見城こうじが訊く 第五回 eスポーツキャスターってどんなお仕事? 中編

  • 記事タイトル
    見城こうじが訊く 第五回 eスポーツキャスターってどんなお仕事? 中編
  • 公開日
    2022年11月11日
  • 記事番号
    8699
  • ライター
    見城 こうじ

eスポーツキャスター 水上侑さん インタビュー

3回連続でお送りしているeスポーツキャスター水上侑さんインタビュー。前回は主にキャスターがどんなことに気を配り、どのような技術を使って実況を行なっているかをお訊きしました。
今回はキャスターと選手や視聴者との距離感のお話、そして水上さんがこの仕事に就かれるに至った経緯などについてお訊きしていきます(このインタビューは7月に実施いたしました)。
前編は、こちら

【聞き手】
見城こうじ

水上侑さんプロフィール
(ウェルプレイド・ライゼスト公式サイトより)
実況総数35本超えを誇る、様々なゲームタイトルの実況を務めてきたeスポーツキャスター。FPS、格闘ゲーム、MOBA、カードゲーム等々、あらゆるジャンルに精通しており、新作旧作問わず幅広いタイトルで活動を行っている。

主な実績
RTB将棋公式大会 実況 
電撃バーチャ道 実況 
スーパーグレート超速グランプリ公式オンライン大会 実況 
Vanguard ZERO Championship 実況 
GUILTY GEAR DUEL ONLINE 実況
Red Bull 5G 2021 FINALS 「eFootball™ 2022部門」 実況 
『Pokémon UNITE』Winter Tournament 実況
GBVS Cygames Cup 実況
The DBFZ WORLD CHAMPIONSHIPS 実況
MELTY BLOOD: TYPE LUMINA Official Tournament 実況
ポケモンワールドチャンピオンシップス2022 ユナイト部門 解説

視聴者は選手間の“因縁”に興味を持つ

―― キャスターはゲーム内容だけでなく、選手のことも知る必要があると思うのですが、どうやって把握されているのでしょうか?

水上 出場者のリストをもらって、1人ひとりの選手のツイッターを見たり、過去のゲーム大会の結果を調べたり、配信や動画投稿をしている選手ならそれをチェックするのがポピュラーかと思います。あと、ぼく自身プレイ経験のあるゲームだと、大会で活躍しているかたを積極的にフォローして、あらかじめ追いかけておくことで、改めて一から調べ直さなくていい場合もありますね。

 それと、歴史があって過去に何度か大会が行なわれているゲームだと、そのプレイヤー1人の情報だけではなく、プレイヤー間の組み合わせを調べることも大事です。視聴者のかたは皆さん“因縁”が好きなんですよ。

―― 因縁とは?

水上 たとえば今日の準決勝でこれから当たる2人は前回の決勝戦で当たっていて、そのときはA選手が勝ってますとか、そういう情報は喜ばれますね。それこそ公式の場じゃなくてもいいので「この2人どこかで戦ってないかな」「“ストーリー”がないかな」というのは調べるときの視点の一つです。

 逆に初対戦でも、たとえばそのタイトルをやり込んできた超ベテランと、最近になって頭角を現してきた人との対戦であれば、“ベテランvs.新人”という盛り上げかたができたりもします。

―― マラソン解説の増田明美さんが、競技にあまり関係ないような選手の裏話まで細かく調べて話すってよく話題になりますね。そういうこともされるのですか?

水上 一応調べるんですよ。「昨日(ツイートで)パフェ食べてましたね」みたいな。でも、それを実況で言うかどうかは、その場の雰囲気次第です。

 プライベートの話はあまり出さないほうがいい、という空気もあって、あくまで“選手としての顔”だけを話すべきだという人もいますし、“1人の人間”としてツイッターなどのSNSで得られる情報は話してもいいんじゃないか、という立場の人もいます。ぼくは言えそうなら言います。しゃべれそうな情報を100個仕入れておいて、そのうち5個使えたらいいかなぐらいの感じで。

直接顔を突き合わせて戦いたいジャンルと、必ずしもそうではないジャンルと

―― 大会を見ていると、選手も解説者も実況者も若いということと、多くの場合、テレビ放送ではないこともあってか、皆さんよい意味でくだけた感じですね。

水上 それはありますね。テレビなどの生放送と違って、eスポーツの配信では尺がそこまでカッチリしてないですからね。逆に「ゲームの準備に時間がかかってるから、ちょっとつないでおいて」みたいなことで、終わりが遅れることもよくあります。そういう意味での緩さはあります。

―― 水上さんが実況をされている配信のチャット欄を拝見すると、「水上さんおかえりー」みたいなコメントがついてたりして、視聴者とも距離が近いですね。

水上 動画に対するあのようなリアルタイムのコメントシステムの始まりは、たぶんニコニコ動画辺りだと思うのですが、見てる側にとってもリアルタイムでかかわれるっていいですよね。大会や番組と、自分との距離がちょっとでも縮まる感じで。くだけた雰囲気を好むような人は多い印象ですね。

―― そうした雰囲気作りは大会によって変わるのですか?

水上 代表の権利をかけて1年戦い抜いてきた最後の最後……みたいなところはカッチリやっていいと思うのですが、長い戦いの最初の一発目などはそこまでかしこまっても疲れちゃうでしょうから、その道のりだったりバックボーンに応じて「どういう雰囲気でやろうかな」ということは考えます。

 とはいえ、出演させていただいている以上は番組の顔として捉えられるので、そこに沿えるだけの常識とカッチリ感は出すようにしています。でも、カッチリしすぎると近寄りがたくなってしまうので、どうやったら見ている人に身近に感じていただけるかということも意識しながらやってます。

ゲーム実況特有のくだけた雰囲気の魅力を笑顔で語る水上さん

―― 大会の出場者によっても雰囲気が変わることはあるのでしょうか?

水上 あると思います。たとえば、誰でも参加できるオープントーナメントなのか、それとも運営が選んだ一定条件を満たした人しか参加できない招待制のトーナメントかだけでも、大会の雰囲気が違うじゃないですか。

―― 水上さんが実況された『バーチャファイター eスポーツ』の大会『電撃バーチャ道』を拝見したのですが、ベテランのレジェンドプレイヤーが集結していて、とても楽しそうでした。

水上 あれはおもしろかったですよ。メチャクチャ雰囲気が緩くて……そう、あれは例えるのであれば“ゲーセン”ですね。『バーチャファイターeスポーツ』という新作が出て、現在のeスポーツの流れに乗ってはいるのですが、プレイヤー層が昔ゲームセンターでお互いに煽り煽られ、怒号と歓声の飛び交う中を生き抜いてきた人たちなので、ゲーセンの雰囲気が染みついていらっしゃっていて、大会も10本先取の真剣勝負なんですけど、そこにかかっているのは“プライド”なんですね。

―― プライドをかけた戦い。

水上 だからこそ真剣になるし、ちょっとケレン味の利いた言葉で煽ったりもするし。でも、そこはプレイヤー同士も顔見知りなので「お前とは10年前にも20年前にもやったよ(笑)」みたいな気心の知れた感じでした。

 あのときはイベントの枠組みとしても、それが許される雰囲気だったということもあります。というのは、あれは電撃さんが主催する番組で、『バーチャファイター』の「公式」というよりは「公認」に近かったのかな。なので、実況としてもかなりハッチャケることができました。よく“パッション”っていうんですけど、「難しいことはいいから“パッション”でしゃべる」みたいな(笑)。

―― いろいろ拝見した実況の中でも、あれはよい意味で異質な感じがしました。eスポーツというと、どうしても若いかた中心のイメージがありますが、あのように歴史を積み重ねてきた人たちにとっても楽しい場になってる、というのはよいことですね。

水上 あの大会は、最近のeスポーツのカッチリした空気感にはないよさがありましたね。ゲームセンターを感じました。

―― ちなみに、どのジャンルに限らず、普段からeスポーツプレイヤーのかたがたとはどれぐらいお付き合いがあるものなのですか?

水上 格闘ゲームは知り合う機会が多いんですよ。なぜかというと、格ゲーってゲームセンター文化でもあるので、直接会場で顔を突き合わせてやるのがいい、という考えかたの人が一定数いるんです。ぼくもけっこうその部類です。

 格ゲーでは、大会の場以外にもオフライン対戦会というのがあって、それこそコロナ禍の前は、たとえば中野に「Red Bull Gaming Sphere Tokyo(レッドブル・ゲーミング・スフィア・トーキョー)」というゲーミングスペースがあるのですが、そこで毎週火曜日に、『鉄拳7』『ソウルキャリバー6』『ドラゴンボールファイターズ』の3つのタイトルの対戦ができるイベントをやってたんです。

―― 「ゲーミングスペース」というのは、eスポーツのための施設のことですね?

水上 そうです。ぼくもそういうところへはよく行くので、そこでゲーマーのかたがたと顔見知りになっていくんですね。だから格闘ゲーム系は事前に選手と会ったことがある、ということが多いです。

一方で、コロナ禍という理由もあるのですが、そもそもオンラインでプレイすることが前提で作られたゲームは、オフラインイベントや大会などがなければプレイヤー同士で顔を合わせる機会は多くありませんよね。ぼくもツイッターなどでフォローしたり、そこでお話したりはあるにしても、実際に面識がある場合は少ないです。

―― eスポーツとしての格闘ゲームが、今もゲームセンターの文化を引き継いでいるというのはとてもおもしろいお話です。最新の情報に疎くて恐縮なのですが、現在も格闘ゲームはまずゲームセンターに置かれて、そこから人気が広がっていく形が続いてるのでしょうか?

水上 いえ、そうでもないんですよ。昔は1度ゲーセンに置かれて、その後しばらく経ってからコンシューマーになるよ、という流れが多かったと思うのですが、今はコンシューマーからスタートします。舞台が移行したかなと思います。

 ただ、ゲーセンに集まることが減った代わりに、ゲーミングスペースは増えてるので、そこで集まろうという人は多いです。ですので、格闘ゲーム界隈では、直接会って対戦する文化はまだまだ色濃く残ってるんじゃないかと思います。ここ2年ぐらいは情勢的に難しかったのですが、徐々に再開したいねという空気はあります。

―― 他にもオフラインでの対戦が多いジャンルってあるのでしょうか?

水上 格闘ゲームの場合、昔は直接会わなきゃ対戦できなかったんですよね。それを満たすゲームというとデジタルゲームではありませんが、紙を使ったトレーディングカードでしょうか。

 あと『スマッシュブラザーズ』もオフでよく遊ばれてるように思います。ネット対戦がなかった時代から続いてるゲームということもありますし、ネット対戦だとラグが発生してけっこうプレイ感が変わるので、オフが好まれるのかなと。それから『ぷよぷよ』シリーズも今はネット対戦が主流ですが、オフ対戦会が開かれているところはありますね。

ゲームセンターの格闘ゲームが原体験、そこで人生初の実況

―― ここからは時代をさかのぼって、前編でも少し触れた、水上さんがeスポーツキャスターのお仕事を始めるに至った経緯をくわしく訊かせていただけますでしょうか?

水上 ぼくはゲームセンターの格闘ゲームが自分の原点みたいなところもあって、一緒に遊んだり、自分よりずっとうまくて教えてくれるような人がたくさんいたんです。

 そうやって情熱を燃やしてきた人たちの多くが、“自分たちのコミュニティ”を守るための土台として、今ではeスポーツの世界でそれぞれが奮闘しているというイメージが、ぼくの中にはあります。実際、業界関係者やeスポーツプレイヤーさんで、「昔はゲームセンターに通ってました」という人ってすごく多いですよ。

―― ゲームセンターで格闘ゲームにハマり始めたのはいつのことですか?

水上 高校1年のとき、友だちにゲームセンターへ連れて行ってもらったんですけど、そこが格闘ゲームを中心に置いてある『南越谷ビッグワン』というお店だったんです。それまで対戦格闘ゲームってほぼやったことがなかったのですが、言われるままに始めた感じでした。

 そうすると、ゲームセンターって、自分と同じ高校生はもちろんですが、大学生だったり社会人だったり、いろんな年代の人たちが集まってるんですね。そこで出会った年上の人たちからも本当によくしていただいて、身分とか立場とか関係なくいろんな人たちと絡めるって、高校1年生の自分にはかなり刺激的でした。

―― 私もゲームセンター出身のゲーマーだったので、すごくよくわかる話です。

水上 そこで教えてもらった格闘ゲームにハマって、高校では部活もやってたのですが、ないときや休日はゲームセンターに通っていました。その結果、「格ゲーオモロいな!」「ゲーセンのコミュニティっていいな、人と交流することって楽しいな!」という気持ち、この2つがぼくの3年間の高校生活の中で形成されていきました。本当に、ゲームセンターの“光の面”が全部そろった状態で楽しませてもらった感じでしたね。

―― 具体的によく遊ばれたのはどういったタイトルですか?

水上 『メルティブラッド』です。最初に友だちに誘われたときに始めて、おおむね3年間遊んでいた気がします。

―― 2002年に1作目が発売されたTYPE-MOONの『月姫』格闘ゲームシリーズですね。

水上 他にも、『ブレイブルー』や『北斗の拳』、それから少し前に出ていた『餓狼伝説』シリーズなどもプレイしてましたね。

―― こうした体験とゲーム実況の仕事とは、どうつながってくるのでしょうか?

水上 ぼくが通っていた『ビッグワン』では大会が開かれることもあり、界隈で有名なお店だったんです。試合の配信などもしていて、そこでプレイヤーの人が実況してるのを見て初めて「実況なんてものがあるんだなあ」と知ったのが最初です。「やってみたいな」って話を仲良かった人にしたりもして。

 そしたら、ぼくも参加していた大会で、たまたま一度だけ実況をさせていただいたことがあって、それが人生初めてのゲーム実況でした。

―― それは何というタイトルのゲームだったのでしょうか?

水上 先ほども名前が出たシリーズの『メルティブラッド アクトレスアゲイン』です。

―― 大会はどのような環境で行なわれたのでしょうか?

水上 ゲームセンターによっては、選手たちと別に観戦モニターが設置されるところもあると思うのですが、そのお店では選手がプレイしている筐体を直接後ろから見て実況する感じだったと思います。

―― ギャラリーの人たちに混じった感じになるわけですね。

水上 試合に参加してる人たちもいます。「この辺に実況の人がいるから、そこはちょっと避けてね」というお心遣いをいただく感じですね。

―― 大会には何人ぐらい参加されていたのでしょうか?

水上 そのときはたしか30人ぐらいの規模だったと思います。人数は大会によって変わります。同じお店でも非公式な全国大会予選が行なわれるようなこともあって、そういうときは100人を超えるような人が集まってましたね。

実況で初めてお金をもらった仕事『ポッ拳』、そしてプロの道へ

―― 高校卒業後はどうされたのでしょうか?

水上 高校卒業後に専門学校へ通うようになって、そのお店には通わなくなってしまったのですが、2015年に『ポッ拳』というゲームがアーケードで出たんです。個人的にゲーセンからちょっと離れてた時期だったのですが、元々『ポケモン』というコンテンツが大好きだったところに、それが「格闘ゲーム」で「ゲーセン」で……という自分の好きなものてんこ盛りのお子様ランチみたいなものだったんです(笑)。

 それでまたゲーセンに通い始めたところ、あるとき『ポッ拳』の店舗大会が開催されたんですね。そこで「どなたかマイクを持って大会の実況しませんか?」って募集がかけられていたので、高校のとき実況したことを思い出して、やってみようかなと思って手を挙げました。

―― 結果はいかがでしたか?

水上 実際に実況をしてみたら、『ポッ拳』って技名なども本家のゲームから取り入れているので、『ポケモン』ファンだったぼくには全部わかったんです。それを実況に取り入れていったら、けっこう褒めていただけて、その後も大会のたびにマイクを握らせていただけるようになって、“『ポッ拳』の実況をする人”みたいな認知をされるようになっていきました。自分でゲームセンターで「ポッ拳」のイベントを開いて自分で実況する……みたいなこともしていました。

 ゲームを実況するという経験は、このコミュニティで積み上げられた感じです。

水上さんの“大好き”が詰まった『ポッ拳』は、彼の人生の大きな転機となった

―― 『ポッ拳』で何度も実況を体験されたわけですね。

水上 もちろん、自分でも『ポッ拳』はプレイしていたのですが、あるとき、プレイする以上に実況も楽しいなって感じ始めたんです。考えてみると、昔からゲームについて友だちと「ここがおもしろいよね」みたいな話をするのが好きでした。そういうところは実況と相性がよかったのかなって思うんです。

 でも、当時はeスポーツキャスターという仕事があることをそもそも知らなくて、それで食べていくつもりもなかったので、あくまで楽しい趣味としてやらせていただいてたんです。

 そんな中、2018年のたしか3月だったと記憶してるのですが、『春拳(はるけん)』という『ポッ拳』の大会があったんです。『ポケモン』って『ポケモンWCS』という世界大会が毎年8月に行なわれてるんですけど、『ポッ拳』もその枠組みの中で『ポケモンWCS』シリーズとして大会が行なわれていて、春拳は日本代表権がかかった大きな大会でした。そこで運営のかたから「実況しませんか?」とお声がけをいただいたんです。

―― 大きなお話ですね。それをお受けになったわけですね?

水上 はい。それまでは正式な仕事ではなかったので、最悪「うまく行かなかったね」で済むようなものだったのですが、それらと違って、きちんとお金をいただいて実況したのはそのときが初めてでした。しかも、多くのかたが長い時間をかけて準備してきた大会で、選手にとっても日本代表をかけた戦いだったわけです。

 その上、当時ぼくがとても憧れていた実況のうまいかたがいて、『ポッ拳』関係でもいろいろなことを教えてもらってたんですけど、たまたまその大会にも解説者としていらっしゃってたんです。

 だからこのときは、本当に(感情の高ぶりが)すごかったんです。憧れの人の横に座ってるし、仕事としての責任もあるし、観客席がバーッと見える広い空間でこんなことができるうれしさもあるし……。

 そして、選手のプレイの一つひとつが素晴らしくて、それが盛り上がりをもたらしているのだ、ということはもちろん大前提なんですけど、そのプレイに対して自分が何かを発することで会場が沸く。そのときの感動と高揚感は、それまでに味わったことがない部類のものでした。

―― そのときの会場の様子をくわしく教えていただけますか?

水上 ステージ上の端のほうにぼくらが座る解説席があって、観客席を見下ろす形になります。対戦台はステージ中央にあって、選手は対面、つまり向かい合う形で戦います。解説者と実況者にはそれぞれ専用のモニターがあって、それを見ながら解説と実況を行なうわけです。観客はたしか選手の後方に配置された大型プロジェクターで観戦していたと思います。

―― この体験がプロの道へ進む大きなきっかけとなったわけですね?

水上 はい。これは個人的な話なのですが、じつはそのころぼくはお芝居の世界で活動をしていました。それが、自分ではどうしようもない事情でちょっと続けられなくなってしまって、「どうするかなあ……」という時期でもあったんです。ちょうどそんなときに春拳の実況のお仕事をいただいたんですね。

 このころって岸大河さんのようなeスポーツキャスターの先駆けとして活躍されていたかたも既にいらっしゃって、少しずつ職業として認知され始めた時期で、ぼく自身「そういう仕事があるんだなー」ということを薄々知ってきたところにそんな体験をして、当時まだ24歳だったこともあり、「まだ間に合うんじゃないかな」「これちょっと続けてみたいな」と思って、eスポーツキャスターを本気で目指し始めました。

 そんなときにキャスターの募集をかけていたのがウェルプレイド・ライゼスト(※当時の社名は『ウェルプレイド』)さんだったので、春拳のイベントの帰りにはもうメールをしていました。

―― 大会の帰りにさっそくですか!?

水上 鉄は熱いうちに打て、という気持ちでした(笑)。eスポーツキャスターという仕事はちょうど黎明期で、これからスポットを浴びていくだろうという空気もあったし、もうこのタイミングを逃したら実況で食べていく未来はないだろうなとも感じていました。

 ぼくは、いろいろなことを後々も悔やみ続けてしまうところがあって、先ほどの芝居の話でも、当時スッパリやめたつもりが、やっぱり未練があって、しばらくの間、アニメだったり芝居に関係するものが見られなくなってしまったことがありました。

 なので、もしも今実況の道をあきらめて、今後eスポーツが盛り上がっていったときに、自分じゃない誰かが、自分の好きなゲームを実況していたら、ぼくはその大会をとても見てられないんじゃないかって思ったんです。自意識過剰かもしれませんが、その人と自分を重ねて見てしまうだろうって。そう思ったら、これからもゲームを楽しむためにも、挑戦する以外ないな、という気持ちでした。

―― お訊きしていて、芝居の勉強をされていたことと、実況の仕事がつながってるように感じました。人前に出てしゃべることが好きという点で一貫されてますね。

水上 たしかにそうかもしれません。他にも、専門学校の授業の一環で、とあるFM局でラジオ番組のパーソナリティをやらせていただいたこともありました。そうしたことがかなり役立っています。

―― ゲーム好きな人が進む道っていろいろあって、たとえばゲーム開発者やライターや編集者だったり、昔ならゲームセンター経営もあったし、今ならプロゲーマーなども考えられるわけです。もちろん、あくまで趣味として楽しみ続けるかたもたくさんいらっしゃいます。そこでなぜ水上さんがキャスターの道を選ばれたのか、よくわかりました。

水上 ぼくも考えていたことに特別なものはなくて、お芝居もアニメやゲームなどのファンタジーの世界にかかわりたい、というところから始まっています。そこでたまたま自分の好きなゲームで実況させていただく機会があって、実況という職業が認知され始めた時期で、eスポーツで大きな動きを見せている会社が募集をしていて……という偶然が重なることで踏み切ることができたのかなと思います。

 キャスターになるというのは想像していませんでしたが、今はこの職に就くことができて本当に幸運だった、よかったと思っています。

(後編に続く)

次回は最終回。eスポーツプレイヤーをはじめとする業界全体の現在と未来についてお訊きしていきます。

こんな記事がよく読まれています

2018年04月10日

ゲームセンター聖地巡礼「1980~1990年代 新宿」前編

今回から、新企画「ゲームセンター聖地巡礼」の連載がスタートします。当研究所・所長の大堀康祐氏と、ゲームディレクターであり当研究所のライターとしても協力いただいている見城こうじ氏のお2人が、1980~1[…]