「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十九回 永パ防止キャラ

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十九回 永パ防止キャラ
  • 公開日
    2023年01月27日
  • 記事番号
    9094
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第二十九回目のテーマは「永パ防止キャラ」です。

昭和の時代からゲームセンターに通った人には、比較的なじみがあると思いますが、まだゲームを遊び始めたばかりの若い皆さんは聞き慣れない言葉でしょう。

「永パ防止キャラ」とは、簡単に言えばプレイヤーが「永久」にゲームを「プレイ」するのを「防止」するために登場する敵「キャラクター」のことです。第二十六回の「ハリーアップ」でも少し触れましたが、「永パ防止キャラ」はプレイヤーが先のステージへ進もうとせず同じ場所で粘っていたり、あるいは残り時間が少なくなったりすると出現し、主人公や自機をやっつけるべく、しつこく攻撃を仕掛けてきます。
  

当コラムで何度も説明しているように、アーケードゲームは100円で長時間遊ばれてしまうと、オペレーター(ゲームセンター)は儲からなくなってしまいます。昔は主人公や残機のストックが残っていれば、全面クリア後もエンドレスで遊べるタイトルが多かったこともあり、ビジネス的な面からも「永パ防止キャラ」が誕生するのは必然の成り行きだったと言えるでしょう。

アーケードゲームの新作が滅多にリリースされなくなった現在、もはや「永パ防止キャラ」は「消えた文化」同然になってしまいました。ですが、ビデオゲームならではの演出として非常におもしろく、忘却の彼方に追いやってしまうのはあまりにも惜しい存在です。

と、いうことで、今回は改めて「永パ防止キャラ」をクローズアップしたいと思います。どうぞ最後までご一読ください!
  

  
「ゲームニクス」とは?

現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

   

初期の「永パ防止キャラ」の登場例

まずは、古い時代の有名タイトルから「永パ防止キャラ」の例からご紹介します。

史上初めて「永パ防止キャラ」が登場したタイトルは何だったのか、はっきりとは断定できないのですが、筆者が確認できた中で永久パターン防止の役割を果たすキャラクターが登場するタイトルで、最も古い部類に入ると思われるのが『クイックス』(タイトー/1981年)です。

本作では、マーカー(自機)がラインを引いている最中に動きを止めると、すかさず背後から敵のヒューズが出現してマーカーを追い掛けてきます。ヒューズはマーカーを再び動かすと自然に消滅しますが、マーカーを敵キャラのクイックスの死角に隠して時間をつぶそうとするプレイヤーを、ものの見事に(?)邪魔をする存在です。
  

シューティングゲームの『ダライアス』(タイトー/1986年)は、対ボス戦で粘っていると、やがて「永パ防止キャラ」のヤズカ編隊が出現します。ミサイルやボムを当てれば倒せますが、何度倒しても繰り返し出現し、さらに戦いが長引くと出現数が増えたり、破壊後にいわゆる撃ち返し弾が飛んで来るようになったりして、難易度がどんどんアップします。

また『ドラゴンバスター』(ナムコ/1984年)には、第二十六回の「ハリーアップ」でも紹介しましたが、長時間ステージ内をうろうろしていたり、出口が出現後も脱出しないで粘ったりしていると「永パ防止キャラ」のケーブシャークが次々と出現します。
  

ヤズカやケーブシャークなどの「永パ防止キャラ」は、実は倒すと得点が入るため、タイトルによっては熟練のプレイヤーには得点稼ぎに逆用されることもありました。

そのせいなのか、80年代後半に登場した「永パ防止キャラ」は、何体倒しても0点にしたタイトルが増えた感があります。『バラデューク』(ナムコ/1986年)に登場するブルー・スパークなどがこれに該当します。

また『超絶倫人ベラボーマン』(ナムコ/1988年)の「永パ防止キャラ」である初号401は、旧バージョンでは倒すことができたのですが、新バージョンでは無敵に変更されました。当時のメーカーが、いかに永久パターン対策に腐心していたのかが非常によくわかるエピソードですね。
  

「永パ防止キャラ」を0点にするのではなく、最初から絶対に倒せない、つまり無敵状態にすることで長時間プレイを防ぐアイデアも、古くから数多くのタイトルに取り入れられています。

無敵になっている例は、冒頭で紹介した『バブルボブル』(タイトー/1986年)の「すかるもんすた」をはじめ、『マッピー』(ナムコ/1984年)のご先祖様、『フェアリーランドストーリー』(タイトー/1985年)のホーンド、『奇々怪界』(タイトー/1986年)の鬼火、『ニュージーランドストーリー』(タイトー/1988年)の「永パ防止キャラ」など、枚挙にいとまがないほどたくさんあります。
  

待ち伏せ、怠慢プレイ厳禁! 主人公の背後から迫る「永パ防止キャラ」

プレイ時間に制限があるタイトルでは多くの場合、残り時間がゼロになると主人公や自機を強制的にミス、またはゲームオーバーにするルールを導入しています。ですが、一部のタイトルではタイムアップ後もミスとはならず、その代わりに「永パ防止キャラ」が登場してプレイヤーを追い詰めるタイトルも、実はいろいろとあります。

例えば『パックランド』(ナムコ/1984年)では、主人公パックマンの背後から敵のモンスター、スーが常に追い掛けてきますが、移動速度がとても遅いのでプレイ中はほとんど気になりません。ですが、残り時間がゼロになるとスーのスピードが急激にアップし、じっとしているとあっという間に捕まってしまうため、スーが「永パ防止キャラ」として機能するアイデアを導入しています。

ほかにも、「ハリーアップ」の回で紹介した『アルゴスの戦士』(テクモ/1986年)をはじめ、『ロンパーズ』(ナムコ/1989年)の使い魔や『チキチキボーイズ』(カプコン/1990年)の「永パ防止キャラ」なども、同様に時間切れになると出現します。

ところで、なぜこれらのタイトルは残り時間がゼロになった時点でミスにならず、わざわざ「永パ防止キャラ」を登場させているのでしょうか?

あくまで筆者の推測ですが、もしタイムアップの瞬間に主人公が突然死んでしまうと、リアル感がまったくない、いかにも機械的に処理された無味乾燥な演出になってしまいます。そこで「永パ防止キャラ」を出現させることで、プレイヤーはミスをしたときに「あ、敵に捕まったからミスしたんだな」と自身の失敗であることが納得できますし、なおかつ強敵に追い掛けられるスリル感も演出できるメリットがあるように思われます。

このような、タイムアップ後に「永パ防止キャラ」を出現させるアイデアは、「ゲームニクス理論」の「原則3-B-①:ストレスと快感のバランスを取る」と「原則3-B-②:ミスとストレスの因果関係の明確化」を表現したものの一種と言えるでしょう。
  

前述した『クイックス』や『パックランド』のように、プレイヤーの待ち伏せによる長時間プレイを防ぐ「永パ防止キャラ」の中でも、ちょっと変わったアイデアを導入しているのが『フリッキー』(セガ/1984年)です。

本作では、デモ画面で紹介される敵キャラクターはニャンニャン(猫)とチョロ(トカゲ)の2種類だけですが、実は動かずにじっとしていると、やがて窓から怪獣が出現し、当たると即ミスになる巨大な火の玉を、主人公フリッキーの位置へ正確に狙って吹き出します。

かつて筆者もプレイ中に、コミカルな世界観が特徴の本作にあって、不気味な怪獣が突然出現して火の玉を吹いたので、心臓が飛び出るかと思うほどびっくりした思い出があります。

じっとしていると出現する「永パ防止キャラ」を取り入れたタイトルは、「ハリーアップ」の回でも紹介した『忍者くん』(タイトー、開発:UPL/1984年)や、その続編の『忍者くん阿修羅ノ章』(UPL/1987年)、『ラスタンサーガ』(タイトー/1987年)、『エイリアンストーム』(セガ/1990年)など、こちらも多数存在します。

これらのタイトルに共通しているのは、主人公の移動した向きに合わせてマップがスクロールする、いわゆる任意スクロール方式を導入(※『クイックス』は固定画面方式)していることです。敵のいない場所、あるいは安全地帯を見付けたプレイヤーに長時間粘られないよう、そしてオペレーターの利益を守るためにも、やはり「永パ防止キャラ」の存在は欠かせません。
  

『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)などのように、プレイヤー同士で対戦ができるタイトルのほとんどは、あらかじめプレイ時間が決まっているので「永パ防止キャラ」を出現させる必要は特にありません。

対戦プレイできるゲームで、「永パ防止キャラ」が登場する数少ないタイトルのひとつに、対戦型シューティングゲームの『ティンクルスタースプライツ』(SNK、開発:ADK/1996年)がありますが、本作に「永パ防止キャラ」の死神が登場する理由はタイム制ではなく、決着がつくまでプレイが続行するルールだからにほかなりません。
  

対戦格闘ゲームの多くは、3ラウンド制で2ラウンド先取、または5ラウンド制で3本先取したプレイヤーが勝ちとなるルールになっています。では、もし3ラウンド制で最終ラウンドの3本目で引き分け、あるいはダブルKO(相打ち)になった場合はどうなるのでしょうか?

『ストリートファイターII』の場合は延長戦、すなわち4ラウンドに突入します。4ラウンド以降も、もしドローやダブルKOが繰り返された場合は延長戦が続くので、プレイヤー同士で体力が同じになるように毎回「談合」されると延々遊ばれてしまいます。

そこで本作では、延長戦は最大10ラウンドまでに上限を設定し、もし10ラウンドでも決着がつかなかった場合は、2人とも強制的にゲームオーバーにすることで永久パターンを防いでいます。さらに続編の『ストリートファイターII’(ダッシュ)』(カプコン/1993年)では、延長戦は最大4ラウンドまでと大幅に短縮されました。

また『バーチャファイター』(セガ/1993年)では、ドローになった場合は2人とも1本取ったものとカウントし、もし2対2の同点になった場合はサドンデスに突入します。サドンデスのリングは非常に狭く、一発の攻撃でリングアウトすることもしばしば起きますので、実戦的にはほぼ起こり得ないと思われますが、もしここでもドローだった場合はチャンピオンの勝ち、つまり乱入した側の負けとなります(※ちなみに、2人とも対戦プレイで未勝利だった場合は1P側が勝ちになります)。

「永パ防止キャラ」が徐々に姿を消した一因は、もしかしたら90年代に対戦格闘ゲームが大ブームとなり、旧来の1人で黙々とハイスコアを狙うタイプのタイトルが減ったのも一因かもしれません。
  

「永パ防止キャラ」が先か? それとも「自爆」が先か?

強制スクロール方式のアクション、シューティングゲームでは、マップが固定される対ボス戦限定で、前述した『ダライアス』のヤズカのような「永パ防止キャラ」を登場させることで永久パターンを防止しています。

また「ハリーアップ」の回でも紹介した『ファンタジーゾーン』(セガ/1986年)のように、対ボス戦で粘っていると、やがてボスが自機を追い掛け始め、その巨体を利して自機に体当たりを仕掛けることで、ボス自身が「永パ防止キャラ」の役割を果たす例もあります。

では、上記のように「永パ防止キャラ」が登場しないタイトルでは、どのようにして対ボス戦で永久パターンを防いでいるのでしょうか?

その解決策として、古くからの定番となっているのが、一定時間後にボスを「自爆」させて、強制的にステージをクリアさせる方法です。ボスが「自爆」すれば、たとえプレイヤーがすべての攻撃を避ける方法をマスターしたり、あるいは安全地帯を発見されたりした場合でも、永久パターンを確実に防げます。

ボスが「自爆」するアイデアを導入したタイトルの中でも、とりわけ古く、なおかつ美学すら感じるほどの素晴らしい演出を取り入れていたのが、『グラディウス』(コナミ/1985年)およびそのシリーズ作品になるでしょう。

『グラディウス』シリーズでは、ビッグコアをはじめとする大半のボスは、一定時間が過ぎると弱点にあたるコアが閉じ、その直後に自爆して次のステージへと進みます。コアが閉じる演出をあえて盛り込むことで、「もしかして、敵は自分の力では勝てないと悟ったから『自爆』したのかな?」などと、プレイヤーの想像力を大いにかき立ててくれる、実に見事なアイデアです。

なお、コアが閉じたボスは破壊不可能になるため、プレイヤーはたとえ安全地帯を発見してプレイ時間を稼げたとしても、ボスを倒すことでもらえる得点をロスするデメリットが生じます。
  

ところで、「永パ防止キャラ」もボスキャラも存在しないタイトルでは、どうやって永久パターンを防止していたのでしょうか?

よくあるパターンは、「ハリーアップ」の回でも紹介したように、敵の移動スピードが速くなったり、敵弾の数や大きさなどが増えたりするなど、ゲーム全体の難易度をアップさせる方法です。このほかにも、最後に残った敵キャラが「自爆」ではなく、画面外に「エスケープ(脱出)」することでステージを強制的にクリアさせて、永久パターンを防いでいたタイトルがあります。

敵キャラが残り1体になると「エスケープ」するアイデアは『ディグダグ』(ナムコ/1981年)をはじめ、『ペンゴ』(セガ/1981年)、『ギャプラス』(ナムコ/1984年)など、かなり古い時代から導入されています。このように、主に敵を全滅させるとステージクリアとなるタイトルに取り入れられた「エスケープ」のアイデアも、広義には敵キャラが「永パ防止キャラ」に変身した形と言えるかもしれません。

残った敵キャラが「エスケープ」するタイトルのうち、とりわけ秀逸な演出を披露していたのが、おそらく『ディグダグII』(ナムコ/1985年)になるでしょう。

『ディグダグII』では、敵が残り1体になると一定時間後に敵が海に飛び込み「自爆」することで、強制的にステージクリアとなります。前作の『ディグダグ』(ナムコ/1981年)は、最後に残った敵が画面外に走って逃げる仕組みでしたが、本作は走り去ろうにも海に囲まれた孤島が舞台ゆえ、このようなアイデアに行き着いたと思われますが、実に大胆な永パ防止策ですね。
  

また、前述した『フェアリーランドストーリー』には、「永パ防止キャラ」のホーンドを登場させるだけでなく、敵キャラが残り1体になると一定時間が経過後に敵が消滅し、強制的にステージクリアとなるアイデアも導入されています。「永パ防止キャラ」と「自爆」の両方を取り入れた、非常に珍しいケースのように思います。

ほかにも『スペースハリアー』(セガ/1985年)や『達人王』(タイトー、開発:東亜プラン/1992年)などのように、一部のステージではボスが「自爆」せずに「エスケープ」する例もあります。

ゲームの演出面でもビジネス面でも、「永パ防止キャラ」を出すことがはたして適切なのか? それとも、「自爆」や「エスケープ」を導入してさっさと次のステージに進ませるべきなのか? 今さらではありますが、こんな視点からでもアーケードゲームならではのおもしろさが見出せるように思えてなりません。
  

以上、今回は「永パ防止キャラ」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

今や「消えた文化」同然とはいえ、ビデオゲーム史上に残る素晴らしい発明であることは、おそらく間違いないでしょう。オペレーターの生活を守り、なおかつ展開が冗長になってゲームがつまらなくなるのを防ぐ「永パ防止キャラ」の存在は、ゲーム開発技術の発展にも少なからず貢献したと思われます。

ところで、冒頭でも述べましたが、本稿の執筆にあたり「永パ防止キャラ」を初めて導入したタイトルは何だったのか、調べてはみたのですがハッキリわかりませんでした。もしご存知のかたがいらっしゃいましたら、ぜひご一報をお願いします!

なお、「永パ防止キャラ」に関する「ゲームニクス理論」のくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-B-①:ストレスと快感のバランスを取る」や「原則3-B-②:ミスとストレスの因果関係の明確化」、「原則4-B-②:難易度の上昇を調整する」などのページにくわしく書いてありますので、興味のあるかたはぜひご覧ください。

それでは、また次回!

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