「GAMERSBAR lettuce702」店長に聞く
北海道のゲーセン・プレイヤー文化の歴史(後編)

  • 記事タイトル
    「GAMERSBAR lettuce702」店長に聞く
    北海道のゲーセン・プレイヤー文化の歴史(後編)
  • 公開日
    2021年09月03日
  • 記事番号
    5966
  • ライター
    鴫原盛之

かつて札幌市内にあったゲームセンター、「レタス702」の元店長で、現在はすすきのでゲームバー「GAMERSBAR lettuce702」を経営する佐藤昌信氏の証言を元にご紹介する、北海道のゲーセン・プレイヤー文化の歴史。
後編ではハイスコアラーの活動の歴史や、ゲームバー開店の経緯、現在のプレイヤーコミュニティ事情について伺いました。

熱心なプレイヤーたちが育んだシューティングゲームのコミュニティ

―― 佐藤店長がアルバイトを始めた当時の「レタス702」は、やはり『ストII』や『餓狼伝説』などの対戦格闘ゲームを中心に稼働させていたのでしょうか?

佐藤昌信店長(以下、佐藤) いいえ。最初の頃は、格ゲーはちょっとしか置いていなかったですね。近くに代ゼミがありましたので、麻雀とか野球ゲーム、それからシューティングやベルトスクロールアクションとか、ネオジオのタイトルもひととおり置いていました。

―― ちなみに、「レタス702」にはメダルやプライズゲームもあったのでしょうか?

佐藤 メダルゲームはまったくなくて、プライズゲームも1台だけでした。ほかにはピンボールを置いてあったのですが、これはピンボール好きのフランス人が持っていた筐体を「この店に置かせてほしい」と言われたのがきっかけで置くようになったものです(笑)。

―― ナルホド。対戦格闘ゲームに限らず、ビデオゲームの品ぞろえが充実していたお店だったんですね。

佐藤 はい。ですから格ゲーだけでなく、シューティングゲームのコミュニティもちゃんとあって、今でも強固な仲で交流がずっと続いています。店のほうも、後に「ゲーメスト」のハイスコア集計店になりましたからね。

―― エッ、ハイスコア集計店だったんですか!? 私(鴫原)も「中の人」だったのに、まったく存じませんでした。たいへん申し訳ございません……(猛省)。

佐藤 常連さんから「ハイスコアを集計してほしい」と要望がありましたので、店が盛り上がるのであれば何でもでもやってやろうと思って掲載をお願いしました。

「レタス702」のハイスコアが初めて掲載されたときの誌面(※出典:「ゲーメスト」1997年10月15日号)

―― 当時の佐藤店長や、常連客の皆さんも「ゲーメスト」をお読みになっていたのですか?

佐藤 はい。「ゲーメスト」や、『バーチャファイター2』などのムック本も毎回買って店内に置いていました。中にはお金がなくて買えないから、ただ本を読むだけの目的で店に来る人もいましたし、自分で買った本を読み終わった後に店に置いていく人もいたので、同じ本が2、3冊あったりもしましたね。
「ゲーメスト」は、良い付録や特集が載ったときはすぐに売れちゃって、どこの本屋に行っても買えないことがありました。それで、「じゃあ、ウチの店で仕入れて売ろうかな?」と考えていたら新声社がつぶれちゃったんですよね。本当に残念でした……。

―― ハイスコア集計店になった頃に、スコアラー間で特に盛り上がっていたゲームは何かありますか?

佐藤 『バトルガレッガ』は、札幌界隈でもメチャクチャ盛り上がっていました。チッタとボーンナムで、ずっと全一を取っていた吉村君(*01)などのスコアラーもいましたしね。吉村君は、確か基板を3枚ぐらい持っていたのかな? 本当に『バトルガレッガ』が大好きで、彼のお陰で北海道のプレイヤー間でも『バトルガレッガ』が盛り上がったんです。
今までは格ゲーしかやったことがなくて、シューティングは全然遊んだことがなかったのに、彼にすすめられて『バトルガレッガ』を遊び始めたら、1コインクリアに成功した人もいましたね。で、クリアしたあまりのうれしさに、店に置いてあったノートの1ページを全部使って、マジックで「やった~!」って書いたりして。「おいおい、ノートの無駄使いはルール違反だよ」って思いましたが(笑)、まあそんなこともあったりしましたので、『バトルガレッガ』を介してコミュニティがかなり広がったと思います。

―― 素晴らしいですね! とても心温まるお話です。

佐藤氏 「ゲームプラザヴィクトリア」や「プレイシティキャロット琴似」があった時代は、そこにみんな固まっていたのですが、『バトルガレッガ』が出た辺りの時代になると、もうサークル活動をしているところはほとんどなくなっていました。
でも『バトルガレッガ』に関しては、ウチの店と「ゲームプラザヴィクトリア」などのスコアラー間で相互に交流ができましたし、吉村君が中心になって動いてくれたので、いろいろな店のプレイヤーが「レタス702」にも集まるようになりました。
スコアラーって、普通は自分の攻略パターンを隠しますよね? でも、吉村君は自分でプレイしたビデオをみんなにわざわざ見せていたんですよ。「これを見て研究してね。全部マネしてもいいから」って。それで、ビデオを見た人たちが『バトルガレッガ』のおもしろさを理解して、どんどん遊び始めるようになったんです。
ウチの店では、『バトルガレッガ』に順番待ちができるほど、朝から晩までずっと動いていた時期がありました。吉村君は当時学生だったので、朝8時のオープンからず~っとやり込んでましたね。で、夜になると格ゲーの常連の人たちに席を譲ってあげて、自分は「ゲームプラザヴィクトリア」などの別の店に移動して、そこまでまた『バトルガレッガ』をやり込んでいたんです。当時に知り合ったプレイヤーのコミュニティは、今でもまだ続いていますよ。

―― ほかにも、札幌周辺のプレイヤーが盛り上がって印象に残ったゲームは何かありますか?

佐藤 私が「GAME41」に移ってからは、『ダライアスバースト アナザークロニクル』がすごく盛り上がりました。「『ダライアス』の新作が出るらしいぞ」という話を最初に聞いたときはとてもうれしかったのですが、実はもうその頃には店が死に体で筐体が買えなかったんです。
そんな話をみんなにしていたら、あるプレイヤーから「筐体は自分で買うから、店に置かせてくれませんか?」とお願いされたんですよ。びっくりしたのですが、その人は本当に筐体を買ったので、売上を折半する形で置くことにしました。しかも、後から中古の筐体も買ったので、一時期は『ダラバー』を2台並べていたんです。
やがて『ダラバー』は、普段シューティングを全然やらなかったり、今までウチの店に来なかった人も遊ぶようになりました。4人同時プレイで遊んだり、大勢で集まってクロニクルモードをやり込んだりしていましたね。「ワールドトップスコアを取ってやろう!」とかって、みんなすごく頑張っていましたよ。
その後、クロニクルモードの達成率100パーセントに近付いたときは、みんなで店に集まって達成した瞬間をお祝いしたこともありましたね。最終的には、2台とも100パーセントを達成しました。

―― 自腹で筐体を、しかも2台も買った人がいたんですか!? 凄まじい経済力と情熱をお持ちだったんですね……。
  

地元のプレイヤーコミュティを残すべく、ゲームバー開店を決意

―― 「GAMERSBAR lettuce702」は、2017年8月にオープンしたそうですね。なぜゲームセンターではなく、ゲームバーを開こうと思ったのでしょうか?

佐藤 本当はゲーセンにしたかったのですが、店を作るのはハードルが高かったのでできませんでした。あるときに別の所で、すでにバーを開いているかたから「佐藤さんもゲームバーをやってみたら?」とお話をいただいたので、「ゲームと関われるのならやります」とご協力をお願いすることにしました。
で、店名はてっきりそのかたのお店にちなんだ名前になるのかと思っていたら、「いや、むしろ『レタス702』にしたほうがいいんじゃないの?」と言われましたので、じゃあそれならばと、ありがたく使わせていただくことにしました。

「GAMERSBAR lettuce702」の店内

―― 開店するにあたり、物件はどうやって探したのでしょうか?

佐藤 私とそのかたと、2人で探しました。「近くに『スガイディノス札幌中央』があるし、そこから人が流れてくるようになるからいいんじゃないか」と思ってここに決めました。そのゲーセンはもう閉店しちゃいましたけどね。

―― 店内には、懐かしのアーケードゲームのポスターや筐体のプレートなどが飾られていますよね? 確か「小樽・札幌ゲーセン物語」の会場にも、佐藤店長が提供したものが展示されていたかと思いますが、これらのプレート類は以前に勤めていたゲーセンにあったものでしょうか?

佐藤氏 はい。筐体を廃棄するときに私も立ち会っていたのですが、そこでプレートだけを外して持ち帰りました。筐体も本当は欲しかったのですが、倉庫を借りて保存するまでの余裕はさすがになかったので……。ほかにも、店にあったいろいろなものが、すぐには出せないですけど自宅にまだ取っておいてありますよ。
  

―― ちなみに、「小樽・札幌ゲーセン物語展」の企画された藤井昌樹さんとは、どこでお知り合いになったのでしょうか?

佐藤 数年前に、ウチの店でシューティングゲームのイベントを開催したときに、お客さんとして来られたんです。「今度、展示をやるときにご協力をお願いするかもしれません」とお話されたのがきっかけで、協力をさせていただくことになりました。

―― 佐藤店長がお持ちのプレート類で、何か自慢の逸品はありますか?

佐藤 『バーチャレーシング』とか『ビーストバスターズ』が、かなり貴重なものではないかと思います。
  

―― ほかにも、「小樽・札幌ゲーセン物語展2」に提供した展示品で、来場者にぜひ見てほしいものは何かありますか?

佐藤 私のほかに誰も持っていない自慢のもので、やはりメインになるのは「レタス702」のノートですね。会場にあるのはその一部だけですが、本当は全部で150冊ぐらいあります。

―― 150冊もあるんですか! まさに「レタス702」の、ひいては北海道のプレイヤーコミュニティの歴史が詰まった、今となっては貴重な宝物ですね。

佐藤 そうですね。私がちょうど店で働き始めた直後に、以前にバイトをしていた人から「ノートを置こうよ」と唐突に言われたのがきっかけで置くようになりました。それから店が閉店するまで、十数年分のノートはすべて保存してあります。
ノートへの書き込みも、いろいろな意味でメチャクチャ熱かったですよ。「隠し技を発見した」とか「コンボがつながった」とか。それから、今で言う「2ちゃんねる」などと大差ない、ゲームとは無関係のことで、ノート上で戦っているような書き込みもありましたね。たった5日間ほどで1冊すべて埋まっちゃうぐらい、ず~っと論争を続けている人たちもいたりして。
ほかにもウソ情報とか、怒った勢いで「金返せ!」って書き込まれたりとか、まあいろいろありました(笑)。
  

―― 「GAMERSBAR lettuce702」をオープンした直後は、かつて佐藤店長が勤めていたゲーセンの常連客なども来られたのでしょうか?

佐藤 はい。もう何十年も会っていなかった、「レタス702」の常連さんたちが来てくれたので本当にうれしかったです。もう顔が全然変わっちゃって、最初は誰なのかがわからなかった人もいたのでびっくりしましたね。
店を開いて一番目指したかったのが、まさにこれだったんですよ。みんなが集まって楽しめる場所にしたいなあとずっと思っていましたし、今はこうして集まれる場所がだんだん減っていますからね。本当は筐体とかもいろいろ置きたかったのですが、スペース的に厳しいのと、風営法の問題も生じるので断念しました。

―― ゲーセン勤務時代から、今でもプレイヤー間との交流が続いているのは素晴らしいことですね。

佐藤 ええ。新しいお客さんももちろんいますので、昔の身内だけで固まってしまうと新しい人が入りにくくなってしまうのではと思いつつも、店の中でみんなで盛り上がっているうちに、だんだん全員が身内になっていくと思いますので、それはそれでまあいいのかなあと。これからもゲーセン時代の経験を生かして、雰囲気で特定の人を阻害することがないようにしていきたいですね。

「GAME41」で実際に稼働していた、懐かしのエレメカゲーム『八卦方士』。今でも「GAMERSBAR lettuce702」で無料で遊ぶことができる

―― 今はコロナ禍でなかなか開催できない状況ですが、それまでは普段からイベントをよく開催されていたそうですね。主にどんなイベントを開催していたのでしょうか?

佐藤 『ギルティギア ストライヴ』のイベントは、かなり盛り上がりましたね。私自身が得意なシューティングゲームや、レトロゲームの実演イベントも毎回好評です。東京のミカドやHeyとかのゲーセンでは配信イベントをよくやっていますが、ウチではミカドでもHeyでもやらないような、一風変わったものを使ったイベントをよくやっていました。
ウチの店ですと、10人ぐらいお客さんが入ると密になってしまうので今はできませんが、コロナが明けたらまたいろいろなイベントをやりたいですね。

―― 店内には、ボードゲームもたくさん置いてあるようですね。

佐藤 はい。ボードゲームも皆さんよく遊ばれます。格ゲー好きで、ボードゲームも好んで遊ぶ人も結構多いですよ。特に、言葉遊び系のボードゲームはひんぱんに遊びますね。私も最初はボードゲームのことをよく知らなかったのですが、いつの間にかハマってしまいまして、一度遊び始めると終わるまでに3時間も5時間もかかるようなマニアックなゲームも遊ぶようになっちゃいました。

―― 本日は営業時間を割いてまで、取材にご協力いただきありがとうございました。最後にIGCCの読者に向けて、佐藤店長からメッセージをぜひお願いします。

佐藤 シューティングやレトロゲーム好きのかたは、札幌では今や行き場を失っている状態ですので、そんなかたにもっと来ていただけたらうれしいですね。今はどこに行ってもレトロゲームが遊べなくなっていますが、ぜひウチの店にお越しいただいて、イベントなどでお楽しみいただけたらと思います。

「GAMERSBAR lettuce702」店舗情報

北海道札幌市中央区南6条西3丁目第8桂和ビル4階
Twitter:https://twitter.com/gblettuce702
TEL:090-9757-1646
営業カレンダー:https://calendar.google.com/calendar/embed?src=lettuce702%40gmail.com

脚注

脚注
01 吉村君:スコアネーム「T3-KRS-吉村」氏のこと。前掲のハイスコアコーナーの写真にも同氏の名前が見られます。

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