「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十六回 ハリーアップ

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十六回 ハリーアップ
  • 公開日
    2022年10月28日
  • 記事番号
    8638
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第二十六回目のテーマは「ハリーアップ」です。

主にアクション系のゲームにおいて、制限時間が残り少なくなったり、主人公が瀕死状態になったりしたときなど、プレイヤーにピンチが迫っていることを知らせる「ハリーアップ」は、昔からプレイヤーの緊張感を高める定番の演出です。

第十二回の「ゲーム音楽」でも触れましたが、例えばタイムアップが迫るとBGMがテンポアップするのが「ハリーアップ」の典型的な演出です。皆さんも、ハラハラドキドキさせるこの演出によって、思わずミスをしてしまった経験がきっとあることでしょう。

以下、今回はサウンド以外にもフォーカスした、古いタイトルを中心にさまざまな「ハリーアップ」の例をご紹介します。どうぞ最後までご一読ください!
  

  

  
「ゲームニクス」とは?
  
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

  

サウンドをガラリと変えて、緊張感あふれる場面を演出

BGMのテンポアップ以外にも、サウンドを利用した「ハリーアップ」の演出はいろいろあります。

最もシンプルでわかりやすい「ハリーアップ」の演出は、タイムアップが近付くと1秒、または1カウントごとに警告音が鳴る、いわゆるカウントダウンになるでしょう。『ナッツ&ミルク』(ハドソン/1984年)や『忍者ハットリくん』(ハドソン/1986年)、『エイリアンシンドローム』(セガ/1987年)など、昔から多くのタイトルに導入されています。

また『メトロクロス』(ナムコ/1985年)では警告音の代わりに、残り10秒を切ると画面内のあちこちで爆発が発生し、ビジュアルを変化させることで「カウントダウン」を演出しています。
  

『ドンキーコング』(任天堂/1981年)や『クルクルランド』(任天堂/1984年)、『魔界村』(カプコン/1985年)などのように、残りタイムが少なくなるとBGMそのものが変化することで、プレイヤーにピンチであることを知らせるタイトルも古くからたくさんあります。

ほかにも『アルゴスの戦士』(テクモ/1986年)には、タイムアップが近付くとBGMが変わるだけでなく、時間がゼロになるとさらに恐怖感を煽るBGMに変わり、絶対に倒せない強敵が出現する、おもしろい「ハリーアップ」の演出があります。
  

プレイヤーにタイムアップが迫っていることを知らせる、非常に凝った「ハリーアップ」のアイデアを導入していたのが『ちゃっくんぽっぷ』(タイトー/1984年)です。

本作では、画面上部にいる敵の「まいた」が、大きな岩を押しながら少しずつ右隅の出口(ゴール地点)に向かって移動します。やがて「まいた」が出口に近付くとBGMが変わり、同時に仲間の「まいた」が次々と出現して、6体目の「まいた」が加勢した直後に岩を押し出し、出口を完全に塞いでしまいます。

出口が塞がれたプレイヤーは、もちろんミスとなります。つまり、「まいた」はタイマーの役割を果たしているワケですね。
  

マイカー、または自機の燃料に制限があるタイプのゲームでは、燃料切れが迫る、つまりミスになる危険が高まったことをプレイヤーに知らせる「ハリーアップ」の演出が定番になっている感があります。

例えば『ロードファイター』(コナミ/1984年)は、マイカーの燃料が残り4目盛り以下になると警告音が鳴り、プレイヤーにピンチであることを知らせます。本作は、ガス欠になると即ゲームオーバーになるので、警告音が鳴るとプレイヤーの緊張感は一気に高まります。

同様に、『スクランブル』(コナミ/1981年)や『ザクソン』(セガ/1982年)、『フォーメーションZ』(ジャレコ/1984年)、『1943』(カプコン/1987年)などのシューティングゲームでも、燃料あるいはエネルギーが残り少なくなると警告音が鳴る演出があります。

機体ではなく、人間が主人公のタイトルにも、瀕死状態になると警告音が鳴り続ける「ハリーアップ」の演出が、古くから数多くのタイトルに導入されています。『メトロイド』(任天堂/1986年)、『妖怪道中記』(ナムコ/1987年)、『ワンダーボーイ モンスターランド』(セガ、開発:ウエストン/1987年)などがこれに該当します。
  

レースゲームで、素晴らしい「ハリーアップ」の演出を導入しているのが『F-ZERO』(任天堂/1990年)です。

本作は、1周ごとに規定の順位を下回った状態でゴール地点を通過するとリタイア、すなわちミスになってしまいます。そこで自分がボーダーライン上、またはそれを下回る順位にいるときは、注意を促すメッセージ表示や警告音で、プレイヤーにピンチであることを伝えてくれます。
  

あの手この手で、プレイヤーを恐怖に陥れる「ハリーアップ」の数々

次に、プレイ時間が設定されていない代わりに、時間の経過とともに難易度が上昇することで、「ハリーアップ」を演出する例を見ていくことにしましょう。

昔のアーケードゲームは、プレイ時間が長くなればなるほど難易度が上昇するのが鉄則でした。100円で長時間プレイされてしまうと、ゲームセンター側が儲からなくなるからですね。

そこで、プレイヤーがわざと粘っている(またはクリアできずに苦戦している)と、やがて敵の移動スピードがアップしたり、あるいは敵の数が増えたりするなどの方法で難易度を上げて「ハリーアップ」の場面を演出していました。

有名タイトルから例を挙げますと、一定の時間が経過後に敵のスピードが上がるタイトルには『ディグダグ』(ナムコ/1981年)や『パックランド』(ナムコ/1984年)などが、敵の数が増えるタイトルには『平安京エイリアン』(電気音響/1980年)や『スペースパニック』(ユニバーサル/1980年)などがあります。

また『パックマン』(ナムコ/1980年)では、長時間粘ると敵のアカベイが怒り状態になって移動速度がアップし、パックマンをより積極的に追い掛けるようになります。さらにアカベイが怒っている間は、敵の移動音が通常時よりもキーが高くなるので、プレイヤーの緊張感はいやが上にも高まります。

敵を強くして「ハリーアップ」を演出するタイトルの中でも、サウンド、ビジュアルの両面で特に優れているのが、おそらく『マッピー』(ナムコ/1984年)になるでしょう。

本作では、「ハリーアップ」になると一瞬画面がストップして警告音と同時にメッセージが表示され、BGMがテンポアップして敵の数も移動速度もアップします。さらに粘っていると2度目の警告音が鳴り、今度は絶対に倒せない最強の敵「ご先祖様」が出現してプレイヤーを追い詰めます。

なお、本作と同様のアイデアは『バブルボブル』(タイトー/1986年)や『ニュージーランドストーリー』(タイトー/1988年)などにも導入されています。
  

粘っていると敵が一斉に怒り出す、またはパワーアップしてプレイヤーに襲い掛かる「ハリーアップ」の演出も、プレイヤーに大きな恐怖感を与えます。

第十二回の「ゲーム音楽」でも紹介した『トランキライザーガン』(セガ/1980年)で、トラックの燃料がゼロになると、敵の猛獣たちが一斉に狂暴化して主人公を追い掛けてくるアイデアを導入していたのがその一例です。

同様の演出は、1対1で対戦するアクション、スポーツ系のタイトルにも見られます。

以下の写真は、相撲ゲームの『出世大相撲』(SNK、開発:テクノスジャパン/1984年)です。本作は、一定時間が経過するとCPUの力士が全身を紅潮させて怒り出し、張り手を連発しながら猛然とプレイヤーに襲い掛かり、まともにぶつかるとあっという間に突き倒されてしまいます。(※ちなみに、顔面に張り手をくらわせたときにも、CPUは怒り状態になります)

同様に『ザ・ビッグ・プロレスリング』(データイースト、開発:テクノスジャパン/1983年)も、CPUのレスラーと組み合わずに逃げ回っていると、やはりCPUの体が紅潮して急激に移動スピードが上がり、プレイヤーを無理矢理捕まえるアイデアが導入されています。
  

近年、特に若いプレイヤー間で人気を集める『フォートナイト』(Epic Games/2017年)などのバトルロイヤルゲームには、マップの外周に触れるとダメージを受けるエリア(※本作ではストームと呼びます)が設定されています。

ストームは、時間の経過とともにマップを侵食し、各プレイヤーの行動範囲がどんどん縮小します。このアイデアによって、逃げ回ってばかりいるプレイヤーもほかのプレイヤーと必然的に出会いやすくなり、さらなるスリル感を演出しています。

実は、マップが徐々に縮小することで「ハリーアップ」を演出するアイデアは、かなり古い時代から導入されています。

以下の写真は、固定画面方式のアクションゲーム『モトス』(ナムコ/1985年)です。本作は、一定時間が経過すると上空から流星が次々と飛来し、流星がフィールドに1発命中するごとに1ブロックずつ破壊され、行動範囲が徐々に狭くなります。

また『レインボーアイランド』(タイトー/1987年)では、一定の時間が経過すると画面の下から水が押し寄せ、徐々に水かさが増すことで最上部のゴール地点に急ぐよう、プレイヤーを促す「ハリーアップ」のアイデアが導入されていました。
  

シューティングゲームでも、敵が強くなるなどの方法で「ハリーアップ」を演出したタイトルがいろいろありますが、中でもおもしろい「ハリーアップ」のアイデアを取り入れていたのが『ファタジーゾーン』(セガ/1986年)です。

本作では対ボス戦で逃げ回っていると、やがてボスがオパオパ(自機)に向かって体当たりを仕掛けてきます(※体当たりをしないボスもいます)。サイズの大きなボスが接近することで、オパオパの行動範囲は必然的にどんどん狭まり、さらにボスの移動スピードが徐々に速くなるので、プレイヤーは急いでボスを倒さなければ確実に捕まってミスになる、というワケですね。
  

今や「消えた文化」となった「永パ防止キャラ」の存在

ここで閑話休題。

その昔、主にアーケードゲームには、前述の理由から長時間プレイを防止するため、粘り続けるプレイヤーのミスを誘うべく、いわゆる「永パ(永久パターン)防止キャラ」を出現させるのが定番になっていました。

ほとんどのタイトルにおいて、「永パ防止キャラ」は攻撃しても絶対に倒せない、あるいは通常の敵よりも耐久力や攻撃力が高く設定されているので、「永パ防止キャラ」が出現する展開は、まさに「ハリーアップ」そのものと言えます。

とりわけ、前述した『アルゴスの戦士』や『マッピー』などのように、タイムアウトしてもミスにならないタイトルの場合は、「永パ防止キャラ」は(ビジネス的側面からも)欠かせない存在です。
  

例え残り時間に余裕がある状態であっても、わざとクリアしないで粘ろうとするプレイヤーに対して「永パ防止キャラ」を出現させ、ミスを誘う手段もよく用いられます。

例えば『フリッキー』(セガ/1984年)は、何もしないでじっとしていると、窓から敵のネコが突然顔を出し、当たると即ミスになる火の玉を投げてきます。同様に『忍者くん』(タイトー、開発:UPL/1984年)も、同じ場所で粘っていると炎が出現し、忍者くんをしつこく追い掛けてきます。ちなみに、この炎は残りタイムがゼロになったときにも出現します。

また『ドラゴンバスター』(ナムコ/1985年)や『源平討魔伝』(ナムコ/1986年)などのタイトルでは、当たると大きなダメージを受ける「永パ防止キャラ」が時間の経過とともに2体、3体と数がどんどん増えるので、早く出口に向かわないとあっという間にやられてしまいます。
  

しかし、敵(プレイヤー)もさるもの。いわゆるハイスコアラーなど、とびきりゲームの腕に長けたプレイヤーたちは「永パ防止キャラ」の行動パターンの盲点を発見し、「永パ」にする方法をしばしば編み出しました。

前掲の『ドラゴンバスター』をはじめ、『未来忍者』(ナムコ/1988年)や『ピストル大名の冒険』(ナムコ/1990年)など、やがて多くのタイトルで「永パ防止キャラ」の避けかたや、逆に得点稼ぎに利用するパターンが発見されました。まさかの展開に頭を抱えた、開発スタッフやゲームセンターの経営者も、当時は少なからずいたことでしょう。

昨今のアーケードゲームはジャンルを問わず、1プレイの時間があらかじめ決まっているタイトルがほとんどなので、「永パ防止キャラ」を登場させる必然性がなくなりました。ですから「永パ防止キャラ」は、今や「消えた文化」となった感がありますね……。
  

以上、今回は「ハリーアップ」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

間に合うか、それとも間に合わないのか? 極めてシンプルなゲームルールにさまざまな工夫を施し、プレイヤーを楽しませるノウハウを編み出した、先人たちの知恵には改めて驚かされた次第です。

なお、「ハリーアップ」に関する解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-A:ゲームテンポとシーンリズム」などにくわしく書いてありますので、ご興味のあるかたはぜひ御覧ください。

それでは、また次回!

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