「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十七回 デザイン機能

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    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十七回 デザイン機能
  • 公開日
    2022年11月25日
  • 記事番号
    8801
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第二十七回目のテーマは「デザイン機能」です。

本稿でご紹介する「デザイン機能」とは、「プレイヤーがステージのデザインを自由に作って遊べる機能」のことです。今ではステージ以外にも、主人公やアバターの表情、体格などを自由にデザインできるタイトルがたくさんありますが、こちらも含めると紙幅ならぬweb幅がとても足りないので、今回はステージのデザインだけに絞ります。

「デザイン機能」のおかげで、プレイヤーはプログラムやコンピューターの知識がなくても、簡単にステージを作って遊べるようになり、まるで自分がゲーム開発者になったかのような気分にさせてくれます。とりわけ子どもたちにとっては、まさに夢のようなサービスです。

本機能を搭載した近年のタイトルで、特に有名なもののひとつが『スーパーマリオメーカー』(任天堂/2015年)でしょう。本作には、プレイヤーが作ったオリジナルステージをネット上にアップしたり、ほかのプレイヤーがアップしたオリジナルステージを遊べたりする「とうこう」機能が搭載されています。

これはまさに、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-D-⑪:発表できる場の提供」で解説している、「コレクションしたものや、上達した状態などを発表する環境を構築する」にあたります。

さらに広義には、プレイヤーが意外な攻略パターンやトリックを仕込んだオリジナルステージを創案することで、「原則3-C-⑤:発見を自慢できる発表の場を提供する」にも該当すると言えるでしょう。
  

このような「デザイン機能」が用意されたタイトルですが、いざ調べてみると実はかなり古い時代から存在することがわかります。

以下、筆者の知る限りではありますが、皆さんにぜひ知っていただきたい「デザイン機能」を搭載した数々の作品と、そのおもしろさについてご説明しましょう。今回も、どうぞ最後までご一読ください!
  

  
「ゲームニクス」とは?
  
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

  

メディアミックス戦略で実現させた、黎明期の「発表できる場の提供」

「デザイン機能」を、史上初めて搭載したタイトルは定かではないのですが、筆者の知る限りで最も古い作品のひとつが、PC用アクションパズルゲーム『ロードランナー』(Broderbund Software/1983年)です。

本作は、全150ステージもの豊富なステージが用意されているだけでなく、プレイヤー自身が自由にステージを作って遊べるエディットモードを用意したことで、飽きずに何度も遊べるのが画期的でした。

日本国内でも、同年にシステムソフトから発売されたPC版、および翌年にハドソンから発売されたファミコン版などにも実装されていましたので、本作を機に「デザイン機能」の楽しさを知った人も数多くいたことでしょう。

ただしファミコン版は、通常のステージは2画面分の大きさなのに対し、「デザイン機能」で作れるステージは1画面分しか作れませんでした。また、あまり知られていない感がありますが、作成したデータは『ファミリーベーシック』(任天堂/1984年)用のキーボードとデータレコーダー、およびカセットテープがあればセーブすることもできます。
  

さらに驚くべきは、ソニーがMSX版『ロードランナーII』(ソニー/1985年)を使用して、プレイヤーが考えたオリジナルステージのアイデアを募集する「ロードランナー・コンストラクションコンテスト」を、85~86年にかけて開催したことです。本コンテストに入賞した作品は、何とアスキーが発行していたMSX専門誌『MSXマガジン』誌上で紹介されました。

本コンテストは、ソニーがソフト、ハード両方の販促が目的だったと思われます。ですが、まだインターネットのない昭和の時代から、専門誌を介して「発表できる場の提供」を実現していた事実は特筆に値します。つまり、前述の『スーパーマリオメーカー』の「とうこう」機能を、誌上を通じて実現させていたワケですね。

ちなみにファミコン版『ロードランナー』でも、漫画雑誌の『コロコロコミック』だったか『コミックボンボン』だったのか、媒体は忘れてしまったのですが、読者が考えたステージデザインコンテストが掲載され、筆者も何度かデザインを真似て遊んだ記憶があります。

同じく、PC用パズルゲームの有名タイトル『倉庫番』シリーズにも「デザイン機能」が導入されており、『倉庫番リベンジ』(シンキングラビット/1991年)など一部のタイトルでは、公募によって選ばれたステージも収録されていました。
  

パズル系以外で、「デザイン機能」を取り入れた古いタイトルで特筆したいのが『ピンボール・コンストラクション・セット』(EA/1983年)です。

本作は、元々はアナログあるいはエレメカだったピンボールをビデオゲーム化したもので、ただボールを打つだけでなく、プレイヤーが盤面の好きな場所にギミックを設置して遊べる、画期的なアイデアを導入していました。

開発者のビル・バッジ氏は、2013年に開催されたGDC(※Game Developers Conference:毎年開催されているゲーム開発者向けのイベント)で講演した際に、「プログラミングの知識がなくても,LEGOなどの組み立て玩具のように,必要なものを並べるだけでゲームが作れるようなものはないかと考えた」と、本作の開発の経緯を説明していました。

さらに『シムシティ』(Broderbund Software /1989年)などの作品を開発したことで有名なウィル・ライト氏は、本作に影響を受けたことが『シムシティ』の開発につながったと、2012年に開催されたGDCで証言しています。「デザイン機能」がオプション機能の一種ではなく、メインの遊びに昇華するきっかけとなったという意味でも、『ピンボール・コンストラクション・セット』は歴史に残る1本と言えるのではないでしょうか?

なお本作は、日本でも1985年にコンプティークから発売されています。

(参考リンク)
「[GDC 2013]ビル・バッジ氏が語る「Pinball Construction Set」制作の舞台裏。ゲーム制作ツールをゲームにした独創的な作品はどのように生まれたか」(※4Gamer/2013年3月29日掲載の記事より)
https://www.4gamer.net/games/999/G999901/20130329049/

「デザイン機能」を、より身近な存在にした作品いろいろ

ここからは「デザイン機能」が搭載された、古い時代の主なタイトルをざっとご紹介していきます。

まずはファミコン用ソフトから。前述の『ロードランナー』よりも早く、「デザイン機能」を搭載していた、つまりファミコン初の本機能を搭載した作品は『ナッツ&ミルク』(ハドソン/1984年)です。

本作では、タイトル画面で「GAME EDITER」を選択すると画面に1面のマップが表示され、これをアレンジする形でオリジナルステージが作れる仕組みになっていました。
  

ハドソンの両タイトルに加え、本家の任天堂からは『エキサイトバイク』(任天堂/1984年)も発売されたことで、多くの人が、「デザイン機能」の存在を知ったのではないかと思われます。本作は、まっさらなコース上に全19種類の障害物やギミックを配置してステージを作る仕組みになっていました。

本作の価格は5500円で、当時の任天堂製ソフトの標準的な価格は4500円でしたからプレイヤー、すなわち子どもたちにとってはかなり高価でした。ですが本作は、当時は珍しかったバイクを操るレースが体験できることと、「デザイン機能」も遊べる付加価値を持たせたことで、5500円でも納得していたように思います(※ハドソンの両タイトルは4500円だったので、何となくではありますが……)。

これも余談になりますが、本作のパッケージは「デザイン機能付き」と、わざわざ赤い帯状のデザインを施し、それまでの作品よりもひと回り大きいサイズになっていました。あくまで筆者の推測ですが、パッケージをよりゴージャスにすることで、子どもたちに値段が高いことを納得させる販売戦略だったのかもしれませんね……。
  

アクションパズルゲーム『レッキングクルー』(任天堂/1985年)の「デザイン機能」には、プレイヤーがオリジナルステージを作りやすくなるよう、さまざまなアイデアが盛り込まれていました。

本作には、画面全体を壁やハシゴ、爆弾などのギミックにワンタッチで置き換える便利機能のほか、既存の全100ステージのデータをそのまま持ち込んでプレイ、またはアレンジして遊べる機能も付いていました。またまた余談になりますが、実は筆者はこの機能を利用して、100面を繰り返しやり込んでクリアできるパターンを作った思い出があります。

本作は、最高4ステージ分までのデータが作成可能で、『ナッツ&ミルク』や『エキサイトバイク』などと同様に『ファミリーベーシック』とデータレコーダーを利用してデータをセーブすることもできました。
  

『マッハライダー』(任天堂/1985年)は疑似3D視点のレースゲームですが、2Dで描かれた直線やカーブのパーツを組み合わせて、自由にコースを作って遊べる「デザイン機能」があります。

コースをデザイン中に、カーソルのある地点に接続が不可能なパーツがあるとき、例えば特定のパーツをつなぐとコースが画面外にはみ出してしまう場合は、接続できないパーツが自動で消えるので、プレイヤーがより快適に作れるよう配慮されています。

ほかにも、ファミコン用ソフトで「デザイン機能」を搭載したタイトルには『バトルシティー』(ナムコ/1985年)や『エッガーランド 創造への旅立ち』(HAL研究所/1988年)などがあります。
  

PC用ゲームでは、前述したパズル系のタイトルだけでなく、ターンバトル方式のシミュレーションゲームにも「デザイン機能」を用意したタイトルが昔から多く見られる感があります。

例えば、シミュレーションゲームの中でも特に有名な『大戦略』シリーズは、MSX2版の『大戦略』(システムソフト/1987年)の時点でマップエディター機能が搭載され、登場させるユニットの種類なども自由に設定して遊べるようになっていました。

ほかにも『ガイアの紋章』(日本コンピュータシステム/1987年)などの作品では、プレイヤーが自由にユニットの配置や数などを設定して遊べるエディットモードが用意されていました。

上記以外にも、ファミコン版の有名タイトルに比べると知名度が低いかもしれませんが、セガのSG-1000やマークIIIにも「デザイン機能」を搭載した作品がいくつも発売されていました。

『チャンピオンシップロードランナー』(セガ/1985年)をはじめ、『GPワールド』(セガ/1985年)、『ザ・サーキット』(セガ/1986年)、『どきどきペンギンランド宇宙大冒険』(セガ/1987年)などがこれに該当します。
  

今度は、時計の針を一気に現在へと進めしょう。今年発売された作品で、「デザイン機能」を搭載した有名シリーズのひとつに『PUZZLE & DRAGONS Nintendo Switch Edition』(ガンホー/2022年)があります。

本作には、元祖スマホ版『パズドラ』には存在しない、プレイヤーがオリジナルダンジョンを作って遊べる「デザイン機能」があり、作成したダンジョンは『スーパーマリオメーカー』と同様に、ネット上へアップロードすることで世界中のプレイヤーに遊んでもらうことができます。

本作を利用して、5月にはプレイヤーが作ったオリジナル作品を募集した「エディットコンテスト」が、8月にも「超絶エディットモードコンテスト」が開催されました。ガンホーのプレスリリースによりますと、後者に入賞した作品をベースにしたダンジョン、およびボスモンスターの進化形態が、スマホ版『パズドラ』に実装予定とのことです。

まだ紙媒体しかなかった昭和の時代も、インターネットが普及した現在も「発表できる場の提供」を利用した遊び、そしてキャンペーンが続いているとは、まさに「歴史は繰り返す」ですね!

「超絶エディットモードコンテスト」の結果が掲載された『PUZZLE & DRAGONS Nintendo Switch Edition』の公式サイトより

参考リンク:『PUZZLE & DRAGONS Nintendo Switch Edition』超絶エディットモードコンテスト 入賞作品発表
https://pad-switch.com/jp/event-jp/dungeoncontest02result/

「デザイン機能」がメインの遊びへと進化

やがて時代が進むと、「デザイン機能」がゲームの付加価値の一種として用意されたものではなく、前述の『ピンボール・コンストラクション・セット』のように、「デザイン機能」自体をメインの遊びにした作品が続々と登場するようになりました。

その中でも特に有名なのが、MSX2用ソフト『RPGコンストラクションツール・Dante』(アスキー/1989年)を始祖とする『RPGツクール』シリーズになるでしょう。

筆者はリアルタイムで遊んだことはないのですが、プログラムの知識がまったくないプレイヤーでもオリジナルRPGが作成できる本作には、多くのPCゲームファンが衝撃を受けたことでしょう。

本作も、前述した『ロードランナーII』と同様に『MSXマガジン』誌上でコンテストが開催されたのですが、驚くべきは優秀作品に選ばれた『CROSS KINGDOM』(MSXマガジン/1991年)と『TRANCHE-LARD(トランシェラード)』(MSXマガジン/1991年)が、後に商品化されたことです。プレイヤーの手掛けた作品が、正式なゲームソフトとして店で売られる夢をもかなえたという意味でも、本作は歴史に残る1本ですね!

以後、本シリーズは『アドベンチャーツクール98』(アスキー/1992年)などの派生タイトルも続々と誕生し、現在でもシリーズ作品が発売されコンテストも開催されています。また年内には、ゲームエンジンのUnity上で動く『RPG Maker Unite』の発売も予定されるなど、その息の長さには本当に驚かされます。
  

発売当時はあまり話題にならなかった感がありますが、ファミコン用ソフトの『絵描衛門(デザエモン)』(アテナ/1991年)は、何とプレイヤーがシューティングゲーム作成して遊べる、こちらも画期的な作品。後にスーパーファミコンなどで続編タイトルも発売されました。
  

ステージデザインとは少々異なりますが、将棋ゲームにも優れた「デザイン機能」が古くから導入されています。

将棋ゲームにおいては、昔から詰将棋が定番のゲームモードのひとつになっており、さらにプレイヤーが自由に駒を配置して、詰将棋を作って遊べる「デザイン機能」が搭載されているタイトルもいろいろあります。ファミコン用ソフトから例を挙げると、『森田将棋』(セタ/1987年)や『名人戦』(SNK/1987年)などがこれに該当します。

詰将棋の「デザイン機能」ならではの大きなメリットは、ただ駒を自由に置けるだけでなく、作成した局面に詰みが存在するかどうかを、コンピューターが正確に判定する機能も用意さていることです。前述した『名人戦』も、作成後にコンピューターにチェックさせると、詰みがある場合は「詰みあり」と表示されます。

昔の『ロードランナー』や『倉庫番』シリーズなどは、プレイヤーが作ったオリジナルステージがちゃんとクリアできるのかどうかは、プレイヤー自身の手でチェックする必要がありました。なので、チェック機能も搭載し、アマチュアでも1人で詰将棋を簡単に作れるようにした「デザイン機能」も画期的なアイデアだったように思います。

ちなみに『スーパーマリオメーカー』の場合は、オリジナルステージを「とうこう」するためには、プレイヤー自身が作ったステージをクリアすることが必須条件となります。つまり、作者自身がテストプレイヤーの役割も果たすことで、ほかのプレイヤーが「このステージ、本当にクリアできるのかな?」などと心配されることが一切なくなる、非常に優れたアイデアですね。

また、本将棋を初手からではなく、プレイヤーが任意に設定した局面からCPUと対局ができる「デザイン機能」を備えたタイトルも古くからあります。はっきりとは確認できなかったのですが、おそらくPC用ソフトの『森田和郎の将棋』(エニックス/1985年)が、その元祖ではないかと思われます。
  

以上、今回は「デザイン機能」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

繰り返しになりますが、プレイヤー自身がステージをデザインしたり、作品を投稿してほかのプレイヤーに自慢したりする遊びかたは、昭和の時代から現在まで脈々と受け継がれています。

なので「デザイン機能」には、時代やジャンルを問わず普遍的なおもしろさがあるように思えてなりません。これからも、本機能を利用したさまざまなタイトルが世に出続けることでしょう。

なお、本編でも紹介した「ゲームニクス理論」の「「原則3-C-⑤:発見を自慢できる発表の場を提供する」と「原則3-D-⑪:発表できる場の提供」の詳しい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」をご参照ください。

それでは、また次回!

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