「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十三回 無敵

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十三回 無敵
  • 公開日
    2024年05月31日
  • 記事番号
    11296
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第四十二回のテーマは「無敵」です。

「無敵」とは、主人公や自機などのプレイヤーキャラクターが、文字どおり敵のキャラクターや障害物に触れてもミスにならない状態のこと。リアルの世界では絶対にあり得ない、ビデオゲームならではの演出です。

その最も典型的な使用例は、『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂/1985年)に登場するスーパースターのように、アイテムを取るとマリオが一定時間「無敵」になるシステムでしょう。

本作のように、アイテムを取ることで主人公が「無敵」になるルールを取り入れたタイトルは、それこそ星の数ほど存在すると思われますが、ほかにも「無敵」を利用してゲームをよりおもしろくしているアイデアが、いざ調べてみるといろいろあることがわかります。

以下、今回も筆者が思い付く限りとなりますが、「無敵」が導入されたばかりの時代に登場したアーケードゲームを中心に、その実例をいろいろご紹介していきます。ぜひ最後までご一読ください!
    

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

    

「無敵」を利用して、ストレスフリーなプレイ環境を実現

第三十回のテーマ「リスタート」でも紹介したように、プレイヤーがミスをした直後の「リスタート」時に、主人公や自機を少しの間「無敵」にすることで、プレイヤーは連続でミスをする心配がなくなり、スムーズにゲームに復帰することができます。

「無敵」を利用して、プレイヤーにストレスを与えないよう配慮する方法は、実は「リスタート」時に限った話ではありません。

以下の写真は、シューティングゲームの『ギャプラス』(ナムコ/1984年)です。本作では、パワーアップアイテム「ブラスターヘッド」を持つ、敵のクイーンを倒すことでアイテムが獲得できます。

本作では、クイーンを倒してから「ブラスターヘッド」を装着するまでの間、自機が一時的に操作不能になりますが、クイーン撃破~装着直後の時間は自機が「無敵」になります。「無敵」状態を作ることで、プレイヤーはクイーンを倒した瞬間にブラスターヘッドの獲得が約束され、なおかつプレイが再開した瞬間に敵、または敵弾に触れてもミスになる心配がないので快適に遊ぶことができます。
   

ファミコン用シューティングゲームの『スターソルジャー』(ハドソン/1986年)にも、取ると自機のシーザーがパワーアップするアイテム「パワーカプセル」が登場します。

本作は、前述の「ギャプラス」とは違って「パワーカプセル」を取る前後でシーザーが操作不能になる演出はありませんが、取った瞬間からほんの少しの時間だけ、シーザーが点滅している間は「無敵」になります。

たとえ短い時間でも、シーザーが「無敵」になることで、プレイヤーは周囲に敵がいる状況でも、アイテム目掛けて思い切って突っ込むことができる、すなわちパワーアップしやすくなっていると言えるでしょう。

また本作では、シーザーが「無敵」の間に敵弾に触れると、敵弾が消える特徴もあります。本作の開発者が、あらかじめ意図して作ったのかどうかはわかりませんが、「パワーカプセル」をパワーアップだけでなく、ピンチを回避する際に利用できるのも実におもしろいアイデアですね。
   

ゲームの楽しさをさらに広げる「無敵」の効用

「無敵」システムは、タイトルによっては難易度の調整や、遊びのバリエーションを広めるためにも利用されています。

第九回のテーマ「協力プレイ」でもお見せしたように、『NewスーパーマリオブラザーズWii』(任天堂/2009年)では「協力プレイ」時に、それぞれのプレイヤーが任意のタイミングで、自身が操作するキャラが「無敵」になるシャボン玉を発生させることが可能です。

たとえば、プレイヤーが「ここは難しいな……」と思った場面では、攻略は仲間に任せて自分はシャボン玉の中で待機する、などといった要領でシャボン玉を利用することで、本作は初心者でも気軽に遊ぶことができます。

また『スーパーマリオ3Dランド』(任天堂/2011年)では、同じステージで5回ミスをすると、「リスタート」時にその名もズバリの「『無敵』このは」が出現し、これを取るとマリオはステージ終了まで「無敵」状態になる効果が得られます。

こちらも『NewスーパーマリオブラザーズWii』と同様に、初心者救済システムとして「無敵」を利用しているワケですね。
   

対戦格闘ゲームでは、キャラクターが強力な必殺技を繰り出している最中に「無敵」の効果が発生する例がたくさんあります。その始祖的存在である『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)で、リュウまたはケンの昇竜拳は、技が発動してから上昇している間は「無敵」になるのがその一例です。

これらの必殺技を出すためには、プレイヤーは複雑な、もしくは完了までに多くの時間を要するコマンドを入力することが総じて求められます。つまり必殺技は、1回ボタンを押すだけで簡単に出せるパンチ、キックなどよりも技術的に難しい分、発動に成功したプレイヤーがより有利に戦えるよう、その報酬として高い攻撃力や「無敵」が得られる形になっていると言えるでしょう(※ただし、空振りした場合は大きなスキが発生するリスクを負いますが……)。

一方『餓狼伝説2』(SNK/1992年)には、全キャラ共通で「無敵」が発生するおもしろいアクション、その名も「避け攻撃」が存在します。

本作の「避け攻撃」には、各キャラの上半身が「無敵」になる効果が発生する特徴があります。例えばラッシュを仕掛けてきた相手に対し、ガードと見せ掛けて「避け攻撃」を差し込んで反撃に転じる返し技として利用するなど、本作は「避け攻撃」による「無敵」効果を導入することで、戦い方のバリエーションをより豊富にしている感があります。
   

レースゲーム『グランツーリスモSPORT』(SIE/2017年)などの『グランツーリスモ』シリーズに導入されている、特定の状況下で車をゴースト(半透明)化、すなわち「無敵」になるアイデアもこれまた秀逸です。

本作では、スポーツモードでのレース中に4輪脱輪、インカット、危険走行などのルール違反を犯したプレイヤーに対し、一定時間アクセルが強制的にオフになるペナルティを課されることがあり、ペナルティを受けた車は減速中にゴースト化されます。

なぜ、ペナルティ中の車を「無敵」にするかと言いますと、後方から猛スピードで迫って来る他車の走行を邪魔したり、クラッシュしたりするリスクをなくすことで、レースがスムーズに進行するからです。このアイデアの素晴らしさは、下記の動画(※2:04:10~2:05:10までの間)をご覧いただければ、よ~くおわかりいただけることと思います。

(参考リンク:「グランツーリスモSPORT部門 本大会決勝 全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2021 MIE」)
https://www.youtube.com/watch?v=fZiDp6ht5qc

ちょっと変わった「無敵」のアイデアいろいろ

ここからは、ちょっと変わった方法で主人公が「無敵」になるアイデアを取り入れた例をご紹介しましょう。

まずは有名RPGの例から。『ドラゴンクエストIII』(エニックス/1988年)では、バトル中に「アストロン」の呪文を唱えると、味方パーティ全員が一時的に石化して「無敵」になる効果が発生します。

「アストロン」の効果が発生している間は行動不能になりますが、その間にプレイヤーは敵の攻撃パターンをじっくりと研究できるメリットがあり、さらに魔法が得意な敵が出現した場合は、敵のMPを浪費させるために利用することもできます。

ちなみに前述の『スターソルジャー』にも、シーザーが「トラップゾーン」(※マップの裏側)に潜ると完全「無敵」になるシステムがあります。シーザーが「トラップゾーン」に潜っている間は、ショットが一切撃てなくなるデメリットがありますが、敵の攻撃が激しい場面では、ここにわざと潜り込んでやり過ごすことも可能です。

『ファイナルファンタジーIII』(スクウェア/1990年)では、バトル中に竜騎士の「ジャンプ」コマンドを実行すると、竜騎士は画面から飛び出す大ジャンプをしてから敵を攻撃し、ヒットすると通常の2倍のダメージを与えることができます。

しかも竜騎士は、ジャンプして画面外にいる間は、敵の攻撃を一切受けない、つまり「無敵」状態になるメリットもあることは、『FF』シリーズのファンであればよくご存知のことでしょう。
   

いわゆるベルトスクロールアクションゲームの『ナイツオブザラウンド』(カプコン/1991年)には、主人公キャラが敵の攻撃のガードに成功すると、一定時間「無敵」になるシステムがあります。

プレイヤーが攻撃だけでなく、守備でナイスプレイをしたときにも快感が得られるようにした、本作の「無敵」を利用したアイデアも実におもしろいですね。
   

MSX(PC)用のアクションRPGで、ユニークな「無敵」のアイデアを取り入れていたのが『ドラゴンスレイヤーIV』(日本ファルコム/1987年)です。

本作は、全部で5体登場する主人公キャラの中で唯一、犬のポチだけが敵に触れも一切ダメージを受けない「無敵」のボディを持っています(※ただし、ボスキャラの攻撃はダメージを受けます)。ポチは、ほかの主人公キャラに比べてジャンプ力が低いなどの短所もありますが、プレイヤーはポチを選択することで、未知のマップの探索や敵の攻撃パターンの観察などを安全に行うことができます。
   

以上、今回は「無敵」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

筆者とサイトウ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「原則3-B-⑨:余計なストレスを排除する」の一要素として「理不尽なミスの設定は絶対にしてはならない」と述べています。本書には掲載されていませんが、「無敵」を利用してプレイヤーが理不尽なミスを避けられるなどのアイデアは、まさにこの原則を体現した好例と言えます。

余談になりますが、現在Nintendo SwitchやSteamなどで配信中の『カプコンアーケードスタジアム』(カプコン/2021年)では、課金アイテムとして「無敵」が販売されています。

「無敵」アイテムは、本作の全配信タイトルで主人公や自機を「無敵」にすることができる、まさに究極のお助けアイテムです。あくまで筆者の主観ですが「今や、ビジネスとして『無敵』が利用される時代になったのか……」と、大いに驚かされた次第です。

それでは、また次回!

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