「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十八回 ゲームAI

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十八回 ゲームAI
  • 公開日
    2023年11月24日
  • 記事番号
    10566
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第三十八回のテーマは、「ゲームAI」です。

筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「原則4-B:段階的に難易度を上げる」の一要素として「原則4-B-③:AIで難易度を調整する」を掲げています。

敵のキャラクターなどが、プログラムどおりの決まったパターンでしか動かない単純なアクションゲームでは、もしプレイヤーがその法則に気が付いてしまうと、以後同じパターンを繰り返すだけでクリアできるようになり、やがてゲームに飽きる要因となってしまいます。

そこで、例えば敵キャラの思考レベルやパラメーターを、最初は低めに設定して段階的に上げていく、あるいはプレイヤーの実力を自動で見定めて難易度を調整する「ゲームAI」をプログラムに組み込むことで、プレイヤーは飽きることなく、より楽しくゲームが遊べるようになります。

現在では思考ルーチンだけでなく、開発ツールにも導入されている「ゲームAI」は、あまりにも幅が広いテーマゆえ、1回のコラムですべての導入例を紹介するのはとうてい不可能です。

そこで、今回は「ゲームAI」の黎明期に、その存在が業界内でもほとんど認知されていなかった、古い時代に登場したアクション系のゲームに絞ったうえで、その実例をいろいろピックアップしてみました。どうぞ最後までご一読ください!
   

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

   

「見えざる敵」と戦っている気分になる驚愕のアイデア

ビデオゲーム黎明期に、プレイヤーの腕に応じて難易度が変化する画期的なシステムをいち早く導入する したタイトルは、やはり『ゼビウス』(ナムコ/1983年)になるでしょう。

本作は、特定の地点に配置された敵キャラ、ゾルバグを破壊すれば難易度が下がり、逆に逃すと難易度が上がる、画期的なアイデアを導入していました。ゾルバグは敵軍のレーダーという設定で、プレイヤーがゾルバグを逃し、難易度が高くなるほど強敵が出現したり、敵が弾を撃つ頻度が増えたりする仕組みになっています。

ゾルバグの存在によって、プレイヤーはまるで敵軍の司令部にこちらの動きを察知されているかのような気分になり「発見したらすぐに破壊しなくては!」などとモチベーションを大いに高めてくれます。

ちなみに、元ナムコで『パックマン』(ナムコ/1980年)などを開発したことで有名な岩谷徹氏の著書『「パックマンのゲーム学入門』」によると、本作に初めて導入された得点やプレイ時間、ミスしたときの状況によって、プレイヤーの腕を読み取る仕組みを、当時の同社では「ゲームAI」ではなく「セルフコントロールシステム」と呼んでいたそうです。

当時のゲーム業界では、まだ「AI」が認知されていなかった、あるいは自分たちが作ったものがそれであるとの認識がなかったことが窺えますね。
   

ゾルバグと同じ仕組みは『バラデューク』(ナムコ/1986年)にも採用されています。本作は、特定の位置に固定された敵、オクティをすべて倒してからゲートを脱出するとステージクリアとなるアクションゲームですが、各ステージのオクティがレーダーの役割も兼ねているため、オクティを放置していると難易度がどんどんアップします。
   

特定の敵を逃すと難易度が上がるアイデアには、実は先例があります。そのタイトルとは、同じくナムコのシューティングゲーム『ボスコニアン』(ナムコ/1981年)です。本作では、敵軍の偵察機にあたるスパイシップを画面外に逃してしまうと、敵軍が総攻撃を開始していきなり難しくなります。

ただし、本作のスパイシップは『ゼビウス』のゾルバグのように難易度が段階的に上昇するのではなく、逃げると難易度が最高レベルに必ずアップする仕組みになっていると思われるので、これを「ゲームAI」と呼ぶには違和感があります。

とはいえ、今から42年も前に、プレイヤーの腕に応じて難易度が変わるアイデアを編み出した開発スタッフの発想力には敬服するばかりです。
   

「ゲームAI」の存在をプレイヤーに公開する驚愕のアイデア

ところで、パッケージや広告のキャッチコピーで「ゲームAI」を導入したことを明示した最初のタイトルは何だったのでしょうか?

あくまで筆者が知る限りではありますが、その最古の例のひとつがMSX用シューティングゲームの『ザナック』(ポニー、開発:コンパイル/1986年)です。

本作は。、タイトル画面に「A.I.」と明記され、プレイ中は得点だけでなく、得点や自機の装備などの諸条件を元に計算された難易度、名付けて「オートレベルコントローラ(略称:ALC)」を16進数で表示する、当時としては斬新かつ驚愕のアイデアを導入していました。

「ゲームAI」を導入したことで、同じ場所でも「ALC」の値によって出現する敵がまったく異なるなど、プレイヤーの腕によって展開が変わるシステムを作り上げた本作の開発スタッフは、まさに歴史に残る偉業を成し遂げたと言えるでしょう。

筆者は以前、元コンパイル社長の仁井谷正充氏にインタビューした際に、なぜ本作に「ゲームAI」を導入したのかを質問したところ、以下のように仰っていました。

「実はですね、コンパイルとポニーキャニオンさんとの間にAII(エーアイアイ)さんという、まさにAIに詳くわしい方がAIをやるために作った会社があって、そこといっしょにAIをやろうという流れになったんです。そこで、AIIさんからAIとは何かという説明を受けて、『ザナック』のコンセプトをAIにしようということになりました」

※出典:拙稿「仁井谷正充氏に訊く『ザナック』にAIが導入された理由:懐ゲーから辿るゲームAI技術史vol.2」(モリカトロンAIラボ)
https://morikatron.ai/2020/05/gameai_history_02/

「多分、世界で初めてのAIっていう言葉を使ってるゲームだと思います」

※出典:「仁井谷正充第1回インタビュー後半:コンパイルの創業」(一橋大学イノベーション研究センター)
https://pubs.iir.hit-u.ac.jp/admin/ja/pdfs/show/2106

   

近年では、アーケードからPS4用に移植されたシューティングゲーム『バトルガレッガ Rev.2016』(エムツー/2016年)のように、アーケード版には存在しなかった難易度の表示機能が追加された例がいくつかありますが、プレイ中に難易度を表示するシステムを導入したタイトルは、今も昔も極めて少ない感があります。

それにしても、今から30年以上も前に発売された作品に、高度な「ゲームAI」が実装されていた事実には、今さらですが驚かされるばかりですね……。
   

対戦格闘ゲームを、よりおもしろくする「ゲームAI」

90年代に一大ブームを巻き起こした対戦格闘ゲームも、CPUキャラに「ゲームAI」を導入したことで、よりゲームがおもしろくなっていたように思います。

例えば、ブームの火付け役となった、ご存知『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)は、CPUキャラが序盤のステージで出て来た場合と終盤のステージで出て来た場合とでは、たとえ同じキャラであっても、その強さがまったく異なります。

序盤に登場したCPUキャラは、プレイヤーキャラが離れた位置から撃った飛び道具を避け切れずによく当たってくれるので、比較的簡単に倒すことができます。ですが、終盤に出て来たCPUキャラは、飛び道具をジャンプでかわしたり、こちらのジャンプ攻撃に反応して対空用の返し技を放ったりするなど、プレイヤーの動きに合わせた行動をしばしば取るようになります。
   

対戦格闘ゲームブーム期の超人気タイトル『バーチャファイター2』(セガ/1994年)にも、あまり知られていない感がありますが、実は驚愕の「ゲームAI」が導入されていました。

本作には、プレイヤーの操作や行動データを元にしてCPUキャラの行動が強化される、いわゆる学習型の「ゲームAI」が搭載されています。通常プレイでは「ゲームAI」がまったく発動しないのですが、ゲーム開始時に隠しコマンドを入力して「エキスパートモード」でプレイすると、各CPUキャラがプレイヤーから学習した行動を取るようになります。

上手なプレイヤーがたくさんいるゲームセンターほど、CPUキャラがより手強くなり、お店ごとにCPUキャラの行動パターンが自然と変化する、何ともおもしろいアイデアですね。ちなみに「エキスパートモード」をプレイ中は、CPUキャラがプレイヤーから学習した行動を取ると「USED」と画面にわざわざ表示する演出もあります。

いわゆるポリゴンやテクスチャーマッピングなど、当時の最高峰の技術を結集して開発された本作ですが、学習型の「ゲームAI」をいち早く導入していた点も特筆に値します。
   

以上、今回は「ゲームAI」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

本稿でご紹介した例は、今の目で見れば極めて単純なアイデアばかりだったかもしれません。ですが、プレイヤーを少しでもゲームに夢中にさせるべく、創意工夫を尽くした先人たちの功績は称賛されてしかるべきでしょう。

今回は触れることができませんでしたが、シミュレーションゲームをはじめとする別ジャンルにおいても、おもしろい「ゲームAI」の導入例がまだまだたくさんあります。もし機会があれば、上記以外の例も皆さんにぜひご紹介したいところですね。

それでは、また次回!

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