ひらめきと洞察力でアーティスティックな狂気の物語を紐解く。ゲームならではのナラティブな体験が味わえる『Lorelei and the Laser Eyes』
いい感じの遊び心地
いい感じのポップさ
いい感じのカジュアルなビジュアル
いい感じの2Dドットなゲームも豊富
いい感じの重すぎない&軽すぎないゲームらしさ
『発見! インディーゲーTreasures』は、
そんな“ちょうどいい感じ”なインディーズゲームを紹介していく月イチ連載です。
2024年もいよいよ12月ということで、優れたゲームを選出し表彰するイベントThe Game Awards(ザ・ゲームアワード、TGA)が開催されました。
様々な部門の中にはもちろんインディーゲームもあります。今年はこのような結果となりました。
【2024ベストインディーゲーム受賞】
『Balatro』 (LocalThunk/Playstack)
【同部門ノミネート】
『ANIMAL WELL』 (Shared Memory/Bigmode)
『Balatro』 (LocalThunk/Playstack)
『Lorelei and the Laser Eyes』 (Simogo/Annapurna Interactive)
『Neva』 (Nomada Studio/Devolver Digital)
『UFO 50』 (Mossmouth)
ベストインディーゲームに選ばれたのは、『Balatro』!
ポーカーにローグライクなデッキを強化する要素を組み合わせたらすごいカオスなゲームになった衝撃作。
自分の戦略次第で、いくらでもとんでもない結果を出していける激しさと、手軽に楽しめるリプレイ性の高さ、全体を包む怪しさに、ひたすら遊び続けてしまう人が続出したモンスタータイトルですね。
当連載でも3月のリリース直後に紹介していますので、気になる人はぜひそちらを。
■闇のイカサマポーカーでアドレナリンを出しまくれ! ポーカーにローグライクなデッキ強化要素を組み合わせたらすごいことになった衝撃作『Balatro』
https://igcc.jp/independent-13/
ノミネート作品では、『ANIMAL WELL』を本連載の5月分で紹介しています。
探索型の2Dアクションで、神秘的な雰囲気とは裏腹に操作テクニックもアイデアもフル活用していき、ディープな謎解きに潜っていくハードコアなゲームです。
■ このゲームの奥の奥のさらに奥深くに眠るものとは? カジュアルな見た目とは裏腹にハードコアな謎解きが特徴の『Animal Well』
https://igcc.jp/independent-15/
『Neva』は今年10月にリリースされた、美麗なグラフィックスが特徴の2Dアクション。
『GRIS』という女の子の顔がメインビジュアルだったゲームを開発したチームの続編というと「あれか!」となる人もいるのではないでしょうか。
『UFO 50』は今年9月にリリース。
どこかでみたことがあるような架空のレトロゲームが50タイトル収録されているという、いろんな意味での意欲作。
ちょっと胡散臭い説明になってしまいましたが、ゲームそのものは有名インディー作品を手掛けている開発者が作っていて、しっかり遊び込めるものになっています。
実は本連載では月に1本を選んで取り上げているので、『Neva』も『UFO 50』もプレイしたうえで悩みに悩んで別のゲームを9月と10月には紹介しているんですよね。
どちらもコンセプトが明快で非常に楽しめるゲームです。
……その一方、今年のTGAインディー部門ノミネートタイトルで最も怪しげで、プレイ前にはどんなゲームなのか掴みきれないのが『Lorelei and the Laser Eyes』でしょう。
サングラスをかけたキャリアウーマン風な大人の女性が、モノクロームな雰囲気の静かな森や人の気配がないホテルをさまよう。
怪しさと奇妙さがそのまま画面から伝わってくるそのビジュアルに、ちょっと難しそうな雰囲気とともに、ミステリーの予感にどこか惹きつけられる人もいるはず。
美しくミステリアスな世界で、あなたの好奇心と知性をくすぐる。
ゲームが好きな大人へ向けた上質な作品。
それが、今回紹介する『Lorelei and the Laser Eyes』です。
タイトル:『Lorelei and the Laser Eyes』
開発: Simogo
パブリッシャー: Annapurna Interactive
リリース日: 2024年5月17日(PS5/PS4版は2024年12月4日に発売)
価格:2,980円
配信プラットフォーム:PC(Steam) / Nintendo Switch / PS5 / PS4
1963年。映像作家を名乗るネロという人物から送られてきた手紙に導かれ、薄暗い森の中に佇む不気味なホテルへとやってきた主人公の女性。
女性は都会的な装いでサングラスをかけ、こちらもミステリアス。
ビジュアルはモノクロームが基本で、BGMも本当にうっすら鳴っているような、無音がほとんどのような。
移動操作と調べたり触ったりのインタラクト操作が基本で、操作はシンプルな探索型アドベンチャーです。
森を抜けて見えてきたホテルに入ろうとするも……門が閉まっていて入ることはできず。
どうしようかと見回していると、柵の向こうから手紙を加えた犬が。
その手紙には「このミステリーは先日の手紙から始まっています。年をお探しなさい。」の一文。
ネロから送られてきた手紙をあらためて見ると、1962年と来年の文字に赤い下線が。
門の開閉を操作していそうな守衛室らしき場所の錠前に、頭に浮かんでいる数字を……。
本作はこのように、探索で見つけた物から推測することが謎を解く基本となっていきます。
どうにかしてホテルに入るも人影はなく、施錠されている扉ばかりで移動できる範囲もわずか。
とにかく何か情報はないものかと歩ける範囲を探していきますが、静まり返っているホテルの空気は不気味さと、ここにいてもいいのだろうかという不安な気持ちを高めていきます。
このホテルは一般的なホテルよりも、芸術品の展示会をしたり、娯楽を楽しめる施設が豊富にあるようで、独特な装い。重要な展示物がある部屋は特にしっかりと施錠されています。
鍵も、ただのダイヤル錠や鍵の施錠だけではなく、9個のキーパッドだったり時計の形だったり月齢の仕掛けを操作できるものだったりと様々。
仕掛けの数々も非現実的なアーティスティックなものがたくさんあります。
そうした謎を、ひらめきや洞察力をもとに答えを導き出すのが本作の基本の流れ。
一方で、それら謎を解く鍵はその場その場のバラバラなものではなく、どこかひとつの物語のマテリアルであることが、次第にうっすらと見えていきます。
特に数字では、1847年、1963年、2014年という年代が。
物語に関わる人物についてのメモや新聞記事からも、どこか常軌を逸した人間性の持ち主であることが伺えて、本作はサイコサスペンスホラーの様相を高めていきます。
その不気味さ、サイコなテイスト、モノクロームに赤色が映えるビジュアルが狂気の色を帯びたアートになっていき、プレイの先に何が待っているのかを知りたくなる気持ちをくすぐります。
ときにはまったく異なるビジュアルの世界に放り込まれることも。
初代PlayStationぐらいの世代のローポリゴングラフィックスの世界になったり、視点が変わったり、画面が割れてしまったり……。
進むほどに現実と虚構の境目も曖昧になっていく一方で、物語は次第にひとつの流れと線を浮かび上がらせていきます。
説明はほとんどなく、プレイヤー自らが探索して自分の視点や経験を通じて理解していく、いわゆるナラティブ体験のスタイルをした本作。
サイコサスペンスホラーですが、戦闘要素はなく、世界観を考察したり謎解きを楽しむことが重視されています。ただ、焦らされることはたくさんありますが。
謎解きの質感は、閃きや洞察力・記憶力を重視したもので、謎解きとプレイヤーの直感の相性のよさに少し左右されるところがあります。
基本的には難易度の高い謎解きが多いですが、実は“難易度が高いように見せている”ものもあるので、眼で見えているもの以上に閃きが大事。
その閃きは、“なぜ自分はそう閃いたのか?”、“どうしてこの答えに行き着いたのか?”ということこそが本質で、閃くように導くゲームデザインがあり、探索からの閃き、そして閃きが物語の枠を浮かび上がらせるという、上質かつゲームならではなナラティブなミステリーが味わえます。
ボリュームは実はかなりのもので、自分の場合だとクリアまでは約18時間となりました。
探索型のアドベンチャーとしては長めですね。
もちろん謎解きに詰まって悩んでいる時間も含むので、もっと早い人もいるかと思います。
次第に見えてくる事件、芸術と狂気、そして「レーザーの眼」。
アーティスティックなビジュアルにぴったりマッチしている狂気のエッセンスにサングラスが怪しく光る。
他のゲームにはなかなかない味わいは、まさに2024年のゲーム作品のなかでは唯一無二。ぜひ本作をじっくりと取り組んでみてもらいたい1本です。
© 2024 Simogo AB. All rights reserved. Published by Annapurna Interactive under exclusive license.