「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第五十四回 ランダムPart2
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第五十四回のテーマは「ランダムPart2」です。
第四十四回の「ランダム」では、敵の攻撃パターンやキャラクターの配置などが毎回変化する例を紹介しましたが、ほかにも「ランダム」を利用して、ビデオゲームならではのおもしろさを作り上げたタイトルがいろいろあります。
以下、今回も筆者の思い付く限りではありますが、単にサイコロやルーレットの目を決めるだけにとどまらない、「ランダム」の特性を活用したおもしろい例をご紹介しましょう。どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
ワンパターン化を防ぎ、プレイヤーを飽きさせない「ランダム」設定
ビデオゲームに「ランダム」が導入された歴史のルーツをたどると、1975年頃にカリフォルニア大学バークレー校の研究者たちがUNIXで開発したRPG『ローグ』に行き着くのではないかと思われます。
筆者も学生時代、学校にUNIXが使えるPCがあったので、授業の合間に本作を何度か遊んだ経験があるのですが、見た目は極めて単純ながら、毎回マップが自動生成、すなわち「ランダム」で変化するので驚いた思い出があります。
本作にインスパイアされ、大人気を博した代表的なタイトルと言えば、「1000回遊べるRPG」こと『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』(エニックス/1993年)になるでしょう。
本作は、ダンジョンマップの自動生成に加え、アイテムの配置場所と種類、アイテム取得時に発生する呪いの有無も「ランダム」で変化するので、プレイヤーはこれらの要素も加味したうえで、ターンごとに最適な戦略を考えながら行動することが求められます。
ウォーシミュレーションゲームでも、古くから「ランダム」を利用したおもしろい仕掛けがしばしば登場します。
例えば『三國志』(光栄/1985年)は、「火刑」を実行して戦場に火を放つと、「ランダム」で変化する風向きに沿って火が周囲に燃え広がります。「火刑」をうまく利用すれば、たとえ兵力で上回る敵軍が相手でも、火で囲んで逃げ場をなくして敵将を討ち取るか、または撤退を強要することで大逆転が狙えます。
『信長の野望』(光栄/1983年)シリーズでは、バトル中に「ランダム」で天気が変わり、雨が降ると鉄砲隊が攻撃できなくなるなど、気象条件に応じた作戦を立てることが必要となります(※作品によっては、雨中でも鉄砲が撃てる部隊も登場します)。
ほかにも、PC用RPGの『ティル・ナ・ノーグ』(システムソフト/1988年)は、ゲームのシナリオを自動生成するシステムが導入された、極めて古い事例として特筆に値するでしょう。



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次に、対戦相手が「ランダム」で変わるアクションゲームの例をご紹介します。
『イー・アル・カンフー』(コナミ/1985年)、『空手道』(データイースト/1984年)、『エキサイティングアワー』(テクノスジャパン/1985年)など、古い時代に登場した格闘系のアクションゲームは、いずれも対戦相手(CPU)が毎回同じ順番で出現します。
一方、これらのタイトルよりも後に登場した『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)のCPU戦は、対戦相手の順番が毎回「ランダム」で変わることで、プレイヤーは「次の相手は誰になるのかな?」と毎回ワクワクしながら遊ぶことができます。(※最後に出てくる4人の敵「四天王」の順番は固定です)。
第三十八回「ゲームAI」でもご紹介したように、本作は同じ相手でも後から出てくるほど強くなるため、毎回同じ相手に同じパターンで戦えば勝てるとは限りません。つまり本作は、相手が出現する順番が「ランダム」で変わることに加え、同じ相手でも順番によって攻略パターンが変わるため、楽しさがより増していると言えるでしょう。


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あくまで筆者の私見ですが、「ランダム」で毎回パターンを変えるシステムが欠かせないジャンルの1つがクイズゲームです。
作中に、たとえ数百、数千問もの豊富なクイズが収録されていても、出題される順番が毎回同じだった場合は、プレイヤーは正解の選択肢や単語などを、ただ「暗記するだけ」になってしまい、すぐに飽きてしまうことは明らかでしょう。
また『カプコンワールド』(カプコン/1989年)や『苦胃頭捕物帳』(タイトー/1990年)など、多くのクイズゲームでは、ゲーム中に特定の条件を満たすと、解答の選択肢が4択から3択に減る、考慮時間が増える、プレイヤーが得意のジャンルを選べるなど、特殊なイベントやアイテムを登場させることで、戦略性やおもしろさをさらに演出しています。



© 渡辺プロダクション © TAITO CORPORATION
「ランダム」を利用して楽しさを演出した抽選イベント
第四十四回でも触れましたが、主にボードゲームにおいて、サイコロやルーレットの数字を決定する際に「ランダム」使用することで、対戦プレイ時の公平性が保つことができます。
逆に、『スーパーマリオブラザーズ3』(任天堂/1988年)やゲームボーイ版の『ドンキーコング』(任天堂/1994年)などに登場する、当たるとアイテムなどが獲得できる、スロット形式の抽選イベント(ミニゲーム)は、プレイヤーが狙って特定の役をそろえられる、いわゆる「目押し」が可能です。
これらの「ランダム」と「目押し」の両方の要素を取り入れた、ユニークな抽選イベントを導入していたのが『バラデューク』(ナムコ/1985年)です。
本作は各ステージクリア後に、当たりを引くと主人公のシールドが増えるルーレットが1回だけ遊べます。実はこのルーレット、プレイヤーが「目押し」である程度狙った位置で止められるのですが、実は4分の1の確率、すなわち「ランダム」で、止まる場所が左右にズレる、いわゆる「スベリ」がプログラムされています。
プレイヤーに毎回「目押し」ができると見せかけて、実は完全にパターン化ができない、実に巧妙な仕掛けですね。


BARADUKE(TM)& (C)Bandai Namco Entertainment Inc.
さまざまなミニゲームが遊べる『タントアール』(セガ/1993年)にも、おもしろい「ランダム」を利用した仕掛けがあります。
本作は毎回ルーレット形式で、4種類の中からプレイヤーが「目押し」で遊びたいミニゲームを選ぶことができますが、どのミニゲームが出現するのかは毎回「ランダム」で変わります。
さらに本作では、ミニゲーム選択時にハートマークが出現することがあります。ハートマークを選ぶと、主人公のライフ(ハート)が3分の1個増え、3個集めると1UPするメリットがあります。
ただし、ハートマークを選んだ場合は、直後にプレイするミニゲームが「ランダム」で決まります。よって、もしプレイヤーが苦手としているミニゲームを引いてしまった場合は、逆にライフ(ハート)を失い、ゲームオーバーとなるリスクが生じます。
得意なミニゲームを選んで確実にクリアを目指すのか、それともリスクを負ってまでハートを集めるのか? プレイヤーに悩ましい選択を迫る、とても優れたアイデアですね。



©SEGA ©SEGA FAVE
プレイヤーに臨機応変な対応を要求する「ランダム」設定
ここからは、スポーツゲームで「ランダム」によりプレイ中の状況が刻々と変化し、プレイヤーが臨機応変に対応を求められる例をご紹介します。
その最もわかりやすい例が、ゴルフゲームにおける「風」の変化ではないかと思われます。多くのゴルフゲームでは、毎回「ランダム」で風の向きと強さが変わり、同じホールでもプレイするごとに違った戦略が求められることで、ゲームのおもしろさとリアルさを演出しています。
風以外の天候も「ランダム」で変化し、例えば雨が降るとボールが転がりにくくなるなど、天候によってコースのコンディションが変わるタイトルもあります。『みんなのGOLF』(SCE/1997年)シリーズなどが、その代表例になるかと思います。
ところで、風が「ランダム」で変化するアイデアを最初に取り入れたゴルフゲームは、いったい何だったのでしょうか? 筆者が調べた限りでは、『バーディーキング』(タイトー/1982年)で、1打ごとに風向きが変化する仕組み(※ピンフラッグの旗の動きで、左右の風向きと強さを表現していました)があることを確認しましたが、本作が最古の例かどうかまでは判明しませんでした。
もしご存知のかたがいらっしゃいましたら、ぜひご一報を!


© 1984 Nintendo
『パワプロ』こと『実況パワフルプロ野球』(コナミ/1994年)シリーズなどの野球ゲームでも、風が「ランダム」で変化することで、特にフライをキャッチするのが難しくなり、楽しさとリアルさが増すことは、もはやくわしい説明は不要でしょう。
各選手の調子が、毎回「ランダム」で変化するアイデアも、数多くの野球ゲームに導入されています。このシステムによって、プレイヤーは「このバッターは絶不調だから、打順を下げようかな? それともスタメンから外そうかな?」などといった要領で、プレイボール前からゲームを楽しむことができます。
上記のほかにも、バッティングの練習モードで相手ピッチャーの球種を「ランダム」に設定することで、実戦さながらの「トレーニング」ができる野球ゲームも、『パワプロ』シリーズをはじめいろいろあります。


© Konami Digital Entertainment
以上、今回は「ランダムPart2」をお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
第四十四回に続いて執筆したことで、ビデオゲームはプレイヤーの実力で完全にコントロールできる要素と、運によって結果が左右される要素が絶妙に組み合わさることで、さらにおもしろくなると改めて思いました。
なお「ランダム」などを利用した、「ハマる演出」についてのくわしい解説は、筆者とサイトウ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-B-①:ストレスと快感のバランスを取る」などの項目で解説していますので、興味のあるかたはぜひご一読ください。
それでは、また次回!