「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十二回 ボイス

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十二回 ボイス
  • 公開日
    2024年04月26日
  • 記事番号
    11132
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第四十二回のテーマは「ボイス」です。

筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「原則3:ハマる演出」の要素として「原則3-A-⑥:音楽でテンポを調整」を掲げ、「音楽と効果音それぞれを連動させたり、補完させたりする」などの実例を挙げて解説しています。

ほかにも、音楽や効果音に関する例はいくつも紹介していますが、実は「ボイス」については、本書であまりくわしく言及していませんでした。そこで、「ボイス」を活用した「ゲームニクス理論」に相通じる例を、今回まとめてご紹介しようと思った次第です。

お若い皆さんにはピンとこないかと思いますが、昔は「音声合成」とも呼ばれていたサンプリングによる「ボイス」が、たった数文字分の単語が流れただけでも「人がいないのに、機械がしゃべってる!」と、プレイヤーはひっくり返るほど驚いたものでした。

では、「ボイス」が導入された初期の時代のタイトルでは、どんなセリフが登場し、どのような場面で利用されていたのでしょうか?

以下、今回も筆者が思い付く限りとなりますが、「ボイス」が導入されたばかりの時代に登場したアーケードゲームを中心に、その実例をいろいろご紹介していきます。どうぞ最後までごゆるりとお楽しみください!
   

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

   

「ボイス」が流れるだけでもプレイヤーが驚いた黎明期

ビデオゲーム史上初めて「ボイス」を導入したタイトルは何だったのでしょうか? その作品とは、1980年に登場したアーケード用シューティングゲーム『スピーク&レスキュー』(サン電子/1980年)です

本作のキャッチコピーは、ズバリ「しゃべるTVゲーム初登場」。敵のUFOが人間をさらうと、人間が「タスケテー!」と叫び、UFOを倒して人間を救出すると「千点!」などとボーナス得点を「ボイス」で伝える演出があります。

同じく『キング&バルーン』(ナムコ/1980年)も、味方の王様が敵のバルーンに捕まると王様が「ヘルプ!」と叫び、救出すると「サンキュー!」、連れ去られてミスになった場合は「バイバイ!」と「ボイス」が流れる仕組みになっていました。

つまり、いずれも味方がピンチになったことを、「ボイス」を利用してプレイヤーに知らせていたワケですね。
   

味方ではなく、敵キャラの「ボイス」が流れる最古の例としては、シューティングゲームの『ニューヨークニューヨーク』(タイトー、開発:シグマ/1980年)があります。

本作では、たまに出現する敵のUFO軍団の「守護神」にショットを当てると「ブラボー!」(と、筆者の耳には聞こえました)などと「ボイス」が流れる演出がありました。

アクションゲームの『クレイジークライマー』(日本物産/1980年)は、主人公がやられたときには「アレー!」と、頭上からの攻撃を受け止めたときは「イテッ!」などと叫ぶほか、敵のキングコングがパンチを放つと「ホイヤッ!」としゃべるなど、敵と味方の両方に「ボイス」が用意されています。

また本作には、ビルをなかなか登れずに苦戦していると、どこからともなく「ガンバレ!」とプレイヤーを励ます「ボイス」が流れる、斬新なアイデアも導入していました。
   

『クレイジークライマー』以外でも、ゲームの展開に応じた「影の声」による「ボイス」を流す例も古くからいろいろあります。

その典型例のひとつが、シューティングゲームの『ボスコニアン』(ナムコ/1981年)です。本作は、敵機が接近すると「アラート!アラート!」、編隊が出現すると「バトルステーション!」、スパイシップが出現時は「スパイシップ・サイティッド!」と「ボイス」が流れます。また、敵軍が総攻撃を始めると「コンディション・レッド!」と繰り返し「ボイス」が流れることで、プレイヤーの緊張感を高める演出もあります。

同じく、シューティングゲームの『アストロブラスター』(セガ/1981年)も、ゲームスタート時や1周クリア時に、英語で司令官と思しき「影の声」がしゃべる演出があります。とりわけ本作の「ボイス」は、いずれも単語をただ「叫ぶ」のではなく、非常に長いセリフを「しゃべる」点でも特筆すべきタイトルです。
  

ゲーム中の人間、生物が実況することで、よりリアルな体験が可能に

ここまで例に挙げたタイトルのうち、プレイヤーが操作するキャラクターが人間なのは『クレイジークライマー』だけで、あとはすべて機体が主人公にあたります(※厳密には、『キング&バルーン』の砲台の両脇に人間がデザインされていますが)。

では、「ボイス」がまだ珍しかった時代において、人間が主人公のタイトルではどのように「ボイス」が使用されていたのでしょうか? その代表例が、格闘アクション系のゲームで主人公が叫ぶ演出ではないかと思われます。

『空手道』(データイースト/1984年)をはじめ、『イー・アル・カンフー』(コナミ/1985年)、『スパルタンX』(アイレム/1985年)、『アルゴスの戦士』(テクモ/1986年)など、主人公がパンチ、キックなどの攻撃に合わせて叫ぶ「ボイス」を取り入れたタイトルが、80年代の中頃に相次いで登場しました。いずれも主人公が叫ぶことで、プレイヤーは格闘家になり切ったかのような気分になり、リアリティがぐっと増しています。

「ゲームニクス理論」の「原則3-A-⑦:単純な作業を盛り込んでテンポを調整」では、その一要素として「繰り返し作業でもテンポ感を盛り込む」と良いと解説しています。これらのパンチやキックなどの単純な操作が繰り返されるタイトルでは、プレイヤーの操作に合わせて「ボイス」を流すことで、ただ操作するだけでも気持ちが良くなる効果を生み出していると言えるでしょう。
   

ゲームの展開を「ボイス」で伝える、いわゆる実況の演出を取り入れたことで、おもしろさが劇的に向上したジャンルと言えば、やはりスポーツゲームになるでしょう。

その先駆けとなったのが、『チャンピオンベースボール』(アルファ電子/1983年)です。本作は、1球ごとに「ストライク」や「ボール」、塁上では「アウト」「セーフ」のコールに加え、「ホームラン」「3アウトチェンジ」などの実況が流れます。

さらに、代打を出す際にはウグイス嬢、つまり女性の声で「選手の交代です」というアナウンスまでもが流れる、当時としてはかなり豊富なバリエーションの「ボイス」を用意していました。同じく『スーパーリーグ』(セガ/1987年)も、審判のコールのほか英語実況の「ボイス」も数パターン収録されており、まるでアメリカ大リーグの実況を聞いているかのような臨場感を演出していました。

開発スタッフではなく、プロのアナウンサーによる実況の「ボイス」を収録し、プレイヤーに衝撃を与えたタイトルと言えば、やはり『実況パワフルプロ野球’94』(コナミ/1994年)になるでしょう。

本作は、野球ファンにはおなみの「アベロク」こと安部憲章アナを起用したことで、プレイヤーは自分の試合をテレビやラジオで中継してもらっているかのような気分にさせてくれます。加えて本作には、バッターや交代出場したピッチャーの名前を読み上げるウグイス嬢の「ボイス」も収録されていました。
   

まだまだあります! 「ボイス」を利用したさまざまなアイデア

ここからは、上記以外のタイトルで「ボイス」を利用したおもしろい例をご紹介しましょう。

アクションゲームの『怒号層圏』(SNK/1986年)は、デモ画面で出現する巨大な敵キャラが「我を倒すために選ばれた戦士たちよ、倒せるものなら倒してみろ。ワッハッハ……」と、まるでプレイヤーを挑発するかのような長い「ボイス」が流れ、挑戦意欲を大いに掻き立てます。

前述の『空手道』や『イー・アル・カンフー』のほか、『出世大相撲』(SNK、開発:テクノスジャパン/1984年)、『源平討魔伝』(ナムコ/1986年)などのタイトルはコイン投入時、つまり「オープニング」の段階で「ボイス」を流す演出があります。特に『源平討魔伝』は「ありがたや」と、プレイヤーに感謝を示す「ボイス」が用意されているのは、今さらですがとてもおもしろいアイデアですね。

また『ニンジャウォーリアーズ』(タイトー/1987年)は、エンディング画面で表示される、物語の結末を書いた英語(日本語字幕付き)のメッセージを読み上げる「ボイス」が流れ、まるで映画を見ているかのようなドラマチックな演出が用意されていました。

主人公と、ナビゲーター役のキャラクターによる掛け合いを導入していた古いタイトルの中でも、特筆したいのが『チェイスH.Q.』(タイトー/1988年)です。

本作は、主人公の刑事が乗り込む覆面パトカーを操作して、逃走車に体当たりを繰り返し、制限時間内に破壊するとステージクリアとなるカーアクションゲームです。

逃走車を破壊するルールだけでもユニークですが、ナビゲーター役のナンシーがゲームの展開によって「逃走車、間もなく視界に入る予定、どうぞ」「もうすぐ時間がなくなるわ」などと状況を教えると、主人公が「了解!」「任せてちょうだい!」などと応答する「ボイス」が流れるのも本作の楽しいところです。

加えて本作では、プレイヤーが途中でルートを間違えると、「どっちに行くんだよ。左だよ、左!」などと主人公がプレイヤーに向けてツッコミを入れる、メタ演出的な「ボイス」が用意されているのも、実におもしろいアイデアですね。
  

80年代に発売された家庭用ソフトで、とりわけ「ボイス」を利用したおもしろい演出を用意していたのが、ファミコン用ソフトの『天下のご意見番 水戸黄門』(サン電子/1987年)です。

本作は、助さんや格さんなどを操作して事件の手掛かりを集め、制限時間内にすべての手掛かりを集めて黄門様に報告すると、黄門様が悪人たちにお裁きを下して事件が解決(ステージクリア)するアクションアドベンチャーゲームです。

お裁きの最中には、テレビ番組と同様に「静まれ静まれ、この紋所が目に入らぬか! 畏れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ。一同、頭が高い。控えおろう!」のおなじみのセリフがそのまま流れ、悪人たちを断罪することでプレイヤーはより大きな快感を得ることができます。
   

以上、今回は「ボイス」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

現在では、「CV:何某」と声優を明記したうえでプロモーションするタイトルは、ごく当たり前に存在します。ですが、「ボイス」がまだ珍しかった古い時代のタイトルでは、そもそも何のために「ボイス」を導入し、プレイヤーにどんな体験を提供していたのか? 元号が昭和から平成、令和へと変わり、21世紀になって久しい今となっても、その意図を考えることで、新たな学びが得られるのではないかと思われます。

なお本編では触れませんでしたが、オニオンソフトのYouTubeチャンネル「しゃべるTVゲームの歴史 このゲー・スピーク&レスキュー編」によると、今回紹介したビデオゲームよりも古い時代に登場したピンボールやエレメカには、すでに「ボイス」を導入した作品があったとのこと。筆者も本稿の執筆にあたり、こちらの動画を参考にさせていただき、たいへん勉強になりました。この場をお借りして、オニオンソフトさんは感謝を申し上げます。

それでは、また次回!

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