「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十四回 ランダム

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    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十四回 ランダム
  • 公開日
    2024年06月28日
  • 記事番号
    11498
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第四十四回のテーマは「ランダム」です。

コンピューターでゲームのプログラムを作るにあたり、実行されるたびに数値を不規則に発生させる「ランダム」(疑似乱数)がひんぱんに使用されます。

とりわけ『桃鉄』こと『桃太郎電鉄』(ハドソン/1988年)シリーズなどのパーティーゲームで、サイコロやルーレットの数値を決める際には、「ランダム」はまさに打ってつけです。

実は「ランダム」には、単なるサイコロやくじ引きの代役にとどまらない、ゲームをよりおもしろくするための利用法がいろいろあります。以下、今回も筆者が思い付く限りとなりますが、古今東西のタイトルから、おもしろい「ランダム」の使用例をご紹介しましょう。ぜひ最後までご一読ください!
   

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

   

古い時代の「ランダム」導入例

「ランダム」はビデオゲームの黎明期、1970年代からすでに導入されています。その中でも特に有名なのは、やはり『スペースインベーダー』(タイトー/1978年)になるでしょう。

本作は、敵のインベーダーが左右に動くパターンは毎回同じですが、弾の撃ちかたは「決まったパターンで撃つ」「自機を狙って撃つ」と「『ランダム』で撃つ」の3種類があります。

敵弾の一部を「ランダム」にした結果、本作は毎回異なる攻撃パターンが(理論的には)現れることで、プレイヤーを容易に飽きさせず、なおかつワクワク感も演出しているように思われます。
   

筆者とサイトウ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「原則3-B-①:ストレスと快感のバランスを取る」の一要素として「報酬の与え方に不確定要素(変動比率)を導入する」を掲げています。

適度な不確定要素、すなわち「ランダム」を取り入れることで、プレイヤーは 毎回同じパターンで勝てる、あるいは有利になるとは限らないため、遊ぶたびに新鮮な体験が 得られます。

その最も典型的な例は『ダライアス』(タイトー/1987年)シリーズのように、ボーナス得点アイテムを取ったときの点数が「ランダム」で変化するシステムになるでしょう。あるいは『バトルシティー』(ナムコ/1985年)のように、自機(タンク)のパワーアップアイテムが「ランダム」で変わる例もあります。

アイテムの中身ではなく、「当たり」となるアイテム類が隠された場所を「ランダム」で変える、おもしろいアイデアを導入しているのが『スターフォース』(テーカン/1984年)です。

本作は、特定の位置に8枚ワンセットで出現するパネル「マジッカ」にショット当てて、1枚だけ隠された「ケラ」(笑顔のマーク)を発見すると自機が1UPする仕掛けがあります。「ケラ」の位置は、毎回「ランダム」で変化するのでパターン化ができず、しかも敵を避けつつ「マジッカ」を撃とうとすると、プレイヤーがミスをするリスクも高まります。

つまり「マジッカ」は、「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-B-⑤:ハイリスク・ハイリターンの調整」も演出していることになります。

「マジッカ」と同様に、複数のターゲットの中に1つだけ「当たり」を用意し、その位置を「ランダム」で変化させている例は、『エグゼドエグゼス』(カプコン/1985年)などにも導入されています。また『グーニーズ』(コナミ/1986年)は、ステージをクリアするための必須アイテムである鍵や、主人公マイキーの仲間の隠し場所が毎回「ランダム」で変化します。
   

プレイヤーを飽きさせない、「ランダム」を効果的に取り入れたゲームシステム

ここからは得点だけにとどまらず、ゲームの展開そのものに「ランダム」の要素を取り入れた例をご紹介しましょう。

以下の写真は、アクションゲームの『ドラゴンバスター』(ナムコ/1985年)です。本作は、各ステージのマップは毎回同じ構成ですが、特定の部屋に入ると出現するスケルトンやファフネルなどの強敵、「ルームガーダー」の配置は「ランダム」で変化します。

つまり本作は、ルームガーダーを「ランダム」に出現させることで、例えばプレイヤーが得意な敵を先に倒し、苦手な敵は後回しにするなど、その都度作戦を考えながら遊ぶ楽しさを生み出しているのです(※ただし、一本道のマップだった場合は戦う順番を選べないのですが……)。
   

プレイするごとに登場するステージが「ランダム」で変化する、大胆なアイデアを取り入れていたのが、縦スクロールシューティングゲームの『ソニックウィングス』(ビデオシステム/1992年)です。

本作は、1~3面までの登場順が毎回「ランダム」で変わる仕組みになっています。よって同じステージであっても、1面に出現した場合と2面に出現した場合とでは、それぞれ敵の攻撃パターンが異なる(※遅く出現するほど難易度が上がる)ため。プレイヤーはそれぞれに合わせた攻略パターンを作る必要があります。

本作と同様に、序盤ステージの登場順が「ランダム」で変わるアイデアは、『ガンバード』(彩京/1994年)や『ストライカーズ1945』(彩京/1995年)などにも導入されています。
   

プレイヤー同士で対戦ができるアクション系のゲームにも、「ランダム」の要素を取り入れたおもしろい例がいろいろあります。

その典型例のひとつが、『スマブラ』こと『大乱闘スマッシュブラザーズ』(任天堂/1999年)シリーズに登場するモンスターボールです。

本シリーズでは、対戦中にときどき出現するアイテムの一種、モンスターボールを使用すると、さまざまなポケモンが「ランダム」で現れて、相手のファイターを攻撃してくれます。どのポケモンが出てくるのか、プレイヤーは一切予測できず、なおかつポケモンの種類がとても多いこともあり、ポケモン出現後はゲームの展開がしばしば大きく変わります。

ちなみに、モンスターボールの中からトサキントが出現した場合は、ただ飛び跳ねるだけで何も攻撃をしない、すなわち「ハズレ」を引くこともあります。

『スマブラ』よりもずっと古い時代に、対戦中に「ランダム」の要素を盛り込んだ例としては、ファミコンディスクシステム用ソフトとして発売されたシミュレーションゲーム『SDガンダムワールド ガチャポン戦士 スクランブルウォーズ』(バンダイ/1987年)があります。

本作のバトルモードは、ユニットを1体ずつ操作して相手プレイヤーと戦うアクションゲームになります。バトル中は、フィールド上に「ランダム」で隕石などの障害物のほか、取るとHPが回復する「チカラドリンク」や、一定時間フリーズする「金縛りのお札」などのアイテムが出現するので、プレイヤーが毎回同じパターンで戦えば必ず勝てるとは限りません。
   

「ランダム」が生み出した傑作と「消えた文化」

「ランダム」を利用した、とりわけ秀逸なアイデアとして、ぜひ皆さんに知っていただきたいのがホラーアドベンチャーゲームの傑作『バイオハザード』(カプコン/1996年)です。

本作に登場する敵のゾンビは、銃などを利用して数回攻撃すれば倒せますが、実はゾンビの耐久力は「ランダム」で変化します(※一部例外あり)。ゾンビの耐久力はプレイ中に一切表示されないため、プレイヤーは毎回ゾンビと戦うたびに「コイツは何発で倒せるんだろう?」と常に不安になることで、本作のスリル感をより引き立てています。

加えて本作では、弾丸などの武器アイテムの出現数が限られているため、プレイヤーはゾンビに追い詰められるごとに「本当は弾丸を節約したいけど、このままだとやられそうだし、どうしようかなあ……」などと悩まされることで、スリル感がさらに増しているのです。

なお、ゾンビの耐久力が「ランダム」であることは、本作の開発を手掛けた元カプコンの岡本吉起氏が、自身のYouTubeチャンネルで証言しています。
   

音楽ゲームには、「ランダム」を利用して上級者に特化したモードが多くのタイトルに導入されています。

例えば『ポップンミュージック』(コナミ/1998年)シリーズには、ノーツの出現パターン(出現するレーンの位置)が毎回変化する「ランダム」設定が、ほとんどの作品で導入されています。

プレイヤーは本設定を使用することで、攻略法を一度マスターした楽曲でも飽きずに繰り返し楽しめることになります。また本シリーズの中には、プレイする楽曲を「ランダム」で決定するシステムを導入したタイトルもあります。

最後に、今となっては「消えた文化」と言って差し支えないであろう、超古典的な「ランダム」の導入例をご紹介しましょう。その例とは、ゲームオーバー時に「ナンバーマッチ」(※数字を使用したルーレット)による抽選です。

以下の写真の『奇々怪界』(タイトー/1986年)では、「ナンバーマッチ」の3ケタの数字と、ゲームオーバー時の下3ケタの得点が一致すると、何と1クレジット追加されてもう一度遊べるようになります。「ナンバーマッチ」は、本作のほかにも『スイマー』(テーカン/1982年)や『キャメルトライ』(タイトー/1990年)などのアーケードゲームに導入されていました。

いずれも単なる「くじ引き」であり、滅多に当たることはありませんが、「もしかしたら100円トクするかも?」とプレイヤーを最後の最後までワクワクさせる、とてもおもしろいアイデアではないかと筆者は思います。
   

以上、今回は「ランダム」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、前述した「原則3」の各要素のほかにも、「原則5-A-①:仮想世界を現実世界に取り込む際の基本事項」として以下のような解説があります。

「(前略)麻雀やトランプ、競馬、パチンコ、宝くじも偶然性が鍵になっている。そして、その偶然性をも自分の努力と実力で何とか切り抜けられると感じさせることが、ユーザーを夢中にさせるフックとなる。もちろんこの偶然性に対して、作為があるとユーザーに感じさせてしまっては、コンピューターに対する信頼感が消失してしまう」

今回ご紹介した「ランダム」の導入例は、「ナンバーマッチ」以外はすべて、上記の解説にある「夢中にさせる」条件を満たしていたことも、人気を博した要因のひとつであるように筆者は思えてなりません。

それでは、また次回!

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