「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十二回 ゲーム音楽Part2
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第二十二回目のテーマは、「ゲーム音楽Part2」です。
第十二回目でも、達成感と緊張感を煽る「ゲーム音楽」の例を紹介しましたが、今回は「ゲームニクス理論」の「原則3-B-④:快感要素の基本事項」のひとつである、「褒め要素」に絞ったうえで紹介したいと思います。
前回は、ステージクリア時やネームレジスト中などに流れるBGMやジングルがプレイヤーの達成感を高める、すなわち「褒め要素」として機能していることを紹介しましたが、ほかにも「ゲーム音楽」による「褒め要素」の実践例はまだまだたくさんあります。
当コラムを通じて、プレイヤーの操作、あるいはゲームの展開に応じて、BGMやジングル、SE(効果音)がインタラクティブに変化する「ゲーム音楽」ならではのおもしろさを、ひとりでも多くのかたに興味を持っていただけたら幸いです。
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
古くから導入されていた、音による達成感の演出
まだ「音楽」と呼べるようなBGMが存在しなかった、70年代に登場した古いタイトルにも簡単なSEを利用してプレイヤーを褒め称え、ゲームに夢中にさせる仕掛けを用意した例はいくつも存在していました。
『スペースインベーダー』(タイトー/1978年)では、敵のインベーダーと、たまに出現する高得点のUFOを倒したときのSEがそれぞれ異なり、後者のほうがより派手な音が鳴る演出があります。
同様に『ボムビー』(ナムコ/1979年)にも、特定の条件を満たすと出現する、1000点の高得点ボーナスがもらえるバンパーにボールを当てたときのSEが、ほかのバンパーとは異なる音が鳴るアイデアが導入されています。どちらも極めてシンプルながら、プレイヤーの腕を褒める素晴らしいアイデアですね。
これと似たような「褒め要素」を導入しているのが『ツインビー』(コナミ/1985年)です。本作では、敵の編隊を全滅させるごとに1000点のボーナスが加算され、同時にSEが鳴ることでプレイヤーにさらなる快感をもたらしてくれます。
前述したように、古くからプレイヤーの達成感を演出する「ゲーム音楽」では、ステージをクリア、あるいはバトルに勝利したときなど、ゲームの最終目標を達成したときにBGMやジングルを流すのが定番です。ですが、さらに細かく調べてみると、最終目標を達成する途中のプロセスにおいても、「ゲーム音楽」を利用してプレイヤーを褒め称える演出がいろいろあることがわかります。
その例をレースゲームから説明しましょう。初期のレースゲームは、ほとんどが1人プレイ専用だったため、制限時間内にチェックポイントを通過することで次のステージに進んだり、残り時間が加算されたりするルールになっていました。
そこで、多くのタイトルではチェックポイントを通過したとき、または規定のスコアに到達したときに特別なSE、あるいはジングルを流すことで、プレイヤーに時間が延長されたことを知らせ、達成感を演出する工夫をしていました。『モナコGP』(セガ/1979年)、『ポールポジション』(ナムコ/1982年)、『WEC ル・マン24』(コナミ/1986年)、『ファイナルラップ』(ナムコ/1987年)など、その導入例は枚挙にいとまがないほどです。
©Bandai Namco Entertainment Inc.
ちょっと変わっているのが、ファミコン用ソフトの『マッハライダー』(任天堂/1985年)。本作の「エンデューロコース」と「ソロコース」はゴール地点が存在せず、制限時間内に規定の距離を走ると次のステージに進めるルールになっています。両モードとも、規定の走行距離に達した時点でジングルが流れますが、その時点でステージが終了せず、時間が残っている間はゲームが続行します。
つまり、両モードでノルマ達成を知らせるジングルは「残った時間は、ご褒美に好きなだけ敵の車を倒したりして得点を稼いでね!」という、いわばボーナスゲームの開始を知らせる役割も果たしていたと言えるでしょう。
またレースゲームではありませんが、縦スクロールシューティングゲームの『1942』(カプコン/1984年)にもおもしろい演出があります。
本作では、7面などの最終盤に出現する敵の超大型戦闘機「亜也虎(あやこ)」を撃墜すると、プレイヤーを祝福するBGMがしばらくの間流れ続けます。しかも「亜也虎」撃墜後は敵が一切出現しないので、プレイヤーは自機が空母に着艦、すなわちステージクリアまで勝利の余韻にひたることができる、実に見事なアイデアですね。
©1985 Nintendo
次に、スポーツゲームの導入例をいくつか紹介しましょう。
野球ゲームの典型的な「褒め要素」といえば、やはりホームランを打った(または打たれた)ときに特別なSEやジングルを流す演出でしょう。ファミコン用ソフトとして大ヒットした『ベースボール』(任天堂/1983年)をはじめ、『プロ野球ファミリースタジアム』(ナムコ/1986年)、『燃えろ!!プロ野球』(ジャレコ/1987年)、『パワーリーグ』(ハドソン/1988年)など、こちらも導入例は多数あります。
実はこの演出、上記のタイトルよりもさらに古い時代から存在します。例えばカセットビジョン版の『ベースボール』(エポック社/1981年)には、ホームランのときだけ画面全体が光るとともに、短いながらもSEが鳴るアイデアがすでに導入されていました。
特に秀逸だったのが『チャンピオンベースボール』(セガ、開発:アルファ電子/1983年)の演出です。本作では、ホームランを打つと「ホームラン!」のボイスとともに、バッターランナーがダイヤモンドを1周するまでの間、ひと際ゴージャスなジングルが流れ、プレイヤーはこの上ない快感を得ることができました。
ファミコンで『ベースボール』や『ファミスタ』が大ヒットする以前から、野球ゲームならではの「褒め要素」がすでにあったとは、今さらですが驚きですね。
©Bandai Namco Entertainment Inc.
サッカーゲームでは、ゴールを決めたときのほか、選手がゴールパフォーマンスを披露している最中、あるいはゴールシーンのリプレイを再生中にジングルを流すことで、プレイヤーの快感を大いに高めてくれます。
初期のサッカーゲームで、特筆に値する見事な演出を用意していたのが『エキサイティングサッカー』(セガ、開発:アルファ電子/1984年)です。本作ではゴールが決まると、ボールがネットに突き刺さる「ズサッ!」というSEが鳴るとともに「IN GOAL」と表示され、さらに応援団が叩く太鼓を想起させる「ドンドンドン……」という音が鳴り、選手たちが両手を挙げて喜びながら自陣に駆け戻るまでの間は歓声が流れ続ける、実に凝った演出があります。
ゴールのリプレイ時にジングルを流す例としては、『サッカースーパースターズ』(コナミ/1994年)をはじめ、『バーチャストライカー』(セガ/1995年)や『WORLD CLUB Champion Football』(セガ/2002年)シリーズなどがあります。特に90年代以前の時代は、リプレイの存在自体がまだ珍しかったので、このような演出はなおさら「褒め要素」として絶大な効果があったように思います。
ちなみに『エキサイティングサッカー』では、試合に勝つ(CPUに勝利する)と次の対戦チームが決まるまでの間、なんとチーム(日本、旧西ドイツなど)ごとの国歌が流れる、これまた実に粋な演出も用意されていました。「褒め要素」に含めていいのかどうかはさておき、今から38年も前に、すでに国家を流すアイデアを実現させていた開発スタッフには敬服するばかりです。
©SEGA
ゴルフゲームでは、カップ付近にピタリと寄せたり、長い距離のパットをねじ込んだりしたときだけでなく、バーディーやイーグルが狙えるタイミングでSEやジングル、あるいはボイスを流すことで、プレイヤーを大いに喜ばせる演出もあるのが特徴です。
筆者の知る限りではありますが、その最も古い例のひとつが『バーディーキング』(タイトー/1982年)ではないかと思われます。本作には、ボールをグリーンに乗せると「ON THE GREEN」の表示とともにジングルが流れたり、さらにバーディーを奪うとジングルに加え、「ヒューヒュー」という歓声(に似せたSE)が流れたりするなどの演出があります。
ファミコン版の『ゴルフ』(任天堂/1984年)も、同様にバーディーやイーグルパット時にジングルを流すことで、プレイヤーのテンションを高めてくれます。さらに、パー以上の成績でそのホールを終えたときにも特別なジングルを流してプレイヤーを祝福しますが、逆にボギー以下だった場合は、低音のいかにもネガティブなイメージのジングルを流す演出も用意されていました。
© Nintendo
まだまだあります! ジャンル別「ゲーム音楽」を利用した「褒め要素」
ここからはレース、スポーツゲーム以外のジャンルから「褒め要素」にあたる演出の例を紹介しましょう。
一定の条件を満たすとステージをクリアできる、アクション系のゲームで素晴らしい演出を用意していたのがファミコン版の『グーニーズ』(コナミ/1986年)です。本作の1~5面をクリアするためには、閉じ込められた仲間を救出し、さらに次のステージにつながる扉を開くための鍵を3個入手することが必要で、プレイ中に両方の条件を満たすと特別なジングルが流れます。
本作の注目ポイントは、ジングルが鳴っている間はメインBGMをいったん停止するところです。つまり、BGMをわざわざ止めてジングルだけを流すことで、プレイヤーに対しクリア条件を満たしたことを明確に知らせるようにしたわけですね。また、仲間を救出したときのジングルが流れている間も、同様にBGMが一時的にストップします。
©KONAMI 1986
アクションアドベンチャーやRPG、またはコマンド入力方式のアドベンチャーゲームでは、隠された謎を解き明かし、ストーリーを進めたプレイヤーに対して、「ゲーム音楽」を利用して褒める演出が欠かせないように思います。
特に有名なのは、『ゼルダの伝説』(任天堂/1986年)シリーズで重要なアイテムを入手したり、隠し部屋の入口を発見したときなどに特別なジングルを流す演出でしょう。本シリーズをプレイした経験のある人であれば、この文章を読んだ瞬間に、反射的におなじみのジングルが頭に浮かんだのではないでしょうか? 同様の演出は、『イース』(日本ファルコム/1987年)や『サーク』(マイクロキャビン/1989年)シリーズなど多くのタイトルに導入されています。
アドベンチャーゲームでは、以下の写真のファミコン用ソフト『新鬼ヶ島 前編』(任天堂/1987年)などのように、隠された謎を解き明かしたり、直近の問題や事件を解決したときに特別なSEやジングルを流す演出がよく用いられます。
これらの演出は、プレイヤーに対し達成感を与えるのと同時に、ストーリーが進んだことを知らせて安心感を与える役割も果たしており、「褒め要素」だけでなく「ゲームニクス理論」の「原則3-C:発見する喜び」の演出としても非常に効果的ですよね。
© Nintendo
落ち物パズルゲームでは、連鎖を組んでブロックなどをいっぺんに大量に消したときのSE、あるいはジングルを利用した「褒め要素」が定番になっている感があります。
『コラムス』(セガ/1990年)をはじめ、『ぷよぷよ』(セガ/1992年)や『マジカルドロップ』(データイースト/1995年)などの各シリーズでは、連鎖が続くごとにSEの音程が少しずつ高くなり、プレイヤーをワクワクさせてくれる演出があることは、おそらく皆さんもよくご存知のことでしょう。
あるいはゲームボーイ版の『テトリス』(任天堂/1990年)などのように、最高のボーナス得点が入る「テトリス」(※ブロックを1度に4ライン分消すこと)に成功したときだけ、特別なジングルを流してプレミアム感を演出するケースもあります。
© SEGA
トランプ、麻雀、花札やボードゲームなど、テーブルあるいはバラエティ系のゲームでは、プレイヤーがあがった役に応じてSEやジングルが変わったり、プレイヤーに有利な効果が得られるマス目に止まったりするとジングルが流れる演出が、昔から定番になっている感があります。
麻雀ゲームの場合は、『麻雀格闘倶楽部』(コナミ/2002年)と『四人打ち麻雀MJ』(セガ/2002年)の両シリーズでは、大物手をあがると画面に稲妻や炎などが表示され、派手な爆音が鳴るのがその典型です。良いマス目に止まったときにプレイヤーを褒めるジングルが鳴る、古い時代のテーブルゲームには『遊々人生』(ハドソン/1988年)や『いただきストリート』(アスキー/1991年)などがあります。いずれもアナログゲームで遊ぶのとは違って、「ゲーム音楽」を使った演出があることでビデオゲームならではの楽しさが付加されています。
ほかにも、純粋なテーブルゲームではありませんが、『ドラゴンクエストIV』(エニックス/1990年)で『ドラクエ』シリーズ初登場となったカジノでは、賭けたメダルが数倍増える程度の当たりと、ジャックポット(大当たり)達成時とではジングルがそれぞれ異なり、後者はとびきり派手なファンファーレが流れるのもおなじみの演出です。
ジャックポットを引き当てると、ド派手なファンファーレが流れてプレイヤーを祝ってくれる一例です
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エンディング曲を利用した「褒め要素」
ビデオゲームにおいて、プレイヤーを「これでもか!」と言わんばかりに最高に祝福してくれる演出といえば、やはりエンディングのシーンになるでしょう。主人公がガッツポーズをするシーンやスタッフロールの表示とともに、長尺のエンディング曲を流すことでプレイヤーにさらなる感動を与えてくれます。
アクション、シューティングゲームでは、1周目と2周目のエンディング曲を変え、2周目を真のエンディングにすることでプレイヤーにさらなる感動をもたらす、凝った演出を用いたタイトルがいくつかあります。『魔界村』(カプコン/1985年)や『V・Ⅴ(ヴイ・ファイブ)』(タイトー、開発:東亜プラン/1993年)などがこれに該当します。
『妖怪道中記』(ナムコ/1987年)などのように、プレイ内容に応じてエンディングが何種類にも変化する、いわゆるマルチエンディング方式を導入したタイトルでは、その種類ごとにエンディング曲を変えるタイトルもあります。また『バブルボブル』(タイトー/1986年)には、偽のエンディング(※1人プレイで全面クリアした場合)と真のエンディング(※2人同時プレイで全面クリアした場合)の曲を分けるアイデアが取り入れられていました。
© CAPCOM
古い時代のアーケードゲームでは、コンティニューなしでエンディングまで到達する、いわゆる「1コインクリア」の達成がプレイヤーにとっては大きな勲章でした。
そこで、『天地を喰らうII』(カプコン/1992年)などのように、1コインクリアに成功した場合のみ、特別なエンディング曲を流してプレイヤーを称えるアイデアを取り入れたタイトルが、ごく少数ながらも存在します。また本作では、ラスボスの曹操と戦う前の選択肢や倒し方などの条件によって、全3種類のエンディング曲を用意しているのも注目ポイントですね。
© CAPCOM
『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)をはじめ、対戦格闘ゲームの場合は使用キャラクターごとに異なるエンディング曲やムービーを用意して、プレイヤーを楽しませる例がいろいろあります。さらに、その続編の『ストリートファイターII’(ダッシュ)』(カプコン/1992年)などでは、1ラウンドも落とさずに無敗でクリアすると特別なエンディング曲、およびビジュアルなどが見られるのも、プレイヤーにとっては実にうれしい演出です。
© CAPCOM
以上、またまた今回も超駆け足となりましたが、「ゲーム音楽」を利用した「褒め要素」をいろいろ紹介させていただきました。
今も昔も、プレイヤーを夢中にさせるには「褒め要素」の存在が必要不可欠であると言えるでしょう。だからこそ、我々プレイヤーはアーケードゲームであれば100円玉を何度も注ぎ込んだり、家庭用ゲームでもRPGなどを遊んでいたら、いつの間にか徹夜していたりなどといった、楽しい(場合によっては苦い)経験をしてしまうわけです。
それにしても、プレイ中にほんの一瞬だけしか流れないのにプレイヤーを魅了してしまう、幾多のSEやジングル、BGMを編み出した開発スタッフのアイデアには、改めて頭が下がるばかりですね。
なお、「ゲームニクス理論」における「ゲーム音楽」に関するくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-E:音楽理論の導入」などのページに書いてありますので、ご興味のあるかたはぜひ御覧ください。
それでは、また次回!