの腕が上達し、2万点に到達すると自機のストックが1機増え、さらに7万点で再びストックが増えることで、プレイヤーは「エクステンド」の仕組みを自然と理解することができます。

「エクステンド」の仕組みを理解すると、プレイヤーは眼前の敵と戦いつつ、「『エクステンド』まであと何点かな?」とスコアを常時チェックしながら遊ぶこともできるようになります。例えば、「ラスト1機でゲームオーバーのピンチだけど、あと2000点で1機増えるから得点の高い敵を狙おう」とか、「次の面はチャレンジング(ボーナス)ステージだし、ここでスコアを稼げば7万点を超えて1機増やせるから、絶対に負けないぞ!」などといった要領で、プレイヤーが「エクステンド」を意識することで自然とシーンリズムが生まれるのです。

『ギャラガ』や『ギャプラス』のように、古い時代のアーケードゲームは、多くのタイトルにおいていわゆるエンディングの演出が存在せず、自機のストックがゼロにならない限りエンドレスで遊べるようになっていました。

それゆえに「エブリ設定」があったおかげで、プレイヤーは次の目標を常時設定することが可能となり、途中で飽きることなく何度も何度も夢中で遊べる効果をもたらしていたように思われます。

現在のアーケードゲームは、途中でどんなにミスをしてもゲームオーバーにならない、プレイ料金を定額にしたタイトルが増えたことで、もはや「エブリ設定」は「消えた文化」に限りなく近い感があります。ですが、絶妙のシーンリズムを生み出す「エブリ設定」は、ビデオゲームの歴史に残る素晴らしいアイデアであることは間違いないでしょう。
  

以上、今回は「エクステンド」をテーマにお送りしましたが、どんなご感想をお持ちになったでしょうか?

繰り返しになりますが、今ではほとんど「消えた文化」に限りなく近いものの、プレイヤーを大いに楽しませる演出の一種として、「エクステンド」はぜひ後世まで伝えていくべきではないかと思われます。

また、今回はくわしく取り上げなかったのですが、今では「エブリ設定」と同様に「消えた文化」と言っても過言ではない「再ゲーム」や「ナンバーマッチ」の演出も、広義には「エクステンド」の範ちゅうに加えてもよいかと思います。

「再ゲーム」とは、『ブレイクアウト』(Atari/1976年)をはじめ、昔のいわゆる「ブロック崩し」系ゲームによく導入されていた、規定のスコアに達すると1クレジット追加される演出のことです。「ナンバーマッチ」は、ゲームオーバー時にランダムまたはボタンを押して止めた数字が、規定の数字と一致すると1クレジット追加、または無料でコンティニューできる演出で、『スイマー』(テーカン/1982年)や『奇々怪界』(タイトー/1986年)、『キャメルトライ』(タイトー/1990年)などに導入されていました。

これらの演出も、ピンボールが発祥であることは間違いないのですが、どのような経緯でビデオゲームに継承され、やがて消えていったのかも、今後の研究課題として非常におもしろそうですね。

なお、今回のテーマに関連した「ゲームニクス理論」のくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』の「原則3-A-⑨:シーンリズムの調整で快感を演出」や「原則3-B-④:快感要素の基本事項」などのページに書いてありますので、ご興味のあるかたはぜひ御覧ください。

それでは、また次回!

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