「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十九回 ライフログ
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第三十九回のテーマは、「ライフログ」です。
「ライフログ」とは、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では「ユーザーの生活行動や生活の特徴をデジタル的に記録することである」と説明しています。
そのうえで、「ゲームニクス理論」の原則のひとつとして「ライフログの活用」を掲げ、ゲームに活用できる「ライフログ」の例として以下の4要素を挙げています。
① ユーザーの位置と日時
② ユーザーのコミュニティ
③ コンテンツ利用時の状況
④ その他の情報と機能(※例:どの店に行ったか、誰とメールしたかなど)
昨今で、最も身近な「ライフログ」を利用したゲームと言えば、プレイヤーの居場所と連動した、いわゆる「位置情報ゲーム」になるでしょう。その代表例が、今からちょうど10年前に登場した『Ingress』(ナイアンティック/2013年)です。
本作のヒットを皮切りに、以後、『ポケモンGO』(ナイアンティック/2016年)、『ドラゴンクエストウォーク』(スクウェア・エニックス/2019年)、『ピクミンブルーム』(ナイアンティック/2021年)、『Monster Hunter Now』(カプコン/2023年)など、スマホを介した位置情報を利用して、リアル世界とバーチャル世界とを融合させた「位置情報ゲーム」が相次いで配信されていることは、皆さんもよくご存知のことでしょう。
「ライフログ」を活用したゲームは、これらの「位置情報ゲーム」が最初ではありません。いざ調べてみると、「ライフログ」を取り入れたゲームの歴史は、実は少なくとも20年以上さかのぼることができるのです。
以下、筆者が思い付く限りとなりますが、上記の「位置情報ゲーム」以前の古い時代に登場した、「ライフログ」を活用したタイトルをいろいろとご紹介したいと思います。どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
90年代からすでに活用されていた「ライフログ」
「ライフログ」を活用したゲームの「ご先祖様」にあたる存在と言っても過言ではないのは、プレイステーション用ソフト『どこでもいっしょ』(SCE/1999年)になるでしょう。
本作は、トロやピエールなど「ポケピ」と呼ばれるキャラクターと、会話などをしながらコミュニケーションを取って楽しむゲームですが、ポケットステーションに対応させることで新たな遊びを生み出していたのが白眉でした。
ポケットステーションとは、プレイステーションの周辺機器の一種です。ポケットステーションをプレイステーション本体に接続すると、プレイデータをセーブするメモリーカードとして利用できるだけでなく、液晶画面や入力ボタン、光通信機能も搭載し、携帯型ゲーム機として遊べるようにもなっていました。
『どこでもいっしょ』では、ポケットステーション内に本作のデータをセーブしてから外に持ち出すことで、プレイヤー同士で「ポケピ」に覚えさせた言葉を使った「しりとり」や名刺交換をして遊ぶことができます。つまり、プレイヤーのリアル世界での行動が、バーチャル世界にも反映されるというワケですね。
同じく、ポケットステーションに対応した有名タイルのひとつに『ファイナルファンタジーVIII』(スクウェア/1999年)があります。本作は、ポケットステーションを使用してプレイすると、ポケットステーションで『おでかけチョコボ』という名のミニゲームが遊べるようになります。
『おでかけチョコボ』は、基本的にはチョコボを1人で操作してアイテム探索や敵のモンスターとバトルをするゲームですが、実はプレイヤー同士で通信対戦ができる機能もあり、通信対戦の勝敗によってアイテムの入手条件が変化する、これまたユニークなアイデアを導入していました。
『どこでもいっしょ』の発売当時、あまりの人気ゆえポケットステーションが各地のお店で品切れが相次ぎ、なかなか手に入らない状況が長らく続きました。本作が人気になったのは「ポケピ」たちの可愛らしさとともに、外に持ち出してプレイヤー同士で交流もできるのが新鮮、かつおもしろかったことの証明であるとも言えるでしょう。
携帯型ゲーム機用ソフトで、プレイヤーの居場所を「ライフログ」として活用したおもしろい例としては、ゲームボーイアドバンス用のアクションRPG『ボクらの太陽』(コナミ/2003年)があります。
本作には、カセットに何と太陽光を感知するセンサーが搭載され、取り込んだ光量、つまりリアル世界にいるプレイヤーの居場所によって、ゲームの難易度が変化する独創的なアイデアを盛り込んでいました。
取り込んだ光量が強いほど、主人公の武器の威力がアップしたり、敵の数が減ったりする、つまり天気が良い日ほどゲームが易しくなる仕組みになっていたと記憶しております。ですが、逆に光が強過ぎると武器がオーバーヒートを起こしてしまうのも、実におもしろいシステムですね。
https://www.konami.com/mg/archive/other/boktai/japanese/game02.htm
© 2003 Konami Computer Entertainment
リアル世界の時間とゲームを連動させた楽しい仕掛け
ゲーム機本体やゲームソフトに内蔵された時計機能を利用して、リアル世界の時間と連動してゲーム内の展開が変わるアイデアを取り入れたタイトルも、いざ調べてみるといろいろあることがわかります。
例えば、恋愛シミュレーションゲームの『ラブプラス』(コナミ/2009年)シリーズでは、彼女とデートをする時間などがリアル世界とリンクした、その名も「RTC(リアルタイムクロック)」システムを導入しています。
プレイヤーを思わずギョッとさせる、おもしろいアイデアを導入していたのが、同じくコナミの『メタルギアソリッド3』(コナミ/2004年)です。
本作では、プレイデータをセーブしてから(リアル時間で)しばらく放置すると、主人公スネークのライフやスタミナがセーブ時点よりも回復した状態からゲームが再開できます。また、食料としてキャプチャーしたヘビや魚などの生き物は、セーブしてから数日間経過すると肉が腐り、スネークが食べると「食あたり」を起こしてしまうのも実に愉快(?)ですね。
© Konami Digital Entertainment
アーケードゲームにも、リアルの時間と連動する演出を取り入れたタイトルがあります。
サッカーゲームの『バーチャストライカー3』(セガ/2001年)では、プレイする時間帯によって景色が変化し、夜になると照明が点灯して選手たちの影が増えるなど、まるで本物のスタジアムにいるような気分にさせてくれる演出があります。ゲームの展開に直接影響を及ぼすものではありませんが、とてもおもしろいアイデアであるように思います。
ちなみに、先ほどご紹介した『ボクらの太陽』にも、ソフトに内蔵された時計と連動する機能があり、昼と夜とでビジュアルが変化したり、夜になるとアンデッド系の敵が出現したりする演出があります。
© SEGA
携帯型ハードならではの「ライフログ」の活用例
現在では持ち歩く人が少なくなりましたが、ニンテンドー3DS本体には万歩計の機能が搭載されており、100歩ごとに「ゲームコイン」を1枚入手できることは、本機を購入した人であれば皆さんご存知のことでしょう。
「ゲームコイン」をたくさん集めておくと、『Miiすれちがい通信』(任天堂/2011年)に対応したゲームをプレイする際に、展開が有利になるアイテム類を入手することができます。
一例を挙げますと、『すれちがいシューティング』(任天堂/2011年)では、すれ違ったほかのプレイヤーのMiiが武器(合体アイテム)として登場しますが、Miiがいない場合は「ゲームコイン」を支払うことで、過去にすれちがったMii、または「さすらいの隊員」を雇うことも可能になっていました。
© Nintendo
冒頭で「位置情報ゲーム」の例を紹介しましたが、GPSを利用してプレイヤーの行動とゲームの展開が連動するアイデアを盛り込んだタイトルは、実は『Ingress』以前にも存在していました。
その最初期の例が、携帯電話用アプリゲームの『信長の野望タクティクス』(コーエー/2009年)です。本作には、何とプレイヤーが遊んでいる場所のご当地キャラクターが入手できる、その名も「サムライズスポット」モードが導入されていました。
筆者は以前、本作を仕事も兼ねてプレイした経験があるのですが、当時の記録によれば東京都都千代田区でプレイすると大田道灌が、横浜市では板部岡江雪斎、大阪市中央区では石川五右衛門、新潟県上越市では直江兼続などのご当地キャラクターが無条件で入手できるようになっていました。
・参考リンク:「★モバイルゲームレビュー★ GPSでご当地武将を登用できる合戦特化型の歴史シミュレーション『信長の野望タクティクス』」(拙稿)
https://game.watch.impress.co.jp/docs/review/309190.html
https://www.gamecity.ne.jp/products/products/ee/keitai/nob/nobtactics.htm
© 2009 コーエーテクモゲームス All rights reserved.
実は『信長の野望タクティクス』よりも以前に、地域限定の報酬が入手できるアイデアを実装していた前例が存在します。
その作品とは、90年代に大ヒットした携帯育成デジタルペット、『たまごっち』シリーズのひとつである『かえってきた!たまごっちプラス』(バンダイ/2004年)です。
本機には、赤外線通信機能がシリーズ史上初めて搭載されたことで、ほかのプレイヤーとお土産(アイテム)を交換したり、ゲームで遊んだりできるほか、通信を繰り返して親密度を深めると恋愛結婚して2世が誕生するアイデアが導入されました。加えて、量販店やロッテリアなどの対象店舗で通信を行うと、店舗限定のレアアイテムが手に入るサービスも実施していました。
以上、今回は「ライフログ」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
スマホやタブレットが広く普及するずっと前の時代から、実は「ライフログ」の活用例がいろいろとあった事実には本当に驚かされます。
現在の「位置情報ゲーム」の人気ぶりから察するに、今後もあらゆる「ライフログ」が記録できるスマホ、またはスマホに代わる次世代デジタルデバイスの機能を活用した、新たなゲームが続々と誕生することでしょう。
なお「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「原則5-C:ライフログの活用」の項で「ライフログ」の活用法などを考察、解説していますので、興味のある人は本書をぜひご覧ください。
それでは、また次回!