「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十六回 ユーザーインターフェースPart2
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第三十六回のテーマは、前回に引き続き「ユーザーインターフェースPart2」です。
前回は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」に掲載された「原則1-B:入力デバイスの特性に対応したUI(ユーザーインターフェース)設計」の解説を元に十字キー、マウス、ペンタッチ入力などを使用した「ユーザーインターフェース」の導入例をご紹介しました。
今回も、上記以外の入力デバイスを利用してプレイヤーが直感的に、かつ快適な操作を実現した「ユーザーインターフェース」の実例をご覧いただきましょう。今回も、どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
アナログ入力を利用した、古典的名作ならではのおもしろさ
今ではまったく見掛けなくなりましたが、かつてはダイヤル型(パドル)コントローラーを使って遊ぶ、いわゆる「ブロック崩し」タイプのゲームがアーケード、家庭用を問わず定番ジャンルのひとつになっていました。
アーケード版だけを例に挙げますと、その元祖である『ブレイクアウト』(アタリ/1976年)をはじめ、『ジービー』(ナムコ/1978年)、『フィールドゴール』(タイトー/1979年)、『アップセットブロック』(セガ/1979年)、『アルカノイド』(タイトー/1986年)などがあります。これらのタイトルは、いかに素早くかつ正確にボールの軌道を読み、どの角度で打てば壊したいブロックや敵キャラに向けてボールが飛ぶのかを考えながら、アナログ式のダイヤル型コントローラーでバー(ラケット)を操作するところに楽しさがあります。
もし上記のタイトルの入力デバイスがダイヤル型コントローラーではなく、普通のアクションゲームに使われるジョイスティック(レバー)だったらどうなるでしょうか?
前者は、素早く回転させればさせるほど、バーの移動スピードが速くなる特徴があります。しかし、レバーはどんなに素早く、あるいは力を込めて入力してもバーを加速させることができないので、プレイヤーがボールの軌道を目で追えているにもかかわらず、バーの移動が間に合わずにミスとなった場合は、非常にストレスがたまってしまいます。
入力デバイスがダイヤル型コントローラーだからこそ、「ブロック崩し」タイプのゲームは直感的に、かつ快適に遊べる「ユーザーインターフェース」になっているわけですね。
ダイヤル型コントローラーを使用して、「ブロック崩し」とは異なる遊びかたができるタイトルのひとつに『キャメルトライ』(タイトー/1989年)があります。
本作は、制限時間内にボールをゴール地点まで転がすとステージクリアとなるアクションゲームで、ダイヤル型コントローラーはボールではなく、フィールドを回転させるために使用する、実にユニークなアイデアを導入しています。レバーではなく、ダイヤル型コントローラーを使用することで直感的に、なおかつフィールドをただ回転させるだけでも非常に気持ち良い「ユーザーインターフェース」を実現しています。
前回も少し触れましたが、マウス入力はFPSゲームでガンの照準を操作する場合など、画面の隅から隅へと瞬時に移動させる際には特に向いている入力デバイスです。またトラックボールマウスを使用すれば、トラックボールを利用してカーソルなどを親指や人差し指で簡単に操作できることも、多くの人がご存知のことでしょう。
平成以降に生まれた皆さんにはピンとこないと思いますが、実はトラックボールも古くからアーケードゲームの入力デバイスに利用されています。例えば『ミサイルコマンド』(アタリ/1980年)は、上空から降り注ぐミサイルに照準を合わせてミサイルを撃って破壊していくゲームですが、トラックボールで照準を素早く動かし、狙いを定めたミサイルを迎撃できたときは実に快感です。
同じく、アタリのアーケードゲーム『マーブルマッドネス』(アタリ/1984年)も、トラックボールを使用した「ユーザーインターフェース」によって独特のおもしろさを生み出した一例です。本作は、トラックボールでボール(ビー玉)を転がして制限時間内にゴール地点までたどり着くとステージクリアとなるアクションゲームで、トラックボールをうまく操作して狭い通路や段差、各種ギミックを通り抜けたときの達成感はひとしおで、ついつい夢中になってしまいます。
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数あるトラックボールを使用したタイトルの中でも、とりわけ凝った「ユーザーインターフェース」を導入しているのが『サイバリオン』(タイトー/1988年)です。
本作はトラックボールで黄金色のドラゴン型メカ、サイバリオンを操作して、ボタンを押すと口から吹き出す炎で敵を倒していくアクションゲームです。本作でも、トラックボールをうまく転がして狙った敵を倒したり、障害物を避けたりすると実に快感です。
さらに本作では、炎を吹くと火力ゲージが減少し、ゲージがゼロになると炎を出せなくなる特徴があります。ゲージはサイバリオンを任意の方向に走らせることで徐々に回復するのですが、実はトラックボールを素早く転がすほど回復が早くなる特徴があります。なので、本作でもプレイヤーはついつい夢中になって手を動かしてしまうのです。
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80年代に登場したアーケード用スポーツゲームにも、トラックボールを導入した例がいくつもあります。
中でも特に有名なのが、サッカーゲームの『ワールドカップ』(テーカン/1986年)でしょう。本作は、トラックボールで選手およびボールを蹴るコースを操作し、素早く転がすほど選手の走るスピードが増す「ユーザーインターフェース」になっていたことは、当時ゲームセンターに通っていた皆さんであればよくご存知のことでしょう。
同様に、野球ゲームの『メジャーリーグ』(セガ/1986年)も、トラックボールを素早く転がすほどピッチャーが投げたボールやランナーの走るスピードが速くなり、さらにピッチング時は回転する方向を変えることで、変化球を自由自在に投げられるおもしろいアイデアも導入していました。
走る、投げる、蹴るといったシンプルなアクションをトラックボールで操作することで、プレイヤーは自然と素早く転がしたくなり、なおかつルールがわかりやすいので熱中してしまう「ユーザーインターフェース」を実現しています。
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ゲームに新たな可能性をもたらしたモーションセンサー
任天堂のゲーム機、WiiのWiiリモコンをはじめ、近年はコントローラーにモーションセンサー(3次元加速度センサー)が搭載されるようになりました。あるいはPS2用のEyeToyや、Xbox360用のKinect(キネクト)のように、コントローラーを使用せず、プレイヤーの体の動きを読み取るモーションセンサーだけを使ってゲームが遊べるようにしたデバイスもあります。
「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、モーションセンサーがゲームに対して大きな変化をもたらしたのは「3次元的な画面デザインが可能となったこと」ことと「老若男女、初心者や上級者にかかわらず、直感的に入力できるようになった」ことの2点を挙げています。
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一方、留意すべき点として、コントローラーであれば「『振動』や『音』などでリアクションを返せる」のに対し、Kinectのようにコントローラーがない場合は「映像の変化でしかリアクションを返せない」と本書では解説しています。
Kinectに対応した有名タイトルのひとつに、音楽ゲームの『ダンスエボリューション』(コナミ/2010年)があります。本作は、曲に合わせて画面内に登場するダンサーの動きを真似して踊ったりポーズを取ったりするゲームで、映像の変化でリアクションを返すだけでも楽しめる「ユーザーインターフェース」を実現しています。
Wiiリモコンのモーションセンサーを利用したおもしろい応用例のひとつが、別売りのアタッチメントのWiiハンドルです。『マリオカートWii』(任天堂/2008年)や『スピード・レーサー』(アクティビジョン/2008年)などを遊ぶ際に、WiiハンドルをWiiリモコンに接続すれば、プレイヤーはハンドルを左右に回すことでマイカーを直感的に操作することができます。
また前者では、カーブを曲がるときにハンドルを急激に傾けると、スピードを落とさずに曲がれる「オートドリフト」機能が搭載され、バイク使用時はハンドルを手前に持ち上げることでウィリー走行もできます。本作はWiiリモコンとハンドルの特性をうまく利用することで、従来の『マリオカート』シリーズにはなかった新たなおもしろさを創出しているように思います。
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以上、今回は「ユーザーインターフェースPart2」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
当コラムを執筆するにあたり、筆者はいくつかのゲームを数十年ぶりに遊びましたが、ダイヤル型コントローラーやトラックボールを利用した「ユーザーインターフェース」ならではのおもしろさを再認識しました。もしかしたら、今回紹介したタイトルをまったく知らない若いプレイヤーの皆さんにとっては、これらの入力デバイスは一周回って逆に新鮮に映るかもしれません。
モーションセンサーを利用した最近のヒット作に『リングフィット アドベンチャー』(任天堂/2019年)があります。本作は、普段あまりゲームを遊ばないライト層にも売れたことがヒットの理由と思われますが、ライト層に支持されたのは直感的かつ快適な「ユーザーインターフェース」を実現したことも非常に大きかったように思われます。
繰り返しになりますが、「ユーザーインターフェース」に関する「ゲームニクス理論」のくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則1-B:入力デバイスの特性に対応したUI設計」などのページにくわしく書いてありますので、興味のあるかたはぜひご覧ください。
それでは、また次回!