「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十一回 裏技
目次
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第三十一回目のテーマは、ズバリ「裏技」です。
1980年代のファミコンブーム期の子どもたちは、各ファミコン専門誌に掲載されていた「裏技コーナー」を読みつつ、実機で「裏技」を試すのが定番の遊び方になっていました。雑誌に掲載された「裏技」の再現に成功したときはもちろん、たとえ偶然であっても自力で「裏技」を発見したときの快感はひとしおで、プレイヤーをますますゲームに夢中にさせてしまいます。
プレイヤーを驚かせるべく、マニュアルにもゲーム画面内にも明示せず、その存在を伏せておく「裏技」の類は、実はファミコン誕生以前のアーケードゲームから導入されていました。インターネットや専門誌がなかった時代でも、「裏技」はプレイヤー間の口コミで徐々に広がり楽しまれていたことも、プレイヤーカルチャーの面から見たゲームの歴史では、極めて重要な出来事であると言えるでしょう。
以下、今回も筆者の独断と偏見ではありますが、古いアーケードゲームの中から選ばせていただいた、ビデオゲームの歴史に残る「裏技」をご紹介します。どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
「裏技」の存在を世に知らしめた、黎明期の傑作タイトル
「裏技」の歴史を語るうえで、ネームバリュー、インパクトの両面でズバ抜けていた『スペースインベーダー』(タイトー/1978年)は絶対に欠かせない存在です。
ブーム期に遊んだ経験のあるプレイヤーには、もはやくわしい説明不要かと思いますが、本作には敵のUFOを8発目、23発目、38発目など特定の発射回数で撃ったビームで倒すと、必ず最高得点の300点が獲得できる「裏技」があります。
ほかにも、最後に残った敵が10点のインベーダーだった場合は、敵の残像が表示される通称「レインボー」や、最下段にいる敵が撃った弾にはビーム砲(自機)が当たらないことを利用して、敵に密着した状態で倒す「名古屋撃ち」などの有名な「裏技」があります。
本作以前に、「裏技」の存在で有名になったタイトルはおそらく無いので、本作は史上空前のブームを巻き起こしたことに加え、「裏技」の存在とおもしろさをプレイヤー間に知らしめた最初のタイトルでもあるように思われます。また、これらの「裏技」は1979年6月にヘラルド・エンタープライズが発行した、日本初のゲーム攻略本「インベーダー攻略本」にも詳細に掲載されたことで、ますます有名になりました。
ちなみに「レインボー」は、開発者が意図してプログラムをしていないバグを利用した「裏技」でしたが、続編の『スペースインベーダー・パートII』(タイトー/1979年)にも継承され、しかも敵を全滅させたときに500点のボーナスが加算される正式な「裏技」として導入されました。実に粋な演出ですね。
有名な「裏技」が存在する黎明期のタイトルと言えば、『ドンキーコング』(任天堂/1981年)も外すわけにはいきません。
本作には以下の写真のように、1面で画面の右端に向かってマリオをジャンプさせると、成功するとなぜか床を突き抜け、2面にワープできる「裏技」があります。本来はマリオが下段に落下するとミスになりますので、この「裏技」を初めて知ったプレイヤーは「何で床を突き抜けるの?」「何でワープするの?」などと誰もが驚いたことでしょう。
ちなみにファミコン版では、最下段のラインに隠された「見えないハシゴ」を降りることで、同様に2面にワープする「裏技」があります。
© Nintendo
「裏技」が表舞台に出る時代が到来
やがて時代が進むと、バグを利用したものではなく、あらかじめ開発者が意図して数多くの「裏技」を盛り込み、「裏技」自体を明確にゲームのセールスポイントにしたタイトルが登場するようになりました。
その代表的なタイトルのひとつが『パックランド』(ナムコ/1984年)になるでしょう。本作は消火栓や切り株などを動かすと、主人公のパックマンにヘルメットが装着される、一定の時間だけ透明(無敵)になる、取るとボーナス得点が入る風船が出現するなど、さまざまな効果が発生する「裏技」があります。
これ以外にも、ステージクリア直後にジャンプしたタイミングによってボーナス得点が加算されるほか、取ると1UPするスペシャル・パックマン、残りタイムがボーナス得点になるラッキー・パックマンの両隠れキャラが特定の条件を満たすと出現するなど、実に多くの「裏技」が盛り込まれています。まさに「不思議なことがあたりまえ!」という、本作のキャッチコピーに偽りナシですね。
PAC-LAND™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
同じく『スターフォース』(テーカン/1984年)も、数々の隠しボーナス得点の「裏技」を用意していたことで歴史に残るタイトルです。第八回のテーマ「ハイリスク・ハイリターン」でも紹介した、合体要塞ラリオスを合体前に素早く連射して倒すと、5万点の隠しボーナスが獲得できる「裏技」がその一例です。
ほかにも隠れキャラのヒドンを破壊すると2千点、ジムダ・ステギを縦に15個連続で破壊すると8万点、そしてマップのほぼ最終地点に描かれた象形文字をヒントに、隠れキャラのクレオパトラの隠し場所を見付けて破壊すると、100万点の大ボーナスがそれぞれ加算されます。
特に、100万点ボーナスの獲得に成功すると特別なジングルが流れ、プレイヤーにさらなる感動をもたらすアイデアも実に見事でした。
©1984 コーエーテクモゲームス All rights reserved.
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Co.
開発者からのメッセージが込められた「裏技」も登場
今となっては信じられないことですが、黎明期のゲーム業界は徹底した秘密主義を貫いていました。
とりわけ、昔は人気タイトルのコピー品がひんぱんに市場に出回っていたので、各メーカーでは特注の部品を使用したり、プログラムにプロテクトを掛けたりするなどの方法で、違法業者に易々とコピーされないよう日々腐心していました。
そんなご時世に生まれたのが、『ゼビウス』(ナムコ/1983年)でプレイ中にコピーライトが表示される「裏技」です。
本作はゲーム開始直後、自機を右端のラインに移動させてブラスター(対地ショット)を連射すると、画面下部にコピーライトが表示される「裏技」があります。これを利用することで、基板がナムコの純正品であることをチェックできるという、まるで時代劇に出てくる密書の「炙り出し」のような仕掛けですね。
XEVIOUS™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Co.
当コラムの第一回目のテーマでも取り上げた「ネームレジスト」にも、「このゲームを作ったのは自分たちだ!」という、開発スタッフのささやかな自己主張が込められた「裏技」を盛り込んだタイトルがいくつかあります。
その中でも、特に有名なタイトルのひとつが『バブルボブル』(タイトー/1986年)ではないかと思われます。
本作では「ネームレジスト」時に、「MTJ」「I.F」などと入力すると、次のプレイで1面にコーラのアイテムが出現し、取ると上空から敵を一掃する花が降り注ぐ「裏技」があります。「MTJ」とは、本作の開発スタッフのおひとりである三辻富貴朗氏のことで、「裏技」を通じて自分が手掛けた作品であることをさり気なく主張した、実にユニークなアイデアです。
ほかにも、「ネームレジスト」で「TAK」と入力すると、1面に得点アイテムのタコッパチが出現し、同様「STR」と入力するとピンクフラミンゴが、「S●X」だとフォーク、「・・・」はナイフ、「KTT」はチューハイがそれぞれ出現する「裏技」が隠されています。
本作以外では、「KISSY」など開発者のニックネームを入力すると文字が光る『バラデューク』(ナムコ/1985年)や、何も入力せずに終了すると開発者の名前が表示される『ガンスモーク』(カプコン/1985年)などに、「ネームレジスト」を利用した「裏技」が導入されています。
またまた余談になりますが、黎明期のタイトルには電源投入時にデフォルトで表示される「ネームレジスト」の名前に、開発者の名前やイニシャル、ニックネームを書き込んでいる例がいくつもあります。ご興味がある方はぜひ調べてみてください。
© TAITO CORPORATION 1986 ALL RIGHTS RESERVED.
開発者も想定外! バグによる「裏技」がゲームをおもしろくしたレアケース
バグは本来、開発者(プログラマー)にとってはミスであり、本来であれば客にあたるプレイヤーに見られるのは恥ずかしいものです。
前述したように『スペースインベーダー』の「レインボー」は、開発したタイトーの西角友宏氏も認めているようにバグがもたらした「裏技」です。とはいえ、「レインボー」を発生させてもゲームの進行に支障はないので、プレイヤーがメーカーや開発者に対して不信感を募らせるどころか、成功するとほかのプレイヤーの自慢のネタにもなるので、逆にゲームをより楽しめる一要素になっていました。
さらにおもしろいことに、中にはバグがそのまま攻略に役立つ「裏技」として機能し、かえってゲームの完成度が高まったケースも存在するのです。その最たる例が『ワンダーボーイ モンスターランド』(セガ、開発:ウエストン/1987年)になるでしょう。
本作には、主人公が特定の地点を通過すると隠しゴールド(お金)が出現し、これを取ると数ゴールドの資金(※金額はランダムで毎回変化します)が追加される「裏技」がありますが、剣を振る、またはレバーを左右に小刻みに動かし続けるなどの方法でゴールドを出現させると、いっぺんに60ゴールド以上の大金が入手できる、さらなる「裏技」があります。
筆者は以前、本作の開発者のおひとりである石塚路志人氏にインタビューしたところ、石塚氏は上記の「裏技」はバグであると証言してくださいました。ですが、この「裏技」の存在によって強力な鎧や盾などのアイテムが買いやすくなった結果、ゲームバランスがさらに良くなった感があります。
このように、バグによる結果オーライという形であっても、プレイヤーにさらなる楽しみを提供するケースがあるのも「裏技」、ひいてはビデオゲームならではの文化だと言っても差し支えないでしょう。
また、本作の隠しゴールドは以下の写真のように、ひと目では気が付きにくい意外な場所に隠されている場合がありますので、プレイする際はこれらの隠し場所にも注目することをオススメします。
©SEGA/LAT
以上、今回は「裏技」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
今も昔もジャンルを問わず、プレイヤーが想定していなかった隠しボーナス得点や、意外な演出が登場する「裏技」は、見付けたときの感動や好奇心を大いに高め、ますますゲームを楽しくしてくれます。とりわけ、今回ご紹介した各タイトルの「裏技」は、長らくビデオゲームの歴史に残る出来事、またはアイデアだと言っても過言ではないように思います。
なお、「裏技」に関する「ゲームニクス理論」のくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-C-④:発見する喜び」などのページにくわしく書いてありますので、興味のあるかたはぜひご覧ください。
それでは、また次回!