「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第五十五回 リセット

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第五十五回 リセット
  • 公開日
    2025年06月27日
  • 記事番号
    13153
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第五十五回のテーマは「リセット」です。

かつてはファミリーコンピュータをはじめ、多くのゲーム機の本体には「リセット」ボタンが搭載されていました。「リセット」ボタンを押すと、ゲームの進行がすべてストップして初期状態(タイトル画面)に戻ることは、おそらく多くの皆さんがご存知でしょう。

AVファミコン(左)とスーパーファミコンの本体。どちらも「リセット」ボタン(※AVファミコンはグレーのボタン、スーパーファミコンは右側の四角ボタン)が付いています(※筆者私物)

つまり、ビデオゲームにおける「リセット」とは、「ゲームを最初からやり直すための機能」であると言えますが、いざ調べてみると単なる「やり直し」だけにはとどまらない、開発者の皆さんが編み出した、さまざまな機能や演出面での工夫が施されていることがわかります。

以下、今回も筆者の思い付く限りではありますが、「リセット」のおもしろい実践例をいろいろとご紹介しましょう。どうぞ最後までご一読ください!
 

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

 

 

「リセット」が生み出す、快適な「ゲームテンポ」「シーンリズム」

冒頭でも述べたように、1回のボタン操作でタイトル画面に戻り、最初からゲームをやり直せる「リセット」ボタンはとても便利です。

ですが、たった1回のミスで記録更新が不可能になってしまうことがあるレースゲームでは、「リセット」を使用する機会がどうしても多くなるため、やがてプレイヤーは失敗するたびに「リセット」ボタンに手を伸ばすのが「面倒だな……」と思うようになります。

以下の写真は、ご存知『スーパーマリオカート』(任天堂/1992年)です。本作の「タイムアタックモード」では、プレイ中に「ポーズ」メニューを起動して「リタイア」を選択し、続けて「リトライ」を選ぶと、すぐにレースを「リセット」して最初からやり直すことができます。

本作のように「ポーズ」メニューから「リセット」ができれば、プレイヤーはいちいち本体の「リセット」ボタンを押してゲームを再起動したり、失敗したレースをいやいや完走してからやり直したりする時間と手間を省けるのでたいへん便利です。

このような「ポーズ」メニューを利用したクイック「リセット」機能は、筆者とサイトウ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」で解説した「原則2-A-⑤:ショートカットの利用」や「原則2-A-⑥:ポーズ・セーブ・ロードの利用」の効果的な実践例であると言えます。
 

家庭用ゲーム機とは違って、筐体に「リセット」ボタンがないアーケードゲームにも、実は「リセット」機能が搭載されたタイトルがいくつもあります。

例えば『麻雀格闘俱楽部』(コナミ/2002年)シリーズは、対局中に「終了」ボタンをタッチして実行すると、ゲームを即終了(ゲームオーバー)させることができます。

『太鼓の達人』(ナムコ/2001年)や『beatmania IIDX』(コナミ/1999年)シリーズなどの音楽ゲームには、プレイ中に特定のボタン操作をすることで演奏を中止させ、次の楽曲の選択画面に切り替える機能があります。
 

「リセット」ボタンがないハードの「リセット」機能

ファミコンをはじめ、ゲームソフトがROMカセット中心だった時代は、ゲーム機本体に搭載された「リセット」ボタンを押せば、すぐにタイトル画面に戻ることができました。

その後、90年代に登場した3DOやセガサターン、プレイステーションなどでは、ゲームソフトにCD-ROMが使われるようになりました。これらのハードでは、電源をオンにしてからシステムが起動し、プログラムデータを読み込んでプレイ可能となるまでの時間が、ROMカセット時代のハードに比べて総じて長くなりました。

CD-ROMを使用したゲームは、もしプレイ中に「リセット」ボタンを押すと、そのほとんどが上記の起動プロセスを最初からやり直すことになるため、プレイ再開までに長時間待たされることになります。

そこで、コントローラーで特定の操作を行うといつでも「リセット」が掛かる、いわゆる「ソフト『リセット』」を搭載したタイトルが、90年代からどんどん増えていった感があります。

例えば、シミュレーションRPGの『ファイナルファンタジー タクティクス』(スクウェア/1997年)では、いつでも好きなタイミングでL1、L2、R1、R2、セレクト、スタートボタンを同時に押すと「ソフト『リセット』」が掛かり、すぐに「オープニング」デモに戻る、つまり最初からやり直すことができます。

本作と同様に、1回の操作ですぐに「ソフト『リセット』」が掛かるシステムを取り入れたタイトルには、『ナムコミュージアムVOL.4』(ナムコ/1996年)、『Xi(サイ)』(SCE/1998年)、『ファイナルファンタジーIX』(スクウェア/2000年)などがあります。

さらに、その後登場したプレイステーション2やゲームキューブでは、数多くのタイトルに「ソフト『リセット』」が導入され、ゲーム機本体に「リセット」ボタンがなくても、すぐに「リセット」ができるようになりました。
 

本体に「リセット」ボタンが付いていない、古い時代のPC用ゲームにも、ソフト「リセット」とはまた違った形で、プレイヤーが気に入らない状況になった際にゲームをやり直せる機能を盛り込んだタイトルがあります。

シミュレーションゲームの古典的名作『信長の野望』(光栄/1983年)や『信長の野望 全国版』(光栄/1986年)では、ゲーム開始時にプレイヤーの参加人数、それぞれがプレイする国(大名)、初期パラメーター、難易度などの初期設定を行います。

プレイヤーが、もし途中で「やっぱりやめた。最初からやり直そう!」と思った場合は、初期設定の入力を完了後、「すべてよろしいですか?」と画面に表示された際に「N(NO)」を選択すると、設定がすべて「リセット」されて最初からやり直すことができます。

両タイトルは当初カセットテープ、あるいはフロッピーディスクで発売されました。特にカセットテープ版でプレイする場合は、プログラムを読み込んでゲームが始まるまでの間に数十分もの時間が掛かりますので、途中で失敗したらその都度PC本体の電源を切り、「リセット」しながら遊ぶのは現実的ではありません。

あくまで筆者の推測ですが、両作品に初期設定の「リセット」機能が導入されたのは、途中で電源を落とし、プログラムの再読み込み(ロード)をすることなく、ゲームをスムーズに遊べるようにするためではないかと思われます。
 

「リセット」を利用した独創的な演出

ファミコンなどの本体に付いている「リセット」ボタンを押すと、多くのタイトルにおいて、それまでにプレイヤーが記録したハイスコアなどのデータがすべて消去されてしまいます。

ですが、ある時期から「リセット」ボタンを押してもハイスコアは消去されず、本体の電源を切らない限りそのまま残るタイトルが相次いで登場するようになりました。ファミコン用シューティングゲームの『スターソルジャー』(ハドソン/1986年)がその一例です。

これも筆者の体験と推測によるものですが、「リセット」してもハイスコアのデータをあえて消さないのは、プレイヤーの功績をずっと褒め称えようという開発スタッフの配慮があったからではないかと思われます。

またファミコン版の『ドルアーガの塔』(ナムコ/1985年)では、「リセット」後にハイスコアだけでなく、「コンティニュー」モードを選択すると、その直前までに獲得した宝物も維持されたまま続きが遊べます。

ところで、外部記憶装置やパスワードを使ってプレイデータを「セーブ」できるタイトル以外で、「リセット」ボタンを押してもハイスコアが消去されないアイデアを最初に導入した作品は何だったのでしょうか?

筆者が知る限りでは、このアイデアを取り入れた最も古い例はファミコン版の『ギャラクシアン』(ナムコ/1984年)ですが、ほかのハードまで含めて最古なのかは、たいへん申し訳ないのですが確認できませんでした。

もしご存知のかたがいらっしゃいましたら、ぜひご一報を!
 

最後に、「リセット」機能をひとつのエンターテインメントへと昇華させた、秀逸なアイデアをご紹介。

コミュニケーションゲーム『どうぶつの森』(任天堂/2001年)シリーズには、モグラのような風貌をしたキャラクター「リセットさん」が登場します。

初期のシリーズ作品では、「リセット」(※プレイデータを「セーブ」せずにゲームを終了)すると「リセットさん」が登場し、ゲームを中断したプレイヤーに対し、独特の関西弁で延々とお説教をします。さらに「リセット」の回数を重ねると、お説教のセリフがどんどん変わります。

本作は、その時々の気分で村の住人たちとおしゃべりや釣り、アルバイトなどをしながらのんびり楽しむゲームですから、「リセット」を繰り返して遊ぶ必然性は特にありません。事実、このコンセプトを「リセットさん」が説明するシーンも登場するので、「リセットさん」は本作の開発スタッフの代弁者であるとも言えるでしょう。

「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「原則3-A-①:ゲームテンポを意識した全体構成」の一要素として「テンポを崩すことで、マンネリズムを避けることも意識する」ことを掲げています。

本作の「リセットさん」は、「原則3-A-①」を見事に実践し、なおかつ「リセット」という行為そのものをプレイヤーが楽しめるようにした、ビデオゲームの歴史に残る名アイデアではないかと筆者は思います。
 

以上、今回は「リセット」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

昨今では、アバターや背景色、BGMなど、同時に複数の設定を変更できる「設定」あるいは「コンフィグ」メニューがある作品において、変更したパラメーターをまとめて「リセット」し、初期状態に戻す機能がよく実装されています。もしかしたら、この機能のルーツは先述の『信長の野望 全国版』のような古い時代のシミュレーションゲームなのかもしれませんね。

繰り返しになりますが、「リセット」を利用した「ゲームニクス理論」のくわしい解説は、「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則2-A-⑤:ショートカットの利用」「原則2-A-⑥:ポーズ・セーブ・ロードの利用」「原則3-A:ゲームテンポとシーンリズム」などの項目で解説していますので、興味を持たれたかたはぜひご一読ください。

それでは、また次回!

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